1994年以降に発表された邦訳論文を検索できます。

経済・金融に関する論文

トランプ政権のいかさま経済学
―― 間違った予測と大言壮語

2019年3月号

N・グレゴリー・マンキュー ハーバード大学教授(経済学)

2017年12月、税制改革案を発表したトランプは「この措置で財政赤字が膨らむことはない」と主張し、その理由として経済成長率が3%、4%、5%、あるいは6%にさえ達するからだと主張した。たしかに、「税率が十分に高いレベルにあれば」、税率を引き下げ、成長率を高め、増大した歳入を恵まれない人々のために用いることができる。しかし、近年の税率がそのような高レベルにあったと考えるエコノミストはほとんどいない。トランプ政権は、包括的な政策を示すよりも、経済をもっと急速に成長させればあらゆる問題への解決策になると期待しているようだし、この経済成長は減税措置と規制緩和によって必然的に実現すると確信しているようだ。それが可能なら素晴らしいが、これは希望的観測である可能性が大きい。

福祉国家の崩壊とナショナリズムの台頭
―― ナショナリズムはいかに復活したか

2019年3月号

ジャック・スナイダー コロンビア大学教授(国際関係論)

1980年代以降、先進国のエリートたちは、かつて政府が資本主義を制御するのを可能にした(社会保障制度などの)政治的管理体制を新自由主義の名の下に段階的に解体し始め、国の民主的体制を国際市場のロジックに適合するように見直しただけでなく、政策決定を市民への説明責任を負わない官僚や超国家組織に委ねてしまった。これが、欧米で「ポピュリスト・ナショナリズム」を急激に台頭させる環境を作り出した。ナショナリズムジレンマを解くには、レッセフェール政策そして説明責任を負わない超国家主義を放棄し、国家レベルでの民主的説明責任、競合する優先課題をめぐる妥協、そして国際機関との経済的調整といった戦後リベラリズムの基本的やり方を復活させなければならない。

デジタル世界に即した統治システムを
―― 社会・経済のデジタル化を恩恵とするには

2019年3月号

クラウス・シュワブ 世界経済フォーラム創設者兼会長

保護主義は解決策にはならない。本当の課題は、物理的な製品の生産と取引の重要性が年を追う毎に低下し、今後のグローバル経済で重視される競争上の優位が、低コスト生産ではなく、イノベーション、ロボット化、デジタル化の能力に左右されるようになることだ。そして、今後のグローバルな統合は国家間のデジタル及び仮想システムの接続、これに関連するアイデアとサービスの流れに依存するようになる。これがグローバル化4・0の中核だ。しかし一方で、デジタル化は問題も伴っている。格差を拡大しているだけでなく、いまや人間ではなくアルゴリズムが、われわれが(ネットで)見るものと読むものを決めている。現状の課題への対応に成功するか、失敗するかが、次世代の生活の質を左右することになる。

自由貿易のパラドックス
―― 政治学と経済学の衝突

2019年2月号

アラン・ブラインダー プリンストン大学教授(経済学)

なぜ自由貿易のロジックは受け入れられないのか。たしかに、貿易の勝者が敗者の損失を埋め合わせても、それでも勝者の取り分は残される。しかし、歴代の米政権は、他国の政府同様に、この理屈に近づくようなことは何一つ試みてこなかった。利益と損失を合計すると、経済的には自由貿易を前向きに評価できるが、政治的にはそうではないことも理由の一つだろう。利益と損失はほぼ同じだが、経済的計算と政治的計算では重視するところが違うからだ。さらにエコノミストは人々が経済の何に価値を見いだしているかを、基本的に誤解しているかもしれない。消費者が安価な商品よりも実入りの良い雇用を望んでいるのなら、貿易に関する一般的理論で市民を説得することはできない。

機会のはしごが社会と経済を救う
―― 教訓と訓練の「機会」と経済的開放性

2019年1月号

ケネス・F・シーブ スタンフォード大学教授(政治学)
マシュー・J・スローター ダートマス大学経営大学院教授(国際ビジネス)

グローバル化の反動に対処するには、すべてのアメリカ人が変化のなかで失った安定感と目的意識を取り戻すために必要なツールを提供する必要がある。そのためには、すべての市民がグローバル化の波に適応するための人的資本を得られるような、生涯にわたる「機会のはしご」を構築すべきだ。誕生から幼稚園までの間のさまざまな早期幼児教育に始まり、高校を卒業後に4年制大学に進学しなかった人たち全員に、その学費を政府が負担して2年間のコミュニティカレッジでの教育をオファーすべきだ。さらに、すでに社会に出ている高卒の労働者に職業訓練の生涯教育を与える必要もある。国境に壁を巡らしても解決策にはならない。アメリカは人々に機会を提供し、移民に開放的な国であり続けなければならない。

次の金融危機に備えよ
―― なぜ危機は繰り返されるのか

2019年1月号

カーメン・ラインハート ハーバード大学ケネディ・スクール 教授(国際金融システム)
ヴィンセント・ラインハート スタンディッシュ チーフ・エコノミスト

一般的に金融危機は特定の資産価値が暴落し始め、それに引きずられて他の資産の価値が下落することで始まる。広く経済で大きな役割を占めている限り、いかなる資産の暴落も危機のきっかけを作り出す。2007年の危機は、金融危機が「普通のリセッションよりもはるかに大きなダメージを引き起こし、ダメージからの回復にもより長い時間がかかること」をわれわれに改めて認識させただけでなく、「政府が迅速かつ決意に満ちた対応をみせれば非常に大きな違いをもたらせること」も示した。結局、金融メルトダウンがもたらす災難の背後には、貪欲、恐怖、歴史を忘れがちであるという重要な人的要因が存在する。あれほど衝撃的だった直近の金融危機が最後の金融危機にならない理由はここにある。

ベネズエラの自殺
―― 南米の優等生から破綻国家への道

2018年12月号

モイセス・ナイーム カーネギー国際平和財団特別フェロー
フランシスコ・トロ グループ・オブ・フィフティ 最高コンテンツ責任者

インフレ率が年100万%に達し、人口の61%が極端に貧困な生活を強いられている。市民の89%が家族に十分な食べ物を与えるお金がない。しかも、人口の約10%(260万人)はすでに近隣諸国に脱出している。かつてこの国は中南米の優等生だった。報道の自由と開放的な政治体制が保障され、選挙では対立する政党が激しく競い合い、定期的に平和的な政権交代が起きた。多くの多国籍企業が中南米本社を置き、南米で最高のインフラをもっていたこの国が、なぜかくも転落してしまったのか。元凶はチャビスモ(チャベス主義)だ。キューバに心酔するチャベスと後任のマドゥロによって、ベネズエラは、まるでキューバに占領されたかのような大きな影響を受けた。でたらめで破壊的な政策、エスカレートする権威主義、そして泥棒政治が重なり合い、破滅的な状況が生み出された。・・・

中東に迫り来る巨大な嵐
―― 石油依存型政治システムの崩壊

2018年12月号

マーワン・ムアシャー カーネギー国際平和財団副会長(研究担当)

サウジアラビアのような中東の産油国は原油輸出を歳入源とし、エジプトやヨルダンのような石油輸入国は石油の富をもつ地域諸国からの援助に多くを依存してきた。中東諸国は、石油の富を安定した雇用、教育、医療に充当し、政治指導者はその見返りに民衆の政治的服従と沈黙を手に入れた。しかし、原油の低価格化トレンドゆえに、これまで政府に政治的正統性を授けてきた資源が消失しつつあり、この社会契約はもはや持続できない。この大きな流れの変化を前にしても、指導者たちが、権力の掌握を強めるだけで、有意義な改革を実施しなければ、中東各国で、かつてない規模の社会騒乱が起きることになる。

資本主義の暴走をどう是正するか
―― 現状に対応できる政治連合とは

2018年11月号

スザンヌ・バーガー マサチューセッツ工科大学教授(政治学)

グローバル化の衰退とともに、経済ナショナリズムが復活し、いまや多くの人が「堅固に守られた国境線が、社会の安定と繁栄を脅かす外国からのサービス、資金、人の流れを遮断していた時代」にノスタルジーを感じている。だがその黄金期がどの時代だったのかを彼らは特定していない。一方、左派の知識人は、アメリカの黄金期は、「資本主義、平等、民主主義間のバランスをうまくとれることを示した」1930年代のニューディール改革以降、1960年代まで続いた時代だったとみている。しかし、ニューディール連合の経済的盟約は消滅している。「野放しの資本主義」をどうすれば制御できるのか。グローバル化と社会がともに進化していけるようにするには、どのような政治的連合と盟約を新たに構築すればよいのか。

外交的経済パワー乱用の果てに
―― 米単独行動主義で揺らぐ同盟関係

2018年11月号

ジェイコブ・ルー 前米財務長官
リチャード・ネフュー 前国務省次席コーディネーター(経済制裁政策担当)

経済制裁が機能するのは、制裁対象国が行動を変えることで、(制裁を緩和・解除させ)経済的窮状を切り抜けられると確信した場合だけだ。アメリカの要求を受け入れ、合意を順守しているにもかかわらず、解除された制裁の再発動という事態に直面するのなら、合意を順守しようとするインセンティブはなくなる。それだけでない。トランプ政権の関税引き上げ策や対イラン制裁に象徴される単独行動主義は、同盟関係を揺るがし始めている。仏独英などのワシントンの緊密な同盟諸国は、イラン政府と直接接触して、アメリカの制裁を回避し、核合意を維持していくために、ドルを基盤とする金融システムから決済を迂回させる方法を特定しようと試みている。仮に他の諸国が連帯してアメリカの制裁を拒絶するようになれば、ワシントンはすべての国に制裁を課すか、制裁を断念するかしかなくなる。・・・

Page Top