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経済・金融に関する論文

中東に迫り来る巨大な嵐
―― 石油依存型政治システムの崩壊

2018年12月号

マーワン・ムアシャー カーネギー国際平和財団副会長(研究担当)

サウジアラビアのような中東の産油国は原油輸出を歳入源とし、エジプトやヨルダンのような石油輸入国は石油の富をもつ地域諸国からの援助に多くを依存してきた。中東諸国は、石油の富を安定した雇用、教育、医療に充当し、政治指導者はその見返りに民衆の政治的服従と沈黙を手に入れた。しかし、原油の低価格化トレンドゆえに、これまで政府に政治的正統性を授けてきた資源が消失しつつあり、この社会契約はもはや持続できない。この大きな流れの変化を前にしても、指導者たちが、権力の掌握を強めるだけで、有意義な改革を実施しなければ、中東各国で、かつてない規模の社会騒乱が起きることになる。

資本主義の暴走をどう是正するか
―― 現状に対応できる政治連合とは

2018年11月号

スザンヌ・バーガー マサチューセッツ工科大学教授(政治学)

グローバル化の衰退とともに、経済ナショナリズムが復活し、いまや多くの人が「堅固に守られた国境線が、社会の安定と繁栄を脅かす外国からのサービス、資金、人の流れを遮断していた時代」にノスタルジーを感じている。だがその黄金期がどの時代だったのかを彼らは特定していない。一方、左派の知識人は、アメリカの黄金期は、「資本主義、平等、民主主義間のバランスをうまくとれることを示した」1930年代のニューディール改革以降、1960年代まで続いた時代だったとみている。しかし、ニューディール連合の経済的盟約は消滅している。「野放しの資本主義」をどうすれば制御できるのか。グローバル化と社会がともに進化していけるようにするには、どのような政治的連合と盟約を新たに構築すればよいのか。

外交的経済パワー乱用の果てに
―― 米単独行動主義で揺らぐ同盟関係

2018年11月号

ジェイコブ・ルー 前米財務長官
リチャード・ネフュー 前国務省次席コーディネーター(経済制裁政策担当)

経済制裁が機能するのは、制裁対象国が行動を変えることで、(制裁を緩和・解除させ)経済的窮状を切り抜けられると確信した場合だけだ。アメリカの要求を受け入れ、合意を順守しているにもかかわらず、解除された制裁の再発動という事態に直面するのなら、合意を順守しようとするインセンティブはなくなる。それだけでない。トランプ政権の関税引き上げ策や対イラン制裁に象徴される単独行動主義は、同盟関係を揺るがし始めている。仏独英などのワシントンの緊密な同盟諸国は、イラン政府と直接接触して、アメリカの制裁を回避し、核合意を維持していくために、ドルを基盤とする金融システムから決済を迂回させる方法を特定しようと試みている。仮に他の諸国が連帯してアメリカの制裁を拒絶するようになれば、ワシントンはすべての国に制裁を課すか、制裁を断念するかしかなくなる。・・・

変化する中国人の対米イメージ
―― 米中関係の好転が期待できぬ理由

2018年11月号

チェン・リー ブルッキングス研究所シニアフェロー

中国経済の健全性と政治の軌道を左右する重大な社会集団である中間層の不安と不満が高まっている。株式市場も人民元も下落し、不動産バブルの崩壊リスクの地理的広がりが拡大している。経済成長率の鈍化に加えて、政治腐敗、環境悪化、政治および思想領域での統制強化などを前に、中間層は政府批判を強めている。しかし、ワシントンの対中強硬策がこの流れを変えるかもしれない。米大統領就任1年目にはトランプに好意的だった中国メディアも、いまや貿易摩擦の責任の大部分を「クレージーで強欲な」米大統領のせいだと批判し、アメリカを「丘の上の輝ける町」として捉える中国人は少なくなっている。北京の指導者と中間層の複雑な関係を的確に理解しない限り、アメリカの政策立案者と専門家は対中貿易強硬策の効果を正確に評価できないだろう。

トランプ・ドクトリン
―― 対イラン経済制裁への参加がなぜ必要か

2018年11月号

マイク・R・ポンペオ 米国務長官

トランプ大統領が引き継いだのは、第一次世界大戦や第二次世界大戦前夜、あるいは冷戦のピーク時に匹敵する危険な世界だ。しかし、先ず北朝鮮に、そして現在はイランに対して大統領がみせている破壊的なまでの大胆さは、明確で強い信念と、核不拡散と強力な同盟関係を重視する姿勢を組み合わせれば、いかに多くのことを成し遂げられるかを示している。・・・率直な態度は交渉を妨げるという、古臭い思い込みにとらわれている人々も、ターゲットを絞り込んだレトリック、現実的な圧力行使策が、アウトロー国家を変化させ、現在も変化させつつあることを認めるべきだ。・・・われわれは、(イランとの)戦争は望んでない。しかし事態をエスカレートさせれば、イランの敗北に終わることを、われわれは明白にしておく必要がある。

長期化する金融危機の政治的余波
―― 極右政党の勢いが止まらない理由

2018年11月号

マヌエル・フンケ 独キール世界経済研究所 リサーチャー
モリッツ・シュラリック ボン大学 教授(経済学)
クリストフ・トレベック 独キール世界経済研究所 教授(経済学)

なぜ金融危機は大きな政治的混乱を伴うのか。それは、危機に人が介在しているからだ。民衆は、危機を回避できなかったエリートたちを糾弾する。実際、富と権力をもつ者たちが政策上の失敗を犯し、縁故主義に走ることは多く、この場合には、既存の政治システムへの信頼が損なわれ、極右のポピュリストが台頭する。もっとも、危機から5年もすれば、議会における政党の乱立と分裂現象は影を潜め、極右勢力は勢いを失う。だが2008年の金融危機は違う。10年を経ても、政治勢力の細分化や分裂、極右勢力の台頭が続き、確立されていた政治システムが一連の衝撃によって波状的に揺るがされている。その理由は・・・

米欧関係に生じた大きな亀裂
―― 金融自立と新同盟を模索するヨーロッパ

2018年10月号

ソーステン・ベナー 独グローバル公共政策研究所 ディレクター

アメリカの金融システムは、もはや公共財ではなく、ワシントンが他国を従わせるために一方的に振り回す地政学的ツールにされていると各国が考えるようになれば、それに翻弄されるのを防ぐ措置をとるようになる。既に、ヨーロッパはアメリカの金融覇権に挑戦することを決断している。外交領域も例外ではない。ドイツ外相は「既存のルールを守り、必要な場合には新ルールを導入し、各国の目の前で国際法が踏みにじられる事態に対しては連帯を示す有志同盟」の形成を明確にイメージし、既にカナダや日本に接触している。現状では、失敗を運命づけられている試みなのかもしれない。しかし、敵意あふれる世界で自分たちの立場を守っていくつもりなら、「自立」と「新しい同盟」が、ヨーロッパが取り得る唯一の賢明な方策かもしれない。

次なるサイバー超大国 中国
―― 主導権はアメリカから中国へ

2018年10月号

アダム・シーガル 米外交問題評議会 新興技術・国家安全保障研究 プログラム ディレクター

いずれ中国はサイバースペースを思いどおりに作り直し、インターネットの大部分は、中国製ハードウエアを利用して中国製アプリで動くようになるかもしれない。「難攻不落のサイバー防衛システム」を構築し、インターネット統治についての中国モデルの影響力を強化するだけでなく、人工知能(AI)や量子コンピュータ部門でも世界のリーダーになることを目指し、大がかりな投資をしている。途上国では、中国の「サイバー主権」統治モデルが大きな支持を集めているし、中国は、第5世代モバイル通信システム(5G)の技術標準を確立したいと考えている。もはやワシントンがいかに手を尽くそうと、今後、サイバースペースの主導権がアメリカから中国へシフトしていくのは避けられない。

金融危機の忘れ去られた歴史
―― そして、いかに米欧の絆は失われたか

2018年10月号

アダム・トゥーズ コロンビア大学教授(歴史学)

アメリカでは、2008年の金融危機を引き起こした政府の無謀さと民間の犯罪的行動ばかりが強調され、ヨーロッパの指導者たちは「すべてをアメリカのせい」にしている。実際には、世界的な銀行の取り付け騒ぎを防ぐために流動性を供給した米連邦準備制度の即断がなければ、金融危機はアメリカとヨーロッパの経済をいとも簡単に崩壊に追い込んでいたはずだ。だが、この事実は忘れ去られ、アメリカとヨーロッパの金融上の密接なつながりはいまや解体されつつある。ヨーロッパを救うために2008年に連邦準備制度は守護天使の役割を果たした。アメリカの政治状況の変化、次の金融危機が新興市場、特に中国で起きる可能性が高いことを考えると、次の危機からグローバル経済を救うには守護天使以上の何かが必要になるだろう。

デジタル企業の市場独占と消費者の利益
―― 市場の多様性とレジリエンスをともに高めるには

2018年10月号

ビクター・メイヤー=ションバーガー  オックスフォード大学教授 (インターネット・ガバナンス・規制)
トーマス・ランゲ  独ブランドアインズ誌テクノロジー担当記者

グーグル、フェイスブック、アマゾンなどの「デジタルスーパースター企業」は、企業であるとともに、膨大な顧客データを占有する市場でもある。消費者の好みや取引について、運営会社がすべての情報を管理し、そのデータを使って独自の意思決定アシスタントに機械学習をさせている。買い手は「おすすめ」と選択肢の示され方に大きな影響を受ける。こうした市場は、レジリエントで分散化された伝統的市場よりも、計画経済に近い。しかも、状況を放置すれば、このデジタル市場は、外からの意図的な攻撃や偶発的な障害によってシステムダウンを起こしやすくなる。だが、必要なのは企業分割ではない。むしろ、スーパースター企業が集めたデータを匿名化した上で、他社と共有するように義務づけるべきだろう。データが共有されれば、複数のデジタル企業が同一データから最善の洞察(インサイト)を得ようと競い合うようになり、デジタル市場は分散化され、イノベーションも刺激されるはずだ。

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