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経済・金融に関する論文

社会に貢献できる金融システムを
―― 金融危機の本質的教訓を生かすには

2019年8月号

ジリアン・テット フィナンシャル・タイムズ 米国版総合編集者兼編集委員会委員長

「経済を支配するのではなく、経済に奉仕する金融システムを構築する方法をアメリカは本当に知っているのだろうか」。悲しいことに、答えはおそらくノーだ。アメリカのバンカーが、規制当局、政治家、株主たちともに、金融危機とポピュリストの反動が再来するリスクを小さくすることを望むのなら、「ファイナンス」、「バンク」、「クレジット」の本来の意味を彼らのコンピュータスクリーン上に映し出しておくべきだ。これらの本来の意味に即して、銀行業を「目的達成のための手段で、信頼を基盤に社会グループによって遂行される活動」と捉えると、アメリカの金融の何が間違っていたか、将来に向けてそれをいかに是正していくべきかを考える助けになる。かつて同様に現在も、投資家は自身が理解していないことを過度に信用する傾向がある。信用市場を支えている信用の基礎を常に疑うしかない。

国内経済と世界経済のバランス
―― グローバル化と歴史の教訓

2019年8月号

ダニ・ロドリック ハーバード大学 ケネディスクール教授(国際政治経済学)

国が貿易するのは、他国を利するためではなく、国内に利益をもたらすからだ。そうした利益が国内経済に公正に分配されるのなら、(貿易への市場)開放を求める国際ルールは必要ではなくなる。国は自らの意思で国を開放しようとする。だが、昨今のハイパーグローバル化は、かつての「金本位制」のようなものだった。これによって、現状の問題の多くが作り出されている。より公正で持続性の高いグローバル経済を形作るつもりなら、より柔軟だった「ブレトンウッズ体制」に目を向けるべきだろう。経済・社会面でのギャップを埋めていくには、国内政策の優先度を引き上げ、国際政策のそれを引き下げる必要がある。グローバル統治(と国際ルール)は軽く柔軟なものにし、各国政府に独自の規制を選べるようにしなければならない。次のグローバル化の鍵はここにある。

中国は貿易戦争をどうみているか
―― 自らを追い込んだトランプの強硬策

2019年8月号

アンドリュー・J・ネーサン コロンビア大学教授(政治学)

ナバロとライトハイザーは、「世界経済におけるアメリカの主導的役割を維持するには、中国の経済モデルを抜本的に変化させるしかない」という立場をトランプに受け入れさせ、強硬策に出た。しかし、貿易戦争は、ワシントンが考えるほど大きな痛みを中国に強いていないようだ。2019年に入って最初の5カ月で、中国の対米輸出は4・8%減少したが、同時期に、中国にとって最大の貿易相手である欧州連合(EU)への輸出は14・2%上昇し、EUからの輸入も8・3%上昇している。一方、アメリカの対中輸出は2019年に入って以降の最初の5カ月で26%以上の落ち込みをみせた。農業を含む、数多くの米セクターのダメージはかなりのレベルに達している。有利な状況を手にしているのは中国であり、北京に妥協するつもりはない。貿易戦争、米中経済の切り離しのあるなしに関わらず、中国はアメリカからの経済独立コースを着実に歩み続けている。

一帯一路が作り出した混乱
―― 誰も分からない「世紀のプロジェクト」の実像

2019年7月号

ユェン・ユェン・アン ミシガン大学准教授(政治学)

一帯一路(BRI)はうまく進展せず、現地での反発に遭遇している。一部の専門家が言うように、この構想は莫大なローンを相手国に抱え込ませ、中国の言いなりにならざるを得ない状況に陥れる「借金漬け外交」のツール、「略奪的融資」なのか。問題は、北京を含めて、BRIが何であるかを分かっているものが誰もいないことだ。中国政府が構想の定義を示したことは一度もなく、認可されたBRIの参加国リストを発表したこともない。このために民間の企業や投資家がこの曖昧な状況につけ込み、自らのプロジェクトを促進するためにBRIを自称し、これによって混乱が作り出され、反中感情が高まっている部分がある。中国内の機を見るに敏な日和見主義者たちが、この構想を自己顕示欲や立身出世のために利用し、それがグローバルな帰結を引き起こしている。・・・

CFR Events
米中貿易戦争は続く
―― その政治的、経済的意味合い

2019年7月

エドワード・オールデン 米外交問題評議会シニアフェロー(経済・貿易担当)
エリザベス・エコノミー 米外交問題評議会シニアフェロー(中国担当)
マイルス・カーラー 米外交問題評議会シニアフェロー(グローバル統治担当)

最近の大統領のツイートは、米企業が中国を離れて、別の場所、つまり、他のアジア諸国、あるいは国内に工場を移して、アメリカに部品その他を供給させる計画を米政権がもっていることを思わせる。ファーウェイに対する攻撃も、多くの意味で米中経済の切り離しを意図している。少なくとも現状では、大統領は米中切り離し派の立場に耳を傾けている。(E・オールデン)

すべては目的が何であるか、双方が勝利をどのように定義しているか、時間枠をどうみているかに左右される。アメリカ側にも中国側にも何をもって勝利とみなすかについてのコンセンサスはない。実際、より多くの米製品の輸入、より大きな市場アクセス、IT技術の保護で由とする立場から、米中経済の切り離しを求める立場にいたるまで、アメリカ側にはさまざまな意見がある。(E・エコノミー)

赤字と債務にいかに向き合うか
―― 第3の道は存在する

2019年4月号

ジェイソン・ファーマン  ハーバード大学 ケネディスクール教授(経済学)
ローレンス・H・サマーズ ハーバード大学名誉教授(経済学)

財政赤字と政府債務残高の増大はどの程度深刻な問題なのか。赤字と債務を懸念する原理派は、これらを最大の脅威とみなし、その削減を最優先課題に据えるべきだと主張する。一方、許容派はこれを無視してもかまわないと考えている。実際、政治家が目を向けるべきは、急を要する社会問題であり、財政赤字や債務ではないだろう。財政赤字の削減ではなく、重要な投資に焦点を合わせ、「経済にダメージを与えないように」配慮しなければならない。だが、財政赤字の削減を最優先にする必要はない。高い債務レベルに派生するリスクは、財政赤字削減策が引き起こすダメージに比べれば小さい。このアプローチなら、債務拡大の弊害と財政赤字削減の余波の間の合理的なバランスをとれるはずだ。

中国経済のスローダウンと北京の選択
―― 債務危機かそれとも政治的混乱か

2019年4月号

クリストファー・ボールディング フルブライト大学 ベトナム校准教授

中国の経済成長率は鈍化し続けている。人口の高齢化、生産年齢人口の減少、賃金レベルの上昇、都市部への人口流入ペースの停滞、投資主導型成長の限界、外国資金流入の低下など、成長率の鈍化、経済のスローダウンを説明する要因は数多くある。だが重要なのは、中国の家計と国の債務がすでに先進諸国と同じレベルに達し、債務が名目GDPよりも速いペースで拡大していることだ。債務の急速な拡大が危険であることを理解していたのか、北京は信用拡大を抑えて管理するための措置を2018年末にとったが、2019年1月の信用拡大は、2018年の年間社会融資総量合計の24%規模に達した。北京は高い経済成長率のためなら、進んでより大きな債務を抱え込むつもりのようだ。

一体化する湾岸とアフリカの角
―― 反目と紛争と開発のポテンシャル

2019年3月号

ザック・バーティン ブルッキングス研究所 ドーハセンター客員研究員

アラブ首長国連邦、サウジアラビア、カタール、トルコがアフリカの角に関与するにつれて、対立関係を抱えるこの地域に中東の対立構図が持ち込まれている。しかも、かつてはのどかだった紅海西岸地域に注目しているのは、湾岸諸国だけではない。中国は最近、ジブチに初の外国軍事基地を設置し、いまや紅海は米中超大国の新たな競争の舞台でもある。紅海両岸で適切に状況を管理できれば、湾岸諸国とアフリカ諸国はともに新たなエンゲージメントから恩恵を引き出せるかもしれない。特に経済の近代化を試みるアフリカ諸国は、中東からの投資と援助を利用してインフラ整備を試み、雇用を創出し、グローバル市場にアセクスできるようになる。しかし、そこに到達するためにクリアーすべき懸案は数多く残されている。

トランプとファーウェイの「政治学」
――  「合法的逮捕」と「人質外交」の間

2019年3月号

シメーヌ・カイトナー カリフォルニア大学教授(国際法)

トランプ大統領が、華為技術(ファーウェイ)の孟晩舟がカナダで逮捕されて数日後のインタビューで、貿易に関して中国から合意を引き出す上で有効と考えられるなら、彼女のケースに「介入する」つもりだと語ったことは、「合法的な逮捕」と「人質外交」の線引きを曖昧にする問題発言だった。当初は、逮捕が政治的な動機に基づくものではないとみなす根拠があった。実際、米司法省は企業の不正行為を巡って個々の経営幹部の責任追及を優先的に行う方針をかねて表明していた。トランプの発言は、このような了解に水を差してしまった。こうして、北京は、逮捕は政治的な動機に基づくものだという見方を強め、これを中国の技術的な発展を妨げようとするアメリカの活動の一環とみなしている。

米中貿易戦争とファーウェイ
―― テクノロジー競争の政治学

2019年3月号

ロバート・ウィリアムズ イェール大学講師

「中国の民間企業に対する共産党の影響力が高まっていること」をワシントンは懸念し、米議会が指摘している通り、中国政府が悪辣な目的でシステムの使用やアクセスを要請した場合、ファーウェイにはこれに協力する義務があること」を問題にしている。ファーウェイがグローバル市場をリードする5Gネットワークが、スマートグリッドから自律走行車までのあらゆるものを支えるテクノロジーなだけに、懸念は高まっている。中国との貿易交渉をワシントンに有利に運ぶために孟晩舟が逮捕されたとは考えにくい。問題は、テクノロジー、経済政策、国家安全保障領域での欧米と中国間の緊張の高まりと不信感に派生しており、アメリカは、中国の経済政策、政府と民間企業の関係の構造的改革を求めている。

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