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経済・金融に関する論文

氷床後退とグリーンランドの機会
―― 飲料水ビジネスとデンマークからの独立?

2019年9月号

マシュー・バークホールド オハイオ州立大学アシスタント・プロフェッサー

グリーンランドの氷床が溶け出し、後退しているのは、温暖化の驚くべきパワーとスピードを物語っているが、グリーンランド政府と起業家にとってこれは大きなチャンスでもある。ボトル飲料水は成長産業であり、グリーンランド政府にとって、これが、デンマークへの経済依存を脱し、独立を目指す機会を作り出すかもしれないからだ。住民の多くは20年以内にデンマークから独立することを望んでいる。石油や(ウランその他の)資源開発計画を含む、財政自立プロジェクトの多くがこれまでのところ実現していないだけに、グリーンランドはその豊かな水資源で財政を支えていくことを期待している。世界はスーパーマーケットの棚に近く、グリーンランドの一部を見出すことになるかもしれない。もちろん、それが独立への道を切り開くかどうかは、現状では分からない。

フェイスブックとテンプル騎士団
―― 暗号通貨リブラのポテンシャルとリスク

2019年9月号

ケビン・ワーバック ペンシルベニア大学  ウォートンスクール教授

今も昔も、国境を越えて資金を移動させるのは容易ではない。十字軍のメンバーたちが聖地への長旅の資金をどうするかという問題を解決したのは、ヨーロッパから中東にかけての遠大なネットワークをもつテンプル騎士団が発行した手形だった。現在も外国送金にはコストも時間もかかる。これを魔法のように解決してくれるのが、ブロックチェーンを基盤とするフェイスブックの暗号通貨・リブラだ。暗号通貨なら、ユーザーは、メッセージやビデオを送るのと同じスピードで送金できるし、銀行へのアクセスをもたない人にも恩恵をもたらせる。但し、この構想が実現すれば、既存の金融機関は追い込まれ、資金洗浄やテロ資金に悪用されるリスクもある。資本規制をしている国の中央銀行のパワーも低下させるかもしれない。驚異的な利便性の一方で、富の移転を規制し、監視する立場にある政府にとっては非常に厄介な事態が作り出される。

米中経済のディカップリングの意味合い
―― 解体するグローバル貿易システム

2019年9月号

チャッド・P・ボウン  ピーターソン国際経済研究所
ダグラス・A・アーウィン ダートマスカレッジ教授(経済学)

トランプ政権が永続的な中国との取引はもとより、北京が受け入れるかもしれない合意など望んでいないことはすでに明らかだ。表面的な合意が結ばれても、それは永続的な貿易戦争の一時的な休戦にすぎない。トランプ政権は、中国政府が「国が支配する経済」から「市場経済」へと一夜にしてシステムを作り替えることを望んでいる。中国経済のあらゆる側面への管理を維持することで、権力を堅持してきた共産党政府がこれを受け入れるはずはない。世界の2大経済大国のつながりが断ち切られ、分裂していけば、世界の貿易地図も書き換えられていく。各国はライバルの貿易ブロックのどちらかを選ばざるを得なくなり、これまでの「グローバル貿易システム」は解体へ向かう。

社会に貢献できる金融システムを
―― 金融危機の本質的教訓を生かすには

2019年8月号

ジリアン・テット フィナンシャル・タイムズ 米国版総合編集者兼編集委員会委員長

「経済を支配するのではなく、経済に奉仕する金融システムを構築する方法をアメリカは本当に知っているのだろうか」。悲しいことに、答えはおそらくノーだ。アメリカのバンカーが、規制当局、政治家、株主たちともに、金融危機とポピュリストの反動が再来するリスクを小さくすることを望むのなら、「ファイナンス」、「バンク」、「クレジット」の本来の意味を彼らのコンピュータスクリーン上に映し出しておくべきだ。これらの本来の意味に即して、銀行業を「目的達成のための手段で、信頼を基盤に社会グループによって遂行される活動」と捉えると、アメリカの金融の何が間違っていたか、将来に向けてそれをいかに是正していくべきかを考える助けになる。かつて同様に現在も、投資家は自身が理解していないことを過度に信用する傾向がある。信用市場を支えている信用の基礎を常に疑うしかない。

国内経済と世界経済のバランス
―― グローバル化と歴史の教訓

2019年8月号

ダニ・ロドリック ハーバード大学 ケネディスクール教授(国際政治経済学)

国が貿易するのは、他国を利するためではなく、国内に利益をもたらすからだ。そうした利益が国内経済に公正に分配されるのなら、(貿易への市場)開放を求める国際ルールは必要ではなくなる。国は自らの意思で国を開放しようとする。だが、昨今のハイパーグローバル化は、かつての「金本位制」のようなものだった。これによって、現状の問題の多くが作り出されている。より公正で持続性の高いグローバル経済を形作るつもりなら、より柔軟だった「ブレトンウッズ体制」に目を向けるべきだろう。経済・社会面でのギャップを埋めていくには、国内政策の優先度を引き上げ、国際政策のそれを引き下げる必要がある。グローバル統治(と国際ルール)は軽く柔軟なものにし、各国政府に独自の規制を選べるようにしなければならない。次のグローバル化の鍵はここにある。

中国は貿易戦争をどうみているか
―― 自らを追い込んだトランプの強硬策

2019年8月号

アンドリュー・J・ネーサン コロンビア大学教授(政治学)

ナバロとライトハイザーは、「世界経済におけるアメリカの主導的役割を維持するには、中国の経済モデルを抜本的に変化させるしかない」という立場をトランプに受け入れさせ、強硬策に出た。しかし、貿易戦争は、ワシントンが考えるほど大きな痛みを中国に強いていないようだ。2019年に入って最初の5カ月で、中国の対米輸出は4・8%減少したが、同時期に、中国にとって最大の貿易相手である欧州連合(EU)への輸出は14・2%上昇し、EUからの輸入も8・3%上昇している。一方、アメリカの対中輸出は2019年に入って以降の最初の5カ月で26%以上の落ち込みをみせた。農業を含む、数多くの米セクターのダメージはかなりのレベルに達している。有利な状況を手にしているのは中国であり、北京に妥協するつもりはない。貿易戦争、米中経済の切り離しのあるなしに関わらず、中国はアメリカからの経済独立コースを着実に歩み続けている。

一帯一路が作り出した混乱
―― 誰も分からない「世紀のプロジェクト」の実像

2019年7月号

ユェン・ユェン・アン ミシガン大学准教授(政治学)

一帯一路(BRI)はうまく進展せず、現地での反発に遭遇している。一部の専門家が言うように、この構想は莫大なローンを相手国に抱え込ませ、中国の言いなりにならざるを得ない状況に陥れる「借金漬け外交」のツール、「略奪的融資」なのか。問題は、北京を含めて、BRIが何であるかを分かっているものが誰もいないことだ。中国政府が構想の定義を示したことは一度もなく、認可されたBRIの参加国リストを発表したこともない。このために民間の企業や投資家がこの曖昧な状況につけ込み、自らのプロジェクトを促進するためにBRIを自称し、これによって混乱が作り出され、反中感情が高まっている部分がある。中国内の機を見るに敏な日和見主義者たちが、この構想を自己顕示欲や立身出世のために利用し、それがグローバルな帰結を引き起こしている。・・・

CFR Events
米中貿易戦争は続く
―― その政治的、経済的意味合い

2019年7月

エドワード・オールデン 米外交問題評議会シニアフェロー(経済・貿易担当)
エリザベス・エコノミー 米外交問題評議会シニアフェロー(中国担当)
マイルス・カーラー 米外交問題評議会シニアフェロー(グローバル統治担当)

最近の大統領のツイートは、米企業が中国を離れて、別の場所、つまり、他のアジア諸国、あるいは国内に工場を移して、アメリカに部品その他を供給させる計画を米政権がもっていることを思わせる。ファーウェイに対する攻撃も、多くの意味で米中経済の切り離しを意図している。少なくとも現状では、大統領は米中切り離し派の立場に耳を傾けている。(E・オールデン)

すべては目的が何であるか、双方が勝利をどのように定義しているか、時間枠をどうみているかに左右される。アメリカ側にも中国側にも何をもって勝利とみなすかについてのコンセンサスはない。実際、より多くの米製品の輸入、より大きな市場アクセス、IT技術の保護で由とする立場から、米中経済の切り離しを求める立場にいたるまで、アメリカ側にはさまざまな意見がある。(E・エコノミー)

赤字と債務にいかに向き合うか
―― 第3の道は存在する

2019年4月号

ジェイソン・ファーマン  ハーバード大学 ケネディスクール教授(経済学)
ローレンス・H・サマーズ ハーバード大学名誉教授(経済学)

財政赤字と政府債務残高の増大はどの程度深刻な問題なのか。赤字と債務を懸念する原理派は、これらを最大の脅威とみなし、その削減を最優先課題に据えるべきだと主張する。一方、許容派はこれを無視してもかまわないと考えている。実際、政治家が目を向けるべきは、急を要する社会問題であり、財政赤字や債務ではないだろう。財政赤字の削減ではなく、重要な投資に焦点を合わせ、「経済にダメージを与えないように」配慮しなければならない。だが、財政赤字の削減を最優先にする必要はない。高い債務レベルに派生するリスクは、財政赤字削減策が引き起こすダメージに比べれば小さい。このアプローチなら、債務拡大の弊害と財政赤字削減の余波の間の合理的なバランスをとれるはずだ。

中国経済のスローダウンと北京の選択
―― 債務危機かそれとも政治的混乱か

2019年4月号

クリストファー・ボールディング フルブライト大学 ベトナム校准教授

中国の経済成長率は鈍化し続けている。人口の高齢化、生産年齢人口の減少、賃金レベルの上昇、都市部への人口流入ペースの停滞、投資主導型成長の限界、外国資金流入の低下など、成長率の鈍化、経済のスローダウンを説明する要因は数多くある。だが重要なのは、中国の家計と国の債務がすでに先進諸国と同じレベルに達し、債務が名目GDPよりも速いペースで拡大していることだ。債務の急速な拡大が危険であることを理解していたのか、北京は信用拡大を抑えて管理するための措置を2018年末にとったが、2019年1月の信用拡大は、2018年の年間社会融資総量合計の24%規模に達した。北京は高い経済成長率のためなら、進んでより大きな債務を抱え込むつもりのようだ。

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