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経済・金融に関する論文

米金融帝国の黄昏
―― 金融制裁で損なわれるパワー

2020年3月号

ヘンリー・ファレル ジョージ・ワシントン大学  教授(政治学、国際関係論) アブラハム・ニューマン ジョージタウン大学  教授(政治学)

トランプ政権は、バグダッドが米軍のイラクからの撤退を強要するようなら、(世界が)みたこともない「対イラン制裁さえ控えめに思えるような、激しい制裁を(イラクに)発動する」と威嚇し、米連邦準備制度のイラク中央銀行の口座凍結さえ示唆した。ワシントンは、金融関係を帝国のためのツールに変えることで、アメリカは古代アテナイのやり方を踏襲しつつある。だが、アテナイがその後どのような運命をたどったかを理解すれば、ワシントンが、今後を楽観できるはずはない。同盟勢力を思いのままにするために金融力を用いたアテナイは、結局は、自らの破滅の時期を早めてしまった。

ダーティマネー
―― 政治腐敗が規定する世界

2020年3月号

オリバー・バロー ジャーナリスト

「外国で企業が賄賂を支払ったとしても検挙されるリスクは平均5%以下。それでも賄賂を1ドル支払うと、平均5ドルの追加的利益を得られる」。そうだとすれば、賄賂を提供することの恩恵はリスクを大きく上回り、賄賂を支払うことは経済的に合理的な行為となる。しかも「他の犯罪とは違って、贈賄は時間をかけて進行していくことが多く、その結果もスローモーションのような災害であるため、経済的、政治的、社会的なダメージが作り出されるとしても、誰かが意識的にそれを探し出さなければ社会は気づかない」。結局、政治腐敗による利益があまりにも大きく、リスクがあまりにも小さいとなれば、これを撲滅するのはおそろしく困難になる。だが、政府機関の不正が大きくなれば、その国の経済成長は低下し、所得格差が拡大することはすでに明らかになっている。

ネオリベラリズムの崩壊と新社会契約
―― 社会民主主義では十分ではない

2020年2月号

ミアタ・ファーンブレー ニューエコノミクス財団 チーフエグゼクティブ

格差はつねに資本主義社会の特徴の一つだったが、人々は自分たちの生活の質が改善し、機会が拡大していると感じ、子供たちは自分たちよりも良い生活を送れると期待できる限り、そうした格差に目くじらを立てることはなかった。だが、この数十年でそうした機会が消失し始めると、システムそのものが不公正で、多くの人にとって利益にならないのではないかという見方が勢いを持ち始めた。新しい経済モデルを導入して人々をエンパワーし、公共財やインフラの所有を広げることで経済における市民の発言権を高めるべきだ。コミュニティレベルに権限を委譲し、生活を改善するための人々の集団行動を受け入れる、アクティブで分権化された国家が必要になる。

「新社会主義運動」の幻想と脅威
―― 富は問題ではない

2020年2月号

ジェリー・Z・ミュラー 米カトリック大学歴史学教授

資本主義には強さと弱さがある。実際、自由市場を基盤とする資本主義が18世紀に定着して以降、このシステムは長く批判にさらされてきた。一連の改革運動が刺激され、これが19世紀型のレッセフェール(夜警)国家を今日の先進民主国家が導入する混合経済・福祉国家(mixed welfare States)へ変貌させた。かつて「社会民主主義」と呼ばれたシステムを現状で模索する左派勢力も、おおむね似たものを追いかけている。だが、「新社会主義運動」はこれらとは違う。そのルーツは社会民主主義ではない。資本主義を改革するのではなく、むしろそれを終わらせようとする民主社会主義にある。彼らは、金の卵を産むガチョウの健康など気にかけていない。これを当然視した上で、不公正な状況を超富裕層の資産の突出を削り取るという簡単かつ直接的な方法でなくそうとしている。

鎖につながれたグローバル化
―― サプライチェーン、ネットワークと経済制裁

2020年2月号

ヘンリー・ファレル  ジョージ・ワシントン大学 教授(政治学) アブラハム・L・ニューマン  ジョージタウン大学 教授(政治学)

デジタルネットワーク、金融フロー、サプライチェーンが世界中に拡大し、アメリカを中心とする各国は、これを、他国を捕獲する蜘蛛の巣とみなすようになった。米国家安全保障局はあらゆる種類のコミュニケーションを傍受し、米財務省は国際金融ネットワークを利用して、無法な国家と金融機関に制裁を課している。一方、ファーウェイが5Gをグローバルレベルで支配すれば、北京もファーウェイをゲートウェイにして世界の通信に侵入し、これまでアメリカが中国に対して試みてきたことを、アメリカに対して実施できるようになる。日本も重要な産業用化学製品の流通を制限することで、韓国のエレクトロニクス産業を狙い撃ちにした。鎖につながれたグローバル化の現実を受け入れ、理解することが、これらのリスクを抑えるために必要不可欠な最初のステップになる。

資本主義を救う改革を
―― 株主資本主義からステイクホールダー資本主義へ

2020年2月号

クラウス・シュワブ  世界経済フォーラム  設立者兼会長

1980年代以降の40年で、あらゆるタイプの経済格差が拡大した。社会システムにも亀裂が生じ、社会を包み込むような経済成長を実現できなくなった。一方で、市場主義は深刻な環境問題も作り出した。利益の最大化を至上命題とする株主資本主義によって問題の多くが引き起こされている。幸い、若者世代は、企業が環境や社会的満足を犠牲にして利益を模索することをもはや認めていない。この意味でも現状の資本主義はすでに限界に達している。内側からシステムを改革しない限り、存続はあり得ない。企業は「ステイクホールダー(公益)資本主義」を受け入れ、社会・環境上の目的を実現するための措置を積極的に果たしていく必要がある。われわれは非常に大きな選択に直面している。

資本主義の衝突
―― 「民衆の資本主義」か「金権エリート資本主義」か

2020年1月号

ブランコ・ミラノヴィッチ ニューヨーク市立大学大学院 ストーンセンター シニアスカラー

グローバル経済の未来を左右するのは、資本主義と他の経済システムの競争ではなく、資本主義内の二つのモデル、つまり、「リベラルで能力主義的資本主義」と「政治的資本主義」間の競争だろう。リベラルな資本主義が「民衆の資本主義」へ進化し、拡大する格差問題にうまく対処しない限り、欧米のシステムは、社会主義ではなく、中国型の政治的資本主義に近づき、金権政治的になっていくだろう。格差を是正し、民衆の資本主義への進化を実現するには、中間層により大きな金融資産の保有を促す税インセンティブを与え、超富裕層の相続税を引き上げ、公教育の質を改善し、選挙キャンペーンを公的資金でカバーできるようにしなければならない。そうしない限り、政治的資本主義同様に、排他的な少数で構成される特権階級の家庭が、将来に向けて永遠にエリートを再生産していくようになる。

オランダという世界最悪のタックスヘイブン
―― いかに改革し、解体するか

2019年12月号

ジョアン・ランガーロック オックスファム・ノビブ  政策アドバイザー マールテン・ヒートランド 多国籍企業研究センター  リサーチャー

オランダの租税回避スキームを利用しているのは、非合法の収益を隠そうとしている信用度の低い一握りの企業だけではない。本国での税負担を軽減しようと、オランダの枠組みを利用している企業にはグーグルやIBMも含まれる。もっとも、オランダに流れ込んだ資金は、時をおかずに他のタックスヘイブンへ移される。結局、タックスヘイブンであることから利益を引き出しているオランダ人は、直接・間接にこの産業に雇用されている会計士、弁護士、コンサルタントなど、約1万人程度で、オランダ経済全般への恩恵は非常に少ない。どうみても、改革そして制度の解体が必要だ。

失われた株式市場のバランス
―― なぜ市場操作と不正行為がまかり通っているか

2019年12月号

フェリクス・サルモン AXIOS チーフ・フィナンシャルコレスポンデント

株式市場は「権力関係によって支配される政治的制度」であり、その構造とルールを好ましいとみなすかどうかは、プレイヤー毎に違う。しかし、金融機関が並外れた強大な権力と影響力をもっていれば、市場構造は彼らの有利なものへと歪められる。これがグローバル株式市場で起きていることだ。巨大銀行と証券会社が彼らの目的に沿うように市場を翻弄している。その最たるものが超高速取引(HFT)だろう。数十億ドルを株式市場から出し入れすることを望む大口の投資家にとって、大規模な資金を、彼らにとって不利な方向に株価を変動させることなく、動かすのは難しい。こうして、有利な価格のままで取引を実施するために超高速取引が駆使される。「株式市場は操作され、不正がはびこっている」と言われても仕方のない状態にある。実質的な監督が絶対的に不足している。不正行為が実際に行われていることは誰の目にも明らかだ。

メコンと東南アジアを脅かす脅威
―― ダムではなく、再生可能エネルギーの整備を

2019年12月号

サム・ギアル  チャタムハウス アソシエートフェロー

メコン川に流水の多くを供給しているヒマラヤの氷河は21世紀末までに温暖化によって消滅するかもしれない。上流の中国は下流のラオスとカンボジアにダム建設を働きかけ、いまやメコン川は中国がその利益とパワーを展開する主要な舞台と化している。しかも、流域諸国政府はメコン川の環境問題にほとんど配慮していない。要するに、流域コミュニティは気候変動の弊害、中国の地政学的野心、政府の環境問題への無関心という逆風にさらされている。流域のよりよい未来はダムによる水力発電ではなく、再生可能エネルギーを整備することで切り開けるはずだ。国内でソーラーパワー産業を育成し、貧困を緩和するという目的から再生可能エネルギーを整備してきた実績持つ中国は、ダム開発ではなく、メコン流域における脱炭素の未来を切り開くための投資を考えるべきではないか。

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