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経済・金融に関する論文

経済活動再開の恩恵とリスク
―― 感染率拡大の国家間格差はなぜ生じたか

2020年8月号

ジョシュ・ミックハウド  カイザーファミリー財団  アソシエイト・ディレクター (グローバルヘルス政策担当) ジェン・ケーツ  カイザーファミリー財団  シニアバイスプレジデント (グローバルヘルス&HIV政策担当)

都市封鎖、行動規制解除後の感染率の推移は国ごとにばらつきがある。感染を封じ込めるほど十分長期にわたって封鎖や行動規制を続け、公衆衛生システムを強化し、レジリエンスを高め、社会にメッセージを適切に伝えた国は、日常生活への復帰後も壊滅的な事態には陥っていない。しかし、大した準備もせずに、経済・社会活動の再開に踏み切り、いまや大きなコストを支払わされているブラジルやアメリカのような国もある。経済・社会活動再開のための最善の計画も、予期せぬ事態に遭遇することもある。各国で、ステイホームの指令やソーシャルディスタンシングのガイドラインがデモ行動で覆されたことはその具体例だ。社会・経済活動再開に向けたロードマップが存在することは安心材料だが、数週間から数カ月先にはそれを書き換える必要が出てくるだろう。

デジタル人民元とドル
―― 脅かされる米ドルの覇権

2020年7月号

アディティ・クマール ハーバード大学ケネディスクール ベルファー・センター エグゼクティブディレクター
エリック・ローゼンバッハ ハーバード大学ケネディスクール ベルファー・センター 共同ディレクター

一帯一路を通じて世界のインフラプロジェクトに資金を提供している北京が、途上国の金融インフラに投資すれば、この構想を補完する「デジタル一帯一路」を構築できるし、中国と大規模な輸出入関係にある企業に、アリペイを使って「デジタル人民元」で取引するように促すこともできる。実際、中国のデジタル通貨を利用できるようになれば、(経済制裁の対象にされても)テヘランはドル建ての取引と決済、そして米金融機関を迂回できるようになる。迫りくる「デジタル通貨の時代」における経済的優位を守るには、ワシントンは直ちに行動を起こす必要がある。競争力のあるデジタル通貨をワシントンが開発できなければ、情報化時代におけるアメリカのグローバルな影響力は大きく損なわれることになるかもしれない。

ブレグジット後のヨーロッパ
―― 経済より政治統合を優先させよ

2020年7月号

マティアス・マティス ジョンズホプキンス大学 高等国際関係大学院(SAIS) 准教授(国際政治経済学)

市場統合は英仏が、ユーロは仏独が主導した。欧州連合(EU)の東方拡大を支持したのはイギリスとドイツだった。イタリアのエリート層は、これら三つのプロジェクトすべてに進んで同調した。しかしいまや、こうしたコンセンサスはほとんどない。EUが現在の病を克服するには、加盟国首脳が幅広い政治原則や経済原則で妥協する必要があるが、東欧や南欧の反対の高まりを考えると、現状を維持したいドイツの願いを叶えるのは難しいだろう。したがって、イタリアが望む「加盟国により大きな柔軟性を認める路線」とフランスが求める「EUの連帯強化路線」との間で均衡点をみつける妥協が必要になる。これが実現すれば、ドルのパワーに対抗していくユーロのポテンシャルを開花させていくことも、エアバス社などの優れた欧州企業をさらにパワフルな企業に育てていくことも夢ではなくなる。・・・

準備通貨ドルとデジタル人民元
―― 何がドル覇権を支えているのか

2020年7月号

ヘンリー・M・ポールソン・Jr  元米財務長官

ワシントンは、中国との競争で実際に何が危機にさらされ、問われているのかを明確に認識する必要がある。アメリカは金融と技術部門のイノベーションのリードを維持すべきだが、中国のデジタル通貨が米ドルに与える衝撃を過大評価する必要はない。むしろ、ドルの優位性を生み出した条件を維持していくことに気を配るべきだ。この意味で、健全なマクロ経済と財政政策が支える躍動的な経済、透明で開放的な政治システムと国際社会での政治・経済・安全保障上のリーダーシップを維持していく必要がある。つまり、ドルの覇権的地位を維持できるかは、中国で何が起こるかよりも、コロナウイルス後の経済にアメリカが適応していく能力、成功モデルであり続ける能力に左右されるだろう。

「マジックマネー」の時代
―― 終わりなき歳出で経済崩壊を阻止できるのか

2020年7月号

セバスチャン・マラビー  米外交問題評議会シニアフェロー(国際経済担当)

今日、アメリカを含む先進国は、双子のショックの第二波としてパンデミックを経験している。2008年のグローバル金融危機、グローバルパンデミックのどちらか一つでも、各国政府は思うままに紙幣を刷り増し、借り入れを増やしたかもしれない。だが、これら二つの危機が波状的に重なることで、国の歳出能力そのものが塗り替えられつつある。これを「マジックマネー」の時代と呼ぶこともできる。「しかし、インフレになったらどうするのか。なぜインフレにならなくなったのか、そのサイクルはいつ戻ってくるのか」。この疑問については誰も確信ある答えを出せずにいる。例えば、不条理なまでに落ち込んでいるエネルギーコストの急騰が、インフレの引き金を引くのかもしれない。しかし・・・

CFR Meeting
コロナウイルスが変える社会と経済
 ――経済効率を落としてもよりレジリエントな存在になる

2020年6月号

エドマンド・S・フェルプス コロンビア大学資本主義・社会センター所長  セシリア・エレナ・ラウズ プリンストン大学ウッドロー・ウィルソン・スクール ディーン グレン・ハバード コロンビア大学ビジネススクール ディーン

イノベーションプロセスに参加してイマジネーションとクリエーティビティを開花できるはずの膨大な数の人々が雇用を失ったままであれば、社会紛争のなかで国が崩壊するのではないかとさえ私は懸念している。(E・フェルプス)

「病気なのに、仕事に向かい、他の人に感染させるかもしれない」。有給の病欠が認められていれば、家で安静にしていても、給料を減らされることはない。実際、(医療保険)公衆衛生は、政府が役割を果たすのが適切で、これが非常に重要な公共財であることを理解すべきだろう。公衆衛生は、国防とともにきわめて重要だ。  (C・ラウズ)

ビジネスマンは、今回の経験から(効率よりも)レジリエンス(柔軟性、ゆとり)を維持することの重要性を教訓として学んでいくだろう。(今回のように)この上なく最適化された(無駄のない)サプライチェーンが、ショックによって機能不全に陥るのを避けようとするはずだ。・・・結局、各国が新たに議論できる空間を提供する国際機関を立ち上げられるまでが、効率性や成長の重要性はこれまでよりも割り引いて捉えられるようになるかもしれない。(G・ハバード)

危機後の増税で社会保障投資を
―― 緊縮財政ではなく、増税による投資を

2020年6月号

スヴェン・スタインモ  コロラド大学ボルダー校 政治学教授  マーク・ブリス  ブラウン大学ワトソン研究所 国際経済学教授

コロナアウトブレイクが落ち着いてくれば、「支出を減らして、予算を均衡させよ」と緊縮財政を求める声が大きくなるはずだ。だが、パンデミック対策によって、米政府の債務レベルが1940年代以降、もっとも高い水準に達するのは避けられないとしても、緊縮財政は拒絶すべきだろう。債務を懸念する人々も、アメリカの指導者が大恐慌と第二次世界大戦期にとったコースに目を向ければ十分にその理由を理解できるはずだ。これらの非常に大きなショックを前にしても、ワシントンは緊縮財政を拒絶して増税し、米史上最大のインフラプロジェクトやGIビルのために投資し、大きな成功を収めた。ポストパンデミック期にも、税収を増やして、市民が切実に必要としている社会プログラムに資金を投入すべきだろう。・・・

米経済の復活とコロナショック
―― 経済覇権の米中逆転はあり得ない

2020年6月号

ルチール・シャルマ  モルガン・スタンレー インベストメント・マネジメント 主席投資ストラテジスト

多くの人は、米経済が2010年に復活を遂げ、この10年にわたって黄金時代を謳歌していたことを見落とし、アメリカ衰退論に囚われている。パンデミックショックが本格的な金融危機を引き起こせば、問題を抱える企業が世界中で債務不履行に陥り、最終的にはアメリカ金融帝国にとっても脅威となるだろう。しかし、巨大な公的債務だけでなく、ゾンビ企業が企業債務の10%を占める現在の中国は、そうした危機に対してアメリカ以上に大きな脆弱性をもっている。結局、経済成長にとってもっとも重要なのは生産年齢人口であり、アメリカではこれが依然として増大しているのに対して、中国では5年前から減少に転じている。アメリカが世界最大の経済大国の地位を失うことも、米中逆転も当面あり得ない。

パンデミックと保護主義の台頭
―― 輸入からの保護と輸出保護主義

2020年6月号

チャッド・P・ボウン ピーターソン国際経済研究所 シニアフェロー

「グローバルパンデミック」がどの段階にあるかは地域差がある。自国よりも早く経済を再開できる地域や国があるかもしれない。経済再建の試みが始まった段階で、港が輸入品で埋め尽くされているようなら、国内産業から保護主義を求める圧力は大きくなる。一方、輸出制限策が、ナショナリズムとともに高まっていくことはすでに実証済みだ。実際、仏独だけでなく、イギリス、韓国などの他の数十カ国も医療品や医薬品の輸出を制限している。もっとも深刻な余波が生じるのはパンデミックが収束し、経済生産が再開されたときかもしれない。貿易保護主義を求める社会圧力の高まりを予測もせず、備えることを怠れば、世界は壊滅的な事態に直面することになる。

迫り来るアナーキー
―― 米中対立と国際社会

2020年6月号

ケビン・ラッド  アジア・ソサエティ政策研究所・会長 元オーストラリア首相

パンデミックの残骸のなかから、パックス・シニカが生まれたり、パックス・アメリカーナが再出現したりすることはあり得ない。むしろ、米中のパワーは国内においても対外的にも衰退していく。その結果、国際的アナーキーに向けた着実な漂流が続くだろう。秩序と協調の代わりに、様々な形態のナショナリズムが噴出する。米中対立が拡大するにつれて、多国間システムとそれを支えてきた規範や制度はすでに崩れ始めている。多くの多国間機関は、むしろ、米中のライバル関係の舞台と化しつつある。アメリカも中国もダメージを受け、しかもそこには、ジョセフ・ナイが言う、「国際システムを機能させるシステムマネージャー」はいない。間違った決断をし、配慮を怠れば、2020年代は1930年代へ回帰していく。

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