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経済・金融に関する論文

ロシアとの交渉を実現するには
―― 経済制裁の強化を

2025年1月号

セオドア・ブンツェル ラザード地政学アドバイザリー マネージング・ディレクター
エリナ・リバコバ ピーターソン国際経済研究所 シニアフェロー(非常勤)

「流れは自分の側にあり、妥協する環境にはない」とモスクワは考えている。つまり、さらに経済圧力をかけなければ、ロシアが2025年にウクライナ戦争の停戦交渉に応じることはないだろう。現状で停戦を急いでも、それは、モスクワがさらに触手を伸ばすための、小休止になるにすぎない。一方、ロシア経済の生命線であるエネルギーからの収益を低下させ、欧米製のデュアルユース製品の輸入を大幅に抑え込めば、ロシアが戦争を継続するのは難しくなり、交渉に応じるインセンティブを高められる。原油価格とインフレ率が低下しているいま、欧米は2022年当時よりもロシアのエネルギー・フローを混乱させる、より積極的な施策をとれるはずだ。

保護主義の台頭とWTOの衰退
―― 貿易秩序の崩壊は何を意味するか

2024年11月号

クリステン・ホープウェル ブリティッシュ・コロンビア大学 教授

アメリカは自由貿易へのコミットメントをすでに放棄している。関税を課し、複数の産業に巨額の補助金を投入することで、世界貿易機関(WTO)のルールと原則を公然と踏みにじっている。中国も、補助金や経済的威圧策を行使して貿易をゆがめ、次第にこれを兵器として用いつある。しかも、インドネシアやインドを含む、他の諸国もアメリカのやり方に追随して、WTOルールを公然と無視するようになった。このままWTOルールを無視する国が増え続ければ、いずれ、多国間貿易システムが完全に崩壊するティッピングポイントを迎え、世界は1930-1940年代へと回帰していくことになるのかもしれない。

再生する資本主義
―― スイス、台湾、ベトナムに学ぶ

2024年11月号

ルチール・シャルマ ロックフェラー・インターナショナル 会長

新興経済諸国は、アメリカが「大きな政府」的解決策を模索するのをみて衝撃を受ける一方で、中国に経済モデルのインスピレーションを求めることもできずにいる。いまや「中国経済の奇跡」も失速しつつある。だが、主要国が資本主義から後退しているかにみえるなか、スイス、台湾、ベトナムなどの、資本主義がうまく機能している国もある。これらの諸国のやり方を模倣し、取り入れる価値はあるだろう。いずれも、経済的自由を重視し、経済の管理や規制をめぐる政府の役割を抑え、債務や財政赤字が深刻なリスクになることを認識して資金を慎重に用いている。

高技能外国人材と経済成長
―― 技術系人材を確保するには

2024年10月号

デベシュ・カプール ジョンズ・ホプキンス大学 高等国際問題研究大学院 教授(南アジア研究)
ミラン・ヴァイシュナヴ カーネギー国際平和財団 シニアフェロー

この数十年にわたって、ワシントンの政治家たちは不法移民の管理とコントロールに執着してきたが、いまや、合法的な移民、それも高度技能をもつ外国人材に同じ程度の関心を払う必要があるだろう。世界的な人材獲得競争で成功したいのなら、時間的猶予はほとんどない。ワシントンは、サプライチェーンのレジリエンスを高め、新興技術部門で中国を打ち負かすという野心的な計画をもっている。だが、これらの目標を有意義な時間枠で達成するには、現在の米労働力に不足している、高度なスキルをもつ人材プールが必要になる。より柔軟で適応性のある移民政策なしでは、うまく考案された計画も結果にたどり着けない。

途上国を債務危機から救うために
―― アフリカのポテンシャルを開花させるには

2024年10月号

マーク・スズマン ビル&メリンダ・ゲイツ財団 最高経営責任者

2022年3月、米連邦準備制度理事会(FRB)が米国債の金利を引き上げると、低所得国の通貨は下落し、資本市場へのアクセスを失った。サハラ以南のアフリカでは、19カ国がデフォルトに陥るか、そのリスクに直面している。しかも、低所得国が直面している問題は、無分別な借金の結果ではなく、気候変動が引き起こしたショック、パンデミック、そして戦争の結果なのだ。低所得国を債務危機から救い出し、世界的な成長を回復させるために、先進諸国政府は、世界銀行への資金拠出を増やし、債務救済を強化していく必要がある。

中国経済危機の本質
―― 過剰生産能力の悪夢

2024年9月号

ゾンユアン・ゾー・リュー 外交問題評議会 シニアフェロー(中国研究)

中国経済の停滞を説明する最大の要因は、巨大な過剰生産能力が構造的に作り出されていることだ。北京の産業政策は長年にわたって、生産設備への過剰投資を促し、その過程で中国の都市(地方政府)や企業は膨大な債務を抱え込んできた。最近でもロボット、電気自動車用バッテリー、その他で過剰生産能力を抱え込み、ソーラーパネルにいたっては、年間に世界が設置して利用できるソーラーパネルの2倍規模の生産能力をもっている。国内市場や外国市場が持続的に吸収できるレベルをはるかに上回る規模の商品を生産しているために、中国は、外国との摩擦を抱え込んでいるだけでなく、価格低下、債務超過、工場閉鎖、雇用喪失という破滅のループに陥っていく危険がある。

貿易で紛争を防げるか
―― 貿易と平和の真実

2024年8月号

スティーブン・G・ブルックス ダートマス大学教授(政治学)

貿易の拡大とグローバリゼーションが戦争を抑制すると考えるのも、戦争を促すと考えるのも間違っている。世界経済と国際安全保障の関係は複雑だ。重要な要素も、そうでない要素もある。かつて米政府高官たちは、対中経済エンゲージメントはアメリカの安全保障にプラスの作用しかもたないと信じていたが、いまや、この政策は大失敗だったと考えられているようだ。しかし、政策立案者は、どちらの考え方も間違っていることを理解しなければならない。通商は平和の促進には役立たないし、有害でもない。その両方の作用をもつ。

なぜドルは強いのか
―― 堅牢化するドル体制

2024年8月号

エスワール・プラサード ブルッキングス研究所 シニアフェロー

インフレの急進を警戒する内外の投資家が、いずれ、米国債を投げ売りするかもしれない。トランプが再選されれば、アメリカの金融市場とドルへの信頼が低下する恐れもある。しかし、逆説的ながらも、混乱はドルにとって好都合なのだ。経済的・地政学的混乱は安全な投資の魅力を高め、通常、投資家はもっとも信頼できるドルへ回帰する。資本の自由化と政治改革が必要になる人民元の国際通貨戦略を、北京が全面的に認めることはあり得ない。ドル相場を語る上で重要なのは、結局のところ、アメリカの強さよりも世界の弱さなのだ。このギャプが変化するまでは、アメリカがいかにひどいカードを切っても、ドルが下落することはないだろう。

脱グローバル化という危険な神話
―― グローバル経済の真の姿

2024年7月号

ブラッド・セッツァー 米外交問題評議会 シニアフェロー

「世界の貿易と金融は、中国を中心に南半球に広がるブロック、アメリカやその他の欧米諸国を中心とするブロックによって分断され、ますます敵対的になっている」と現状をみなすべきなのか。実際には、より多くの中国製部品が最終組み立てのために、マレーシア、タイ、ベトナムなどへ輸出され、これらの諸国からの対米輸出が急増しているにすぎない。脱グローバル化が現実に進行しているとみなす前提には問題がある。中国経済への依存はいまも非常に高いレベルにある。世界経済の現状での統合レベルを過小評価すれば、台湾をめぐる紛争やアメリカの一方的な貿易からの後退など、世界経済を揺るがす行動のコストを過小評価することになる。

イギリスと世界
―― 労働党の世界へのアプローチ

2024年6月号

デービッド・ラミー 英労働党・影の内閣外相

英経済は低成長の泥沼にはまりこんでいる。陸軍の兵力規模は、ナポレオンと戦った時代以来の低水準だし、行政サービスの多くも崩壊寸前だ。保守党政権は、その後の明確な計画もないままに、欧州連合(EU)を強引に離脱し、北アイルランドに平和をもたらした「グッドフライデー合意」を危険にさらし、欧州人権条約を軽視する行動みせた。だが、次の選挙で、われわれ労働党が政権を手に入れば、国家再生の時代を「進歩主義的リアリズム」で切り開いていく。進歩主義を現実主義的に実施すれば、世界を変えられるだろう。進歩主義的リアリズムとは、何が達成できるかに関する誤った思い込みを排除した上で、理想を模索することを意味する。

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