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経済・金融に関する論文

イギリスと世界
―― 労働党の世界へのアプローチ

2024年6月号

デービッド・ラミー 英労働党・影の内閣外相

英経済は低成長の泥沼にはまりこんでいる。陸軍の兵力規模は、ナポレオンと戦った時代以来の低水準だし、行政サービスの多くも崩壊寸前だ。保守党政権は、その後の明確な計画もないままに、欧州連合(EU)を強引に離脱し、北アイルランドに平和をもたらした「グッドフライデー合意」を危険にさらし、欧州人権条約を軽視する行動みせた。だが、次の選挙で、われわれ労働党が政権を手に入れば、国家再生の時代を「進歩主義的リアリズム」で切り開いていく。進歩主義を現実主義的に実施すれば、世界を変えられるだろう。進歩主義的リアリズムとは、何が達成できるかに関する誤った思い込みを排除した上で、理想を模索することを意味する。

ピーク・チャイナという幻想
―― 中国パワーの現実

2024年6月号

エヴァン・S・メデイロス 元米国家安全保障会議 アジア上級部長

経済的に衰退する中国には、もはや「かつてのような力はない」のか。現実には、中国共産党は、大方の予測を覆して、危機をうまく切り抜けることが多く、習近平は現在の経済状況について心配していない。むしろ、現状は、より強く、持続可能な経済になるための成長痛を経験しているようなもので、近代化目標に向かって突き進めるように、経済を再構築するための厳しい選択をしていると北京では考えられている。中国の指導者たちは、自国がピークアウトしたかどうかは心配していない。たとえ成長のペースは鈍化しても、米中間のギャップは縮まり続けていると確信している。

ビジネスエリートの地政学
―― 企業と外交政策

2024年4月号

ジャミ・ミシック 元キッシンジャー・アソシエイツ会長
ピーター・オルサグ ラザード 最高経営責任者
セオドア・バンゼル ラザード地政学アドバイザリー マネージング・ディレクター

政府が地政学的目的を達成するために輸出規制や産業政策へ傾斜していくにつれて、企業は外交政策の目的であると同時にそのための手段とされつつある。だが、企業の利益が、米政府が考える利益と常に同期するわけではなく、しかも、企業が政府以上に多くの情報をもっていることも多い。アメリカの国益を調整し、保護するというワシントンの最終的役割を考えれば、政策決定者は(企業の協力を必要とする)この新しいパラダイムに適応していく必要がある。民間企業との協議を制度化し、産業界の専門知識に資金を提供し、経済情報を充実させることは、よいスタートになる。政策立案者は民間セクターについて、これまでとは根本的に異なる捉え方をする必要がある。

経済安全保障とラテンアメリカ
―― 中国に代わるサプライチェーンの確立を

2024年4月号

シャノン・K・オニール 米外交問題評議会 副会長(研究担当)

アメリカは重要鉱物の80%を外国から調達しており、ニッケル、マンガン、グラファイトといったバッテリー製造に使われる鉱物はとくに中国に大きく依存している。マイクロチップの60%、そして最先端の半導体チップの90%は、中国の脅威にさらされている台湾で製造されている。こうした現状には大きなリスクがある。しかし、われわれはラテンアメリカに目を向けることができる。南部国境以南の国々について、「良いフェンスが良い隣人をつくる」と考えている米指導者もいるかもしれないが、それは、大きな間違いだ。ラテンアメリカをサプライチェーンに深く統合せずに、経済的な同盟国をアジアやヨーロッパという遠くに求め続ければ、ワシントンは、さらに大きな中国の影響力が裏庭におよぶことを後押しすることになる。

ドイツ経済の試練
―― 改革を阻む構造的要因

2024年4月号

スダ・デービッド=ウィルプ 米ジャーマン・マーシャル・ファンド ドイツ地域ディレクター兼シニアフェロー
ヤコブ・キルケガード ピーターソン国際経済研究所 シニアフェロー

ドイツ経済の強さの歴史的源泉が、エネルギー集約的で化石燃料を使用する産業にあることを考えれば、経済構造の移行には官民双方での大規模な投資も、すぐれた労働力も必要になる。だが、現状では、投資を阻む「債務ブレーキ」の制約が行く手を阻み、移民を嫌う右派ポピュリズムが台頭している。経済が停滞しているにも関わらず、厳しい財政ルールと連立政権内の分裂が、ドイツが必要とする規模の改革を阻んでいる。それでも、軍需産業を強化するだけでなく、脱炭素化を加速するグリーン産業、世界経済の未来を形作る新技術に国の資源を投入しなければならない。そして、経済成長を支える移民政策を守る政治的意志を結集する必要がある。・・・

アメリカの新貿易コンセンサス
―― ロバート・ライトハイザーの世界

2024年3月号

ゴードン・H・ハンソン ハーバード大学ケネディスクール 教授(都市政策)

前米通商代表のライトハイザーは、製造業にほぼ神秘的なまでの経済価値をみいだし、貿易赤字だけが貿易協定を評価する唯一の指標だと考えている。問題は、明らかに正しくないものを含めて、彼の見解が米国内で支持を広げていることだ。トランプの「アメリカ第1主義」の威勢のよさを思わせる彼の立場は右派にアピールし、バイデンの産業政策と環境保護路線を受け入れることで左派への訴求力ももっている。だが、ライトハイザーの処方箋が貿易政策の標準とされても、国内の工場を復活させることはできない。むしろ、その過程で国際関係に大きなダメージを与えてしまう。彼にとっては受け入れがたいとしても、アメリカの繁栄の未来は溶鉱炉や組立ラインではなく、サービス業にある。

米中地政学とグローバル経済
―― 同盟国との経済連携の強化を

2024年2月号

ピーター・E・ハレル 元米国家安全保障会議 シニアディレクター

ワシントンは、進化する地政学的必要性に対応できるやり方で、中国との経済関係を積極的に管理していくべきだ。主要サプライチェーンでの対中依存を減らし、欧米が機微技術をめぐる優位を維持できるようにし、他の先進7カ国(G7)メンバーとの産業政策協定の締結も視野に入れるべきだろう。分野別の小型の貿易合意、同盟国とのサプライチェーン協定を結ぶ一方で、グローバルサウスを引き寄せる必要もある。世界貿易機関が地政学の時代にそぐわないことも認識しなければならない。ワシントンが経済的リーダーシップを維持し、同盟関係を強化し、破滅的な結果を回避できるかを、成功を判断する基準に据えるべきだろう。

ハイリスク環境における安定とは
―― システミック・レジリエンスの確立を

2024年1月号

アンシア・ロバーツ オーストラリア国立大学 教授(グローバル・ガバナンス)

レジリエンスはショックやストレスに耐える能力として理解されている。だがそれは、リスクに効果的に対応するだけでなく、将来的な恩恵を獲得し、変化に対応できるように進化することも意味する。そうした、システミック・レジリエンスを実現するには、政府と企業は「リスクと恩恵の適切なバランス」をとらなければならない。リスクの最小化を目指すと、恩恵が減少するだけでなく、時間の経過とともに新たな脆弱性が生み出される。同様に、短期的な恩恵の最大化を目指せば、既存のリスクを見過ごし、新たなリスクを生み出し、後に大きな犠牲に直面する危険がある。もっとも困難なケースは、経済的相互依存のリスクと恩恵の双方が大きい場合だ。このような場合、システミック・レジリエンスに注目することが極めて有効になる。

AIと経済革命
―― 人間のツールとして生かす政策を

2023年12月号

ジェームズ・マニュイカ グーグル-アルファベット シニアバイスプレジデント
マイケル・スペンス スタンフォード大学 フーバー研究所 シニアフェロー

AIが突きつける危険、それが引き起こす壊滅的なダメージを防ぐための国際的AI規制の必要性を指摘する議論は多い。しかし同様に重要なのは、AIの生産的な利用を促すポジティブな政策の導入だろう。AIが経済に与える最大の影響は、人間の仕事のやり方を変化させることだ。仕事を構成するタスクの一部、全体の30%程度は、AIによってオートメーション化されるが、職業そのものがなくなることはない。但し、能力の高いマシンと協力して仕事をこなすことになるために、新たなスキルが必要になる。現在AIが世界に与える最大のリスクは、文明を破滅させることでも、雇用に大打撃を与えることでもない。それは、現在の経済格差を今後何世代にもわたって拡大するような形で開発され、使われる恐れがあることだ。これを回避する政策が必要になる。

次の経済ショックにいかに備えるか
―― グローバル経済を待ち受ける衝撃

2023年11月号

クリスタリナ・ゲオルギエバ 国際通貨基金専務理事

急速なグローバル化と統合の時代は終わりを告げ、保護主義が台頭し、分断化潮流が生じている。こうして、グローバル経済の脆弱性と不確実性が高まっている。さらに、軍事紛争が食糧不安を深刻にし、エネルギーやコモディティ市場を混乱させ、サプライチェーンを寸断するかもしれない。深刻な干ばつや洪水がさらに発生すれば、何百万人もの人々が気候難民化する恐れがある。一つだけ確かなことは、グローバル経済がショックに直面することだ。国際通貨基金(IMF)を含む国際機関、債権者、債務者は状況に適応し、変化に備えなければならない。ショックの影響を受けやすい世界にあって、一国だけでなく集団として経済のレジリエンスを協調して高める必要がある。

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