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日本版NSCと米NSCの教訓 ―― 官民を行き来する日本の回転ドアを作るには
2013-10-08
官邸主導による高級官僚の任命に加えて、日本版NSCは、省庁の縦割りを部分的に崩し、日本のナショナル・インタレスト(国の利益)が何であるか、その概念と政策を形作っていく上で大きな役割を果たすことになるかもしれない。
もちろん、日本版NSCの主要ポストをめぐって省庁が主導権争いをしているとすれば、先行きは不透明になる。アメリカで最初にNSCを組織したアイゼンハワー大統領も、省庁間の主導権争いが問題を作り出す恐れがあることを理解していた。彼は、ボストンのバンカーだったロバート・カトラーを初代の国家安全保障問題担当大統領補佐官に任命し、NSCのメンバーに対して「省庁間の妥協の産物としての解決策ではなく、自分のバックグランドと経験を基盤とする」見解を表明し、議論してくれることを期待していると語っている。(1)
これ以外にも、日本版NSCに関する新聞報道をみている限り、いくつか気になる点がある。
第1は、軍事・安全保障領域での機能ばかりが注目されているように思えることだ。少なくともアメリカのNSCでは、軍事・安全保障だけでなく、経済・金融、環境など、国の利益と外交に関わる諸問題が広く扱われている。(2)日本の現状から考えれば、例えば、財政と社会保障、そして移民政策を含む、新しい社会契約概念の構築さえもNSCで議論すべきアジェンダかもしれない。
第2は、NSCを支える中・長期的なインフラだ。外交、地域・グローバル経済、安全保障問題を手がける民間シンクタンクの存在が不可欠だし、政策志向の強い国際関係、国際経済、安全保障を専門とする学部や大学院も必要だろう。これらによってNSCへの人材が供給される。NSCで政策的・政治的洞察を培った人々が任務を終えて民間に戻り、シンクタンクや大学の研究員、あるいは、ジャーリストとして活動することで、NSCを支える社会インフラの厚みが増し、好循環が生まれる。(3)
第3は、誰もが知るキッシンジャーやブレジンスキーのようなパワフルな大統領補佐官(国家安全保障問題担当)たちが、必ずしも成功したとは考えられていないことだ。むしろ、彼らは大統領と近い関係にあることを利用して政策を自分が好ましいと考える方向にもっていこうとしたと、その評価は分かれている。大統領や首相のスタイルにも左右されるが、大統領補佐官であれ、局長であれ、NSCの責任者は、「自分の政策志向は抑え、指導者との信頼関係、他の国家安全保障プレイヤーとの信頼関係を形作ることが重要だ」と長年NSCを研究してきたメリーランド大学のI.M・デスラーは指摘している。(4)
近く誕生する日本版NSCが、この国の閉塞状況を打破する、官民をつなぐ柔軟な組織になることを期待したい。
竹下興喜
フォーリン・アフェアーズ・ジャパン
(1)ロバート・カトラー「国家安全保障会議の機能とは」(2013年7月号掲載、1956年発表)
(2)アイボ・ダールダー、I・M・デスラー「大統領に次ぐ重責を担う大統領補佐官の役割とは――バンディからキッシンジャー、ブレジンスキー、ライス、ハドレーまで」(2009年2月号)
(3)ピーター・グローズ「ビジネスと学問の出逢い――シンクタンクはいかに社会と政策に貢献できるか」(アンソロジーvol.30)、FAJ編集部「回転ドアと社会エリート」(2004年8月号)、ピーター・キャンベル、マイケル・C・デッシュ「大学ランキングが助長する知的孤立主義――より社会に目を向けた政策志向の研究を」(2013年11月号)
(4)I・M・デスラー「S・ライス大統領補佐官のプレイブック――大統領補佐官としての要諦とは」(2013年7月号)。ダールダー&デスラー、前掲論文。