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Issue in this month
2012年3月号 新しい日本のエネルギー政策と産業を考える
2012-02-29
新しい日本のエネルギー政策と産業を考える
――節約から使用効率へ、エネルギー供給から需要管理への発想転換を
2012.2 .29公開
<フクシマ後の日本のエネルギー>
「災害を経ても、日本は依然として経済的にも技術的にも素晴らしいものをもっているが、政治が無力な上に不安定で、しかも電力の供給が安定していない。そんな国にあえて投資する者がいるだろうか」。最近会ったある外国人投資家の言葉だ。電力供給リスクを別にしても、国債の暴落リスク、市場にペナルティを課されるリスク、産業空洞化リスク、高齢社会と社会保障リスクを抱えている。どうみても、日本は袋小路に追い込まれつつある。特に経済活動を支える電力の不足は、経済活動を停滞させるだけに、ここに指摘した他のすべてのリスクにネガティブに作用する。
風力、ソーラーなどの再生可能エネルギー資源の今後のポテンシャルは大きいとしても、再生可能エネルギーによる電力供給には断続が生じるために、それだけでは安定した供給は望み得ず、「原子力を含む、(24時間一定の出力を確保できる)「ベースロード」エネルギーと再生可能エネルギーをうまく組み合わせる必要がある」。電力供給面でみれば、アレバの前最高経営責任者、アンヌ・ロベルジョンのこの認識は一般論としては説得力がある。(1)
だが、3・11を経験した日本の現実はすでにこの一般論から乖離しつつある。ロイターの報道によれば、フクシマ後の日本では、原発による電力生産が前年と比べて75・5%減少し、(石炭・石油・LNG)を用いた火力発電が41・7%増えている。特に、LNGを用いた電力生産が増えている。(2)一方、現在は多少増えているかもしれないが、2010年の時点での再生可能エネルギーによる電力生産が総発電量に占める比率はわずか1%。(3)
脱原発が火力発電による電力増産を意味するのなら、地球温暖化リスクを高めることになる。理屈上は、原発リスクと地球温暖化リスクの比較考量ということになるが、現在の日本で地球温暖化リスクが考慮されているとは考えにくい。だが、原油価格はすでに109ドルのレベルにあるし、イラン危機が原油の供給だけでなく、日本が多くを依存しているカタールからの天然ガス供給にどのような影響を与えるかについても、情勢を見守るしかない状況にある。(4)
原発の稼動停止が引き起こしている電力不足を火力発電による供給増と節電で乗り切り、現在は、電気料金の引き上げが議論されている。東京電力は原発の稼動停止に伴う火力発電用燃料の調達コストの増大を主な理由に電力料金の17%の値上げをすでに表明しているが、価格が上昇すれば、需要も低下するという読みもあるのかもしれない。
<使用効率の改善>
こうみると、短期的に明るい未来はみえてこない。だが、中期的には新しい躍動的な日本が出現する可能性もある。そのヒントをくれるのが、アモリー・ロビンスの「石油も石炭も原子力も必要としない世界」だ。 「困難な問題に対処するには、(既成概念を捨てて)境界を広げて問題をとらえ直す必要がある」。つまり、エネルギー消費の多い交通・運輸、ビル、産業(工場)、電力生産部門を、個別にとらえるのではなく、一つとみなすべきだとロビンスは言う。「石油も石炭も原子力も必要としない世界」へのシフトの鍵を握るのは自動車、建物、そして電力生産の効率をいかに高めていくかであり、それに必要なテクノロジーはすでに存在する。こう主張するロビンスは、エネルギー問題を供給サイドではなく、需要サイドでの使用効率に注目することを提案している。
第1に自動車を、炭素繊維を用いたボディに、そのエンジンを電気稼動型に切り替え、カーシェアリング、ライドシェアリングなど車をもっと生産的に利用するようにする。第2に、ビルや工場の設計と素材を変えるだけで、エネルギーの使用効率を現在よりも数倍高めることができる。第3に、ソーラーパネルのコストが劇的に低下していることを利用するとともに、再生可能エネルギーによる電力生産のネックである電力供給の断絶をスマートグリッドで補い、電力の生産・供給システムをより多様に分散し、再生可能エネルギーを中心とするものへと近代化していく。これによって、電力の生産と供給をよりクリーンかつ安全で信頼できるものにできる。(5)
これがなぜ日本の明るい未来につながる可能性があるか。その理由は、エネルギーの使用効率を改善するテクノロジーのほぼすべてに関して日本はトップレベルの技術と実績をもっているからだ。必要なのは、これを新産業の一部として位置づける戦略構想だろう。中東石油への依存を減らし、地球温暖化の緩和にも貢献する日本の省エネ技術は、そのグローバルな市場規模から考えても、今後の日本経済を牽引する産業に成長する可能性を十分に秘めていると思われる。問題は、短期的に電力供給をいかに確保し、中期的な再生へとつなげていくかにある。供給サイドだけで、脱原発を語るのは、依然として現実性に欠ける。
Koki Takeshita@FAJ
注
(1)「エネルギーの未来 ―― 「ベースロードエネルギー」と再生可能エネルギーを組み合わせるしかない」/アンヌ・ロベルジョン(フォーリン・アフェアーズ・リポート2011年6月号)
(2)「米シェールガスが日本経済に思わぬ恩恵、余剰LNGで停電回避」(ロイター2012年1月31日)
(3)”Country Analysis Briefs: Japan” EIA(米エネルギー省エネルギー情報局)
(4)「イラン危機による原油市場の混乱を管理するには」/ロバート・マクナリー(フォーリン・アフェアーズ・リポート2012年3月号)
(5)「石油も石炭も原子力も必要としない世界―― 超素材と「インテグレーティブ・デザイン」の力」/アモリー・B・ロビンス(フォーリン・アフェアーズ・リポート2012年3月号)