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2011年4月号 災害復興を越えた政治ビジョンとリーダーシップを

2011-04-15

災害復興を越えた政治ビジョンとリーダーシップを

2011.4.15公開
<復興への課題>
すでに進んでいる被災地域への支援・再建問題を別にすれば、災害後の日本経済の復興・再建の鍵を握るのは、原発事故による放射能汚染リスクをいかに管理していくか、1000億ドルとも2000億ドルともいわれる復興コストをいかに捻出するか、そして、経済を動かす電力をいかに生産するかだ。
だが、この課題に取り組みつつも、災害からの復興をこの20年間にわたって日本を停滞させている問題を改革する機会にする必要がある。

今後、大きな地震が起きなければ、放射能の拡散リスク管理については、あと二カ月程度で一定の目処が立つとブルームバーグ・ニュースで報道されているが、依然として楽観できる状況にはない。(注1)
復興コストについては、セバスチャン・マラビー(注2)やクリスチャン・カイル(注3)が提言するように、最終的には、大規模な復興国債の発行に頼るしかないだろう。
電力生産については、「フクシマ後の電力生産」にあるように、東京電力は地熱発電や液化天然ガス(LNG)による電力生産を強化することで原発事故によって失われた電力生産能力の50%を埋め合わせ、石油による火力発電で30%を、残りの20%を石炭火力発電で埋め合わせる予定のようだ。但し、石油も天然ガスも高値が続いている。(注4)
とはいえ、原子力危機を別にすれば、ここに指摘した危機的問題の多くはコスト負担をすれば、ある程度は管理できる。問題は、それが日本の債務残高をさらに膨らませ、ギリシャのように市場からペナルティを科されるリスクを大きくしてしまうことだ。だからこそ、政府は対応に苦慮している。

<危機を機会に変えるには>

だが、債務の多くを日本の金融機関が引き受けていること、さらには、日本が依然として巨額の外貨準備を持っている以上、復興・再建コストは、「多くの人が考えるほど重く日本にのしかかるとは思えない」とカイルは指摘する。
マラビーも、仮に復興コストが1000億ドルだとしても「ほぼ10兆ドル規模の日本の債務総額からみれば、たいした数字ではない。債務総額が1%増えるだけだ」と指摘し、「被災地域の再建のために、財政赤字(と債務)をさらに大きくすることを躊躇すべきではなく、いまは、慎重で保守的な路線ではなく、大胆な対策をとるべきタイミングだ」と言う。
「先進諸国で災害が起きた場合には、二段階で作用が生じる。第一段階は混乱だ。道路は破壊され、電力供給が不安定化し、人々は職場にも行けなくなり、必然的に経済生産は低下する。第二段階になると、壊れた道路や電力網その他の復旧が試みられ、このプロセスでは生産は増大する。つまり、例えば9 カ月後という長期的スパンでみれば、第一段階での生産減少は、第二段階での生産増によって相殺される。・・・日本がこの標準的回復パターンに当てはまらないと考える理由はない」
こうしたマラビーの処方箋を実施するには、市場からペナルティを科されるリスクを克服できるような力強い政治的リーダーシップと斬新な再生プロジェクトが必要だし、M・グリーンや、B・クレイン、D・アブラハムが示唆するように、災害復興だけでなく、復興を越えた日本再生のビジョンに基づく規制緩和や改革を盛り込んだニューディール的なスマートな投資が必要になる。(注5)

<災害復興を越えたビジョンを>

災害前と災害後で日本経済の何が変わり、何が変わっていないかを考えるべきだ。日本が非常に大きな債務を抱え込んでいること、少子高齢社会と社会保障財源の問題を抱えていること、そして、経済が構造的転換へと向かい製造業が空洞化しつつあることには変化がない。
災害前と災害後で違ってきているのは、少子高齢社会に悩む先進諸国が一様に望んでいる有能な外国人労働力の確保が、日本の場合、原子力事故が作り出すイメージゆえに短期的にはますます難しくなっていることだ。
人道支援を含めて、M・グリーンやB・クレイン、D・アブラハムが示唆するように、「災害からの復興を災害前から抱える問題を解決する機会とするには」、災害復興を日本版ニューディールとするためのビジョンとリーダーシップが必要だし、M・グリーンが強調するように、その役目を果たすのは日本の若い政治家なのかもしれない。不幸な災害を日本再生の機会とするために必要なのは、世界環境を見据えた上で今後の国の形をデザインするための抜本的な制度改革だろう。●

By Koki Takeshita@FAJ

※脚注

1.ブルムバーグ・ニュース 「東電:福島第一原発冷却に3カ月見込む、「水棺」拒否-関係者」
http://www.bloomberg.co.jp/apps/news?pid=jp09_newsarchive&sid=aFJISbs06frw
2.セバスチャン・マラビー 「9カ月後、日本経済は復活する ――再建コストで債券市場がパニックに陥ることはない」(フォーリン・アフェアーズ日本語版2011年4月号)
3.クリスチャン・カリル 「日本は危機を克服し、必ず再生する」(フォーリン・アフェアーズ日本語版2011年4月号)
4.「フクシマ後の電力生産をどうするのか」 CFRアップデート
5.マイケル・グリーン 「3・11は日本をどう変えていくか」(フォーリン・アフェアーズ日本語版2011年5月号掲載予定)
ブライアン・P・クレイン、デビッド・S・アブラハム 「復興を越えた日本経済の再設計を」(フォーリン・アフェアーズ日本語版2011年5月号掲載予定)

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