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2009年11月号(2)連動するドル、世界経済の不均衡、インフレの運命
2009-11-12
2009.11.12公開
貯金ばかりしている国の行動は、消費ばかりしている国の行動同様に(世界)経済を不安定化させる。この原則論をG20で各国の指導者に受け入れさせたのは、オバマ大統領の非常に大きな外交的成果だとマーク・レビンソンは「グローバル・インバランス=世界経済の不均衡がなくならない理由」で指摘している。
確かに、G20でグローバル・インバランス構造を是正していくことが、傍目にはあっさりと合意されたことは多くの専門家にとっても驚きだったようだ。だが、本当に各国が是正策を取るのかどうか、疑問視する声も多い。
グローバル・インバランスとは(アメリカの需要が世界経済を支える)「G1構造」だったとうまく説明するスティーブン・デゥナウェイは、問題は、不均衡への是正策をとろうにも、それに必要な対策の多くが短期的な痛みを伴う恐れがあるために、政治的に実施するのが難しいことだ、と示唆している。
レビンソンも、インバランスを是正していくための具体的措置を支持するような政治基盤はどこにも存在しないと強調し、日本の鳩山首相にとって、グローバル・インバランスの是正とは、「外国市場の需要の落ち込みで日本の製造業が苦しんでいるタイミングで、さらに輸出の伸びを抑えなければならないこと」を意味するし、中国の胡錦涛国家主席にとっても、「輸出を手がける製造業で働く数百万の労働者をレイオフし、路上へほうりださなければならないことを意味する」と述べている。
「経常赤字、財政赤字を減らして、予算均衡を図り、ドルの衰退を受けいれない限り、アメリカと世界は再び金融危機に直面する」と指摘するフレッド・バーグステンの分析は、まさしく、アメリカの不均衡是正策の具体案を示している。「ドルとアメリカの赤字」でバーグステンはアメリカのトリレンマを次のように描写している。
諸外国がアメリカの大規模な財政赤字を(米国債の購入などを通して)ファイナンスし続けるとすれば、現在の危機をもたらした状況が再現され、金融メルトダウンのリスクが再び生じる。同時に、外国資金への需要がますます高まっていけば、いずれその構図は維持不能になり、2030年に到達するはるか前にドル価値は暴落し、ハード・ランディングという事態に直目する。幸運に恵まれて今後において危機を回避できたとしても、アメリカはますます多くの所得を対外債務の返済に充てなければならなくなり、アメリカ人の生活レベルは低下する。
いかなる国にとっても不均衡是正策をとるのは政治的に難しいかもしれないが、鍵を握るのはドルレートがどう推移するかだろう。ドル価値が大きく変動すれば、各国政府は大きな痛みを伴うとしても、重い腰を上げざるを得なくなるし、そうでなくても企業は生き残りをかけて新天地を探そうとするだろう。
ドルが衰退して複数通貨制になるまでには、世界経済は均衡しているのかもしれないし、世界経済の均衡が実現すれば、ドルは複数通貨制の一翼を占めるだけの存在へと姿を変えているかもしれない。
だが、専門家の多くはドルの支配的優位は少なくともあと10~20年は揺るがないとみている。
バーグステンはドルの衰退を受け入れるべきだと提言している。たしかに、ドル安になれば、インフレと高金利が否応なく視野に入ってくる。そして、インフレになれば、少なくとも赤字は小さくなる。
そのインフレをめぐって大きな論争が起きているようだ。ポール・クルーグマンが「高い失業率と低い資本稼働率が存在することを考えれば、デフレを警戒すべきだ」と主張し、アラン・メルツァーが通貨供給の急激な膨張を考えればインフレを警戒すべきだというような、きわめてアブノーマルな情勢にある。
グローバル・インバランス、ドルレート、インフレと今後を考えるために必要な経済指標は増え
続けているが、バーグステンの提言を受け入れて、アメリカ政府がさらなる危機を回避するために不均衡対策に本腰を入れ出せば、世界経済の大再編に向けたメカニズムが動き出すことになる。
By Koki Takeshita