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2009年9月号 プレスリリース
2009-09-10
■精密誘導技術の拡散とドルの衰退で進む軍事・経済の無極化
1.「米軍は東アジア海域とペルシャ湾に介入できなくなる?
――危機にさらされる前方展開軍と空母」
アンドリュー・F・クレピネビッチ
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嘉手納空軍基地を含む前方展開基地が精密誘導型弾道ミサイルで脅かされ、中国の衛星やレーダー能力の向上、ASCM(対艦巡航ミサイル)の配備、そして衛星破壊能力の向上によって、東アジア海域に米空母は立ち入れなくなりつつある。
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リード論文 「米軍は東アジアと湾岸に介入できなくなる」でクレピネビッチは驚くべき現実を伝え、合理的な対応策を説いている。同氏は、第二次世界大戦後にソビエトが核実験を成功させたことでアメリカの核独占の時代が終わり、これと前後して、ワシントンが封じ込めと抑止戦略を含む、アメリカのグランド・ストラテジーの大再編を行ったことを引いて、現在、同様の規模とビジョンを持つ戦略見直しが必要とされていると指摘する。
核のアメリカによる独占が終わったときと同様に、アメリカが「精密誘導兵器技術を独占すること」で軍事的優位を維持できた時代が終わろうとしているからだと彼は言う。軍事関連の衛星技術とIT技術の独占もいずれ損なわれていくとみる同氏は、米軍の多くの軍事資産が「無駄な資産」と化しつつあると警鐘を鳴らしている。そして、技術の拡散によって米軍の優位がすでに覆されている地域として彼が挙げているのがペルシャ湾と東アジア海域だ。
特に東アジアについては、中国軍の「アクセス遮断・地域介入阻止=A2/AD」能力によって、嘉手納空軍基地を含む前方展開基地が精密誘導型弾道ミサイルで脅かされ、中国の衛星やレーダー能力の向上、ASCM(対艦巡航ミサイル)の配備、そして衛星破壊能力の向上によって、東アジア海域に米空母は立ち入れなくなりつつあると同氏は言う。
2.「NATOを中枢に据えたグローバルな安全保障ネットワークを形成せよ」
ズビグネフ・ブレジンスキー
一方、地政学の大家ブレジンスキーは、NATOを歴史的文脈から分析し、この軍事同盟が、数世紀に及んだ「西洋の内戦」に終止符を打ち、東方拡大策をつうじて、冷戦後の混迷のなか政治的、国家的なアイデンティティを喪失しかけていた東・中央ヨーロッパに欧米の一員としてのアイデンティティを与えたことを高く評価する。
NATOの次なる役目については、グローバルな同盟関係へと拡大したり、民主国家連盟へと変貌させたりするのではなく、NATOがユーラシア、中央アジア、東アジアの安全保障フォーラムと連携し、グローバルな安全保障ネットワークのハブ(中枢)の役目を果たすべきだというのがブレジンスキーの提言だ。さらに同氏は、グローバルなパワーバランスが東方へとシフトしていることを踏まえて、中国、日本、インドとNATOとの共同理事会の立ち上げを提言している。
3.「21世紀の国家パワーはいかにネットワークを形成できるかで決まる」
アン=マリー・スローター
「問題を前にして、誰と連帯してどのような措置をとるべきか」。この点を理解していることが21世紀における外交の要諦である」。現在、国務省の超エリートポストで、実質的に国務長官顧問の役割を果たす政策企画部長を務めるアン=マリー・スローターは「21世紀の国家パワーはいかにネットワークを形成するかで決まる」でこう指摘している。
この論文の非常に刺激的な論理と提言をヒラリー・クリントン国務長官がいかに深く受け入れているかを知るには、6月号に掲載したクリントン長官のCFRでの演説「スマート・パワーとマルチパートナー世界」と読めばはっきりとわかる。同様に、スローターの議論は、民主党系の外交顧問の重鎮であるブレジンスキーの今回の安全保障ネットワーク論とも相通じるところが大いにある。
「21世紀の国家パワーはいかにネットワークを形成するかで決まる」という論文の存在もアン=マリー・スローターの名前も日本であまり知られていないが、一期目のオバマ外交の概念を支える主要な高官の一人が彼女であるのはほぼ間違いないし、この論文がすでにアメリカ外交の大きな指標とされているのはほぼ間違いない。
余談ながら、国務省の初代政策企画部長(当時は室長)はかのジョージ・フロースト・ケナン。最近でも、現国務副長官のジェームズ・スタインバーグ、現外交問題評議会会長のリチャード・ハースが政策企画部長を務めている。スタインバーグとハースが(ともにブルッキングス研究所の副会長を務めるなど)政策のプロだったのに対して、基本的にはアカデミックなキャリアの持ち主であるスローターが、いきなり政策企画部長のポストについたことは、もっと注目されてもおかしくはないだろう。
4.「原油価格の安定がもたらす地政学的チャンスに目を向けよ
――原油生産能力は増強され、需要の伸びは低下する」
エドワード・モース
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「銀行から1000ポンド借りると、あなたは銀行の言いなりになってしまうが、100万ポンドを借りると、銀行があなたの言いなりになる」。
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「産油国の生産能力が強化され、消費国の重要の伸びが鈍化している以上、原油価格は今後当面は相対的に低い価格で推移する」というエドワード・モースの主張はすでに新聞各紙で取り上げられている。しかし、彼の論文執筆の意図は、おそらく、産油国と石油消費国間のダイアログを立ち上げ、今後の価格安定化を図るとともに、今後における供給の混乱に備えるために資源ナショナリズムを抑え込んでいくという点にあるようだ。
モースは次のように語っている。「サウジの余剰生産能力の消失が、二〇〇二-二〇〇三年に原油価格を高騰させたもっとも重要な要因だった。逆に言えば、サウジの生産能力の拡大は、今後三年間にわたって原油価格を低く抑える大きな要因になるし、世界の需要が再反発しなければ、低価格の時代はさらに長期化するだろう・・・(この間に)石油を外交的に兵器として用いる国からその手だてを奪い、価格を抑えていくには、国家レベルではなく、グローバルレベルでの前向きなアプローチが必要になる」。
5.「脅かされる基軸準備通貨、ドルのジレンマ―― ユーロ、SDR、人民元の台頭」
バリー・エイケングリーン
原油価格とともにドルの行方も大いに注目される。経済学者と政治学者の二つの顔をもつバリー・エイケングリーンは、「基軸通貨は1通貨でなければならないという考えは、歴史からみて根拠がない」と述べ、かつての複数準備通貨制度の下では、新興市場国から唯一の準備通貨供給国へと大規模な資金が流入し、これによって資産バブルが起きるという、最近、アメリカでみられたような混乱は起きていない」と指摘する。
ドルの行方をめぐっては、大規模なドル建て外貨準備をもつ中国の動きが注目されているが、同氏は、ケインズの言葉を引いて中国のジレンマをうまく説明している。「銀行から1000ポンド借りると、あなたは銀行の言いなりになってしまうが、100万ポンドを借りると、銀行があなたの言いなりになる」。結局、中国は小さな調整を繰り返していくしかないというのが彼の見立てだ。中国は人民元を準備通貨にしたいという願いをもっているが、これにも時間がかかりそうだ。そのためには、資本勘定を自由化する必要になり、国有銀行による重点融資とドルペッグという現在の開発政策の中核要因を事実上放棄しなければならなくなる。そうするのは中国にとって簡単ではないと同氏はみる。
ただし一方で次のようにもコメントしている。「パリとベルリンのように地域通貨連合に向かって積極的に動くのではなく、ほぼ確実に北京は待つことを選択するだろう。待てば待つほど、アジアにおける人民元の影響力は高まっていく」と。
ユーロについても地域通貨としては台頭していくが、そのペースがゆっくりとしたものにならざるを得ないことについて説得力のある理屈を同氏は示している。
当面、ドルの時代が続くとする彼の結論は、当面他にみるべき他の強力な選択肢が登場しないという読みからで、基本的には、ドルの時代の終わりは始まっており、複数準備通貨時代へと時代は流れていると同氏は考えているようだ。
By Koki Takeshita