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2008年7・8月合併号 市場経済化する国際関係 ―責任分担から、意思決定と責任の共有の時代へ
2008-08-10
日米関係に限らず、アメリカが各国との関係を描写する際には、歴史的に、さまざまな言葉や区分が用いられてきた。有名なのが、冷戦期における「同盟国と友好国」「敵対勢力」「(敵でも味方でもない)その他」という区分だ。この分類は依然として用いられているが、冷戦の終結によって明確な敵が消失したことで境界線が曖昧になり、9・11、イラク戦争などの9・11後の国際環境の変化、中国経済の台頭などの経済環境の変化によって、その内実は大きく変化してきている。
冷戦後も一貫して、同盟国として位置づけられている日本やイギリスのような国もあれば、ロシアや中国など、「敵対勢力」から、敵でも味方でもない「その他」とみなされるようになった国もある。エジプト、サウジアラビアのような中東の権威主義国家は、かつてのように明確に同盟国として位置づけられることはなくなり、ヨーロッパ大陸諸国も、基本的には同盟国とされつつも、案件次第では、パートナー、ウエスト(旧西側=欧米)と曖昧な表現が用いられることが多くなった。
一方で、明確な「敵対勢力」がテロ組織とみなされるようになったために、昨今もっとも頻繁に用いられるようになったのが「対テロ戦争のパートナー」という言葉だ。だが、グローバル化が触発する秩序の流動化が進むとともに、地球温暖化、感染症、新型インフルエンザ、(北朝鮮やイランなどの)核拡散問題、原油高騰、政府系ファンドなど、多種多彩なアジェンダごとに連帯やパートナーシップの基準がめまぐるしく変化するというのが現実だ。
「21世紀におけるもっとも重要な国としての中国」という言葉が用いられるとしても、それは、「もっとも重要な同盟国としての中国」という意味ではないし、フレッド・バーグステンによる「米中によるG2」形成の提言にしても、彼が、米中の共同覇権による世界秩序の安定を提言しているわけではない(「米中によるG2の形成を」)。
それどころか、バーグステンは、中国の貿易政策や為替レート、市場を介さない資源の直接調達路線、そして、途上国援助に開発や統治の改善を求める「コンディショナリティー」をつけないやり方を、現在の秩序を脅かす脅威とみなしている。通常、脅威には対抗路線がとられるものだが、そうできない理由について、同氏は、米議会がいくら対中強硬策をとろうとしても、アメリカ市民の多くが中国との貿易の受益者となっていること、同盟国を含む主要国が、対中強硬路線に同調しないことを挙げている。また、中国が秩序に挑戦してきていることを別にしても、そもそも、既存の秩序を見直していく必然性があると同氏は言う。いわゆるブレトンウッズ体制そのものが機能不全へと向かいつつあるだけでなく、地球温暖化や政府系ファンドなどの新たな課題をめぐる国際的制度を確立する必要が出てきている、と。
この現状に政策的にどう対応していくか。バーグステンは米中によるG2の形成を提言し、その目的について「古くからの問題を新たな文脈に位置づけ、現在の対立状況を、状況を前進させるための機会としてとらえ直すことにある」と指摘している。R・ハースが「アメリカの相対的衰退と無極秩序の到来」(日本語版2008年5月号)で指摘したように、何が脅威なのかがはっきりせず、アジェンダが多様化するなか、伝統的な同盟関係の意義はしだいに希薄化し、アジェンダごとに連帯を形成するメンバーが入れ替わる「是々非々の多国間主義」が今後の国際関係を特徴づけるフォーマットになっていくのかもしれない。中国の現秩序への挑戦、ブレトンウッズ体制の形骸化というアジェンダを前に、是々非々の多国間主義の一形態として、バーグステンは、米中によるG2の形成を提言していると考えることもできる。実際、同氏はこのアジェンダに取り組む連帯として、G2が無理なら、欧州連合(EU)を加えたG3でも、日本とサウジアラビアを加えたG5でもよいと指摘している。
いまや伝統的な2国間関係は成立しにくくなっている。その証拠に、「同盟関係の責任分担」というレトリックよりも、「責任を伴う意思決定の共有」という表現が多用されだしている。アジェンダごとに国際的連帯が組織され、意思決定と責任を共有していくのであれば、いかなる国であっても、国力を現実的に見据えた国益認識と各アジェンダに政策的にどう対応していくかについての路線を明確にしない限り、国際関係の流れから取り残され、状況を見守るだけの影響力のない傍観国家になってしまう恐れがある。●
KT
(C) Foreign Affairs, Japan