- トップページ
- Issue in this month
- 2008年7・8月合併号 国益と価値のバランスに基づく新秩序構想
Issue in this month
2008年7・8月合併号 国益と価値のバランスに基づく新秩序構想
2008-08-10
ジョン・マケイン、バラク・オバマ、コンドリーザ・ライスの論文を含む、最近、フォーリン・アフェアーズ誌で示されたさまざまなビジョンを束ねると、2~10年後にアメリカが想定している世界は次のようなものになるのかもしれない。
現在の国際通貨基金(IMF)、世界貿易機関(WTO)その他に加えて、国際的な投資の自由な流れを保障するための国際投資機構、国際環境機構が新たに立ち上げられる。国連の改革を求める一方で、民主国家は新たなイニシアチブの下、あるいは北大西洋条約機構(NATO)を拡大させることで連帯と結束を固め、民主国家による連合を組織する。独自の価値や発展モデルを標榜する中国やロシアとアメリカのつきあいは、地球環境問題、感染症などのグローバルイシュー、北朝鮮、イランなどの核開発問題(疑惑)など、その解決に相手の協力が必要な問題については可能な限り協調を試みる。一方、人権や法の支配をめぐる問題については厳格に接していく。これまでの同盟国、とりわけ、価値を共有する同盟国とは、2国間ベースを超えた、地球規模での協調関係を模索する。石油や天然ガスの安定供給を確保するために、供給国と消費国が協議を重ねることで、資源取引の「グローバル市場化」を進め、食糧増産、飲料水の供給を増やすために、先進国からの技術移転を通じて、途上国でのグリーン革命を支援し、浄水・食糧供給能力を高めていく。
すべてがこのシナリオどおりになるとは考えられないが、リチャード・ハースが「アメリカの相対的衰退と無極秩序の到来」(日本語版2008年5月号掲載)で指摘したように、各案件をめぐる「是々非々の多国間主義」が国際関係の主流になるのはおそらく間違いない。各案件にかかわってくる自国の国益と価値のバランスを見極めたうえで、各国はそのつど判断を下さなければならなくなる。そこには、各国政府の判断を見守り、評価する内外のメディア、そして広く国際社会がある。良質な判断によりブランド力がつけば中期的には大きな影響力となるし、その逆もあり得る。
中期的な観点からもっとも論議を呼びそうなのが、民主国家間の連帯・協調を促す一連の民主国家連合構想だろう。そこにはさまざまな系譜がある。
すでに、共和党の大統領候補ジョン・マケインは、「民主国家を『民主国家連盟』という一つの機構のもとで連帯させ……国連がうまく対応できないような案件に対処していくようにする。(中略)私が大統領になれば就任1年目に、世界の民主国家の指導者とのサミットを開き、指導者たちとの意見交換をして、このビジョンを実現するために必要な措置を模索していく」と公約しており、この流れから、ロシアをG8から締め出すことを求めている(「自由に基づく恒久平和を」〈日本語版2007年12月号掲載〉)。
一方、民主国家連合構想を最初に表明したのは超党派のプリンストン国家安全保障プロジェクトの最終リポートだった。プロジェクトの共同議長を務めたアン=マリー・スローターは、民主国家連合について、「現在の漠然とした『民主主義国家コミュニティー』よりも小さな組織とし、厳格な義務を定めた条約に調印した国をメンバーとする。……国連が必要な改革を断行しない場合には、長期的にはこの民主国家連合が国連に代わる役割を担っていくようになる可能性もある」と描写した(「第2のX論文を求めて」〈2007年1月号掲>)。
だが、この構想には当初から批判があった。例えば、リチャード・ハースは、そうした民主国家による連帯というアイデアは「中国とロシアは言うに及ばず、大半のアラブ諸国やイスラム諸国を国際秩序から離反させることになる」と批判した。
おそらく、この点でもっとも現実的で包括的な路線を示しているのがライス論文だろう。「われわれとロシアおよび中国との関係は、共通の価値よりも、共有する利益を重視したものにならざるを得ない。……(一方で、民主的)価値を共有する国々との関係を強化していけば……国際秩序に関する民主的ビジョンへの挑戦を退けるための機会がつくりだされ、国際政治も変化していく。したがって、民主的な同盟諸国との協調関係を……テロリズムや過激主義と戦い、グローバルな課題に取り組み、人権と人間の尊厳を守り、新たな民主主義を支援するという幅広い協調行動のなかで、……形づくっていくべきだ」(「アメリカの国益を再考する」〈日本語版2008年6月号掲載〉)
どの路線が現実にとられるかはわからないが、アメリカだけでなく、日本も「国益と価値」を前提に、各案件にどのようなアプローチをとるかの判断を求められ、その判断の質の善しあしで国のブランドが左右されるようになる。もはや日米同盟に判断の多くを委ねられる時代ではなくなりつつある。●
KT
(C) Foreign Affairs, Japan