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2008年6月号 無極秩序で日米同盟はどうなる
2008-06-10
「テーブルを見渡すと、潘基文国連事務総長、ゲイツ財団の代表、世界保健機関(WHO)の代表、各国の公衆衛生担当大臣、そして医薬品メーカーの役員の顔があった」
世界秩序が多極化ではなく、無極化へと向かいつつあり、国がパワーを独占した時代が終わりつつあることを示す象徴的な事例として、リチャード・N・ハースは、最近国連と米外交問題評議会(CFR)が主催した公衆衛生関連の会議に集ったこの多彩な顔ぶれを挙げている(「リチャード・ハースとの対話」)。
「政府は、国際機関とだけでなく、企業や市民団体ともパワーを共有しつつある」とする見方は1997年頃から存在したが、状況はさらに進化しているようだ。ハースによれば、「ドルの流れという点ではシティ・グループやメリルリンチなどがより大きな役割を果たしていくようになるし、政府系ファンド領域ではアブダビ投資庁(ADIA)が、グローバルな公衆衛生領域ではゲイツ財団などのプレーヤーが台頭している」。
実際、国だけでは対処できない地球温暖化、感染症、水不足といった地球規模の問題リストが増えていくにつれて、国や国際機関だけでなく、市民団体や企業が対策に果たす役割はますます重要になってきている。だが一方では、アメリカのパワーが相対的に衰退し、中国とインドを中心にアジアが急速に台頭するという、歴史的に繰り返されてきた伝統的な国家パワーの再編という現象も同時進行している。
この二つの現象をどうとらえて、いかに対応していくか。
「アジアの世紀の到来」を主張するキショール・マブバニは、アジア国家の影響力の高まりを反映できるように国際機関を改革することを提言し、とりわけ国連総会を強化すれば、国連というフォーラムを「グローバルな統治に関する重要な決定を下すための力強いツールにできる」と主張し、ストローブ・タルボット元国務副長官も、最近の著書『偉大なる実験』で、新たな核戦争と地球温暖化という脅威から「生き残るために必要な行動をとることで、われわれは、グローバルな統治を実現できる見込みを高められるかもしれない」と指摘している。
文脈は全く違うものの、マブバニとタルボットはともに、新しい状況に対応していくことで、グローバルな統治が実現する可能性が高まると示唆している。だが、タルボットの著作を書評に取り上げ、かつて国連改革に取り組んだ経験を持つポール・ケネディーは、タルボットの見方を楽観的すぎるとたしなめている(「帝国の台頭と衰退を考える」〈日本語版2008年7月号掲載予定〉)。
一方ハースは、今後、秩序の安定を維持していくには「是々非々の多国間主義(マルチラテラリズム・ア・ラ・カルト)」が必要になるとし、アジアやヨーロッパの台頭とアメリカの相対的衰退を基盤に世界を捉えるのは無理があると言う。「19世紀の(勢力均衡)モデルで21世紀をとらえようとしても、パワーが拡散しすぎている。(国際関係をとらえる)新しい概念が必要だ」と。
彼の言う「無極秩序」では、同盟関係はより選択的で状況に左右されるようになり、相手が同盟国なのか、敵なのかを見分けることもむずかしくなる。「同盟関係は、特定の領域における明確で予見できる脅威を必要とし、それに対して何をすべきかという責務がはっきりとしていなければ成立しないが、今後の時代における脅威は明確に予見できるものではない」
無極秩序における日本との同盟関係はどうなるかという質問に、ハースは次のように答えている。
このような流動化した秩序のなかでも「日米関係には依然として合理性がある。そこに北朝鮮という明確な脅威があるからだ。日米関係を維持していくことは、日本、アメリカ、そしてアジアにとっての利益になる。だが、こうした狭義な意味での伝統的同盟領域を別にすれば、両国の関係の先行きははっきりしない。正直なところ、この数年の日本の政治に私は失望している。2~3年前までは、日本が地域レベル、グローバルレベルでもっと大きな役割を担うようになるのではないかと期待していたが、われわれが望むような国内改革も、私が期待するような外交領域の改革も進んでいない」。
ハースの秩序分析が正しく、今後も日本での改革が進まなければ、北朝鮮という古いタイプの脅威が消失したときに、日本はまたしても「複雑怪奇な」国際情勢に直面することになるのかもしれない。●
KT
(C) Foreign Affairs, Japan