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2008年1月号 アメリカに代わる「選択肢」はあるのか
2008-01-10
「アメリカのパワーがたそがれてきたときに、どのような国際秩序が出現することを望むのか」を戦略的に考える必要がある。アメリカのパワーが衰退し、一方で中国が台頭しているという現実を前にすれば、少なくともこれまで事実上の覇権を握ってきたアメリカがこのように危機感を募らせるのも無理はないし、日本にとってもこのテーマはひとごとではない。
「秩序が細分化され、分裂していけば、中国は独自に2国間、多国間合意のネットワークを構築し……世界は……中国とアメリカの勢力圏に分断されていく」と指摘する政治学者のジョン・アイケンベリーは、そうした事態に陥っていくのを避けるためにも、「現在の秩序を支えているルールと制度の強化に努め、この秩序をより参加しやすく、覆しにくいものにしなければならない」と「中国の台頭と欧米秩序の将来」で論じている。
国力(パワー)を構成する主要な要因である軍事力、経済力、そして他を魅了するソフトパワーという側面でみれば、たしかにアメリカのパワーは低下している。圧倒的な空軍力を持ちながらも、米地上軍は手薄で、市街戦に弱いことがイラク戦争で実証され、米軍の増強というテーマは米大統領選挙でも大きな争点の一つとされている。経済領域でも、ドル安が続いている。今後、ドルへの信任がさらに損なわれていけば、巨大な経常赤字を抱えるアメリカ経済は、おそらく砂上の楼閣のような不安定な状況に陥っていく。そして、アメリカのソフトパワーが地に落ちてしまっていることは、いまや誰の目にも明らかだろう。
だが、現実的に考えるべきは、ドルやアメリカの軍事力に象徴されるアメリカのパワーに代わる「選択肢」があるかどうかだ。少なくとも、これまでは選択肢と呼べるようなものは存在しなかった。ドルに代わる選択肢があれば、各国の外貨準備がドル建てで備蓄されることもなかっただろうし、すでにドルは基軸通貨の座を失っていたかもしれない。この場合、アメリカ経済が世界経済を牽引する時代も終わりを告げていたはずだ。そして、冷戦期のように、アメリカに匹敵する軍事パワーを持つ国が存在していれば、世界の同盟関係も安全保障秩序も、現在われわれが目にするものとは全く違うものになっていたはずだ。
だが、いまや中国という新しい選択肢が誕生しつつあるとアイケンベリーは言う。彼が、2国間貿易合意、地域貿易協定が増えるにつれて、その足場が危うくなってきている世界貿易機関(WTO)を例に引いて、第二次世界大戦後につくられた既存の秩序のルールと制度を刷新・強化し、中国を取り込めるような新たな選択肢、秩序をつくらなければならないと指摘する理由もここにある。
敵でも味方でもない国や勢力と、流動化する秩序のなかでどうつきあっていくかが今後問われていくことになる。利益を共有できる領域では協調できても、問題を抱え込み、対立したときにどう対処するか、環境問題、核拡散問題など、利害と責任がはっきりしない問題にどのような枠組みで取り組んでいくか。中国の台頭とアメリカの衰退という現象が、今後の国際的な危機管理のメカニズムと秩序の制度設計の模索を刺激しているのは間違いない。
一方、こうした複雑で曖昧な環境になっていけばいくほど、国のイメージ、ブランド力がものをいうことになる。20世紀は「欧米ブランド」、あるいは「アメリカブランド」の時代だったが、それも変化してきている。国家ブランディングの第一人者であるサイモン・アンホルトは、国がより強固な国家ブランドを確立するには、短絡的な広報テクニックに頼るのではなく、「全体を見据えたうえで、政策を体系的に変化させていく必要がある」と指摘する(「国家ブランディングとは何か」)。
日本は、アメリカのパワーがたそがれてきたときに、どのような国際秩序が出現してくることを望み、国家ブランドを高めるためにいかに政策を体系的に変化させていくのだろうか。R・ハース米外交問題評議会(CFR)会長が最近の日本経済新聞(2007年12月12日付)のインタビューで指摘しているように、日本の国際活動の正統性を国連に求め、事実上の拒否権をロシアと中国に与えるというのでは、あまりに短絡的だ。これでは、流動化する秩序のなかで日本の利益を守ることにも、国家ブランド力を強化することにもならない。●
(C) Foreign Affairs, Japan