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2007年12月号 米印関係の改善と核拡散リスクの比較考量
2007-12-10
「核開発計画は支援しないが、新しい発電所の建設は支援する。原子炉を動かすのに必要な最新の核燃料と技術を提供しよう」。2005年7月、ブッシュ大統領はインドのシン首相にこう提案し、2007年7月、両国は合意文書に調印した。
「インドの核保有を既成事実として受け入れ、エネルギー需要を満たすための原子力発電については全面的に協力することを約束した」この米印合意によって、「世界最古の民主国家が、ついに世界最大の民主国家を最も親しいパートナーと呼ぶときが来た」とR・ニコラス・バーンズ米国務次官は表明している(「なぜアメリカはインドとの関係改善を決断したか」)。
しかし、核不拡散条約(NPT)に加盟せずに核を開発したインドに対して、NPTに加盟する非核保有国にだけ認められている核の平和利用(原子力発電=原子力技術協力)を認めればどうなるか。「いったいどこに基準があるのか」という批判が出てくるのも無理はなかった。
ストローブ・タルボット元国務副長官は、インドが「よい国だから」というだけの理由で「核の平和利用」を認めれば、その余波として、同様の例外措置を求める国が出てくると指摘し、米下院のエドワード・マーキー議員も、パキスタンが、米印合意を引き合いに出して、中国に対して自国にもNPTの例外措置を認めてほしいと言い出せばどうなるかと問いかけている。アメリカが公然とダブルスタンダードを使い分けているようでは、「核拡散のドミノ倒し現象を引き起こしかねない」とマーキー議員は強調し、米議会は合意を阻止すると宣言している(注1)。
もう一つの問題は、NPTに参加せずに核を開発したインドとの合意が北朝鮮とイランにどのような影響を与えるかだ。たしかに、バーンズが指摘するように、「インドのように、(自主的に)ルールに従って行動すれば見返りを期待できるが、従わなければ制裁と孤立が待っている」というメッセージをイランに送ることになるかもしれない。だが、「ルールを無視して核開発を試みても、いずれ核保有は既成事実として認められる」というメッセージを北朝鮮に送ることになる恐れもある。
だが、全般的に見れば、バーンズが言うように、急速な経済的台頭を続けるインドとの関係を米印合意で強化していくのは必然なのかもしれない。インドは急速な経済成長を支えるためのエネルギー資源を必要としているし、中国同様に、インドが、無節操な石油資源調達路線へと走りつつあることの弊害は、外交面だけでなく、いずれ環境面にも及ぶと考えられる。バーンズが指摘するとおり、インドとの原子力をめぐる協力合意が、「グローバルなエネルギー安全保障を高め、インドの二酸化炭素排出量を減らすことに貢献する」のは間違いないだろう。
また、インド経済の成長を持続させるには、今後、外部からの支援が「政治的に」必要になってくることも考えなければならない。インド市民の大半は、改革はおもに都市部の富裕層にしか恩恵をもたらしていないと反発しており、都市部と農村の格差を解消していかない限り、「改革を通じて経済成長を持続的に刺激していくのは政治的に難しくなる」とミシガン大学のアシュトシュ・バーシュニーは、今後を予測している(注2)。バーンズによれば、シン首相自身、ブッシュ大統領に最初に会った2005年、農村部の貧困層を削減していくための第2次「緑の革命」への支援を真っ先に要請している。
核不拡散、米印関係、インド経済、そして地球環境問題と、米印原子力協力協定が左右するものは非常に大きい。幸か不幸か、議会での共産党の反発を理由に、インド側が合意の発効に向けた交渉を当面延期するとワシントンに伝えてきたことで、ブッシュ政権は、両国の関係改善の意思を確認しつつも、厄介な条約の批准を先送りしている状態にある。批准を先送りしている期間に、イラン・北朝鮮問題、インド経済、地球環境問題がどう推移するか。遠大な比較考量の最終決断を下すのは、次期米大統領になるとみる専門家は多い。●
(注1) エドワード・J・マーキー「米議会は米印核合意を阻止する」 (日本語版2007年9月号)
(注2) アシュトシュ・バーシュニー「インド経済の成長を民主主義が抑え込んでしまうのか」(日本語版2007年5月号)
(C) Foreign Affairs, Japan