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2007年4月号 グローバル化が伴う変化にどう対処する  

2007-04-10

「国際商取引や富の分配のあり方を変化させているグローバル化の波が大学にも押し寄せている」。研究大学院を19世紀にアメリカで最初に立ち上げたことで知られるジョンズ・ホプキンス大学の現学長、ウィリアム・R・ブロディは、情報技術(IT)の進展によって知識が瞬時にして世界に拡散するようになった結果、地域内の専門家の意見を信頼できるとすれば、その専門家が世界的に名の知れている優秀な研究者である場合に限られると指摘する。必然的に世界レベルの専門家をめぐって、大学間の人材スカウト合戦が激化し、「豊かな大学はより豊かになり、貧しい大学はますます努力をしなければ追いつけない状況になる」と同氏は高等教育機関の今後を予測している。

日本の現実からみると、少し違和感があるが、教育・研究領域においても、グローバル化は大学や研究領域を超えた共同研究という恩恵をもたらす一方で、大学間の格差を広げている、ということになる。ブロディは、IT業界におけるインテルやマイクロソフト同様に、教育分野における圧倒的な強者が世界から選りすぐりの教授陣と学生を集め、インターネットでつなぐ巨大研究教育機関(メガバーシティ)を誕生させる可能性を「グローバル化する大学」で検証している。

グローバル化に即した市場経済路線・改革路線が導入されたことで経済・社会格差が広がったと不満を感じる人が増え、そうした人々が政治参加に熱心であればどうなるか。政治家は選挙によって改革路線の見直し、あるいは、改革路線に論理的には逆行するセーフティーネットの短期的導入を強いられるはずだ。

インド経済の改革の行方を、市場経済と民主主義の衝突をテーマに検証したアシュトシュ・バーシュニーは、グローバル化を受け入れ、経済改革を進めたことでインドの上流・中産階級は大きな恩恵を手にしているが、一方で人口の4分の1近くが依然として1日1ドル以下の生活を余儀なくされていると指摘し、今後のインドにおける改革路線は大きな「民主的障害」に直面すると予測する(「インド経済の成長を民主主義が抑え込んでしまうのか」日本語版2007年5月号)。

グローバル化を追い風に台頭する中印のパワーにどう対処するかという国際的視点の議論もある。ダニエル・W・ドレズナーは、「中印の台頭と新・新世界秩序」で多国間機構における中国とインドの影響力と発言権の強化を認めて、新興大国のパワーを多国間機構がうまく取り込んでいかない限り、多国間機構はますます現実との関連性を失いだし、国際秩序も不安定化すると予測する。

一方、グローバル化した経済の特徴の一つを、在庫を持たない「ジャスト・イン・システム」のよどみのないサプライチェーンにあるとみるマイケル・T・オスタホルムは、パンデミック(感染症の世界的流行)が起きた場合のサプライチェーンの乱れがどのような余波をもたらすか、そうした状況のなかでビジネスをいかにして続けるかについて現在の対応計画ではほとんど想定されていないと状況を批判している。

インフルエンザ対策の著名な専門家である同氏は、世界で膨大な規模の犠牲者を出した1918~19年のスペイン風邪のウイルス同様にH5N1ウイルスが、遺伝子の再集合というプロセスを経ずに、内的アダプテーション(適応)プロセスによる変異を経て人から人への感染力を持つようになる危険があり、しかも、適応プロセスを経て人への感染力を持つようになった場合、再集合を経た場合とは違って、致死率が低下しない恐れがあると指摘している。いつパンデミックが起きるかは予見できないが、「それは間違いなく起きる」と断言するオスタホルムは、いくらひしめき合う優先課題に直面しているといっても、それを新型インフルエンザへの備えを怠る不作為の口実にしてはならない、と訴えている(「インフルエンザ・パンデミックへの備えはできているか」)。

現在のグローバル化が、近隣窮乏化政策、保護主義を経て、戦争へと突入していった20世紀初頭のグローバル化と同じ運命をたどることはないだろうが、社会格差やドーハ・ラウンドの混乱など、国レベルでも世界レベルでも非常に大きな問題を引き起こし、感染症の脅威を増幅させていることは間違いない。だが、問われているのは、いずれは多くの人に恩恵をもたらせるグローバル化の流れを維持していくために、グローバル化が伴う弊害や混乱にいかに対処していくかであり、グローバル化そのものを抑え込むことではない。

(C) Foreign Affairs, Japan

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