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2006年12月号 米中間選挙 ブッシュ43からブッシュ41への歩み寄りか
2006-12-10
アメリカの中間選挙から、今後のアメリカ外交について二つのことが言えるかもしれない。一つは、民主党が地滑り的な勝利を収めたが、これまでの共和党政権の路線がすべて覆されるわけではないということ。多くの識者が指摘するとおり、議会は政権を批判し、予算で政策に枠をはめ、政権を挑発することもできるが、最終的に決断を下すのは大統領である。また、次の大統領選挙で政権を取りたいのなら、極端な路線を唱えるのが逆効果であることも民主党は理解しているはずだ。
もう一つは、圧倒的なパワーをバックにアメリカが行動を起こせば、おのずとアメリカに続く「有志同盟」が形成されるとしたドナルド・ラムズフェルド前国防長官のロジックが、まずイラク戦争で破綻し、今回の中間選挙でほぼ完全にアメリカ市民によって拒絶されたことだ。ローレンス・サマーズ前ハーバード大学学長は、最近の米外交問題評議会(CFR)のミーティングで、中間選挙の結果、アメリカ市民がブッシュ43(息子の単独行動主義)よりも、ブッシュ41(父の国際協調路線)を好ましくみていることが明らかとなり、ラムズフェルドの交代劇は、こうした文脈のなかでの出来事と理解すべきだと指摘し、この流れは今後も続くと予測している。
さて、民主党の次期大統領候補とも言われるヒラリー・クリントンは、今後の外交アジェンダをどうとらえているだろうか。クリントン上院議員はCFRでのスピーチで、ブッシュ政権のイデオロギー・軍事路線を手厳しく批判し、北朝鮮、イランへの交渉路線を求め、イラク問題をめぐっては国際会議の開催を提言している。H・クリントンは次のように語っている。「ブッシュ政権は…外交を試みるのは弱さの証しだと考え、すべてを彼らのイデオロギーと希望的観測で判断した。われわれは『軍事力とアメリカの価値に支えられた忍耐強い外交路線』へと立ち返る必要がある」。ただし、注目すべきは、「国際機関との協調をもっと心がける必要があった」とブッシュ政権を批判しつつも、今後において、「国際機関に背を向けるのか、それとも、国際機関を改革・近代化して、活力ある存在へと変貌させるのか。そして、必要なら、大変な作業となることを覚悟のうえで新たに国際機関を創設するのか」と問いかけていることだ。
くしくも、リベラル派の政治学者ジョン・アイケンベリー、そしてどちらかといえばリアリストに近い国際法学者アン=マリー・スローターも「第2のX論文を求めて」(日本語版2007年1月号)で、「民主国家連合」構想を表明し、「民主国家連合が国連その他の国際機関の踏み込んだ改革を求めて中心的な役割を果たしていくことも期待できるし、国連が必要な改革を断行しない場合には、長期的にはこの民主国家連合が国連に代わる役割を担っていくようになる可能性もある」と指摘している。同様の議論は、「NATOをグローバルな軍事同盟に変貌させよ」(日本語版2006年10月号)でも展開されていた。クリントン政権の元高官2人がまとめたこの論文は、グローバルな課題や脅威に直面していくには、オーストラリア、日本、ニュージーランドなどの民主国家をNATOに参加させることで、NATOをグローバルな存在とする必要があると提言している。
H・クリントンを含む、主に民主党系のこれら論客の主張から明確に読み取れるのは、ブッシュ政権同様に、国連に代表される第二次世界大戦後の国際機関が、もはやグローバルなアジェンダに対応できなくなっているとみなし、機構を改革するか、他の組織の拡大や新設を通じて補うしかないとみていることだ。党派的な違いがあるとすれば、機能不全に陥っている国連を、アメリカの圧倒的なパワーをバックとする単独行動主義とリーダーシップで補っていくか、それとも、NATOその他の民主国家の連合によって国連の役割を補っていくかということになる。
ブッシュ現大統領を相手に大統領選挙を戦ったアル・ゴアはかつて次のように述べている。「可能なら他国とともに、必要なら単独でも」という民主党の行動原理を、ブッシュ政権は逆さにし、「可能なら単独で、必要なら他国とともに」というスタイルに置き換えてしまった。ただし、ブッシュ政権が今後路線調整を試みるとしても、それは、民主党が多数派の議会に屈した結果というよりも、「ブッシュ43がブッシュ41に近づいていくプロセス」とみなすのが真実に近いのかもしれない。●
(C) Foreign Affairs, Japan