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2006年11月号 新局面を迎えた北朝鮮危機  

2006-11-10

平壌はなぜミサイル実験に続いて、核実験を強行したか。その直接的理由については、「北朝鮮指導層の懐へと流れ込む資金の流れを遮断したアメリカの金融制裁を解除させるため」とみなす点で、専門家の見方はほぼ一致している。事実上、核を保有しているとみられていた北朝鮮が、あえて予告つきで核実験に踏み切ったのは、使える核を完成させていること、そして、商品価値、購入する価値のある兵器を完成させていることを世界、とくにアメリカに対してアピールするためだったのかもしれない。「金融制裁を解除しなければ、イランやテロリストに核を売り渡す」。これが金正日のワシントンへのメッセージなのだろう。
このまま核武装した北朝鮮を受け入れるしか手がないのか、その場合、東アジアで核拡散潮流が起きるのか。韓国と中国は、日米と制裁をめぐって歩調を合わせるのか。北朝鮮が6者協議に復帰する可能性はあるのか、協議に復帰して何が期待できるのか。
これらの設問への答えを検討するには、関係国がそれぞれ今後のいかなるシナリオを最大の脅威とみなしているかを考える必要がある。「核武装国としての北朝鮮の誕生、日本の軍事力強化と東アジアでの核拡散潮流、北朝鮮による軍事攻撃、北朝鮮によるイランやテロリストへの核輸出、朝鮮半島での戦争、そして、抑止と封じ込めによる北朝鮮の体制崩壊と国境線の不安定化」。これが現在取りざたされているシナリオだ。
アメリカは、核がテロリストの手に渡れば、ほぼ間違いなく対米核テロが起きると考えており、北朝鮮によるイランやテロリストへの核関連物質・技術の輸出阻止をもっとも重視している。すでにブッシュ米大統領は、そのような北朝鮮の行為は「重大な結果を招く」と警告している。
中国はどうだろうか。米外交問題評議会(CFR)のゲリー・サモアは、「中国は相反する利害の間のバランスをとろうとしている」とみる。北朝鮮の行動を前に、日本が軍備増強に走ることを中国は警戒しており、「この意味において、中国は北朝鮮の行動に憤慨している」。一方中国は、北朝鮮を絶望の淵に追い込み、北朝鮮をさらに不安定化させれば、さまざまな政治・経済的問題に直面させられるため、制裁措置の実施には慎重な態度をみせている。「中国が経済制裁に賛成している部分もあれば、……反対している部分もあるのは、こうした理由からだ」とサモアは分析している。韓国も、もちろん、朝鮮半島での戦争を回避し、北朝鮮の体制崩壊と国境線の不安定化を回避することをもっとも重視している。ヘンリー・スチムソン・センターのシニアアソシエート、アラン・D・ロンバーグは「韓国もこれまでの北朝鮮関与政策を見直さざるを得なくなってきているが、中国同様に、アメリカの強硬路線と歩調を合わせるとは思わない」とコメントしている。
ロンバーグが指摘するとおり、北朝鮮の「核攻撃の最大のターゲット」が日本である以上、日本では、北朝鮮による攻撃に対する防衛体制をどう強化していくかが今後問われていく。対日攻撃のリスクを諸外国がどうとらえるかは、今後、日本からのどの程度の資本逃避が起きるかで判断できる。
こう考えると、核実験を機に各国の北朝鮮に対する脅威認識が高まったことを別とすれば、強硬策をとる日米と北朝鮮の不安定化を避けたい中韓というこれまでの構図に大きな変化はない。ロンバーグもサモアもこれまでどおり、中韓が強硬路線に歩調を合わせるとは考えにくいと指摘している。新しい要素があるとすれば、日本の軍事力の強化を警戒する中国による仲介の試みを成功させるためにも、日本には核実験に対する過剰な軍備増強は当面慎んでほしいと、関係国の多くが考えていると思われることだ。
しかし、サモアが指摘するとおり、仮に北朝鮮が交渉の場に戻ったとしても、その切り札である核兵器の解体に応じるとは考えにくく、6者協議が核軍縮協議に姿を変えるだけの話かもしれない。サモアは言う。金正日は、「アメリカの次期政権が、核武装国家としての北朝鮮を受け入れることを望んでいる」。だがその場合、東アジアの戦略環境は劇的に変化し、本当に核拡散潮流が起きるかもしれない。戦略問題の専門家スティーブン・ピーター・ローゼンが「核拡散後の世界」(日本語版2006年10月号)で指摘したように、「核大国と核小国が共存するような世界では、冷戦期のような抑止、軍備管理は機能しない」とすれば、このまま状況が流れていけば、東アジアは20世紀初頭へと引きずり戻される恐れがある。●

(C) Foreign Affairs, Japan

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