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2006年9月号 核拡散後の世界と文脈を読む知性  

2006-09-10

北朝鮮はすでに核を保有していると広くみなされているし、イランも核の平和利用ではなく、核兵器の開発を最終目的にしていると考えられている。北朝鮮が核実験に踏み切り、イランが欧米の反対を振り切ってウラン濃縮を続ければ、核拡散の連鎖反応が不信と対立に特徴づけられる中東とアジアで起き、核が現実に使用される危険が飛躍的に高まると警告する専門家は多い。
ハーバード大学の戦略問題の専門家、スティーブン・ピーター・ローゼンは、すでに「いかにして核拡散を防ぐか」だけでなく、「核拡散後の世界がどのようなものになるか」を検討する時期にきていると指摘し、スタンフォード大学の政治学者スコット・D・セーガンも、「イランの核開発を阻止できないのではないか」とみる悲観論がワシントンで高まるなか、「核武装に成功してもアメリカはイランを(抑止できる)封じ込める」という楽観論が出てきていると言う。
ローゼンによれば、「核拡散後の世界」(日本語版2006年10月号掲載)については現在二つの見方がある。一つは、中東やアジアで新たな核保有国が複数出現すれば、核戦争が起きるのは避けられないとみなし、だからこそ、何としても現段階で核拡散を食い止めるべきだとする見方。もう一つは、核が拡散しても、いずれ抑止状況が形成され、逆に秩序は安定化へと向かうという見方だ。
しかし、こうした見方はいずれも短絡的だと同氏はみる。冷戦期とは違って、「核大国の一方で、数多くの核の小国が共存する、より複雑な世界」では、冷戦期における核抑止、軍備管理、報復攻撃の戦略概念は陳腐化し、全く新しい戦略ドクトリンが必要になるとローゼンは言う。
例えば、イランの核開発を受けて、サウジアラビアとトルコも核武装するような事態になれば、中東にはイスラエルを含めて、核を保有する国が4カ国出現することになるし、ミサイルが飛び交う中東紛争のさなかに核が使用されれば、それがいったいどこから飛来したのかを特定するのは困難だ。当然、テロリストが核を使用した場合と同様に、核による報復攻撃という抑止の前提が崩れ去ることになる。
特定国が核兵器を入手したいと考える動機についてセーガンは、①外からの安全保障上の脅威に対処するため、②国内の一部勢力の利益を満たすため、そして、③核保有国としてのステータス・シンボルを得るための三つに分類できるとし、イランの場合は、外部からの攻撃を抑止するために核兵器を獲得しようとする古典的なケースだと指摘する。
「イランの核開発をいかに阻止するか」で同氏は、かつてサダム・フセインの脅威に直面したテヘランは、いまやイランの政権交代(体制変革)を求めるワシントンに決然と立ち向かいたいと考えていると指摘し、そうした脅威に対抗するために、核兵器を開発しようとしていると分析する。
セーガンは、これまで潜在的核拡散国が、核の解体や開発計画の放棄に応じたのは、核を開発した場合よりもさらに高度な安全保障を、同盟関係やアメリカの核の傘その他で得られると判断したからだと分析し、ワシントンはイランに対しても、中国、ロシア、ヨーロッパとともに、その安全を多国間で保証することで、核開発を阻止すべきだと提言している。
現実がどう動くにせよ、各国は、中東、アジアで核拡散潮流が起きた場合に備えておくべきだろうし、そこでは秩序変革期における各国の指導者のビジョンと資質が間違いなく問われることになる。ハーバード大学の政治学者、ジョセフ・S・ナイは、「指導者に求められるリーダーシップと戦略」(日本語版2006年10月号)で、変革期の指導者には「未来を正確に描き出し、その意味を人々に知らせる政策ビジョンが必要だ」と指摘し、この点で「文脈を読む知性」が特に重要になると指摘している。
ナイによれば、「文脈を読む知性」とは、変化する環境を理解し、流れに即して目的を実現するためにどのような努力をするかを判断する能力であり、目的を設定した後も、現在進行中の出来事から学んで、市民を啓蒙し、部下を掌握していく力のことだ。「核拡散の連鎖反応が不信と対立に特徴づけられる中東とアジアで起き、核が現実に使用される危険が飛躍的に高まっていく」とすれば、今後、各国指導者の文脈を読む知性がますます重要になってくる。●

(C) Foreign Affairs, Japan

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