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2006年4月号 原油価格高騰と核不拡散
2006-04-10
原油価格が高騰するなか、エネルギー資源としての原子力が世界的に注目を浴びつつあるが、一方で、原子力発電が核拡散のリスクを伴うことも再び論争となっている。
最近の石油の供給不足と価格の高騰の理由について、レオナルド・モーゲリ(ENI上席副社長)は、「この20年にわたって石油関連投資がないがしろにされてきた結果の原油不足に、中国などの需要増が追い打ちをかけているからだ」と指摘し、「現在の積極的な投資姿勢が続けば、原油価格はいずれ大きく下落していく」と今後を予測している。ただし、「投資増大の効果がでるまでには一般的に6~8年かかる」とも付け加えている(「原油価格高騰の真相」)。
とすれば、2012~2014年頃までは、対テロ戦争を別にすれば、国際政治の争点は、中国のエネルギー戦略(と軍事力の近代化)、大国の地位を取り戻したいと考える資源大国ロシアの資源供給戦略、先進国による原子力ビジネスの売り込み競争、そして、核不拡散条約(NPT)の第5条に明記された「核の平和利用をどう進めるか」を中心に展開していくことになるかもしれない。
モーゲリは、中国は石炭、原子力による電力生産体制に不備があるため、やみくもに石油を調達しようとしており、今後、原子力による電力生産体制が整備されていけば、中国の原油需要もある程度安定してくると示唆する。もちろん、NPTに加盟する核保有国である中国が原子力の平和利用(原子力発電)を進めることにはほとんど誰も異を唱えないし、ここまでは純然たるエネルギー問題の話ですむし、ともすれば、北朝鮮核危機解決の糸口になる地域エネルギー・フォーラム形成につながっていく可能性さえ秘めている。
だが、イランや北朝鮮が核の平和利用を唱えると国際社会は核拡散のリスクを想起して猛反発する。NPTは、条約に加盟する非核保有国には核兵器を開発しないことを条件に、核保有国その他から核の平和利用に向けた支援を受けることを認めているが、この核の平和利用という抜け穴を利用して核兵器の開発を行う北朝鮮のような国が存在するからだ。問題は、民生用の核の平和利用と称して水面下で核兵器を開発することが事実上可能なことにある。
事実、北朝鮮の先例もあって、「核の平和利用のための研究をしている」と主張するイランと国際社会は激しく対立している。国際原子力機関(IAEA)をはじめとする国際社会は、テヘランは核の平和利用を隠れ蓑に核兵器の開発をしているとみている。
だがイランの場合、この国が産油国であるために、強硬姿勢をとりにくいと考える石油消費国もある。さらに話を複雑にしているのは、アメリカをはじめとする先進国が、NPTに参加していない核保有国であるインドの核の平和利用には前向きで、協力的ですらあることだ。インドは、アメリカだけでなく、フランスやロシアとも原子力エネルギーに関する協力合意をすでに結んでいる。インドはNPTに加盟せずに核兵器の開発を行い、しかもNPTに加盟する非核国に与えられるはずの核の平和利用という特権を手にしつつある。「一体基準はどこにあるのか」とすでに大きな論争となっている。
ストローブ・タルボット(前米国務副長官)は、インドは「良い国だから」という理由でアメリカがNPTの例外措置を認めれば、その余波として、同様の例外措置を求める国が出てくるだろうし、このままではNPT体制は崩壊すると警鐘を鳴らす(「核合意は核不拡散体制を脅かす」)。
実際、いかに核の平和利用を進めるかについては、多くの複雑な政治的、技術的変数がかかわってくる。
日米仏で核兵器化が難しい新型核燃料を開発するという構想も報道されているが、残念ながら、実用化には時間がかかるようだ。現在おぼろげながらみえてきた方式は二つしかない。他国の原子炉のための核燃料を自国で生産し、特定国が原子炉で使用した後は再度引き取るというロシア案、そして、タルボットが批判する、相手国を「良い・悪い・信頼できない」という基準で分けて、「良い国」には核の平和利用の例外措置を認めるというアメリカ方式だ。
だが、いずれも、核のドミノ倒し現象を食い止める防波堤としては心許ない。核拡散に明確に反対しつつも、石油に依存する「良い国」日本はイラン、インドの問題にどう対応するのだろうか。核不拡散とエネルギー政策をめぐる路線の原則と本質が問われることになる。●
(C) Foreign Affairs, Japan