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2005年9月号 もはやかつての中国共産党にあらず  

2005-09-10

中国共産党(CCP)は大きな変貌を遂げているようだ。反帝国主義闘争の規律ある担い手として名声を確立した1949年以前、革命を実現しながらも、大躍進計画、文化大革命という失政に象徴される49~77年、そして、経済開放路線に邁進しだした78年以降のCCPをある程度区別して考える時期にきているのかもしれない。
いまや江沢民を含むCCPの長老たちでさえ、文化大革命という負の遺産を背負う戦後の毛沢東期にではなく、49年以前のCCPと自らを重ね合わせだし、一方、若手指導者は78年以降の鄧小平の改革・開放路線に忠実で、完全に未来志向になっていると専門家の多くが指摘している(注1)。
現在のCCP、つまり中国政府を率いているのは、「共産党による支配体制の維持よりも、経済発展を最優先に据える」新指導層で、その多くは、かつて列強の草刈り場とされた「屈辱の歴史」を経済成長への自負によって克服し、国際政治を「犠牲者意識」でなく、むしろ、「大国意識」でとらえ始めている。政策決定においても、一握りの長老ではなく、省庁間協議組織の役割が高まり、外国人の専門家を含む、外部の専門家が政府内の研究にも参加している。さらに中国は、欧米が中国を牽制するための手段とかつては否定的にみなしてきた国際機関、国際フォーラムへも積極的に参加し、主導権さえとりつつある(「大国中国で進行する静かな外交革命」フォーリン・アフェアーズ日本語版2003年11月号)。中国の台頭が注目されている理由の一つはここにある。
「中国は平和的台頭を目指す」と宣言する鄭必堅 ・中国改革フォーラム理事長は「民主的制度と法の支配を強め」、所得格差など、「経済発展と社会的発展がうまく調整されていないこと」の不備を正しつつ、2020年までに一人あたりGDP(国内総生産)を3千ドルに引き上げ、2050年までに「文化的な社会主義国家」となることを目指すと表明している(「平和的台頭への道筋」)。
いまやCCPはChinese Capitalist Party(中国資本主義党)の略であると考えるほうが現実に近いとさえシンガポールの論客、キショール・マブバニは言う。「自らを徹底的に再構築した」CCP率いる中国が、やっと先進国の仲間入りを果たせるいま一歩のところまでやってきたと考えているというのに、一方のワシントンは、中国政府は依然として共産主義の名残をとどめる古い体質をもっているとみなしている。マブバニは、米中間の認識ギャップを今後の不安定要因として指摘する(「現在の中国を理解するには」)。
一方、中国とアメリカの経済相互依存の高まりに注目する王緝思・北京大学国際関係研究所所長は、楽観を戒めつつも、日中関係、北朝鮮、台湾問題を軸に東アジア情勢、米中関係の行方を冷静に分析し、互いの違いではなく、共有する利益に目を向けよと説く(「中国は安定した対米関係を望む」)。
ただし、鄭必堅自身が指摘するように、台頭途上にある中国の全てが順風満帆というわけではない。環境悪化、エネルギー不足という問題だけでなく、社会的に大きな混乱を引き起こしかねない経済発展と社会発展の不均衡という問題も抱えている。
経済成長を持続させるには、さらなる政治改革も必要になる。国有企業の不良債権問題も抱えている。マブバニが「屈辱の歴史の最後のシンボル」と呼ぶ台湾問題も、靖国問題を軸とする対日問題も容易には決着しそうになく、資源争奪戦、北朝鮮危機がアジアの軍拡競争を誘発する危険もなくなってはいない。こうしたリスクを数多く抱えていることも、中国の台頭が注目されている理由の一つだろう。
洗練された統治・外交スタイルを確立しつつあるCCPが、歴史問題、そして市場経済体制への移行が内外でつくり出す問題をどのように管理していくのか。中国の台頭に伴うこの「期待と不安」が世界の注目を集めている。不安を取り除くには、「繁栄する社会を構築するのに適した国際環境を維持していくための国際的枠組」(王緝思)の形成に向けた国際的コンセンサスをとりまとめる必要がある。北朝鮮危機をめぐる関係国の対応をまとめられるかどうかが、この点での最初のそして重大な試金石になる。●
注1 Bruce Gilley, In China’s Own Eye Foreign Affairs, September/October 2005

(C) Foreign Affairs, Japan

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