Issue in this month

2005年6月号 なぜ国連とアメリカの立場は近づいているのか

2005-06-10

「何を脅威であるとみなすかは人や国によって異なり、これが国際協調を妨げる最大の障害となる」
こう現実を描写するコフィ・アナン国連事務総長は、グローバル化の時代にあっては「他の人々だけを脅かしているとわれわれが考えている脅威に、実際には自分も脅かされている」ことを認識すべきだと主張し、相互に関連し増幅する脅威に対する国際協調による対応の必要性を強く訴えている(「国連改革、今こそ決断のとき」)。
このフレーズの含意は深い。実際、何を脅威とみなすかが違うために米欧は対立し、北朝鮮問題をめぐる6者協議も進展していない。
北朝鮮の核危機をどうとらえるか。アメリカはこれを核不拡散レジームに対する脅威、東アジア秩序の不安定化を誘発しかねない脅威とみなし、韓国、中国は逆に、平壌の体制が安定していることを、少なくとも短期的には、自国の利益とみている。一方、日本では、北朝鮮の拉致問題が最大の焦点とされている。こうしたなか、6者協議という多国間枠組みはすでに破綻しており、米朝2国間協議へと流れはシフトしていくという見方も出てきている(「6者協議の破綻と北朝鮮問題の行方」「核拡散問題を検証する」)。
現実には、世界は依然としてグローバルな利益を基盤とする国際協調よりも、各国の国益のせめぎ合い、つまりは、パワーポリティクスによって規定されている部分が多い。
専門家の予想どおり、現在の世界はロシアの衰退、アメリカの覇権、そして中国の台頭によって特徴づけられ、現在起きている世界の変化の多くは、ロシアが核兵器を保有している以外には大国としての特質を失い、アメリカがほぼ一人で中東の地に足を踏み入れ、中国が経済の急成長に伴って国際社会での存在感を大いに増していることに派生している。
事実、中国の経済成長に伴うエネルギー需要の増大が原油価格高騰の一因をつくり出し、独裁制を強めるプーチンをアメリカが牽制するなか、ロシアの資源が「石油産業の次なるフロンティア」とみなされ、人口が少なく石油、天然ガス資源をもつロシアと人口が多くエネルギー資源を切実に必要とする中国が結びついて、「石油の枢軸」を形成すればどうなるか、という地政経済学的脅威論も出てきている(「原油価格の高騰を読み解く」)。
ただし、テロ攻撃を受けたアメリカが中東の地に足を踏み入れたことによって、「石油資源国が石油の富だけで政権基盤や社会基盤を支えようとして改革を試みず、その結果、貧困から抜け出せずにいるという悪循環がさまざまな問題をつくり出していること」への認識も高まりつつある(「石油の呪縛」日本語版2004年7月号、「なぜサウジは石油の高価格政策をとったか」日本語版2000年5月号、『グローバル石油市場の行方――ロシアの台頭とOPECの停滞』テーマ別アンソロジーvol.15)。産油国の貧困と抑圧がテロの温床をつくり出しているとアメリカはみなし、国連その他の世界機関も、産油国をはじめとする中東での抑圧体制を開発・人権上の大きな問題とみなしている。
こうした背景の下、中東民主化策をとるアメリカと、開発と人権の尊重を重視する国連の立場は急速に近づきつつある。実際、中東の抑圧体制のなかで育まれたテロリストたちが9・11を引き起こしたことを認識したワシントンは中東の民主化政策に本腰を入れはじめ、イラクでの憲法起草プロセスに大いに注目している(「選挙後のイラクと憲法起草」)。アメリカは、テロの温床となる途上国の貧困をなくすための試みも国連同様に強化している。そして、アナン論文からもわかるとおり、テロの定義、大量破壊兵器拡散問題、武力行使に関するアメリカと国連の立場も近づいてきている。皮肉にも、テロがアメリカと国連を接近させつつあるといえるだろう。
しかし、アナン事務総長は次のように語っている。多国間協調とは「自国の優先課題を他国に尊重してもらう代わりに、他国の優先課題を尊重しなければならないことを意味するが、それでも各国にとって他国と協力する以外に合理的な選択肢はない」。
アメリカと国連の接近が今後も続いていくか、そしてグローバル化した脅威へのグローバルな対応への流れを国際社会が形成できるかどうかは、国連総会が開かれる9月には判明する。●
(C) Foreign Affairs, Japan

一覧に戻る

論文データベース

カスタマーサービス

平日10:00〜17:00

  • FAX03-5815-7153
  • general@foreignaffairsj.co.jp

Page Top