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プレス・リリース 4月号
2015-04-10
中東の混乱と革命はあと30年続く
―― 30年戦争と中東革命の共通点
ヘンリー・キッシンジャーとジョセフ・ナイという二人の外交専門家が、ともに中東の混乱を、ヨーロッパでウエストファリアシステムが誕生する前の30年戦争に例えている。
キッシンジャーは「国家が部族主義と宗派集団へ分裂していけば、中東地域は、ウエスファリアシステムが誕生する前の宗教戦争的対立に・・・覆い尽くされる」と指摘し、(1) ジョセフ・ナイも「中東はかつてのヨーロッパにおける30年戦争を思わせる混乱のなかにある」と述べている。(2)それだけではない。米外交問題評議会のリチャード・ハースも、現在の中東では17世紀のヨーロッパ同様に、暴力的な政治・宗教抗争が国境線を越えて展開されていると指摘し、この状態が30年間、あるいはそれ以上続くと指摘している。(3)
もはやイラクとシリアだけが中東紛争の舞台ではない。イスラム国はイラクで押し返されつつも、シリアで攻勢に出ているし、イエメンやリビア、そしてエジプトにも触手を伸ばしている。サウジは北の国境地帯でイスラム国、シーア武装集団の脅威にさらされ、国境の南のイエメンは内戦状態にある。(4)リヤドは最近軍事介入を決断し、フーシ派に対する空爆を実施している。そして、かつてNATOが介入したシリアはすでに破綻国家と化している。(5)
この混乱のなかで世界最大の産油国としてグローバル経済の鍵を握るサウジは持ち堪えられるのだろうか。「サウジは革命の流れには巻き込まれない」と考える理由はどこにもない。原油安だけでも、王国の政治ダイナミクス、社会契約そのものが脅かされる危険があるからだ。(6)
「結局のところ、中東はボトムアップ型の奥深い革命を経験している」とみるナイは、「現在の紛争の決着がつくまでには20-30年の時間が必要になる」と今後を見通している。イラン(シーア派)とサウジ(スンニ派)の対立やライバル関係だけで、現在の中東の混乱は説明できない。「現在のアラブ世界が識字率、科学技術、非石油部門の輸出など、多くの部門で出遅れていること」を考慮する必要があると彼は言う。中東には「1789年のフランス革命にも似た」革命の流れが存在する。(6)
(1)H・キッシンジャー
「新しい現実と主権国家の行方 ―― ウエストファリアとキッシンジャーの世界」
(2)J・ナイ
「 21世紀における 思想とソフトパワー ―― 中国、ロシア、中東革命 」
(3)R・ハース
“Decades of Deadly Conflict Will Spread Across the Middle East”
(4)エイプリル・ロングレー・アレイ
「 内戦への道を歩むイエメン ――シーア派系フーシ派の目的は何か」
(5)アラン・J・クーパーマン
「 人道的介入で破綻国家と化したリビア ―― なぜアメリカは判断を間違えたのか 」
(6)M・グフォーラー、他
「 原油安の地政学的意味合い ―― ロシア、サウジ、イラクの未来 」
(7)J・ナイ 同上