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2005年3月号 核拡散を誘発するNPTの抜け穴とは

2005-03-10

かつて男子高校生が長髪にすると他の生徒や社会に害を与える不良(ならず者)になる前兆とみなされ、生活指導の教師にタバコやナイフを持っていないかどうかポケットや鞄を調べられる時代があった。調べられるのを拒否すれば、限りなく黒に近い灰色とみなされ、反抗的で秩序を乱す要注意人物とされた。だが、長髪の模範的な生徒もいたし、そもそも、長髪は校則で禁じられていなかった。
男子高校生を「イランや北朝鮮」、長髪を「低濃縮ウランによる核エネルギーの平和利用」、タバコの所持を「兵器級ウランの保有」、ナイフの所持を「プルトニウム保有」、そしてならず者になることを「核の保有」と置き換えて考えれば、イランの核開発疑惑、北朝鮮のウラン濃縮疑惑をめぐって起きている複雑な論争も少しはわかりやすくなるかもしれない。
現在争点とされているのは、核不拡散条約(NPT)で認められている核の平和利用を盾に水面下で核開発計画を進め、準備が整った段階で条約上の脱退権を行使して、核生産プログラムへと移行し、核を保有するという抜け穴が存在することだ(「核不拡散レジームをどう立て直すか」)。
朝鮮半島問題の専門家セリグ・ハリソンは、北朝鮮がナイフを所持していることは間違いないが、北朝鮮のウラン濃縮疑惑については、長髪にしているからといってタバコを持っているとは限らないと主張し、タバコを問題にするよりもまずナイフを取り上げろと主張し、一方、前米政府高官のロバート・ガルーチとミッチェル・リースは、北朝鮮はナイフを持ち、長髪にしているだけでなく、タバコを入手しているとみなす十分な証拠があると主張し、タバコもナイフも取り上げるべきだと主張する(「論争 北朝鮮ウラン濃縮疑惑の真相」)。
そこに、すでに高校を自主退学していた北朝鮮があろうことか「私はれっきとしたならず者だ」と公言する。職員室では警察(=国連安保理)に連絡すべきだという声もあがる。かたやイランという名の在校生が現れ、「タバコは吸わないと約束するが、長髪はやめない」と宣言し、「気に入らないことをすれば何をするかわからない」と示唆する。生活指導担当の教師=国際原子力機関(IAEA)のエルバラダイ事務局長は、ポケットや鞄を調べるのに協力的でないこの在校生は、いずれタバコを手に入れ、ならず者になる、つまり、「二~三年で核兵器を保有する能力がある」とみている。かなり乱暴なメタファーを用いれば、こういうことになるだろう。
ケニース・ポラックとレイ・タキーは「イランの核開発を食い止めるには」で、イラン国内には核開発よりも経済の再建を優先させるべきだと考えるリアリスト、そして核開発を最優先に据えるイデオローグとの間に対立があり、リアリストの立場を強化するようなアメとムチを用いた同盟諸国との共闘路線をとれば、現在の膠着状態を打開できるかもしれないと指摘する。イランの核開発問題が大きな注目を集めているのは、NPTからすでに脱退している北朝鮮に加えて、ここで、「核の平和利用を試みているだけだ」と主張しているNPT加盟国のイランが条約の抜け穴を利用して核武装すれば、核不拡散レジーム全体が大きく揺るがされると考えられているからだ。
核の平和利用を否定せずに、核兵器の開発を阻止する方法があるのか。NPTの抜け穴を利用して核保有国が誕生すれば、核武装の地域的な連鎖が生じるのでは。核分裂物質がテロ組織の手に渡ればどうなるか。カーネギー国際平和財団のジョン・ウォルフスタールは「次なる核武装化潮流」でこうした現在の核問題の争点を明快に整理している。
NPTの抜け穴を利用した核拡散のほかにも、抑止力の形成を前提とする核大国の核の兵器庫の存在そのものが核拡散を刺激しているとみなす考えもある(「核廃絶か、止めどない核拡散か」日本語版2000年9月号)。ローレンス・シェインマンが指摘するように、NPTが「核保有国は核軍縮に取り組み、非核保有国による核の平和利用を妨げない」とする核保有国と非核保有国間の取引によって成立しているにもかかわらず、非核保有国は核保有国側による軍縮の試みは十分ではないと批判している。シェインマンは、「非核保有国が条約上の義務を守るように要請し、合法的に条約から脱退しにくいように高いハードルを設けるべきだが、核保有国も核軍縮という条約上のコミットメントを守らなければならない」と力説している(「NPTとイラン核開発問題の本質」)。●
(C) Foreign Affairs, Japan

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