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2004年12月号 米欧関係とパレスチナ
2004-12-10
欧州憲法条約への欧州連合(EU)加盟国の批准が終われば、欧州は経済領域だけでなく、外交・安全保障領域でも共通の政策を持つ単一の巨大国際アクターになる。
そのような大欧州がアメリカをパートナー、ライバルのいずれとみなすか、そして、ワシントンが欧州をどうとらえるかで、テロと核拡散問題などの課題への対応も、ひいては世界秩序も大きく左右される。
仏独率いる欧州はドゴール流の自主・反米路線をとり続けるのか。台頭する中国と強大化する欧州が反覇権連合を形成するのか。ドルは基軸通貨の役割を今後ユーロに奪われていくのか。議論は始まったばかりだが、米欧の協調(大西洋主義)は双方の意図的な努力なしでは実現できそうにないようだ。
欧州憲法条約を精査した法律家のジェフリー・シンバロは、条文から判断して、仏独を中心とする欧州が「北大西洋条約機構(NATO)外し、より正確にはアメリカ外し」を試みていることは明らかだと主張し、アメリカはイギリス、ポーランド、デンマークと手を組んで、現状のままで条約が批准されていくのを阻止すべきだと主張する(「欧州はアメリカのパートナーかライバルか」)。イギリスの歴史家ティモシー・ガートン・アッシュも、ブッシュの再選によって欧州では大西洋主義者ではなく、ドゴール主義者が力を増していくのではないかと懸念し、「米欧が一つにまとまれるようなアジェンダは何で、現在がどのような時代なのかを適切に描写した」新しい「X論文」を米欧は必要としていると指摘する(「分裂するヨーロッパ」)。
一方で、欧州の強大化も中国の台頭もアメリカの覇権には遠く及ばないという強気の議論もある。国防政策委員会のメンバーで新保守主義の理論家として知られるエリオット・コーエンは、現在の国際政治は「覇権国アメリカの優位とそれに対する反発」で規定されているが、それでも世界が無政府状態に陥るのを避けるには、ワシントンが覇権をバックにパワーを行使する以外に手はないと主張する。ただし、覇権国としてのアメリカも、相手を分析し、あなどれない複数の敵を一度に相手にしなかったローマのやり方に学ぶべきだとも述べている(「アメリカの覇権と世界」)。コーエンは、二〇〇三年六月、ブッシュ大統領とカール・ローブ大統領顧問がわざわざホワイトハウスに取り寄せて目を通した『戦争と政治とリーダーシップ』(アスペクト)の著者としても有名だ。
イランの核開発問題に米欧がどう取り組むかだけでなく、アメリカがアラファト後のパレスチナにどう対応するかも今後の米欧関係、そしてアメリカの中東政策を試す大きな試金石となる。
中東問題の専門家ヘンリー・シーグマンは、アッバスがかつて自治政府の首相としての任務をうまくこなせなかったのは、アラファトの妨害があっただけでなく、イスラエルのシャロン首相がパレスチナの状況を改善させるという約束を守らず、シャロンに約束を守らせると公言したブッシュ大統領もその約束を果たさなかったからだと指摘し、アラファトの存命中は「パレスチナに真の和平交渉のパートナーがいるかどうか」が争点とされたが、今後は「イスラエル側に和平交渉のパートナーはいるか、和平交渉を進めるためにアメリカは手を打っているか」が争点とされると予測する(「アラファトとアッバス」)。
一方、パレスチナ内部の政治力学を検証した政治学者のハリル・シュカーキは、パレスチナで選挙を実施することの重要性を強調する。ファタハ内部で対立する新世代派と守旧派、どちらにもくみしない独立家ナショナリスト、ハマスやイスラム聖戦のようなイスラム主義過激派が織りなすアラファト後のパレスチナ政治において、新世代派と手を組み、選挙を実施し、イスラエルやアメリカからの協力を取りつけない限り、アッバスを含む守旧派が権力を握り続けることはあり得ないと予測する(「アラファト後のパレスチナ」)。
イラン、パレスチナともに事態は流動的だし、世界はテロや、核拡散という脅威に直面している。こうした環境下で、アメリカの覇権による秩序が状況を支配するのか、それとも欧州を軸とする反覇権の合従連衡が起きるのか。いずれにせよ、新しい「X論文」が出ない限り、「国際社会」、そして「国際協調」が何を意味するかは、今後も争点ごとに刻々と変化し続けることになりそうだ。●
(C) Foreign Affairs, Japan