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2004年10月号 アメリカの大いなる弱点
2004-10-10
一九三二年、今後の政治経済の鍵は石油産業が握ると判断したフランクリン・ルーズベルトは、米石油業界の指導者を民主党陣営に取り込んで大統領選挙に臨み、その後、ほぼ二十年に及ぶ民主党長期政権の基盤を築き上げる。それからほぼ六十年後、これと同じ戦略を試みたのがビル・クリントンだった。
アメリカ経済、世界経済の雌雄を決するのはIT産業であると判断したクリントンは、米西海岸を中心とするIT産業の寵児たちを民主党陣営に取り込み、見事ホワイトハウス入りを果たす。ここに二十一世紀に向けた民主党長期政権の基盤が築かれたかに思われた。しかし、二〇〇〇年の大統領選挙で最終的に勝利を収めたのは、情報スーパーハイウエー構想を推進したアル・ゴアではなく、共和党のジョージ・W・ブッシュだった。
ただし、クリントンとゴアの読みは間違っていなかった。ステファン・フリンが「テロとイラクにどう対処する」で指摘するように、アメリカのパワーはこの二十年間にわたって「『もっとも開放的、効果的で信頼できるシステムを可能な限りローコスト』で実現しようとした結果、誕生した」システムによって支えられている。クリントンとゴアの読み通り、その中枢を担っているのは、金融・商取引、運輸ロジスティックのネットワークであり、インターネットを通じた市民、消費者参加型の開放的情報ネットワークである。
そこに9・11が起きる。開放的ネットワーク社会の強みも、一方では、ネットワークを結ぶ情報の集積拠点が攻撃されたり、人やモノの自由な移動が遮断されたりすれば、社会・経済の多くが機能麻痺に陥ってしまうという大きな弱みをもっていることがテロによって暴き出された。フリンによれば、アメリカが圧倒的なパワーをもちつつも、そのパワーが「安全装置をもたない開放的なネットワークに依存していることにアルカイダは目をつけた」のだ。
ブリーフィング「新大統領が直面する外交課題は何か」の議論からも明らかなように、最大の課題は核拡散をいかに阻止するかだ。ロシアなどからの核の流出を防ぎ、開発計画が成功すればテロリストに核を売り渡す恐れのあるイラン、北朝鮮の核開発をいかに阻止するかだ。核テロの脅威はいまや現実の問題ととらえられつつある。
アシュトン・カーターは「大量破壊兵器開発を阻止するには」で、テロリストへの核流出を防ぐために、核分裂物質の厳格な管理を提言し、アメリカの情報収集・分析システムを進化させ、状況に応じて外交から破壊までの多面的な対抗策をとっていくことを求めている。
「国連改革の行方」には日本も大いに関心をもっているが、安保理改革に関する常任理事国の本音と建前は大いに違うようだ。ミシェル・ビリッグの「同時多発的な石油供給の混乱に備えよ」も、石油を含む資源輸入大国の日本にとっての有益な洞察で溢れている。
デビッド・フィリップスによる「トルコはヨーロッパの一部になれるか」も注目に値する。東でも西でもあるトルコは長くヨーロッパの一部になることを望み、今や、そのための基準を次第にクリアしつつある。だが、ここにきて、ヨーロッパがトルコの欧州連合(EU)加盟を拒絶すればどうなるか。フィリップスが指摘するように、トルコ国内では欧米に対する反動が起き、過激派が勢いづき、自由化、民主化、非軍事化路線が覆されるおそれもある。
仮にそうなれば、対テロ戦争に大きな悪影響が出る。トルコのEU加盟を支持するアメリカと加盟承認に曖昧な態度をとり続けるヨーロッパの亀裂も深まり、欧米は中東における有力な民主主義の模範国を失う。今後のトルコがどのように近代化し、ヨーロッパがこれをどう評価するか。これは、対テロ戦争だけでなく、イスラムと西洋、そして今後の世界秩序にとっても大きな影響を与える重要なテーマだろう。●
(C) Foreign Affairs, Japan