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2004年8月号 回転ドアと社会エリート

2004-08-10

まるで回転ドアを押すように、政府ポストと民間ポストを行きつ戻りつする人々がワシントンにはいる。政府高官としての仕事を終えると、再び回転ドアを押して古巣の大学、弁護士事務所、企業、メディアでの仕事に戻る人もいれば、新たに有力な民間シンクタンクでの研究ポストに就く人もいる。なかには、「ソフトパワーの衰退と対テロ戦争」の著者のジョセフ・ナイのように回転ドアを押して何度も官と民を行き来する人々もいる。
そして、一度回転ドアを押した人々の多くは官民双方に身を置くことによって、現実を判断する深い洞察と問題意識を得る。こうして、市民社会の要請と政策遂行の難しさをともに理解した「社会エリート」が誕生し、「国家エリート」、単なる研究者、企業人では考えつかないような創造的でしかも現実的な議論を説得力のある形で展開するようになる。
「アフガニスタン問題の打開策はあるか」でB・ガーズマンのインタビューに答えているニューヨーク大学のバーネット・ルービンも単なる大学の研究者ではない。最近まで米外交問題評議会の予防行動センターのディレクターを務め、国連特別代表顧問としてアフガニスタン新憲法の起草にかかわった経験もある。アフガニスタンの軍閥のなかでも最悪の人物は誰かという質問に、「新しい制度を構築しないことには、誰を取り除いても同じことだ」と研究者らしく冷静に答えつつも、この国を安定に導くには「反ビンラディン派のタリバーンとの協調基盤を探るべきだ」というH・キッシンジャー並の現実主義路線を提言している。ルービンは現在ケリー米上院議員の外交顧問も務めている。
一方、「アフガニスタン――軍閥という悪夢」の著者キャシー・ギャノンは、タリバーンの台頭と崩壊を現地で取材し続けた唯一の西側ジャーナリストで、現在は米外交問題評議会のプレスフェロー。ソビエトをアフガニスタンから追い出すために、そしてタリバーンを打倒するために、アメリカが手を組んだムジャヒディンと北部同盟が、いまやアフガニスタンの安定にとって最大の脅威になっていると指摘するギャノンは、ワシントンは軍閥たちと手を切るべきだと提言する。
通常、前大統領の回顧録の出版と前後して前高官たちの著作や回顧録も出版される。アメリカの有力なシンクタンクであるアジア財団のスコット・スナイダーによる書評「北朝鮮核危機の行方」も、一九九四年の北朝鮮核危機の収拾にあたったジョエル・ウィット、ダニエル・ポネマン、ロバート・ガルーチという前政権の高官たちによる共著『第一次北朝鮮核危機』を取り上げたものだ。北朝鮮に核開発計画の完全な解体を求め、多国間交渉スタイルを採用したブッシュ政権の路線は適切だが、核開発計画の解体をいかに実現していくかについて、ブッシュ政権が熱心でないことが最大の問題だとスナイダーは指摘する。ちなみにウィット、ポネマン、ガルーチは、現在シンクタンク、コンサルティング企業、大学にそれぞれ籍を置いている。
フォーリン・アフェアーズという雑誌はなぜ大きな影響力をもっているのかとよく聞かれる。簡単に言えば、この雑誌がこうした社会エリートたちに政策を論じる開放的なフォーラムを提供し、そこで提言された路線が実際に採用されることが非常に多いからということになるだろう。
むろん、政策提言を通じて世界の安定と繁栄に貢献しようと試みるのはこのような社会エリートたちばかりではない。ワシントン・ポストのボブ・ウッドワードやBP(ブリティッシュ・ペトロリアム)グループの最高経営責任者ジョン・ブラウンのように官民の垣根を自分の力で取り払える傑出した力をもつ人々もいる。
米外交問題評議会でのミーティング・プログラム「イラク戦争とジョージ・ブッシュ」で、ウッドワードは、本来なら、回顧録が出版される数年先、悪くすれば政府文書が解禁される数十年先までわれわれが知り得ないことを、いかにして事実の収集・分析とインタビューで突き止めたか描写している。またジョン・ブラウンが地球環境問題に対処していくうえでの企業と政府の役割を現実的に論じた「京都合意を超えて」も注目に値する。世界有数の石油企業のCEOが示した二酸化炭素排出削減提案は世界で大きな注目を集めるだろう。●
(C) Foreign Affairs, Japan

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