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2024年11月10日発売

フォーリン・アフェアーズ・リポート
2024年11月号

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フォーリン・アフェアーズ・リポート2024年11月号 目次

分裂した世界にどう向き合うか

  • 新国際主義外交の薦め
    アメリカと世界

    コンドリーザ・ライス

    雑誌掲載論文

    かつて同様に、リビジョニスト(現状変革)国家は力によって領土を獲得し、国際秩序は崩壊しつつある。さらに憂慮すべきは、かつて同様にアメリカが内向きになり、孤立主義の誘惑に駆られていることだ。ポピュリズム、移民排斥主義、孤立主義、保護主義に席巻されるアメリカの国際社会での立ち位置はどこにあるのか。アメリカのグローバルな関与が、過去80年間とまったく同じように進むとは考えられないが、それでもアメリカの国際主義外交が求められている。そうできるかで、未来が民主的で自由市場国家間の同盟によって規定されるのか。それとも、リビジョニストパワーによって規定される権威主義的政治の時代に逆戻りするのかが左右されるだろう。

  • 流動化する世界と米再生戦略
    アメリカとリビジョニストパワー

    アントニー・ブリンケン

    雑誌掲載論文

    バイデン政権はアメリカの競争力強化を目的とする歴史的な国内投資と各国との協調関係の再生に向けた力強い外交キャンペーンを組み合わせて展開した。この二つの支柱から成る戦略が、「アメリカは衰退し、自信を失っている」とみなす(中露などの)リビジョニストパワーの思い込みを粉砕する最善の方法だと、バイデン政権は信じていた。米衰退論の思い込みに囚われている限り、リビジョニストパワーは、アメリカやほとんどの国が求める「自由で開放的な世界、安全で繁栄する世界」にダメージを与え続けようとするからだ。アメリカはリビジョニスト諸国の思い込みを粉砕するための決意を維持しなければならない。そして、リビジョニストパワーが相互の立場の違いを克服するために、今以上に協力する事態に備える必要がある。

  • 強大化する反欧米枢軸
    中露・イラン・北朝鮮の目的は何か

    アンドレア・ケンドール=テイラー、リチャード・フォンテーヌ

    Subscribers Only 公開論文

    ウクライナ戦争をきっかけに、中国・ロシア・イラン・北朝鮮は、経済、軍事、政治、技術的な結びつきを強め、共有する利益を特定し、軍事・外交活動を連携させつつある。すでに、地政学状況は変化している。実際、中国の台湾侵攻を前にアメリカが軍事介入を決断すれば、ロシアはヨーロッパの別の国に対して軍事行動を起こし、イランや北朝鮮はそれぞれの地域で脅威をエスカレートさせるかもしれない。たとえ新枢軸が直接的に侵略を連動させなくても、同時多発的な衝突が欧米を圧倒する恐れがある。さらなる連携がもたらす破壊的影響を管理し、中露・北朝鮮・イランの枢軸がグローバル・システムを動揺させないようにすることを、米外交の中核目的に据える必要がある。

  • ロシアの反欧米連合
    アメリカの敵を束ねると

    ハンナ・ノッテ

    Subscribers Only 公開論文

    ウクライナでの戦争が「ロシアのパワー、利益、影響力を大きく低下させている」と欧米の高官が状況を捉えているのなら、それは考え直す必要があるだろう。ベネズエラから北朝鮮まで、ロシアは、アメリカやヨーロッパを敵視する多くの国々との軍事協力を強化し、深化させている。これらの国々には、欧米という敵を共有している以上の共通点はあまりないかもしれないし、特に強力な国もない。しかし、これらの国々が一緒になれば、モスクワがウクライナとの戦争を続けるのを助けることができる。アメリカはこの「ロシアの枢軸」に対するバランスをとるために、欧米のパートナーシップと同盟に再投資する必要がある。

  • ロシア・北朝鮮同盟と中国の立場
    不安定な権威主義連合の行方

    オリアナ・スカイラー・マストロ

    Subscribers Only 公開論文

    ロシアは平壌が長年望んできた高度な軍事技術を北朝鮮に売り渡すことを選んだ。中国がオファーしない利益をロシアが進んで提供してくれるために、平壌はモスクワに近づき、いまや北京は北朝鮮に対する手だての多くを失っている。一方、ロシアが北朝鮮に軍事支援を求めたという事実は、モスクワが北京から受けている物的援助がいかに少ないかを示している。実際、北朝鮮やロシアと連帯しているとみなされることのリスクを認識している北京は、むしろ、公の場では、この2カ国から距離を置こうとしている。中露・北朝鮮関係の歴史から現状を分析すれば、何がみえてくるか。

  • リベラルな国際主義の再生を
    貿易の自由化と経済安全保障

    ピーター・トルボウィッツ、ブライアン・ブルグーン

    Subscribers Only 公開論文

    冷戦が終わると、共産主義の膨張主義や核戦争に対する懸念が後退し、欧米の有権者は、かつては論外とされてきた政党や候補、政策に賭けることも厭わなくなった。反グローバリズム感情が台頭し、貿易自由化や多国間協調を支持する政党への欧米有権者の支持率は50%近くも低下した。その結果が、ブレグジットであり、ドナルド・トランプだった。しかも冷戦後には、極右、極左勢力が、反グローバリズムと社会的保護政策を支持し、労働者階級の有権者を取り込もうと試み、これに成功した。欧米社会の反グローバリズム感情を抑えるには、国際政策が国内における労働者階級の家庭に恩恵をもたらすことを実感できるようにしなければならない。世界に国を開くことと国内の経済安全保障を守ることの間のバランスを取り戻す必要がある。

  • 国益に基づく国際主義を模索せよ

    コンドリーザ・ライス

    Subscribers Only 公開論文

  • さようなら、国際主義のアメリカ
    トランプ時代の歴史的ルーツ

    エリオット・A・コーエン

    Subscribers Only 公開論文

    トランプの「アメリカ第1主義」は、外交の初心者が犯した間違いではなく、アメリカのリーダーたちが戦後外交の主流概念から距離を置きつつあるという重要な潮流の変化を映し出している。先の大戦期及びその直後に成人した世代は、アメリカが世界をリードしなければ、いかに忌まわしい世界が出現するかを本能的に理解していた。これは、戦争で苦しんだ末に得た教訓だった。しかし、この世代の多くが亡くなり、具体的に秩序を形作った子どもの世代も少なくなってきている。これが、今後の米外交政策にもっとも重要な帰結を与えることは間違いない。トランプが大統領の座を退いても、「アメリカのリーダーシップなき世界」がどのような末路を辿るかを知る人々が支えたかつてのコンセンサスへアメリカが回帰していくことはない。残念ながら、不幸な結果を記憶している人々はもうすぐいなくなる。

  • 共和党外交の再建はできるか
    アメリカファーストと国際主義の相克

    ジェラルド・F・セイブ

    Subscribers Only 公開論文

    共和党の政治家たちが外交政策をめぐって火花をちらすなかで、われわれが注目すべきは、「レーガン時代の国際主義」と「トランプ時代のアメリカファースト」の衝動が一貫した戦略と世界ビジョンへまとめられていくかどうかだ。共和党系外交専門家の多くは、二つの立場の間に共通基盤は存在するし、政治家たちの発言ほどには、共和党支持層は新孤立主義に傾倒していないとみている。そうした統合を実現するには、中国や台湾、貿易、同盟国の責任分担を含む一連の中核アジェンダについての党としてのコンセンサスが必要になる。もちろん、2024年に誰が指名候補になるかで流れは大きく左右される。例えば、共和党の予備選でトランプではなく、国際派のヘイリーが勝利すれば、党にとって大きく異なる道が開けてくる。・・・

ビッグテックのクーデター、AIと戦争

  • ビッグテックのクーデター
    いかにパワーシフトを抑えるか

    マリーチェ・シャーケ

    雑誌掲載論文

    政府からビッグテックへのパワーシフトが進行している。テクノロジー企業は議会にロビイストを送り込み、シンクタンクや学術機関に資金を提供して、世界がテクノロジー産業をどうとらえるか、その理解を形作っている。民主主義が生き残るには、指導者たちはこのクーデターと正面から向き合い、闘わなければならない。ビッグテックへの社会の全般的依存、彼らが活動するデジタル空間が法的グレーゾーンであることなどが変化の潮流を形作っている、彼らは、技術を速いペースで進化させて、法律を回避し、政策による反撃を心配することなく、疑わしい行動をとっている。政府は公益性のあるテクノロジーに力を与え、テクノロジーに関する専門知識を再構築して対抗して必要がある。

  • 未来の戦争と新しい兵器
    新しい戦争はすでに具体化している

    マーク・A・ミリー、エリック・シュミット

    雑誌掲載論文

    ウクライナ戦争が他のヨーロッパ地域へ拡大すれば、北大西洋条約機構(NATO)とロシアは、ともに地上ロボットと空中ドローンをまず投入することで、人間だけでは攻撃も防御もできない広範な前線をカバーすることになるだろう。すでに戦争の本質は変化している。イスラエル軍は、AIプログラム「ラベンダー」を使って、ハマスの戦闘員を特定し、彼らの自宅を爆撃している。人が攻撃の承認にかける時間はわずか20秒だ。最悪のシナリオでは、AI戦争は人類を危険にさらす恐れさえある。人間だけによる戦闘シミュレーションと比べて、AIモデルでは、核戦争を含めて、戦争が突然エスカレートする傾向があることがわかっている。

  • 地政学パワーとしてのビッグテック
    米中対立と世界秩序を左右するプレイヤー

    イアン・ブレマー

    Subscribers Only 公開論文

    ほぼ400年にわたって国家は国際政治の主要なアクターとして活動してきたが、それも変化し始めている。いまやビッグテックは政府に匹敵する地政学的影響力をもち始めている。ビッグテックの地政学的な姿勢や世界観を規定しているのはグローバリズム(アップル、グーグル、フェイスブック)、ナショナリズム(マイクロソフト、Amazon)、テクノユートピアニズム(テスラ)という三つの大きな思想・立場で、国家の立場ではない。国家的な優先事項を追求するために、大国の政治家が巨大テクノロジー企業をたんなる地政学的なチェスの駒として自由に動かせる時代は終わりつつある。テクノロジー企業は名実ともに独立した地政学アクターになり、米中対立だけでなく、今後の秩序を左右する大きな影響力をもち始めている。

  • ビッグテックが民主主義を脅かす
    情報の独占と操作を阻止するには

    フランシス・フクヤマ、バラク・リッチマン、アシシュ・ゴエル

    Subscribers Only 公開論文

    ビッグテックを抑え込むべきか。その経済的根拠は複雑だが、政治的にはそうすべき説得力に満ちた理由がある。強大な経済パワーを持っているだけでなく、政治的コミュニケーションの多くを管理する力をもっているからだ。つまり、ビッグテックが引き起こす真の危険は、市場を歪めることではなく、民主政治を脅かすことだ。すでにアメリカとヨーロッパの双方で、政府はビッグテックに対する独占禁止法違反の訴訟を開始しており、裁判は今後何年にもわたって続くだろう。だがこのアプローチは最善の方法とは必ずしも言えない。むしろ、この問題に対処できるのはミドルウェアだろう。現在、プラットフォームが提供するコンテンツは、人工知能プログラムによって生成された不透明なアルゴリズムによって決定されているが、ミドルウェアを使えば、ユーザーが管理を取り戻せるようになる。

  • 監視資本主義と暗黒の未来
    ビッグテックとサーベイランスビジネス

    ポール・スター

    Subscribers Only 公開論文

    「監視資本主義=サーベイランス・キャピタリズム」が台頭している。フェイスブックとグーグルが主導するこの産業は、バーチャル世界から現実世界へとサーベイランスの範囲を拡大し、個人の生活の内側に入り込んでいる。ユーザーデータの収集・分析から、ユーザーが「今かすぐ後、あるいはしばらく後にとる行動」を予測することへ流れは移行しつつある。しかも、予測を的中させるもっとも効率的な手法は、予測されている行動をとるように仕向けることだ。すでにフェイスブックは前例のない行動誘導の手法を確立している。中国の「社会信用システム」はインスツルメンタリアンパワー(技術的操作能力)と(政治的画一性を実現したい)国家の組み合わせだが、米企業はインスツルメンタルパワーと市場を抱き合わせるつもりかもしれない。

  • AIが主導する戦争の時代?
    自律型兵器の脅威にどう対処するか

    ポール・シャーリ

    Subscribers Only 公開論文

    すでに、ウクライナでは、AIが「戦場で誰を殺すかを判断する」完全自律型兵器が実戦配備されており、このままでは、機械が主導する危険な戦争の時代へと向かっていく危険がある。ターゲットを発見・特定し、攻撃するまでの時間が短縮され、意思決定のサイクルが短くなり、機械が、個々の標的を選択するにとどまらず、作戦全体を計画・実行するようになる可能性もある。こうなると、人間は、戦争を管理し、終わらせる力をほとんど失ってしまう。そのリスクを回避し、より重大なAIの脅威に対処する協調体制の基盤を築くためにも、自律型兵器についての合意をまとめる必要がある。・・・

  • AIをいかに戦力に取り込むか
    未来の戦力をどう評価する

    マイケル・C・ホロウィッツ、ローレン・カーン、ローラ・レズニック・サモティン

    Subscribers Only 公開論文

    AIは、いまや防衛技術における進化のすべての中枢に位置し、戦力の配備や戦闘方法にまで影響を与えている。ロシアとウクライナはともにアルゴリズムを使ってソーシャルメディアと戦場から入ってくる膨大なデータを分析し、自国の攻撃にこれらの情報を生かしている。一方、ペンタゴンはAIと自律型兵器システムを含む新技術の重要性を説きつつも、軍事領域での応用ペースは緩慢だ。こうしたアメリカのAI軍事技術開発の遅れは、もっともパワフルな地政学的ライバルである中国の動きとは対照的だ。AI技術を軍事戦略、計画立案、システムに統合することに向けて中国はより積極的な動きをみせ、台湾をめぐる未来の紛争の戦闘スキームにもAIを組み込んでいる。アメリカは現状に満足するのではなく、その軍事力を未来に向けて適応させ、再編していく必要がある。・・・

  • 人工知能と地政学
    分裂するAI規制の意味合い

    アジズ・ハク

    Subscribers Only 公開論文

    多国間の共同声明や二国間協議を通じて、AIを規制する国際的な枠組みができつつあるかにみえる。たしかに、米中欧の規制は、驚くほど内容が収斂しつつあるが、それぞれの行動に照らせば、分断と競争の未来が到来する可能性が高いことは明らかだろう。すでに、半導体へのアクセスや技術標準の設定、データとアルゴリズムの規制では、国によって異なる法体系が生まれつつあり、将来のいかなる協力も行く手を阻まれることになると考えられる。一つのAI規制が世界で広く共有されるのではなく、対立する規制によって分断された世界が出現することになるだろう。AIを公共の利益として育んでいけるという理想的なアイデアも、地政学的な緊張によってすでに粉砕されつつある。・・・

戦争か自制か

  • 何が戦争を食い止めるのか
    自制かエスカレーションか

    エリック・リン=グリーンバーグ

    雑誌掲載論文

    挑発的事件が危機をエスカレートさせるリスクはあるが、思いがけず戦争が始まることはあまりない。指導者たちは、一触即発の状況では、むしろ、戦闘を避けるために自制することが多い。イランとイスラエルの一触即発状況が続いても、戦争が必然になることはほとんどない。勝利が保証されているわけではなく、戦争のコストは利益を上回るかもしれないからだ。このために、指導者は政治的ダメージ、名声の失墜に直面するとしても、国の戦略目的を促進するような和解の方が戦闘よりも好ましいと判断することが多い。思いがけず戦争に引きずりこまれるリスクにパニックに陥る必要はない。自制のツールは指導者の手のうちにあるのだから。

  • 保護主義の台頭とWTOの衰退
    貿易秩序の崩壊は何を意味するか

    クリステン・ホープウェル

    雑誌掲載論文

    アメリカは自由貿易へのコミットメントをすでに放棄している。関税を課し、複数の産業に巨額の補助金を投入することで、世界貿易機関(WTO)のルールと原則を公然と踏みにじっている。中国も、補助金や経済的威圧策を行使して貿易をゆがめ、次第にこれを兵器として用いつつある。しかも、インドネシアやインドを含む、他の諸国もアメリカのやり方に追随して、WTOルールを公然と無視するようになった。このままWTOルールを無視する国が増え続ければ、いずれ、多国間貿易システムが完全に崩壊するティッピングポイントを迎え、世界は1930-1940年代へと回帰していくことになるのかもしれない。

  • 現存する大国間戦争のリスク
    楽観派はどこで間違えたか

    タニーシャ・M・ファザル、ポール・ポースト

    Subscribers Only 公開論文

    「戦争が起きる頻度は着実に低下している。大国間戦争などもはや考えられず、あらゆるタイプの戦争がますます起きにくくなっている」。このように現状を捉えるコンセンサスが広がりをみせている。だが、この考えは間違っている。たしかに第三次世界大戦は起きていない。だからといって、それは、大国間平和の時代がそこにあることを意味しない。戦争が少なくなっていると過信すれば、いかなる衝突も瞬く間に危険な方向にエスカレートしていく恐れがあることを軽くみなし、壊滅的な結末に直面することになりかねない。国際政治の混沌とした本質からみれば、大規模な紛争が発生する可能性は常に存在する。

  • 中国が日本との戦争を望まない理由

    アレン・カールソン

    Subscribers Only 公開論文

    「日本との紛争で自国が敗れ去る」とは北京は考えていないが、「いかに圧倒的な軍事的勝利を収めても、武力行使は副作用が大きすぎる」とみている。武力衝突という事態になれば、経済成長を維持し、国内のナショナリズムの激化を抑えるという、北京にとってきわめて重要な二つの基本的国益に悪影響が出るからだ。いかなる抑止力にも増して、こうした国内的な自制要因ゆえに、習近平が、尖閣をめぐって武力行使を認めることはないだろう。もちろん、北京が「気晴らしの戦争が自分たちの権力を維持する唯一の方法だ」と考える危険もある。だが、戦争によって誰も勝者になれないことを理解すれば、中国は日本に対する瀬戸際作戦を回避するはずだ。

  • 紛争が長期化する理由
    理想主義対現実主義

    クリストファー・ブラットマン

    Subscribers Only 公開論文

    なぜウクライナ戦争は長期化しているのか。「敗北すれば自分の政権が終わるかもしれないと考えれば、それがロシアにとってどんな結果をもたらすとしても、プーチンは戦い続けるインセンティブをもつはずだ」。しかし、この他にも重要な理由がある。ウクライナがロシアに抵抗し、戦争を速やかに終わらせるための不快な妥協を拒絶していることは、地政学対立において理念と原則が作り出す不変のメカニズムの作用を示している。ウクライナの指導者と市民は「いかなるコストを支払おうとも、ロシアの侵略に屈して、自由や主権を犠牲にすることはない」と決意している。ロシアにとっても、これはイデオロギー戦争でもある。ウクライナ戦争は、戦略的ジレンマだけでなく、双方が妥結という考えを嫌悪しているために、戦いが長期化している。

  • 戦後秩序は衰退から終焉へ
    壊滅的シナリオを回避するには

    リチャード・ハース

    Subscribers Only 公開論文

    保護主義、ナショナリズム、ポピュリズムがさらに勢いをもち、民主主義は廃れていく。内戦や国家間紛争が頻発して常態化し、大国間のライバル関係も激化する。グローバルな課題に向けた国際協調も不可能になっていく。この描写に違和感を覚えないとすれば、現在の世界がこの方向に向かっているためだろう。但し、戦後秩序をもはや再生できないとしても、世界がシステミックリスクの瀬戸際にあるわけではない。それだけに、米中関係の破綻、ロシアとの衝突、中東での戦争、あるいは気候変動と、何がきっかけになるにせよ、それがシステミックな危機にならないようにしなければならない。世界が壊滅的な事態に遭遇するというシナリオが不可避でないことはグッドニュースだ。バッドニュースは、そうならないという確証が存在しないことだ。

  • 現在と1930年代は似ているか
    反グローバル化、経済保護主義、ポピュリズム

    マーク・マゾワー

    Subscribers Only 公開論文

    第一次世界大戦後、自由貿易と国際主義的政治が批判され、関税障壁と移民規制が強化されるなか、ヨーロッパは独裁政治へ転落していった。当時の状況と現状の間には重なり合う部分も多い。実際、ポピュリストやナショナリストのさまざまな不満を背景とするトランプの台頭は、民主主義の危機を分析するために、グローバル化に反対する人々に注意を払う必要があることを初めて明らかにした。グローバル化支持派は、自由貿易と経済の自由化が民主主義拡散の基盤を提供すると主張している。だが歴史が示す因果関係はもっと曖昧だ。戦間期の混乱から当時導き出された真の教訓は、レッセフェール型経済が命取りになりかねないこと、そして政治家が、戦略的な国家リーダーシップの必要性を理解しなければならないということだ。

  • 民主主義の危機にどう対処するか
    ポピュリズムからファシズムへの道

    シェリ・バーマン

    Subscribers Only 公開論文

    ファシストが台頭した環境は現在のそれと酷似している。19世紀末から20世紀初頭のグローバル化の時代に、資本主義は西洋社会を劇的に変貌させた。伝統的なコミュニティ、職業、そして文化規範が破壊され、大規模な移住と移民の流れが生じた。現在同様に当時も、こうした変化を前に人々は不安と怒りを感じていた。だが、第一次世界大戦、大恐慌という大きなショックを経験したことを別にしても、根本的な問題は、当時の民主主義が、戦間期の社会が直面していた危機にうまく対処できなかったことだ。要するに、革命運動が脅威になるのは、民主主義が、直面する課題に対処できずに、革命運動がつけ込めるような危機を作り出した場合だ。ポピュリズムの台頭は、民主主義が問題に直面していることを示す現象にすぎない。だが、民主的危機への対応を怠れば、ポピュリズムはファシズムへの道を歩み始めることになるかもしれない。

  • ポストアメリカの世界経済
    リーダーなき秩序の混乱は何を引き起こすか

    アダム・ポーゼン

    Subscribers Only 公開論文

    ドナルド・トランプは、アメリカが築き上げたグローバルな経済秩序に背を向け、経済と国家安全保障の垣根を取り払い、国際的ルールの順守と履行ではなく、二国間で相手を締め付ける路線への明確なコミットメントを示している。世界貿易機関(WTO)の権威を貶め、いまや、主要同盟諸国でさえ、アメリカ抜きの自由貿易合意や投資協定を模索している。すでに各国は貿易やサプライチェーンの流れ、ビジネス関係を変化させつつある。経済政策の政治化が進み、経済領域の対立が軍事対立にエスカレートする危険も高まっている。アメリカが経済秩序から今後も遠ざかったままであれば、世界経済の成長は鈍化し、その先行きは不透明化する。その結果生じる混乱によって、世界の人々の経済的繁栄は、これまでと比べ、政治略奪や紛争に翻弄されることになるだろう。

Current Issues

  • 再生する資本主義
    スイス、台湾、ベトナムに学ぶ

    ルチール・シャルマ

    雑誌掲載論文

    新興経済諸国は、アメリカが「大きな政府」的解決策を模索するのをみて衝撃を受ける一方で、中国に経済モデルのインスピレーションを求めることもできずにいる。いまや「中国経済の奇跡」も失速しつつある。だが、主要国が資本主義から後退しているかにみえるなか、スイス、台湾、ベトナムなどの、資本主義がうまく機能している国もある。これらの諸国のやり方を模倣し、取り入れる価値はあるだろう。いずれも、経済的自由を重視し、経済の管理や規制をめぐる政府の役割を抑え、債務や財政赤字が深刻なリスクになることを認識して資金を慎重に用いている。

  • 中国の政治腐敗と格差
    壮大なスケールの汚職

    ブランコ・ミラノヴィッチ、リー・ヤン

    雑誌掲載論文

    大規模な反政治腐敗キャンペーンが中国で進められてきたのは、習近平の政治的思惑からだけではない。都市部における格差が極端なレベルに達していたからだ。所得が高い者は、(賄賂や横領で)平均して4倍から6倍、なかにはそれ以上に所得を増やしている。つまり、中国の実質的所得格差は、記録されている格差レベルよりもはるかに大きい。一方、反政治腐敗キャンペーンは、大金持ちや権力者を追及することをためらわない限り、独裁者がポピュリストとしての信頼を高めることにも貢献する。習近平だけでなく、ロシアのプーチンも、このやり方を取り入れている。

  • 「現場主義外交」の試金石
    太平洋諸島と米中競争

    チャールズ・エデル、キャサリン・ペイク

    雑誌掲載論文

    「あなたたちのなかで、外交領域で働きたいと思う人は何人いるだろうか」。若者に行動を求めた1960年のケネディ大統領のこのフレーズは、平和部隊への参加を促し、アメリカの世界への関心を高めたと評価されている。現在も、ライバルと競い合うには、外交官たちが外国の指導者と会い、現地の文化や習慣を理解し、協調の機会を見極めなければならない。この課題がもっとも深刻に脅かされているのが太平洋諸島諸国においてだ。この地域への外交の優先順位を高め、支援を強化しなければ、フィリピンからハワイに至る太平洋地域全体でアメリカは中国に立場を譲り続けることになる。

  • 資本主義の衝突
    「民衆の資本主義」か「金権エリート資本主義」か

    ブランコ・ミラノヴィッチ

    Subscribers Only 公開論文

    グローバル経済の未来を左右するのは、資本主義と他の経済システムの競争ではなく、資本主義内の二つのモデル、つまり、「リベラルで能力主義的資本主義」と「政治的資本主義」間の競争だろう。リベラルな資本主義が「民衆の資本主義」へ進化し、拡大する格差問題にうまく対処しない限り、欧米のシステムは、社会主義ではなく、中国型の政治的資本主義に近づき、金権政治的になっていくだろう。格差を是正し、民衆の資本主義への進化を実現するには、中間層により大きな金融資産の保有を促す税インセンティブを与え、超富裕層の相続税を引き上げ、公教育の質を改善し、選挙キャンペーンを公的資金でカバーできるようにしなければならない。そうしない限り、政治的資本主義同様に、排他的な少数で構成される特権階級の家庭が、将来に向けて永遠にエリートを再生産していくようになる。

  • 終末期を迎えた資本主義?
    もはや民主政治では資本主義を制御できない

    マーク・ブリス

    Subscribers Only 公開論文

    資本主義と民主主義の緊張と妥協が相互に作用することで、これまで政治と経済のバランスが形作られてきた。民主体制のなかで、労働保護法や金融規制の導入、社会保障制度の拡大が実現することで、市場の猛威は緩和されてきた。こうして労働者は労働搾取を試みる資本家を抑え込み、企業は労働者の生産性を高めるための投資を重視するようになった。これが戦後における成長のストーリーだった。しかし「いまや政府は戦後の税金を前提とする国家から、債務を前提とする国家へと変貌している」。この変化は非常に大きな政治的帰結を伴った。政府債務の増大によって、国際資本が、各国の市民の望みを潰してでも、自分たちの意向を各国政府に強要する影響力をもつようになったからだ。格差が拡大し、賃金が停滞する一方で、政府は、資金力豊かな金融機関が問題の兆候を示しただけで救済の対象にするようになった。こうして市民たちは、いわゆる調整コストを運命として受け入れるのを次第に嫌がるようになった。・・・

  • 人口減少と資本主義の終焉
    われわれの未来をどうとらえるか

    ザチャリー・カラベル

    Subscribers Only 公開論文

    ゼロ成長やマイナス成長の社会ではいかなる資本主義システムも機能しない。その具体例が、高齢化し、人口が減少している日本だ。人口の成長がゼロかマイナスの世界では、おそらく経済成長もゼロかマイナスになる。人口規模の小さな高齢社会では消費レベルも低下するからだ。既存の金融・経済システムが覆されることを別にすれば、これに関して、本質的な問題はない。今後、人口比でみれば、十分な食糧が供給され、潤沢に商品が出回るようになるかもしれない。気候変動への余波も緩和されるだろう。だが、資本主義はうまくいってもぼろぼろになり、悪くすると、完全に破綻するかもしれない。今後、世界の人口が減少してゆけば、経済成長は起きるだろうか。この設問にどう応えるかの準備ができていないだけでなく、どう答えるかさえ考え始めていない。これが世界の現実だ。

  • 北京の泥棒男爵たち
    中国の金ピカ時代

    ユエン・ユエン・アン

    Subscribers Only 公開論文

    この40年で、中国の政治腐敗は構造的に変化し、窃盗型から(特権を手に入れるための)アクセスマネー型へ変化した。資本家の利益に見合う動きをする政治家には報酬が与えられ、特権を買った資本家は私腹を肥やす。要するに、中国はいまや金ピカ時代のさなかにある。縁故資本主義の危険性に気づいている習近平は、政治腐敗が少なく、平等性が高い中国バージョンの革新主義時代を実現しようと、冷酷に強制力を用いている。だが、本当の改革とは、このような形では定着しない。むしろ、強制力を用いた上からの改革は、現在の問題を解決するカギとなる「下からのエネルギー」を抑え込んでしまい、結局は事態をさらに悪化させる。それにしても、なぜ「政治的に腐敗している国は貧しい」というトレンドを、中国は回避できているようにみえるのか。・・・

  • 縁故資本主義と中国の政治腐敗
    共産党は危機を克服できるか

    楊大利(ヤン・ダリ)

    Subscribers Only 公開論文

    90年代以降、中国共産党が行政の分権化を進めた結果、地方政府のトップはかなりの自己裁定権をもつようになった。こうして地方官僚が個人的利得のために、国の資産と資源を用いる政治腐敗の無限大の機会が誕生した。安月給の役人が上司に賄賂を渡して、「おいしい」ポジションにつけてもらう巨大な売官市場も存在する。これには賄賂の「元手」が必要になるために、その影響は多岐に及び、しかもスキームに関わる誰もが、最終的に、自分の投資に対する見返りを期待する。この政治腐敗のネットワークが軍、司法、さらには中央の規制当局にまで及んでいる。共産党時代を超えて縁故資本主義が続き、中国の未来を不安定化させることになるのか。それとも、共産党はいつもの柔軟性と復元力を発揮するのか。見方は分かれている。・・・

  • 太平洋の断層線
    高まる中国の影響力

    チャールズ・エデル

    Subscribers Only 公開論文

    2022年4月、ソロモン諸島は「中国との安全保障協定を締結した」と発表し、5月後半には中国の王毅外相が同様の協定を取りつけようと太平洋の他の島嶼国を訪問した。しかも、ソロモン諸島との協定は「社会秩序を維持する」要請を受けた場合、中国は警察や軍を派遣できるとされている。こうした協定は中国軍の影響圏を拡大して、海上交通の要衝へのアクセスを与えることになる。こうして、太平洋諸島はグローバルな地政学的競争に引きずりこまれ、この地域の安全保障が損なわれる恐れがある。アメリカと同盟国は目を覚ますべきだ。北京がこれ以上、太平洋全域に軍事的プレゼンスを拡大するのを阻止するには、従来のアプローチを早急に見直す必要がある。・・・

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