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2024年10月10日発売

フォーリン・アフェアーズ・リポート
2024年10月号

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フォーリン・アフェアーズ・リポート2024年10月号 目次

知識は国力なり

  • 知識と技術が国を支える
    ナレッジパワーと国家パワー

    ゾンユアン・ゾー・リュー

    雑誌掲載論文

    いまや、国のパワーの基礎を支えるのは「経済成長、科学的発見、軍事的ポテンシャルを劇的に強化できる知識や(AIなどの)技術」であることが多い。だが、こうした資産は、無形であること、そして、部門や国を超えて広がりやすいために、ひとたび「世に出る」と政府が管理するのは難しくなる。敵に対してアルゴリズムの返還を求めることはできない。あるいは、中国のバイオエンジニアに博士研究員としてアメリカで得た知識を返せとも言えない。知識は究極の携帯型兵器なのだ。われわれは、知識とテクノロジーが原動力となる現代の世界で、国家パワーの構成要因が何で、それをいかに育み、応用していくかを考え直す必要がある。

  • 高技能外国人材と経済成長
    技術系人材を確保するには

    デベシュ・カプール、ミラン・ヴァイシュナヴ

    雑誌掲載論文

    この数十年にわたって、ワシントンの政治家たちは不法移民の管理とコントロールに執着してきたが、いまや、合法的な移民、それも高度技能をもつ外国人材に同じ程度の関心を払う必要があるだろう。世界的な人材獲得競争で成功したいのなら、時間的猶予はほとんどない。ワシントンは、サプライチェーンのレジリエンスを高め、新興技術部門で中国を打ち負かすという野心的な計画をもっている。だが、これらの目標を有意義な時間枠で達成するには、現在の米労働力に不足している、高度なスキルをもつ人材プールが必要になる。より柔軟で適応性のある移民政策なしでは、うまく考案された計画も結果にたどり着けない。

  • イノベーションと社会
    何が社会と技術の関係を規定するのか

    ダイアン・コイル

    Subscribers Only 公開論文

    人が技術をどのように理解するか、つまり新しい発明の役割についてどのようなストーリーを描くかによって、その技術がどのような結果をもたらすかも左右される。新技術が人間の労働を補助するために使われるのか、それとも人間の労働に取って代わるのかによって、雇用や所得に与える影響は大きく違ってくる。おそらく現時点でもっとも重要なことは、技術の進歩によってもたらされる新たな経済的利益は、国や労働組合のような社会組織がハイテク企業の市場パワーへの対抗バランスを提供できる場合にのみ、広く共有されていくということだ。逆に言えば、人々が新しいテクノロジーの前で無力化するとすれば、そうなることを社会が認めた場合ということになる。

  • イノベーション・パワー
    テクノロジーが地政学の未来を決める

    エリック・シュミット

    Subscribers Only 公開論文

    イノベーション・パワーとは、新技術を発明し、採用し、適応させる能力のことで、国家のハードパワー、ソフトパワーの双方に貢献する。大国間競争の結果を左右するのも、「より迅速かつ適切に技術革新を実現する能力」に他ならない。現状では、アメリカがイノベーション・パワーをリードしているが、多くの分野で中国が追い上げてきており、すでに先行している分野もある。ワシントンは、イノベーションを促す条件を整え、技術革新の好循環を作り出すために必要とされるツールと人材に投資しなければならない。「イノベーションか、さもなければ死か」。シリコンバレーでよく使われるこのフレーズは、ビジネスだけでなく、地政学についても当てはまる。

  • イノベーションと起業家
    その虚構と実像

    ジェームズ・スロウィッキー

    Subscribers Only 公開論文

    優れたイノベーションは優れたアイディアだけでなく、そのアイディアを基に実際に人々が利用するモノを作り出し、それを人々に届ける道筋を特定することで実現する。つまり、イノベーションを突き動かすエンジンは、個人の傑出した才能よりも、チームワークなのだ。イノベーションには、様々な分野の多様な専門家で構成される強いチームの存在が必要だ。最近ではイノベーションの停滞という言葉も聞かれ、その理由を起業家の野心が小ぶりになっていることに求める投資家もいる。いまやスタートアップ企業の多くは、誰もがやっていることを試み、自分たちの方が少しばかり他者よりも優れていればと期待する程度だ。起業家は「豊かになるために何が必要か」だけでなく、「どのような人生を送りたいか」を考える必要がある。数あるアプリの一つを開発したかっただけなのか、それとも、社会を変えるような大きな何かを考案するのか。・・・

  • ロボットか労働者か
    少子高齢化時代の労働力

    ラント・プリチェット

    Subscribers Only 公開論文

    先進諸国では出生率の低下と教育水準の向上によって、単純労働を担う労働力がひどく不足している。企業は負担できる人件費で労働者をみつけるのに苦労し、この人材不足が、不必要なオートメーションやその他の技術による解決策を求めるように企業を駆り立てている。だが、ヒトが簡単にこなせる労働タスクを代替する機械(技術)を作ろうとするのは、資本の浪費にすぎない。要するに、労働者の国境を越えた移動を阻む移民規制が、資源を間違った技術開発へ向かわせていることになる。先進国は、少子化が作り出す労働力不足を認識し、より多くの外国人労働者が国内で働けるようにしなければならない。外国人労働者が必要とされる場所に移動できるようにすることで得られる経済的・人道的利益に目を向けるべきだろう。

  • いかに先進国は知識労働者を移民として魅了できるか
    ドイツのジレンマ

    タマール・ジャコビー

    Subscribers Only 公開論文

    19世紀に大国が領土と天然資源をめぐって競い合ったように、現代の大国はブレインパワー、つまり国際経済のエンジンとなる科学者や技術者、起業家、有能な経営者を求めて競い合っている。先進国は高度な知識とスキルを持つ外国の人材を必要としているが、各国の市民は外国人が持ち込む異質な文化を受け止められるかどうかを確信できずにいる。ドイツは、今後先鋭化してくる労働力不足問題を認識していながらも、変化を受け入れる準備ができていない。移民の社会的同化を促進する制度もうまく整備されているとはいえない。それでも、ドイツが他の国々よりも早く問題に気づいて対策を検討していることは事実だし、この点を、外国の有能な人材も考慮することになるだろう。

  • Review Essay
    移民を受け入れるべきか規制すべきか
    移民と経済と財政

    マイケル・クレメンズ、ジャスティン・サンドファー

    Subscribers Only 公開論文

    移民は基本的に社会モデルが機能しなくなった国から逃れてくる。この事実を踏まえて、その影響をよく考えるべきで、「移民を無制限に受け入れれば、ある時点で受入国と移民出身国の双方にマイナスの影響が出るようになる」と考える研究者もいる。一方、労働市場を移民に開放すると、労働力の供給が拡大するだけでなく、投下資本利益率が上昇して経済成長を加速し、労働需要が高まり、移民だけでなく受入国の住民の生活水準も改善すると考える研究者もいる。実際、移民が受入国の財政にプラスの影響をもたらすことを示す研究は数多くある。経済協力開発機構(OECD)が2013年に27カ国を対象に実施した調査によると、移民が受入国の国庫にもたらす金額は、彼らが受け取る社会保障給付よりも一世帯当たり平均4400ドルも多い。問題は、移民論争がとかく感情的で十分な裏付けが示されないまま、過熱してしまうことだ。

同盟関係と地政学

  • 同盟諸国とのトラブル
    気難しいパートナーといかに付き合うか

    リチャード・ハース

    雑誌掲載論文

    「友好国や同盟国との立場の違いをいかに管理するか」。この問題へのワシントンの考えはあまり整理されていない。例えば、イスラエルやウクライナのように、ワシントンに依存しながらも、その助言に抵抗することも多い相手に、どのように対処するのが最善なのか。説得、インセンティブ供与、制裁、見て見ぬふり、そして単独行動と、そこにはさまざまなアプローチがある。これらをどう使い分けるか、体系的なアプローチをとる必要があるし、「自国の利益を守りつつ、貴重な同盟関係の断絶を避ける」ために、ときには、相手を批判し、単独行動をとる覚悟をもたなければならない。

  • アメリカは東南アジアを失うのか
    中国へなびくアセアン諸国

    リン・クオック

    雑誌掲載論文

    東南アジアを対象とする2024年の調査で、この地域の連携パートナーとして中国がアメリカよりも支持されるという初めての結果がでた。アメリカがイスラエルを強く支持していることが、中国に有利な方向に流れを変えた大きな要因と考えられる。イスラム教徒が多数派を占める東南アジアの3カ国すべてで、台湾ではなく、イスラエルとハマスの紛争が地政学上の最大の懸案に選ばれている。米外交にはダブルスタンダードがあり、中国に関する利己的な目標をもっているというイメージも、アメリカの立場への支持拡大を妨げている。失った地域的支持をワシントンが取り戻していくのは容易ではない。

  • イスラエルはどこに向かうのか
    ネタニヤフとの決別を

    エフード・バラク

    Subscribers Only 公開論文

    ガザの戦後をめぐって、ネタニヤフがワシントンの計画を受け入れれば、極右の連立パートナーの支持を失い、政権は崩壊するだろう。一方、バイデンの計画を拒否し続ければ、ガザの泥沼に深く引きずり込まれる。この場合、西岸で第3次インティファーダが誘発され、イランが支援するレバノンのヒズボラと再び戦争に突入するだろう。しかも、アメリカとの関係が大きく損なわれる危険がある「アブラハム合意」も不安定化し、サウジアラビアがこの合意に参加することへの期待も遠のく。ネタニヤフがイスラエルを長い地域戦争へ導き、おそらく米政権とイスラエル市民を欺くのを防ぐには、総選挙を実施するしかない。われわれはどこに向かっているのか、誰がわれわれをそこに導くのかを市民が決められるようにする必要がある。・・・

  • 国益と自由世界擁護の間
    ウクライナとアメリカの国益

    ロバート・ケーガン

    Subscribers Only 公開論文

    オバマ大統領(当時)は、「ウクライナは、アメリカよりもロシアにとって重要であり、同じことは中国にとっての台湾についても言える」と何度も語っている。一方で、第一次世界大戦、そして第二次世界大戦から今日までの80年間、アメリカがそのパワーと影響力を行使して自由主義の覇権を擁護し、支えてきたのも事実だ。ウクライナの防衛も、アメリカではなく、自由主義の覇権を守ることが目的なのだ。「アメリカはウクライナに死活的に重要な利益をもっている」とみなす米議員たちの発言は、ウクライナが倒れれば、アメリカが直接脅威にさらされるという意味ではない。(関与しなければ)「リベラルな世界秩序が脅かされる」という意味だ。アメリカ人は、再び世界はより危険な場所になったとみなし、紛争と独裁に支配される時代に向かいつつあるとみている。

  • アメリカはアラブ世界を失いつつある
    アラブストリートの信頼を勝ち取るには

    マイケル・ロビンス、マニー・ジャマル、マーク・テスラー

    Subscribers Only 公開論文

    アラブ世界で反米感情が急激に高まっている。イスラエルがガザで軍事作戦を始めて以降、ヨルダンでは、アメリカを好意的にみなす人の割合が、2022年の51%から、最近実施された調査では28%に激減している。国内での反米感情の高まりゆえに、アラブの指導者で、ワシントンに協力しているとみなされたいと考える者はほとんどいない。アメリカのアナリストは、アラブ民衆の声は、米外交政策にはあまり関係してこないと軽くみているが、「アラブの指導者は世論に左右されない」という考えは神話にすぎない。アラブ市民のアメリカへの信頼を取り戻さない限り、アラブの指導者たちは対米協調を避け、アラブとイスラエルの国交正常化もイラン封じ込めも遠のき、中国を含むアクターがこの地域で台頭してくることになるだろう。

  • ザ・アリーナ
    米中対立と東南アジア

    ビラハリ・カウシカン

    Subscribers Only 公開論文

    中国の国家規模と経済の重みが東南アジア諸国の不安を高め、習近平国家主席の強引な外交路線がそうした感情をさらにかき立てている。しかし、こうした不安もアジア最大のパワーとの政治的、経済的つながりを維持していく必要性とともに、バランスよくとらえなければならない。「中国かアメリカか」、いずれか一つとの排他的な関係を選べる国は東南アジアには存在しない。アメリカが中国に対してあまりにも強引なスタンスをとれば、事態が紛糾するのではないかという地域的懸念を高め、あまりにも控えめな態度をとれば、見捨てられるのではないかと不安になる。だが「国家は競争する一方で、協力することもできる」。これこそ基本的に東南アジアがアメリカと中国の関係に期待していることだ。

  • 大国間競争とアセアンモデル
    グローバルサウスでの中国の優位

    キショール・マブバニ

    Subscribers Only 公開論文

    米中間の地政学競争を前にした東南アジア諸国連合(ASEAN)の繊細でプラグマティックなアプローチは、グローバルサウス全体からモデルとみなされつつある。グローバルサウスのほとんどの国にとって、最大の関心は経済発展であり、ASEAN同様に、北京とワシントンのどちらか一方に与することは望んでいない。ゼロサムではなく、政治的な立場の相違を超えて、すべての国と協力するプラグマティックな「ポジティブサム」のアプローチの方が、グローバルサウスでは温かく受け止められる。アメリカが、自国と似た考えをもつ政府としか協力しないのなら、ほとんどの国が異なる世界観をもつグローバルサウスからは締め出されることになる。・・・

  • 国家安全保障というブラックホール
    あらゆるものが国家安全保障に

    ダニエル・W・ドレズナー

    雑誌掲載論文

    さまざまなアジェンダを国家安全保障問題に加えようとする圧力は大きい。だが脅威リストを拡大するだけでは、予期せぬ事態に備えることはできない。米同時多発テロ、コロナ禍はその具体例だ。何が国家安全保障問題で、なにがそうでないかについて、もっと慎重な議論をしなければ、ワシントンは、そのリソースを広範な問題に薄く分散させてしまう恐れがある。2025年1月に大統領として宣誓する人物が誰であれ、国家安全保障の原則を考慮して、その定義を適正なサイズに戻すべきだ。そうしない限り、政策立案者は、すべてに手を出して、すべてに失敗するパターンに陥る恐れがある。

民主主義の現状と課題

  • 選挙と民主主義
    選挙年と有権者の選択

    フランシス・フクヤマ

    雑誌掲載論文

    選挙が提供するのは、政策上の失敗に対する指導者の責任を問い、成功したとみなされる指導者に報いる機会だ。選挙が危険になるのは、単に疑わしい政策を押し付けようとするだけでなく、自由で民主的な基本制度を弱めることを望み、実際に弱体化させる指導者が台頭したときだ。民主主義が衰退していると考えるリベラル派の多くは、この流れを覆すために何かできることはないかと問いかけている。実際には、この問いへの答えは単純で退屈なものだ。仲間とともに投票にいくか、あるいは、もっと積極的に行動したいのなら、民主的な政治家が選挙で勝利できるように、立場を共有する人々を動員するために活動することだ。「選挙の年」の結果からくみ取るべき教訓は、ポピュリストや権威主義的政治家の台頭は必然ではないということだ。

  • 気候変動と民主主義
    異常気象と選挙

    カレン・フロリーニ、アリス・C・ヒル

    雑誌掲載論文

    いまや選挙の障害を作り出しているのは、偽情報、外国政府による干渉、選挙結果の改ざんだけではない。気候変動が引き起こす異常気象もそうだ。ハリケーン、洪水、山火事、熱波などさまざまな災害によって、有権者は選挙権をますます行使しにくい環境に直面している。カナダは、2023年の森林火災で地方選挙の実施に手間取り、パキスタンは2022年の国政選挙前に、国土の3分の1が洪水で覆われる事態に陥った。投票所、IDカード、通信ネットワークが被害を受け、破壊されても、投票という民主主義の基本的権利を市民が行使できるような対策をとる必要がある。

  • キケロ兄弟の選挙戦術
    現代に生きる古代ローマの知恵と戦術

    クィントゥス・トゥッリウス・キケロ

    Subscribers Only 公開論文

    候補者となった以上、あなたに好意をみせる人、あなたの仲間になりたいと考える人はすべて友人です。一方、家族そしていつもあなたの近くにいる人々には注意が必要です。悪い噂の大元は家族や友人たちであることが多いものです。・・・相手に好意を持っていることをあなたが示すことで、彼らがあなたに抱く敬意をさらに高めることができます。・・・あなたの立場を代弁してくれる人々を探すのです。・・・社会集団の指導者との接触を試み、(一方で)・・・元気な若者たちをあなたの支持者にすれば、非常に大きな力になってくれます。・・・市民がもっとも強い印象を受けるのは、候補者が自分のことを覚えてくれることです。毎日、人々の顔と名前を一致させることを練習すべきです。そして決してローマを離れてはいけません。・・・キャンペーンでもっとも大切なのは、人々に希望を与え、あなたに好感を抱かせることです。有権者に強い印象を与えるには、彼らのことを理解し、愛想良く優しく接し、自分をアピールし、誰とでも会い、決して諦めないことです。

  • 民主国家で台頭する二つの権威主義
    選挙権威主義と非自由主義的民主主義の脅威

    ダン・スレーター

    Subscribers Only 公開論文

    民主主義が劣化していくにつれて、権威主義化していく。特に、選挙で勝利を手にするためなら何でもする「選挙権威主義」体制、そして選挙後に支配者が法を無視して思うままの行動をとるようになる「非自由主義的民主主義」が主流になっていくだろう。例えば、超法規的殺人を特徴とする麻薬戦争を展開しているフィリピンのドゥテルテは、選挙で選ばれたが、権力を乱用している。(権力を思うままに行使して)非自由主義的民主主義を実践しているトランプも同様だ。より厄介なのは、選挙で有利になるように、ゲリマンダー、議員定数の不均衡などのあらゆる政治制度上のトリックを利用しているマレーシアの統一マレー国民組織(UMNO)と米共和党が似てきていることだ。選挙に破れても首相を送り込んだUNMO同様に、米共和党も、一般投票では敗れつつも、最近の2人の共和党大統領候補をホワイトハウスに送り込むことに成功している。・・・

  • 右派の台頭とヨーロッパの未来
    仏独の政治的混乱と欧州連合

    マティアス・マタイス

    Subscribers Only 公開論文

    最近の欧州議会選挙ではリベラル派政党への支持が落ち込み、はっきりとした右傾化がみられたが、それでも、欧州連合の政策に右派が直接的な影響を与える政治連合を形成できるほどの勝利ではなかった。議会では依然として親ヨーロッパの中道勢力が多数派を占めている。むしろ、最大の衝撃はメンバー国の国内政治レベルに認められる。特に独仏で極右政党、中道右派政党が台頭したために、マクロンもショルツも国内政治に足をとられ、ヨーロッパでこれまでのようなリーダーシップを発揮できなくなるかもしれない。ヨーロッパは、今後の統合の方向性について不確実で不安定な時代を迎えるのかもしれない。

  • トランプが権力に返り咲けば
    「アメリカ・ファースト」が導く無秩序

    ハル・ブランズ

    Subscribers Only 公開論文

    トランプは、ヨーロッパやアジアの小国を守るために、なぜアメリカが第三次世界大戦を引き起こす危険を冒さなければならないのかと問いかけている。アメリカの利益が危機にさらされているときには、積極策をとるべきだと考えているが、その利益にアメリカが長年維持してきたリベラルな秩序が含まれるとは彼は考えていない。リベラルな秩序が崩壊すれば、アメリカも最終的には、より無秩序な世界で苦しむことになる。だが、現在からその時がやってくるまでに、他のすべての国がより大きな代価を支払うことになるだろう。

  • 気候変動で慢性化した異常気象
    そのダメージとコストに対処するには

    ケイト・ゴードン、ジュリオ・フリードマン

    Subscribers Only 公開論文

    気候変動に派生する異常気象が引き起こす災害への対応コストは膨れあがり、いまや短期的な緊急対応能力だけでなく、長期的な投資や経済成長も脅かされつつある。しかも、異常気象は1度きりの出来事ではなく、いまや慢性化しており、これを管理していくには、現在の政策決定者の気候変動に対する捉え方とはまったく異なるアプローチが必要になる。すでに気候変動のインパクトを前に、企業は工場を移動させ、ビジネスモデルを見直し、国防総省は、海面水位の上昇が慢性化していることのリスクを認め、今後10年間で海軍基地に対するリスク管理と適応のための計画をまとめている。異常気象が、一過性の風邪ではなく、慢性疾患化していることを認識した上で、それに即した計画で備える必要がある。

  • 異常気象への適応戦略を
    もはや排出量削減だけでは対処できない

    アリス・ヒル

    Subscribers Only 公開論文

    ハリケーンから洪水、干ばつ、山火事、そして土砂崩れに至るまで、気候変動が誘発する異常気象が世界各地で大きな破壊を引き起こしている。温室効果ガスの排出を削減するだけでは、もはや気候変動の悪影響を食い止めることはできない。異常気象が引き起こす災害に備える適応戦略が必要だ。気候変動が人命、家、雇用を奪う段階にすでに入っているし、異常気象災害からの復旧が強いる財政負担の肥大化を抑えるためにも、気候変動適応戦略を策定する必要がある。ワシントンは気候変動に対する国の脆弱性や共有する優先課題を特定し、政府のあらゆるレベルでの意思決定に気候変動リスクを組み込む必要がある。

グローバルサウスの課題

  • インド資本主義の構造的危機
    自由化、縁故主義、改革

    ヤミニ・アイヤール

    雑誌掲載論文

    1991年以降のインドには、「経済自由化の促進」という大きな方向性については社会的・政治的コンセンサスがある。それでも、失業や格差など、民衆の経済に対する不満は大きく、2024年の総選挙は、インド経済の欠陥と30年にわたる経済自由化の果てに、この国の資本主義が人々に信頼されず、危機に直面していることを際立たせた。インド政治における縁故主義や汚職のまん延がなくならないだけに、政治家が資本主義のダイナミックな姿を示すのは難しいのかもしれない。フォーマル経済と企業集中が一定の成長をもたらすとしても、このまま民衆の多くが取り残され、格差が拡大する現状が続けば、インドは、大きな混乱に直面することになるかもしれない。

  • 途上国を債務危機から救うために
    アフリカのポテンシャルを開花させるには

    マーク・スズマン

    雑誌掲載論文

    2022年3月、米連邦準備制度理事会(FRB)が米国債の金利を引き上げると、低所得国の通貨は下落し、資本市場へのアクセスを失った。サハラ以南のアフリカでは、19カ国がデフォルトに陥るか、そのリスクに直面している。しかも、低所得国が直面している問題は、無分別な借金の結果ではなく、気候変動が引き起こしたショック、パンデミック、そして戦争の結果なのだ。低所得国を債務危機から救い出し、世界的な成長を回復させるために、先進諸国政府は、世界銀行への資金拠出を増やし、債務救済を強化していく必要がある。

  • インド経済の復活はあるか
    成長を抑え込む政策的矛盾

    アルビン・サブラマニアン、ジョシュ・フェルマン

    Subscribers Only 公開論文

    かつてはその経済的台頭が世界に注目されたインドも、パンデミックが広がるまでには、まるで、世界の経済地図から消え去ったかのように忘れ去られていた。だが2021年に流れは変わる。デジタルテクノロジー系スタートアップがブームに沸き返り、ユニコーンが毎月のように誕生した。こうして「インドは復活した」と考える人も出てきた。だが、そのポテンシャルを開花するには、政府はインドのビジネス・投資環境(ソフトウエア)を改革しなければならない。貿易障壁を引き下げ、世界のサプライチェーンへの統合拡大も目指すべきだ。安定した経済環境を構築・維持するために、政策立案過程そのものも改善する必要があるだろう。問題は、そのいずれも現実になる気配がないことだ。・・・

  • インドの台頭は必然なのか
    何がこの国を機能不全に追い込んでいるのか

    ミラン・バイシュナフ

    Subscribers Only 公開論文

    歴史的に、インドの分裂した政治がこの国の改革能力を抑え込んできたが、それも終わりつつあるのかもしれない。ナレンドラ・モディ首相率いるインド人民党(BJP)はいまや議会の過半数を獲得し、長年の懸案であった経済改革を推進するために必要な政治基盤を手に入れている。だがそれでも、この国はあまりに多くの問題を抱えている。多数派が影響力を高め、権力分立が形骸化し、メディアは口を封じられている。インドの都市のイスラム教徒地区はますますゲットー化し、女性が労働力に占める割合はごくわずかだ。政治腐敗が横行し、民主主義が理屈上は存在しても、実際にはほとんど実践されていない。「独立後75年を経たインドの民主主義と経済は、根本的に破綻している」とみる専門家もいる。

  • ナレンドラ・モディとインドの未来
    ヒンドゥー・ナショナリズムの長期的帰結

    ラーマチャンドラ・グハ

    Subscribers Only 公開論文

    宗教的・言語的少数派の権利を尊重し、個人と国家、中央と地方の権利のバランスをとろうとする繊細な試みによって、インドは統一と民主政治を維持し、貧困と差別という歴史的重荷を着実に克服してきた。だが、ナレンドラ・モディが具現するヒンドゥー・ナショナリズムはそうではない。ヒンドゥー教徒に恐怖心を抱かせることで、一丸となって行動させ、最終的には非ヒンドゥーのインド市民を支配することを目的としている。モディ政権は宗教や地域間の対立を和らげるどころか、むしろ激化させ、インド社会の混乱をさらに深めることになるだろう。選挙は実施されるが、民主制度の空洞化によってインドは名ばかりの民主国家となり、専制国家に近づきつつある。・・・

  • なぜ世界銀行は依然として必要か
    変化する世界と変貌する多国間組織

    ロバート・B・ゼーリック

    Subscribers Only 公開論文

    世界銀行を含む、国際機関はそのプロセスと議論にばかりエネルギーを奪われ、重要な活動効率をないがしろにしてしまうことが多い。とかくイニシアティブが抑え込まれがちな世界銀行のような多国間組織にとって、結果を重視する現実主義を持つこと、特に、結果を出すことのコミットメントを示すことが重要だ。結果を出すことで、組織としての士気が高まり、財的支援を確保できるようになり、説明責任と正統性も強化される。この5年間にわたって私が試みた世界銀行近代化の試みは、より大きな多国間主義を近代化する試みの一部だった。世界銀行の活動目的を「援助を超えた領域」へと引き上げ、「途上国の依存状況を克服すること」へと設定し直す必要がある。世界各国は現在の経済危機を克服して、「援助を越えた世界」を実現するための基盤を築く必要があり、この点からみても、世界は依然として世界銀行を必要としている。

  • アフリカ経済に注目せよ
    アフリカが左右するグローバル経済の未来

    ジャック・A・ゴールドストーン、ジョン・F・メイ

    Subscribers Only 公開論文

    今後20年間で、世界の大半の諸国は、若年人口や労働力の減少に直面するだけでなく、爆発的に増加する高齢者の介護を余儀なくされる。この近未来において、中国経済がこの40年にわたって世界経済で果たしてきた役割を今後担っていくのはどの国や地域なのか。意外にも、それがインドになる可能性は低い。世界が目を向けるべきは、むしろ、アフリカ大陸だ。国連の最新統計では、アフリカの人口は、死亡率の低下と出生率の上昇を背景に、現在の14億から2050年には25億に増加すると予測されている。中国、日本、韓国、ヨーロッパで若年労働力が激減していくなか、今後、グローバル経済の未来を左右するのは、豊かな労働力をもつアフリカ大陸になるだろう。

  • アフリカ経済と化石燃料
    持続可能な開発と貧困撲滅の間

    イェミ・オシンバジョ

    Subscribers Only 公開論文

    欧米系の大企業がアジアやヨーロッパ市場への輸出用にアフリカで天然ガス開発を続けているにもかかわらず、欧米政府は、アフリカ諸国が国内で使用するためのガスプロジェクトへの資金供給をストップしようとしている。気候変動と闘うには、すべての国が役割を果たす必要があるが、化石燃料からの離脱のタイミングについては、各国の経済レベルの違いを考慮し、ゼロ・エミッションを達成する道が一つではないことを認めるべきだ。安価で安定的に確保できる化石燃料エネルギーを犠牲にして、再生可能エネルギーへの移行がアフリカの途上国に強要されることがあってはならない。天然ガス資源は、アフリカの多くの国では人々を貧困から脱却させるために重要な役割を果たせる。

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