本誌一覧

2024年7月10日発売

フォーリン・アフェアーズ・リポート
2024年7月号

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フォーリン・アフェアーズ・リポート2024年7月号 目次

ドナルド・トランプの世界

  • トランプが権力に返り咲けば
    「アメリカ・ファースト」が導く無秩序

    ハル・ブランズ

    雑誌掲載論文

    トランプは、ヨーロッパやアジアの小国を守るために、なぜアメリカが第三次世界大戦を引き起こす危険を冒さなければならないのかと問いかけている。アメリカの利益が危機にさらされているときには、積極策をとるべきだと考えているが、その利益にアメリカが長年維持してきたリベラルな秩序が含まれるとは彼は考えていない。リベラルな秩序が崩壊すれば、アメリカも最終的には、より無秩序な世界で苦しむことになる。だが、現在からその時がやってくるまでに、他のすべての国がより大きな代価を支払うことになるだろう。

  • ヨーロッパが備える脅威の本質
    ドナルド・トランプと米欧関係の崩壊

    リアナ・フィックス、マイケル・キマージ

    Subscribers Only 公開論文

    トランプは、北大西洋条約機構(NATO)からの離脱を決断し、ウクライナを見捨て、プーチンとのパートナーシップを模索するかもしれない。だが、彼は決意に乏しく、無謀なアイデアを実行に移すことはめったにない。むしろ、大混乱をもたらす危険があるのは、トランプのビジョンよりも、気まぐれな性格だろう。道徳観念がひどく乏しく、世間の注目を集め、金儲けをし、あるいは権力と地位を高めるためなら何でもする。トランプは瞬く間に大西洋関係を破壊してしまうかもしれない。実際、アメリカのヨーロッパとの歴史的なつながりを破壊することを「勝利」として売り込めるのなら、トランプはそうするだろう。戦争をあまりにもよく知る大陸が、恒久的な平和でも、鉄のカーテンでもなく、再びカオスに包まれる未来は、決して幻想ではない。・・・

  • 次期米大統領と欧州
    なぜ欧州の自立が必要なのか

    アランチャ・ゴンサレス・ラヤ、カミーユ・グランド、カタジナ・ピサルスカ、ナタリー・トッチ、グントラム・ヴォルフ

    Subscribers Only 公開論文

    ヨーロッパの指導者たちは、バイデンなら、大西洋の絆を守り、混乱する大陸と近隣諸国にヨーロッパがより大きな責任を果たすための時間と支援を与えてくれると考えている。だが今後、そうした配慮は彼からも得られないかもしれない。もちろん、トランプ大統領が誕生すれば、2期目には、ヨーロッパが直面する不安定な状況はさらに悪化するかもしれない。だが、安全保障と経済を守るために行動を起こし、具体的な措置を講じることは、ヨーロッパの手に委ねられている。誰がワシントンで政権を担おうと、一貫したパートナーとしてアメリカを頼ることはもはやできないかもしれない。ヨーロッパの指導者たちは自分たちが成長しなければならないこと、つまり、アメリカへの依存度を低下させるべきことを理解している。

  • トランプと地政学
    変化し始めた同盟国と敵対国の立場

    グレアム・アリソン

    Subscribers Only 公開論文

    バイデンと彼の外交チームは厄介な状況に直面している。交渉相手国が、あらゆる問題をめぐって、1年後にはまったく異なる米政府を相手にしている可能性を考慮した上で、ワシントンの意向を判断し始めているからだ。ロシアを含む敵対国は、いずれ、ワシントンとよりよい条件で交渉できるようになるという期待から、現状での判断を先送りしている。一方、ヨーロッパ諸国などは、トランプが大統領に返り咲けば、より劣悪な選択肢に直面する可能性が高いと考え、それに応じた対応を進めている。実際、ウクライナに送る戦車や砲弾の数をめぐっても、「トランプが当選すれば、自国の防衛のためにそれらが必要になるのではないか」と考え込むヨーロッパの指導者もいる。・・・

  • アメリカは同盟国を本当に守れるのか
    拡大抑止を再強化するには

    マイケル・オハンロン

    Subscribers Only 公開論文

    尖閣諸島の防衛を約束しているとはいえ、中国は「価値のない岩の塊のためにアメリカが大国間戦争のリスクを冒すことはない」と考えているかもしれない。一方、ワシントンが信頼できる形で反撃すると約束しなければ、拡大抑止はその時点で崩壊し、尖閣の喪失以上に深刻な帰結に直面する。アメリカが何の反応も示さないことも許されない。これが「尖閣パラドックス」だ。今後の紛争は、大規模な報復攻撃を前提とする伝統的な抑止が限られた有効性しかもたない、こうしたグレーゾーンで起きる。中国とロシアの小規模な攻撃に対しては、むしろ、経済戦争、特に経済制裁を重視した対応を想定する必要がある。脅威の質が変化している以上、ワシントンは軍事力と経済制裁などの非軍事的制裁策を組み合わせた新しい抑止戦略の考案を迫られている。

  • 防衛力強化に踏み込んだ日本
    高まる脅威と日本の新安全保障戦略

    ジェニファー・リンド

    Subscribers Only 公開論文

    新国家安全保障戦略に即して、軍事予算を大幅に増額し、敵への報復攻撃を可能にする「反撃」能力を整備することで、日本は、これまでの路線から大きな転換を遂げようとしている。この路線を軍国主義とみなすのは、もちろん、間違っている。日本は世界をリードする責任ある地球市民国家だし、その安全保障政策は日米同盟をその基盤に据えている。軍国主義に乗り出すどころか、地域的脅威の高まりを前に、日本は大きなためらいの末に対応している。アメリカとそのパートナーからみれば、日本の新国家安全保障戦略は称賛に値する内容だ。巨大な経済・技術資源を有する平和国家が、地域安全保障への貢献を強化しようと動き出したことを意味する。・・・

  • さようなら、国際主義のアメリカ
    トランプ時代の歴史的ルーツ

    エリオット・A・コーエン

    Subscribers Only 公開論文

    トランプの「アメリカ第1主義」は、外交の初心者が犯した間違いではなく、アメリカのリーダーたちが戦後外交の主流概念から距離を置きつつあるという重要な潮流の変化を映し出している。先の大戦期及びその直後に成人した世代は、アメリカが世界をリードしなければ、いかに忌まわしい世界が出現するかを本能的に理解していた。これは、戦争で苦しんだ末に得た教訓だった。しかし、この世代の多くが亡くなり、具体的に秩序を形作った子どもの世代も少なくなってきている。これが、今後の米外交政策にもっとも重要な帰結を与えることは間違いない。トランプが大統領の座を退いても、「アメリカのリーダーシップなき世界」がどのような末路を辿るかを知る人々が支えたかつてのコンセンサスへアメリカが回帰していくことはない。残念ながら、不幸な結果を記憶している人々はもうすぐいなくなる。

  • トランプ2・0の時代
    同盟国に恐怖を、ライバルに希望を

    ダニエル・W・ドレズナー

    Subscribers Only 公開論文

    アメリカの同盟諸国は、ドナルド・トランプが2020年後半のレームダック状況のなかで、世界から米軍を撤退させることを計画していたことを忘れてはならない。彼が敗北することが明らかにならない限り、そして実際にそうなるまでは、トランプがもたらす脅威を軽くみるのは間違っている。ロシアや中国の政府高官は、トランプの再選を望んでいる。ロシアにとっては、トランプの再登板は、ウクライナへの欧米の支援が低下することを意味し、中国にとっては、北京を懸念する日本や韓国といった国々とアメリカの同盟関係に綻びが生じることを意味するからだ。・・・

  • トランプ現象とアメリカの政治文化
    ヘンリー・フォードとトランプ

    マイケル・カジン

    Subscribers Only 公開論文

    トランプ現象は、アメリカの歴史・文化における三つの潮流が合流したものとして理解するのが適切だろう。反移民の社会文化やポピュリストの伝統、そして財界の裕福なパフォーマーを待望する伝統だ。つまり、トランプの魅力も、彼の出馬が国内外で引き起こす恐怖も、アメリカの政治文化の奥底に流れる衝動から生じている。誰もが名前を知っている金持ちが、民衆の多くが恐れるか不信感をもつ人々をバッシングし、国のあらゆる問題を解決するという漠然とした約束をする。こうしたトランプの行動は、彼のファンや批判者の多くが考えるほど目新しいものではない。逆に言えば、トランプが表舞台を去った後も、大げさな演説の才があり、守るべき政治的実績のない、裕福なパフォーマーが同じような役目を担うことになるのかもしれない。

  • 同盟諸国との連携強化を
    相互運用性を強化するには

    トーマス・G・マンケン

    雑誌掲載論文

    アメリカは現在、ヨーロッパでウクライナ戦争、中東でイスラエルの戦争に関わっており、今後、東アジアで台湾や韓国をめぐって三つ目の戦争に直面する可能性もある。たとえ世界最強の国であっても、主要な戦争を単独で戦うことはできない。ワシントンは、より多くの軍事物資、兵器を生産して、基地を確保し、それらを同盟諸国と共有していく必要がある。パートナーとともに戦うためのより良い軍事戦略を策定する必要もある。そうしない限り、ますます能力を高め、連携を深める敵に圧倒される危険がある。

変化するヨーロッパ

  • 右派の台頭とヨーロッパの未来
    仏独の政治的混乱と欧州連合

    マティアス・マタイス

    雑誌掲載論文

    最近の欧州議会選挙ではリベラル派政党への支持が落ち込み、はっきりとした右傾化がみられたが、それでも、欧州連合の政策に右派が直接的な影響を与える政治連合を形成できるほどの勝利ではなかった。議会では依然として親ヨーロッパの中道勢力が多数派を占めている。むしろ、最大の衝撃はメンバー国の国内政治レベルに認められる。特に独仏で極右政党、中道右派政党が台頭したために、マクロンもショルツも国内政治に足をとられ、ヨーロッパでこれまでのようなリーダーシップを発揮できなくなるかもしれない。ヨーロッパは、今後の統合の方向性について不確実で不安定な時代を迎えるのかもしれない。

  • ヨーロッパの社会分裂
    都市と農村の格差と政治

    マリー・ハイランド、マッシミリアーノ・マスケリーニ、ミシェル・ラモン

    雑誌掲載論文

    農村住民は、政策立案はトップダウンで「政府は自分たちのニーズを認識していない」と不満を強めている。この10年で農村と都市部の所得・雇用格差が拡大したこと、さらには、食料品や燃料など多くの必需品価格を上昇させている最近の生活コスト危機も農村部の不満を助長している。これがヨーロッパ各国の社会的結束を弱め、極右ポピュリズムが支持される肥沃な土壌を提供している。農村部住民の要求や必要性に配慮し、意思決定プロセスにこうした住民を参加させる必要がある。農村と都市の分裂を有意義な形で埋めれば、欧米の多くの社会が現在抱えている社会的緊張を和らげる助けになる。

  • 引き裂かれたヨーロッパ
    多数派のアイデンティティ危機

    エリック・カウフマン

    Subscribers Only 公開論文

    ヨーロッパの政治的主流派が移民受け入れを支持し、嫌がる市民にこの不人気な政策を押し付けようとしたことが、右派ポピュリストに力を与えた。しかし、本当の問題は、欧米の民族的多数派である白人が、移民流入による大きな社会的変化を前に、国と自分たちの共同体のつながりが希薄化していると感じ、割り切れぬ思いを抱いていることにある。移民を受け入れる国家の建設を目指し、民族的多数派の立場を控えたがゆえに、皮肉にも、保守派にとって多数派の民族的アイデンティティがより重要になった。すでに主流派の政治家も立場を見直し、メルケル独首相さえも、多文化主義は「完全に失敗した」と表明している。イスラム教徒を固定観念で捉えるのは間違っている。一方で、白人層の割り切れぬ思いにも耳を傾けなければならない。ここからどのように未来を描くかが問われている。

  • マリーヌ・ルペンとの対話
    フランスの文化、独立と自由を取り戻す

    マリーヌ・ルペン

    Subscribers Only 公開論文

    「フランスは、欧州連合(EU)の一部であるときより、独立した国家だったときの方がパワフルだったと私は考えている。そのパワーを再発見することを望んでいる。EUは段階的に欧州ソビエト連邦のような枠組みへと姿を変えつつある。EUがすべてを決め、見解を押しつけ、民主的プロセスを閉ざしている。・・・メルケルは次第に自分がEUの指導者だという感覚をもつようになり、その見方をわれわれに押しつけるようになった。・・・私は反メルケルの立場をとっている。テロについては、移民の流れを食い止める必要があるし、特に国籍取得の出生地主義を止める必要がある。出生地主義以外に何の基準もないために、この国で生まれた者には無条件で国籍を与えている。われわれはテロ組織と関係している二重国籍の人物から国籍を取り上げるべきだろう。・・・・」 (聞き手 スチュアート・レイド Deputy Managing Editor)

  • 穏健化した欧州の右派ポピュリズム
    民主主義が勝利する歴史的理由

    シェリ・バーマン

    Subscribers Only 公開論文

    「過激主義の政治集団が民主主義の大きな脅威になるかどうかは、それが登場した社会の本質に左右される」。民主主義の規範と制度が社会に力強く定着している社会では、反民主主義や過激主義をいくらアピールしても支持者はほとんど得られないために、急進派は穏健化せざるを得なくなる。効率的に民意を汲み取れる民主的社会において、反民主主義や急進主義が受け入れられる余地がほとんどないことは歴史が裏付けている。この状況下では、急進派は周辺化を受け入れるか、穏健化するかどちらかを選ばざるを得なくなる。戦後、共産党がたどった軌道、穏健化を選んで台頭した「イタリアの同胞」、「スウェーデン民主党」などの右派ポピュリスト政党の軌道は、まさにこの歴史的流れを裏付けている。問題は、アメリカ政治が逆方向に向かっていることだ。

  • 変化したグローバルな潮流
    多極化時代の新冷戦を回避するには

    オラフ・ショルツ

    Subscribers Only 公開論文

    ツァイテンヴェンデ(時代の転換、分水嶺)は、ウクライナ戦争や欧州安全保障問題を超えた流れをもっている。ドイツとヨーロッパは、世界が再び競合するブロック圏に分裂していく運命にあるとみなす宿命論に屈することなく、ルールに基づく国際秩序を守る上で貢献していかなければならない。われわれは民主国家と権威主義国家の対立は模索していない。それでは世界的分断を助長するだけだ。その歴史ゆえに、私の国はファシズム、権威主義、帝国主義の流れと闘う特別な責任を負っている。同時に、イデオロギー的・地政学的な対立のなかで分断された経験ゆえに、新たな冷戦の危険を直接的に知っている。多極化した世界では、対話と協力を民主主義世界のコンフォートゾーンを越えて広げていかなければならない。・・・

  • ヨーロッパにおけるポピュリズムの台頭
    主流派政党はなぜ力を失ったか

    マイケル・ブローニング

    Subscribers Only 公開論文

    ヨーロッパでなぜポピュリズムが台頭しているのか。既存政党が政策面で明らかに失敗していることに対する有権者の幻滅もあるし、「自分たちの立場が無視されていると感じていること」への反動もある。難民危機といまも続くユーロ危機がポピュリズムを台頭させる上で大きな役割を果たしたのも事実だ。いまやフィンランド、ハンガリー、ラトビア、リトアニア、ノルウェー、スイスを含む、多くのヨーロッパ諸国で右派政党がすでに政権をとっている。「イギリス独立党」、フランスの「国民戦線」、「ドイツのための選択肢」など、まだ政権を手に入れていない右派政党もかなりの躍進を遂げている。中道右派と中道左派がともにより中道寄りの政策へと立場を見直したために、伝統的な右派勢力と左派勢力を党から離叛させ、いまやポピュリストがこれらの勢力を取り込んでいる。厄介なのは、ヨーロッパが直面する問題はEUの統合と協調を深化させることでしか解決できないにも関わらず、ヨーロッパの有権者たちがこれ以上ブリュッセルに主権を移譲するのを拒絶していることだ。・・・

  • 解体したヨーロッパ市民社会
    多文化主義と同化政策はなぜ失敗したか

    ケナン・マリク

    Subscribers Only 公開論文

    多文化主義と同化主義は、社会の分裂に対する二つの異なる政策処方箋だが、結局、どちらもヨーロッパの社会状況を悪化させてきた。英独は多文化主義政策を、フランスは同化政策を導入した、だが、イギリスではコミュニティ同士の衝突がおき、ドイツのトルコ人コミュニティは社会の主流派からさらに切り離され、フランスでは当局と北アフリカ系コミュニティの関係が険悪になった。しかし、社会が分裂し、マイノリティが疎外され、市民の怒りが高まっている点では各国は同じ状況にある。理想的な政策は「多文化主義の多様性を受容する側面と、同化主義の誰でも市民として扱う側面を結合させることだろう」。だが、ヨーロッパ諸国はその正反対のことをやってきた。多文化主義と称してコミュニティをそれぞれの箱に閉じ込めるか、同化主義と称してマイノリティを主流派から疎外してきた。この政策が分断を作り出してしまった。

  • 地政学と国家規模
    超国家と小国の立場と役割

    シブシャンカール・メノン

    雑誌掲載論文

    2050年には、世界の人口の40%が、中国、インド、アメリカ、欧州連合(EU)という「超国家」のいずれかで暮らしているはずだ。現代の超国家は、広大な領域で暮らす、多様な人々を、どのように一つの政体の枠組みで管理するかという、かつての帝国と同じ問題に直面している。一方、小国はテクノクラートが結果を出しやすいだけでなく、「安定を求める」ために、国際システムで道徳的な役割を果たせるとする見方もある。小国でも主体性をもって大国と取引できるし、一方で、国内の緊張と圧力によって大国の偉大さが損なわれることもある。もちろん、超国家は小国よりも国際情勢に大きな影響を与える。しかし、大国間の対立激化は、世界の平和と繁栄を脅かすと同時に、中小国が影響力を高めて、活躍できる空間も生み出している。

アメリカと中東

  • アメリカはアラブ世界を失いつつある
    アラブストリートの信頼を勝ち取るには

    マイケル・ロビンス、マニー・ジャマル、マーク・テスラー

    雑誌掲載論文

    アラブ世界で反米感情が急激に高まっている。イスラエルがガザで軍事作戦を始めて以降、ヨルダンでは、アメリカを好意的にみなす人の割合が、2022年の51%から、最近実施された調査では28%に激減している。国内での反米感情の高まりゆえに、アラブの指導者で、ワシントンに協力しているとみなされたいと考える者はほとんどいない。アメリカのアナリストは、アラブ民衆の声は、米外交政策にはあまり関係してこないと軽くみているが、「アラブの指導者は世論に左右されない」という考えは神話にすぎない。アラブ市民のアメリカへの信頼を取り戻さない限り、アラブの指導者たちは対米協調を避け、アラブとイスラエルの国交正常化もイラン封じ込めも遠のき、中国を含むアクターがこの地域で台頭してくることになるだろう。

  • 米イスラエル関係の未来
    特別な関係の終わり?

    ダリア・シャインドリン

    雑誌掲載論文

    米イスラエル間の反目の高まりが、ガザ戦争をきっかけに生じたわけではない。両国の社会的・政治的軌道をみると、長く2カ国の関係を支えてきた「価値の共有」はすでに大きく揺るがされていた。この問題が、今回の戦争が引き起こした緊張そして党派政治によって、さらに大きな圧力にさらされている。両国が衝突コースにあるわけではない。だが、この状況は、今後の同盟関係について重要な問題を提起している。戦略的利害を共有することで、両国が同盟国であり続けることは可能でも、今後、これまで互いに信頼してきた「特別な関係」は失われるのかもしれない。

  • アラブストリートの反乱
    民衆の怒りが米外交を揺るがす

    マーク・リンチ

    Subscribers Only 公開論文

    「ガザへの爆撃がついに終わり、人々が家に帰れば、怒りの矛先は違う何かに向けられ、中東の地域政治は平常に復帰する」。ワシントンではこう考えられている。しかし、この仮説は、中東で世論がいかに重要になっているか、2011年の「アラブの春」の騒乱以降、何が本当に変わったのかを理解していない。アラブ民衆の怒りのタイプと激しさ、アメリカの優位の低下と正統性の崩壊、アラブ諸国の政権が地域間競争だけでなく国内体制の存続を優先していることから考えても、新しい地域秩序ではアラブの世論がより重視され、配慮されるようになるだろう。ワシントンがアラブの世論を今後も無視し続けるようなら、ガザ戦争後の計画を台無しにすることになる。

  • 独立したアラブ世界は自由を手にできるか
    神権政治か民主主義か

    バーナード・ルイス

    Subscribers Only 公開論文

    「現在のアラブ諸国政府の多くは、「民衆の忠誠心に依存しているか、あるいは民衆の従順さに依存しているか」のどちらかだ。「忠誠心」は民族、部族、宗教、あるいはこれらの組み合わせを基盤に形作られている。一方、「人々の従順さに依存する体制」とは、全体主義や共産主義の管理と強制のテクニックを用いるヨーロッパ流の独裁制のことだ。……だが、忠誠に重きを置くわけでも、これまでのように抑圧的でもなく、むしろ、同意と参加による統治の実現を模索する集団が増え、その重要性も増してきている。こうした集団の規模はそれほど大きくないし、今のところ目立つ行動はできない状態に置かれているが、このような集団が出現していること自体、きわめて画期的な出来事だ」。

  • ユダヤ人国家と民主国家を両立させるには
    二極化するイスラエルの政治

    ツィピ・リブニ

    Subscribers Only 公開論文

    いまや国家アイデンティティーや価値、ユダヤ主義、民主主義をめぐってイスラエルは二分され、ネタニヤフ政権はそのギャップを大きくする行動をとっている。実際、イスラエルの最終目的が「大イスラエル」なら、パレスチナ側にパートナーを見いだす必要はない。・・・一方、私たち(野党)にとって重要なのは、「ユダヤ人の民主国家」を維持することだ。そのためには、古代イスラエルの土地を二つの国に分けるしかない。イスラエルが(パレスチナの)領土を併合したら、民主国家としてのイスラエルと、ユダヤ人国家としてのイスラエルが衝突する。・・・「ユダヤ人的で民主主義のイスラエル」の実現が目的なら、(「大イスラエル」主義者が唱える)土地すべてを領土にすることはできない。二国家共存のなかでのイスラエルが必要だ。・・・二国家解決策が私たちの目標だと公言して、国際社会とパレスチナの信頼を勝ち取らなければならない。(聞き手はジョナサン・テッパーマン、フォーリン・アフェアーズ誌副編集長)。

  • なぜアメリカのキリスト教徒は ユダヤ国家を支持するのか
    旧約聖書がつなぐアメリカとイスラエル

    ウォルター・ラッセル・ミード

    Subscribers Only 公開論文

    アメリカのユダヤ系コミュニティーがまだ大きくも強くもなく、イスラエルロビーなど存在もしなかった19世紀末に、アメリカにおけるキリスト教系の各界指導者たちは、すでに、「聖書の地」にユダヤ人国家を建設する外交努力を支持する態度を明確にしていた。……孤立し疎外された民であり国であるユダヤ人とイスラエルを支援することが、しばしばアメリカの評判を落とし、別の問題をつくることになっても、アメリカ人は気にしない。アメリカがイスラエルの保護者、ユダヤ人の友人という役割を引き受けたのは、神が特有の運命を与えられた国という自らの地位を正当化するためでもあった。……アメリカの親イスラエル路線は、小規模なロビイストが世論の意図に反して勝ち取ったものではない。むしろこれは、専門家の懸念にもかかわらず、外交政策を形成する世論のパワーを物語っている

  • イスラエルではなく、パレスチナの視点で 中東和平を試みよ

    ウォルター・ラッセル・ミード

    Subscribers Only 公開論文

    これまでアメリカは、イスラエルを中心に据えた中東和平路線をとってきたが、オバマ政権は、むしろ、和平交渉の中心にパレスチナの視点を据えるべきだろう。意外かもしれないが、このやり方が、これまでの路線からの革命的な変化を意味する訳ではない。アメリカがめざす目標にも政策にもそう大きな変化は出ない。イスラエルとの強い絆は維持され、むしろ深みを増すはずだ。認識すべきは、中東和平のカギを握っているのが、「軍事力で劣り、政治的にも派閥争いが絶えないパレスチナである」ということだ。ワシントンが、イスラエルにとってより安全で安定した環境をつくりたいのなら、イスラエルの敵に和平を売り込む必要がある。イスラエルが望む安全をもたらすことができるとすれば、それは、ガザ、西岸、そして国外のパレスチナ人の安定多数が和平合意を明確に支持したときだけだからだ。

Current Issues

  • 東アジアのイノベーションモデルに学べ
    大企業とスタートアップの関係

    ラモン・パチェコ・パルド、ロビン・クリングラー=ビドラ

    雑誌掲載論文

    日韓両国は、スタートアップと大企業が協力する経済モデルを構築し、いまやハイテク分野のトップ企業を数多く抱えるようになった。ソウルと東京が模索するイノベーションモデルでは、政府や大企業が協力することで、スタートアップのポテンシャルを開花させ、広く恩恵を共有できると考えられている。一方、シリコンバレー神話の中核にあるのは、新進の起業家たちが大企業に取って代わる新しい企業を立ち上げ、既存産業を破壊するという考えだ。だが現在のシリコンバレーは、ハリウッド映画が描くような型破りな起業家たちの楽園ではない。ワシントンは、スタートアップと大企業の提携を恐れるべきではなく、東アジアに学んで、大手企業を政府やスタートアップのパートナーとして歓迎すべきだ。

  • 脱グローバル化という危険な神話
    グローバル経済の真の姿

    ブラッド・セッツァー

    雑誌掲載論文

    「世界の貿易と金融は、中国を中心に南半球に広がるブロック、アメリカやその他の欧米諸国を中心とするブロックによって分断され、ますます敵対的になっている」と現状をみなすべきなのか。実際には、より多くの中国製部品が最終組み立てのために、マレーシア、タイ、ベトナムなどへ輸出され、これらの諸国からの対米輸出が急増しているにすぎない。脱グローバル化が現実に進行しているとみなす前提には問題がある。中国経済への依存はいまも非常に高いレベルにある。世界経済の現状での統合レベルを過小評価すれば、台湾をめぐる紛争やアメリカの一方的な貿易からの後退など、世界経済を揺るがす行動のコストを過小評価することになる。

  • プーチンと一体化したロシア社会
    反欧米路線が促したロシアの統合

    タチアナ・スタノバヤ

    雑誌掲載論文

    プーチンは、ウクライナ戦争へのコミットメントと反欧米の敵対路線については驚くほど均質な政治環境をロシアで作り上げることに成功している。エリートたちも、戦争を支持し、プーチン信奉者の仲間入りを果たすしかない環境にある。「欧米に対抗し、米主導の国際秩序を突き崩す必要がある」というモスクワの主張はロシア社会で広く受け入れられている。財政基盤、ウクライナでの軍事的優位、そして完全な国内統制が維持される限り、ロシア社会が揺らぐことはないだろう。欧米は、「より自信を高め、大胆で過激になったロシア」にどのように関わっていくかという厄介な課題に直面している。

  • イノベーションと起業家
    その虚構と実像

    ジェームズ・スロウィッキー

    Subscribers Only 公開論文

    優れたイノベーションは優れたアイディアだけでなく、そのアイディアを基に実際に人々が利用するモノを作り出し、それを人々に届ける道筋を特定することで実現する。つまり、イノベーションを突き動かすエンジンは、個人の傑出した才能よりも、チームワークなのだ。イノベーションには、様々な分野の多様な専門家で構成される強いチームの存在が必要だ。最近ではイノベーションの停滞という言葉も聞かれ、その理由を起業家の野心が小ぶりになっていることに求める投資家もいる。いまやスタートアップ企業の多くは、誰もがやっていることを試み、自分たちの方が少しばかり他者よりも優れていればと期待する程度だ。起業家は「豊かになるために何が必要か」だけでなく、「どのような人生を送りたいか」を考える必要がある。数あるアプリの一つを開発したかっただけなのか、それとも、社会を変えるような大きな何かを考案するのか。・・・

  • 日本の新しいビジネス文化
    日本の起業家世代と社会貢献

    デヴィン・スチュワート

    Subscribers Only 公開論文

    日本政府の高官たちも、経済再生の柱としての量的緩和と財政出動によってかろうじて成長が支えられていることに気づき始め、新戦略では「スタートアップ企業」が重視されている。ベンチャー企業と新技術への投資を奨励し、大学におけるアントレプレナーシップ(起業精神)の訓練と教育を支援し、シリコンバレーのアントレプレナー(起業家)と日本のアントレプレナーたちをセミナーやメンターシップ・プログラムを通じて結びつけようとしている。もちろん、日本の新企業に投資されたベンチャーキャピタル資金はわずか約10億ドルで、同年のアメリカのスタートアップに投資された590億ドルと比べると依然として大きく見劣りする。しかし、日本の企業文化のなかで次第にスタートアップ企業が受け入れられ始め、起業家の社会的な地位も高まっている。「いまや優秀な学生たちはグーグル、マッキンゼー、そしてスタートアップ企業に就職したいと考えている」

  • 米中経済関係のリアリティ
    ディリスキングと変化しない現実

    ジャミ・ミシック、ピーター・オルザグ、セオドアー・ブンゼル、

    Subscribers Only 公開論文

    米中経済関係はディカップリングが示唆するような経済関係の断絶ではなく、むしろ、「ディリスキング(リスク排除)」へ向かっている。中国とのあらゆる経済関係を締め付けるのではなく、ワシントンが特定のリスクを低下させようとしていることは、データ上も確認されている。多くの分野では、製造工程の一部が中国から切り離されるとしても、全般的な中国依存の構図は変化しないと考えられる。実際、家庭用製品や高級ブランド商品など、ディリスキングによる変化がほとんど生じないと考えられる部門は多い。だがアメリカは、同盟国やパートナーとディリスキング戦略を調整して、連携して行動する必要がある。そうしない限り、同盟国との間に亀裂が生じ、北京がそれにつけ込んでくるだろう。

  • プーチン独裁と大衆の無関心
    終わらない戦争とロシアの日常

    アンドレイ・コレスニコフ

    Subscribers Only 公開論文

    モスクワは、大多数の人々が、ウクライナ戦争を含む政府の選択に無関心であり続けることを望んでいる。そして人々は、上から押しつけられた世界の現実を受け入れる方が気が楽だと感じている。和平交渉開始を支持する人も増えているが、彼らは見返りを求めている。征服した「新しい」領土を維持するか、モスクワに「返還されるべきだ」と考えている。ウクライナ戦争を欧米に対する多面的戦争に再構築したプーチンは、欧米との生き残りを賭けた「再戦」まで考えている。一方、ロシア民衆は、大統領選挙の投票用紙で相対的な平穏を買えると考えている。ただし、プーチンがその約束を守るという保証はない。・・・

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