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2022年9月10日発売

フォーリン・アフェアーズ・リポート
2022年9月号

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フォーリン・アフェアーズ・リポート2022年9月号 目次

未来からの視点を

  • 歴史の始まり
    壊滅的リスクの時代を生き抜くには

    ウィリアム・マッカスキル

    雑誌掲載論文

    この1世紀におけるもっとも厄介な出来事は、人類が自らを滅亡させる力をもつようになったことだ。気候変動から核戦争、人為的に操作された病原体によるパンデミック、制御不能な人工知能(AI)、まだ登場していない破壊的なテクノロジーにいたるまで、人類を破滅へと向かわせかねない危険はいまや数多く存在する。つまり、現代に生きるわれわれは、自分たちや子どもたちの命だけでなく、これから生まれてくるすべての人の存在そのものを左右する無謀な賭けをしていることになる。賢明に判断して行動すれば、来るべき世紀は、「未来に向けてわれわれがいかなる責務を負っているか」の認識によって形作られ、われわれの孫の孫たちは感謝と誇りをもって私たちの行動を振り返ることになるだろう。だが私たちが判断を間違えれば、彼らが生まれてくることはないかもしれない。

  • 歴史の未来
    中間層を支える思想・イデオロギーの構築を

    フランシス・フクヤマ

    Subscribers Only 公開論文

    社会格差の増大に象徴される現在の厄介な経済、社会トレンズが今後も続くようであれば、現代のリベラルな民主社会の安定も、リベラルな民主主義の優位も損なわれていく。マルキストが共産主義ユートピアを実現できなかったのは、成熟した資本主義社会が、労働者階級ではなく、中産階級を作り出したからだ。しかし、技術的進化とグローバル化が中産階級の基盤をさらに蝕み、先進国社会の中産階級の規模が少数派を下回るレベルへと小さくなっていけば、民主主義の未来はどうなるだろうか。問題は、社会民主主義モデルがすでに破綻しているにも関わらず、左派が新たな思想を打ち出せずにいることだ。先進国社会が高齢化しているために、富を再分配するための福祉国家モデルはもはや財政的に維持できない。古い社会主義がいまも健在であるかのように状況を誤認して、資本主義批判をしても進化は期待できない。問われているのは、資本主義の形態であり、社会が変化に適応していくのを政府がどの程度助けるかという点にある。

  • 新型コロナの不都合な真実
    永続化するウイルスとの闘い

    ラリー・ブリリアント他

    Subscribers Only 公開論文

    すでに10数種の動物種に感染を広げている以上、新型コロナウイルスは根絶できない。世界規模の集団免疫も期待できない。十分なワクチンを生産・供給するには長い時間がかかるし、反ワクチンムーブメントの存在も集団免疫を達成させる見込みを遠ざけている。一方では、新種の変異株が次々と登場している。より高度な耐性をもつか、より感染力の強い新型の変異株については、追加のブースターショット、あるいは全く新しいワクチンが必要になるかもしれず、この場合、ほぼ200カ国の数十億人にワクチンを接種するというロジスティック上の大きな課題に世界は直面する。現在の検査キットをすり抜ける変異株が出てくる恐れもある。要するに、パンデミックが最終局面にあるわけではない。多くの人が短期間で終わることを願った危機は終わらず、現実には、驚くほどレジリアントなウイルスに対する長くゆっくりとした闘いが続く。

  • 世界でもっとも危険な男
    プーチンとロシアの核兵器

    スコット・D・セーガン

    Subscribers Only 公開論文

    いまやプーチンの周りにいるのは、彼が望むことだけを伝え、不都合な事実は隠すイエスマンばかりだ。偽情報に囲まれた孤立した生活を送っているせいで、プーチンはNATOに対するパラノイア思考を高め、ロシア帝国再興の野望を妄想し、ロシアの軍事力に幻想を抱いている。しかも、ロシアのような個人独裁国家は、他の政治体制の国よりも常軌を逸した行動をとる傾向がある。実際、アメリカとNATOの指導者たちは、1962年のキューバ・ミサイル危機以降、全面核戦争をめぐる重大な危機に世界が直面していることを認識すべきだ。この危険な事態を回避するには、個人独裁体制がどのように意思決定を下すのかを理解し、それにいかに対処すべきかを学ぶ必要がある。

  • 温暖化と異常気象が人類を脅かす
    ダメージ管理から環境浄化への道を

    ビーラバドラン・ラマナタン他

    Subscribers Only 公開論文

    二酸化炭素の排出量は増え続けており、今後1世紀で、世界の気温は最低でも4度上昇する軌道にある。2050年を過ぎると、世界の人口の半数以上が、経験したことのない暑い夏に苦しめられるようになり、それ以降、地球の陸地の44%は乾燥し始める。温暖化した地球ではより極端な現象が起きるようになる。熱波、大暴風雨、干ばつなど(の異常気象)が気候変動によって引き起こされていることはいまや立証されている。熱波と干ばつが世界の穀倉地帯の多くを脅かし、市場はボラタイルになり、農産品価格も上昇する。異常気象が引き起こす災害は人間のメンタルヘルスにも悪影響を与える。実際、摂氏54度を上回れば、社会全体が冷静さを失う。もはや排出量をゼロに抑え込むだけでは十分ではない。すでに大気中にある約1兆トンの二酸化炭素を取り除かなければならない。

  • 人工知能の恩恵とリスク
    誰も勝者になれない世界を回避するには

    ポール・シャーリ

    Subscribers Only 公開論文

    19世紀の産業革命は世界に大きな経済成長だけでなく、戦車、機関銃、毒ガス兵器をもたらした。人工知能(AI)はこれらに匹敵する変化を誘発することになる。AIは医療から交通に至るまでのあらゆる分野で大きな恩恵とともに大きなリスクも生み出す。最大のリスクは、AI軍事システムを最初に開発した国が、ライバル国に対して圧倒的な優位を手に入れられるために、いい加減なテストだけで、システムを一刻も早く導入せざるを得ないと考えるかもしれないことだ。こうして非常に深刻な問題が作りだされる。AIシステムの導入を競い合うのではなく、その安全性の検証と研究に多国間で投資すべきだ。そうしない限り、「誰も勝者になれない世界」が創り出されることになる。

  • 生物学的脅威に備えよ

    クリストファー・F・チャイバ

    Subscribers Only 公開論文

    公衆衛生体制の改善こそ、バイオテロ対策の基本である。病原体によっては潜伏期間が数週間にも及ぶので、バイオテロに真っ先に対応するのは消防、警察、軍隊ではなく、医療関係者となる可能性が高く、感染症を早期に発見し、対応できる公衆衛生監視体制の強化が急務となる。また、バイオテロであれ、自然発生型の感染症であれ、病原体は国境を超えて自由に移動する。当然、世界的な感染症発生の監視・対応メカニズムの改善、世界中で備蓄されている病原体の管理など、国際的監視枠組みの強化も不可欠である。

  • デジタル独裁国家の夜明け
    民主化ではなく、独裁制を支えるテクノロジー

    アンドレア・ケンドル=テイラー他

    Subscribers Only 公開論文

    AIをはじめとする技術革新は日常生活を改善する素晴らしい未来を約束する一方で、権威主義体制の締め付け強化に利用されてきた。デジタル抑圧の強化は、国家の統制が拡大し続け、個人の自由は縮小し続ける荒涼たる未来を想起させる。楽観論者たちが21世紀の幕開けに展望したのとは逆に、権威主義国はインターネットをはじめとする新テクノロジーの犠牲にされるどころか、それから恩恵を引き出している。事実、巨大な治安組織を必要とする警察国家を築かなくても、新テクノロジーを購入して、その使い方を、(輸入元である)中国のような外国の力を借りて一握りの役人に教えれば、それだけでデジタル権威主義国家の準備は整う。民主国家も21世紀の技術的ポテンシャルが呪いとならないように、新しいアイデア、アプローチ、リーダーシップを育んでいく必要がある。

Current Issues

  • ウクライナ戦争はもはや制御不能か
    レッドラインとエスカレーション

    リアナ・フィックス、マイケル・キマージュ

    雑誌掲載論文

    プーチンは傲慢さと怒りから、欧米を驚かせ、徹底的に脅かすには、戦争を劇的にエスカレートさせるしかないと判断する恐れがある。「現状がかつてないものであること」を認識する必要がある。何年も続く可能性のある大きな戦争が、無政府状態に近づきつつある国際システムの中枢で血を流している。リベラルな国際秩序のルールに従うように教育されてきた同盟国の政策立案者と外交官は、無秩序のなかを歩んでいくことを学んでいかなければならない。「戦場の霧」が、ソーシャルメディアのスピードと信頼性の低さによってさらに濃くなり、辺りを覆っている。この霧がもっともうまく考案された戦略さえも曖昧にしてしまうかもしれない。世界を震撼させたキューバ・ミサイル危機は13日間続いたが、ウクライナ戦争が引き起こす危機は今後長期的に続く。

  • ロシアのヨーロッパ分断戦略
    エネルギー危機が揺るがす欧州の連帯

    ナタリー・トッチ

    雑誌掲載論文

    ウクライナ戦争をめぐるヨーロッパの連帯はいつまで維持されるのか。それを崩壊させるのは何か。連帯を脅かす最大の脅威は、戦闘が比較的小康状態になることかもしれない。この状況でエネルギー危機がさらに深刻化すれば、モスクワが一部のEU諸国に働きかけてキーウに譲歩を迫らせることも不可能ではなくなるかもしれない。エネルギー危機は、欧州のポピュリストを台頭させる機会を提供しており、ヨーロッパの結束だけでなく、欧州連合(EU)の存続さえ危うくする恐れがある。すでに分裂は起き始めている。バルト諸国やポーランドなどウクライナと国境を接する諸国が、経済制裁と力強い軍事支援を通じて正義をもたらすことを求めているのに対して、イタリア、フランス、ドイツなど西ヨーロッパ諸国はロシアとの妥協に傾き始めている。・・・

  • マジックマネー時代の終焉
    大規模緩和策の未来

    セバスチャン・マラビー

    雑誌掲載論文

    経済対策としての大規模緩和策(マジックマネー)は今後どうなるのか。当面、それは選択肢から外される。優先すべきはインフレの抑制であり、これはFRBの信頼性を維持するための必要条件だ。それなくして経済の安定はあり得ない。今回のインフレとの闘いには時間がかかるかもしれない。1992年から2022年までの30年間、低インフレ・低金利の時代が続いたのは、グローバリゼーションが物価を抑え込んだ結果だった。しかし、グローバル化は行き詰まり、戦略物資の備蓄やサプライチェーンの再編が進められているために、インフレはさらに加速するだろう。だがFRBはなぜ判断を間違えたのか、その本当の教訓とは何なのか。

ロシアの未来と欧米

  • プーチンとロシアの未来
    ソビエト崩壊の教訓

    ウラジスラフ・ズボク

    雑誌掲載論文

    ソビエト崩壊の代替シナリオは存在しなかったと考えるのは決定論者だけだろう。実際には、ソビエト帝国は、その解体後もルーブル経済圏として何年も存続し続けた。ソビエト同様に、弱体化したロシアが崩壊すると欧米が予測するのも決定論にすぎない。もちろん、欧米が本気でプーチンを止めたいのなら、とにかく圧力をかけ続けるしかない。制裁を長期化し、その内容をさらに厳格化してゆけば、欧米の反ロシア経済レジームに世界経済の他のアクターも参加し、制度化されていくだろう。それでも、弱体化したロシアがソビエトのような崩壊の時を迎えるとは考えにくい。むしろ、欧米は「弱体化し、屈辱にまみれながらも、それでも独裁的なロシア」と共存せざるを得ないシナリオに備えるべきだろう。

  • プーチンの新警察国家
    スターリン化するプーチン

    アンドレイ・ソルダトフ、イリーナ・ボロガン

    雑誌掲載論文

    ウラジーミル・プーチンは、連邦保安局(FSB)を、ロシア内外における政治問題に解決策を提供する即応部隊にしたいと考えていた。だが、繰り返し失望させられて考えを改めた彼は、ソビエト期のKGB(国家保安委員会)に近い任務を与えた。つまり、エリートを含むロシア民衆を脅すことで、政治的安定をもたらすツールとして利用した。しかし、ウクライナ戦争開始以降の動きは、プーチンが再びFSBの任務を見直したことを示している。いまやFSBは、1970―1980年代のKGBではなく、市民の厳格な統制を目指したスターリンの諜報機関、内務人民委員部(NKVD)に似てきている。NKVDが強大で恐れられる存在だったのは、それが国や党ではなく、スターリンだけに従う組織だったからだ。ウクライナ戦争が始まって以降、プーチンの拡大する警察国家の管理組織は、どうみてもNKVDに近づいている。・・・

  • 権力者の盲点
    プーチンは何を見誤ったのか

    ヌゲール・ウッズ

    雑誌掲載論文

    ロシアのウクライナ侵攻は権力が作り出す落とし穴の多くを裏付けている。プーチンは、ロシア軍の戦闘能力を過大評価する一方でウクライナ軍のそれを過小評価し、一部の側近が簡単に勝利できると断言し、現実には消耗戦と化した戦争に国を突入させてしまった。失敗の一因は、権力者のもう一つの落とし穴である「相談や批判を受け入れないこと」にも促されている。プーチンの失敗は彼特有のものではないし、単に独裁者の悪癖の結果でもない。民主主義国家を含むあらゆるパワフルな国家の指導者が、権力に幻惑され、不用意な決断を下すことがある。側近集団の助言、議会や世論など、権力者の判断ミスを避けるための抑制メカニズムはある。だが、これらを指導者が支配するか、無視できる環境にあれば、自分が服を着ているかどうかさえも分からなくなる。

  • プーチン・ドクトリンの目的
    勢力圏の確立とポスト冷戦秩序の解体

    アンジェラ・ステント

    Subscribers Only 公開論文

    「欧米は30年にわたってロシアの正統な利益を無視してきた」。この確信がプーチンの行動を規定している。近隣諸国、旧ワルシャワ条約機構加盟国の主権上の選択を制限するロシアの権利を再び主張し、そうした制約を課すロシアの権利を欧米に認めさせることを彼は決意している。要するに、ロシアのことを、近隣地域に特別な権利をもち、あらゆる重大な国際問題について発言権をもつ、尊敬し、畏怖すべき大国として接するようにさせることが大きな狙いだ。プーチン・ドクトリンは、世界の権威主義政権を擁護し、民主主義国家を弱体化させることも意図している。ソビエト崩壊という結末を覆し、大西洋同盟を分裂させ、冷戦を終結させた地理的解決策を再交渉すること。これがプーチンの包括的な目的だ。

  • 破綻したプーチンの統治モデル
    情報機関の没落と恐怖政治の復活

    アンドレイ・ソルダトフ

    Subscribers Only 公開論文

    ごく最近まで、ロシアの情報機関は「新しい貴族」としてのステータスを手にしてきた。潤沢な活動予算を与えられ、監督対象にされることもなく、クレムリンの敵に対して自由に行動を起こす権限をもっていた。高官たちには、国有企業、政府系企業の重要ポストも用意されていた。しかし、情報機関の多くは、本来なら監視の対象とすべきオリガークの傭兵と化し、ライバル抗争を繰り広げるばかりで、機能不全に陥ってしまった。いまやプーチンは、これまでのやり方を見直し、情報機関の権限と自主裁定権を縮小し始め、むしろ、大統領府に権限を集中させている。プーチンのロシアは急速にソビエトモデルへ回帰しつつある。但し、その帰結が何であるかを、プーチンはおそらく正確に理解していない。・・・

  • 新しい独裁者たち
    なぜ個人独裁国家が増えているのか

    アンドレア・ケンドール=テイラー他

    Subscribers Only 公開論文

    極端に私物化された政治体制が世界各地に出現している。(プーチンのロシアや習近平の中国など)広く知られているケースを別にしても、バングラデシュからエクアドル、ハンガリーからポーランドまでの多くの諸国で権力者が自身に権力を集中させようと試みている。権力者個人に権力を集中させる政治システムは、冷戦終結以降、顕著に増加しており、この現象は大きな危険をはらんでいる。世界が不安定化するなかで、多くの人が、強権者の方が激しい変動と極度の混乱に対するより優れた選択肢をもっていると考えるようになれば、民主主義の基層的価値に対する反動が起きかねないからだ。実際、社会の変化と外からの脅威に対する人々の懸念が大きくなるとともに、秩序を維持するためなら、武力行使を躊躇しない強権的で強い意志をもつ指導者への支持が高まっていく恐れがある。

  • グローバル化からリージョナル化へ
    地域内貿易の時代へ

    シャノン・K・オニール

    雑誌掲載論文

    モノ、カネ、情報、ヒトの国際的移動の半分以上は、三つの主要な地域ハブ、つまり、アジア、ヨーロッパ、北米の内部で起きている。中国、韓国、台湾、ベトナムの経済成長は、アジア地域内部からの投資と投入によって始まった。東欧の急成長は西ヨーロッパとのリンクが発端だった。1993年から2007年にかけて、メキシコの経済規模は2倍以上になったが、その多くは93年にカナダ、アメリカと合意した北米自由貿易協定(NAFTA)の効果で説明できる。一般に理解されているグローバル化はほとんど神話であり、実際に起きているのは貿易のリージョナル化(地域化)に近い。いまやアジア諸国はともに生産し、相互から購入し、最終製品の3分の1近くがアジア域内の消費者に販売されている。アメリカも北米地域ネットワークを強化し、活用する必要がある。・・・

  • グローバルサウスと米中競争
    途上国の立場

    マリア・レプニコバ

    雑誌掲載論文

    ワシントンがソフトパワー促進策の中核に民主主義の価値と理念を据えているのに対して、中国はより実利的側面に焦点を合わせ、文化とビジネスの魅力を統合しようとしている。一方、グローバルサウスの途上国では、アメリカと中国のソフトパワーは競合するのではなく、相互補完的とみなされていることが多い。要するに、世界の多くの人々は、米中がそれぞれのビジョンと価値によって、自分たちを誘惑しようとする状態に完全に満足している。ワシントンと北京はソフトパワー競争をゼロサムゲームだと思っているが、世界の多くの地域は、それをウィンウィンとみなしている。アメリカモデルと中国モデルのどちらがより魅力的かよりも、それぞれが何をオファーしてくれるかに関心をもっている。・・・

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