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2021年2月10日発売

フォーリン・アフェアーズ・リポート
2021年2月号

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フォーリン・アフェアーズ・リポート2021年2月号 目次

ポスト・トランプワールド

  • アジア秩序をいかに支えるか
    ―― 勢力均衡と秩序の正統性

    カート・M・キャンベル、ラッシュ・ドーシ

    雑誌掲載論文

    ウィーン体制によって1815年から第一次世界大戦までの1世紀に及んだ長い平和の礎が築かれた。大国間政治が激化し、地域秩序が緊張している現在のインド太平洋はウィーン体制の歴史的教訓から多くを学べるだろう。当時も今もいかに勢力均衡を形作り、秩序の正統性を保つかが問われている。北京の行動が、アメリカやアジア諸国の「インド太平洋秩序」のビジョンと衝突するのが避けられない以上、ワシントンはシステムを強化するために他国と協力し、北京が生産的に秩序にエンゲージするインセンティブを与え、一方で中国が秩序を脅かす行動をとった場合のペナルティを他の諸国とともに考案しておく必要がある。秩序のパワーバランスと正統性をともに維持するには、同盟国やパートナーとの力強い連帯、そして中国の黙認と一定の応諾を取り付けておく必要がある。

  • 「自由世界」の連帯と組織化を
    ―― 権威主義の脅威に対処するには

    アレクサンダー・ビンドマン

    雑誌掲載論文

    長く、民主主義(と民主国家)のことを、自国を脅かす実存的脅威とみなしてきた中国、ロシアなどの権威主義国家がいまや攻勢に出ている。国際ルールや欧米のリベラルな価値を形骸化させ、民主主義を追い込むことで、権威主義的体制の台頭を可能にし、思うままに権力を行使できる国際環境を形作ることを彼らは望んでいる。国内の傷を癒やし、民主主義が世界で直面する脅威を緩和するには、ワシントンは民主的政府を特徴付ける強さを動員し、組織化しなければならない。米新政権は権威主義に対抗するために、民主国家による民主主義のための協調を組織すべきだろう。

  • 次のパンデミックに備えよ
    ―― グローバルな対応をいかに整備するか

    ジェニファー・ナッゾ

    雑誌掲載論文

    パンデミックの経済的、社会的余波は、今後数十年は続き、おそらく、今回の危機が21世紀最後のパンデミックになるわけでもないだろう。現在の公衆衛生構造は「感染症の(局地的な)アウトブレイク」を前提としている。だが「世界のほぼすべての国が同じようにリスクにさらされるパンデミック」には別のアプローチが必要になる。事実、パンデミックを前に、限られたリソースしかもっていない世界保健機関(WHO)、世界銀行などの国際機関が大きな圧力にさらされた結果、各国は独力で感染症対策を実施せざるを得ない状況に追い込まれた。パンデミックに対する真のグローバルな対応を実現するには、各国はデータ共有を含めて、共同の試みをすることに合意しなければならない。そうしない限り、次の危機でも、対応が小さすぎて、遅すぎることが立証されることになる。

  • 封じ込めではなく、米中の共存を目指せ
    ―― 競争と協調のバランスを

    カート・M・キャンベル、ジェイク・サリバン

    Subscribers Only 公開論文

    アメリカの対中エンゲージメント路線は、すでに競争戦略に置き換えられている。だがその目的が曖昧なままだ。エンゲージメントでは不可能だったが、競争ならば中国を変えられる。つまり、全面降伏あるいは崩壊をもたらせると、かつてと似たような見込み違いを繰り返す恐れがある。それだけに、米中が危険なエスカレーションの連鎖に陥るのを防ぐ一連の条件を確立して、安定した競争関係の構築を目指す必要がある。封じ込めも、対中グランドバーゲンも現実的な処方箋ではない。一方、「共存」はアメリカの国益を守り、避けようのない緊張が完全な対立に発展するのを防ぐ上では最善の選択肢だ。ワシントンは、軍事、経済、政治、グローバルガバナンスの4領域において、北京との好ましい共存のための条件を特定する必要がある。

  • 中ロによる民主国家切り崩し策
    ―― 台頭する権威主義モデルと追い込まれた欧米

    アンドレア・ケンドール=テイラー 、デビッド・シュルマン

    Subscribers Only 公開論文

    民主主義を切り崩していけば、欧米の影響力低下というトレンドを加速し、ロシアと中国の地政学的目標を促進できる。これが、中ロが共有している中核ビジョンだ。自国のパワーをアメリカのそれと比較して相対的に捉えるモスクワと北京は、欧米民主国家を衰退させれば、自国の国際的な地位向上につながると考えている。ロシアが民主体制を様々な方法で混乱させ、切り崩す一方で、中国が欧米民主主義の代替モデルを示し、困難な状況にある国に援助や投資を提供することで、弱体な民主国家が欧米から離れていく環境が作り出されている。これが侮りがたい権威主義モデル台頭の潮流を作り出しつつある。

  • 次のパンデミックに備えるには
    ―― COVID19の教訓とは何か

    マイケル・T・オスタホルム 、マーク・オルシェイカー

    Subscribers Only 公開論文

    ワクチンが開発されて利用できるようになるか、多くの人が感染して集団免疫が達成されれば、現在の危機は終わる。しかし、ワクチンであれ、集団免疫であれ、それが短期間で実現することはなく、そこに至るまでの人的・経済的コストはかなりのものになる。しかも、将来における感染症アウトブレイクはより大規模で、致死性も高いはずだ。言い換えれば、現在のパンデミックは、世界のあらゆる疫学者や公衆衛生当局者が悪夢とみなす深刻な感染症(ビッグワン)ではおそらくない。次のパンデミックは、1918年のスペインかぜと同様に壊滅的な「新型インフルエンザウイルス」になる可能性が高い。COVID19を次のパンデミックがどれほど深刻なものになるかの警告とみなすべきだし、再び手遅れになる前に、アウトブレイクを封じ込めるために必要な行動を促す必要がある。

秩序、経済・貿易、テクノロジーはどう変化していくか

  • 産業政策と自由貿易の両立を
    ―― トランプ後の貿易政策と新産業政策

    シャノン・K・オニール

    雑誌掲載論文

    米企業が特恵的な市場アクセスをもっているのは、世界の消費者の10%未満に過ぎない。対照的に、(TPP11その他に参加している)メキシコとカナダは世界市場の50%以上へのアクセスをもっている。アメリカの競争力を高めるには、自由貿易協定を産業政策の主要な要因と位置づけ、米企業が外国で直面する貿易障壁を引き下げる必要がある。TPP11などのすでに存在する自由貿易合意に参加するとともに、休眠状態にあるヨーロッパとの貿易交渉を再開しなければならない。グローバルな協力と競争、国際市場へのアクセス強化、国内の公共投資を前提に組み立てられた産業政策なら、ワシントンコンセンサスの欠点を緩和し、保護主義に陥ることも回避できるはずだ。

  • ビッグテックが民主主義を脅かす
    ―― 情報の独占と操作を阻止するには

    フランシス・フクヤマ

    雑誌掲載論文

    ビッグテックを抑え込むべきか。その経済的根拠は複雑だが、政治的にはそうすべき説得力に満ちた理由がある。強大な経済パワーを持っているだけでなく、政治的コミュニケーションの多くを管理する力をもっているからだ。つまり、ビッグテックが引き起こす真の危険は、市場を歪めることではなく、民主政治を脅かすことだ。すでにアメリカとヨーロッパの双方で、政府はビッグテックに対する独占禁止法違反の訴訟を開始しており、裁判は今後何年にもわたって続くだろう。だがこのアプローチは最善の方法とは必ずしも言えない。むしろ、この問題に対処できるのはミドルウェアだろう。現在、プラットフォームが提供するコンテンツは、人工知能プログラムによって生成された不透明なアルゴリズムによって決定されているが、ミドルウェアを使えば、ユーザーが管理を取り戻せるようになる。

  • なぜリベラルな国際主義は破綻したか
    ―― ウィルソン主義の終わり

    ウォルター・ラッセル・ミード

    雑誌掲載論文

    現代の世界政治でもっとも重要な事実とは、ウィルソン主義の崇高な試みが失敗に終わったことだろう。法に基づく普遍的な秩序が国家間の平和と国内における民主主義を保証するという夢はもはや重視されなくなり、今後、現実味を失っていくだろう。もっとも、ウィルソン主義とはヨーロッパ特有の問題に対するヨーロッパ特有の解決策だったわけで、それがグローバルな規範だったわけではない。いずれにせよ、米大統領が自由主義的な国際主義の理念に基づいて外交政策を策定できる時代が近い将来に再現されることはおそらくないだろう。

  • パンデミックと保護主義の台頭
    ―― 輸入からの保護と輸出保護主義

    チャッド・P・ボウン

    Subscribers Only 公開論文

    「グローバルパンデミック」がどの段階にあるかは地域差がある。自国よりも早く経済を再開できる地域や国があるかもしれない。経済再建の試みが始まった段階で、港が輸入品で埋め尽くされているようなら、国内産業から保護主義を求める圧力は大きくなる。一方、輸出制限策が、ナショナリズムとともに高まっていくことはすでに実証済みだ。実際、仏独だけでなく、イギリス、韓国などの他の数十カ国も医療品や医薬品の輸出を制限している。もっとも深刻な余波が生じるのはパンデミックが収束し、経済生産が再開されたときかもしれない。貿易保護主義を求める社会圧力の高まりを予測もせず、備えることを怠れば、世界は壊滅的な事態に直面することになる。

  • ビッグテックを分割すべき理由
    ―― 分割で米国家安全保障は強化される

    ガネシュ・シタラマン

    Subscribers Only 公開論文

    大きな利益を計上し、成長し、強大化している巨大テクノロジー企業が、政府から分割される脅威から逃れようと「自分たちを分割すれば、中国が利益を手にする」と国家安全保障問題を引き合いに出していることに不思議はない。しかし、国家安全保障の観点からも、ビッグテックを競争から保護する理由はない。アメリカのビッグテックは中国と競争しているというより、むしろ中国と統合しようとしており、この状況の方がアメリカにとってより大きな脅威だ。アメリカにとって、イノベーションを生み出す最善の道筋は、統合されたテクノロジー産業ではなく、競争と研究開発への公的支出によって切り開かれるはずだ。現在のような大国間競争の時代にあって、競争力とイノベーションを維持する最善の方法は市場競争、適切な規制、そして研究開発への公的支出に他ならない。ビッグテックの分割は国家安全保障を脅かすのではなく、むしろ強化するだろう。

  • 監視資本主義と暗黒の未来
    ―― ビッグテックとサーベイランスビジネス

    ポール・スター

    Subscribers Only 公開論文

    「監視資本主義=サーベイランス・キャピタリズム」が台頭している。フェイスブックとグーグルが主導するこの産業は、バーチャル世界から現実世界へとサーベイランスの範囲を拡大し、個人の生活の内側に入り込んでいる。ユーザーデータの収集・分析から、ユーザーが「今かすぐ後、あるいはしばらく後にとる行動」を予測することへ流れは移行しつつある。しかも、予測を的中させるもっとも効率的な手法は、予測されている行動をとるように仕向けることだ。すでにフェイスブックは前例のない行動誘導の手法を確立している。中国の「社会信用システム」はインスツルメンタリアンパワー(技術的操作能力)と(政治的画一性を実現したい)国家の組み合わせだが、米企業はインスツルメンタルパワーと市場を抱き合わせるつもりかもしれない。

  • さようなら、国際主義のアメリカ
    ―― トランプ時代の歴史的ルーツ

    エリオット・A・コーエン

    Subscribers Only 公開論文

    トランプの「アメリカ第1主義」は、外交の初心者が犯した間違いではなく、アメリカのリーダーたちが戦後外交の主流概念から距離を置きつつあるという重要な潮流の変化を映し出している。先の大戦期及びその直後に成人した世代は、アメリカが世界をリードしなければ、いかに忌まわしい世界が出現するかを本能的に理解していた。これは、戦争で苦しんだ末に得た教訓だった。しかし、この世代の多くが亡くなり、具体的に秩序を形作った子どもの世代も少なくなってきている。これが、今後の米外交政策にもっとも重要な帰結を与えることは間違いない。トランプが大統領の座を退いても、「アメリカのリーダーシップなき世界」がどのような末路を辿るかを知る人々が支えたかつてのコンセンサスへアメリカが回帰していくことはない。残念ながら、不幸な結果を記憶している人々はもうすぐいなくなる。

  • 専門的見解に対する不信と反発
    ―― 根拠無き意見への追随が民主主義を脅かす

    トム・ニコルス

    Subscribers Only 公開論文

    専門家は、自分たちが民主社会に仕える身であることを常に忘れてはならない。しかし、民主社会の主人である市民も国の運営に関与し続けるのに必要な美徳・良識を身に付ける必要がある。専門知識をもたない市民は専門家なしでは事をなし得ないのだから、エリートへの憎しみを捨ててこの現実を受け入れる必要がある。同様に専門家も市民の声を相手にしないのではなく、それに耳を傾け、自分たちのアドバイスが常に取り入れられるとは限らないことを受け入れなければならない。現状では、システムを一つに束ねてきた専門家と市民の絆が危険なまでに揺るがされている。ある種の信頼と相互尊重を取り戻さない限り、世論における議論は、根拠なき意見への追随によって汚染されてしまう。そのような環境では、民主主義の終わりを含む、あらゆるものが現実となっても不思議はない。

分断から統合への道

  • 分裂と相互不信をいかに修復するか
    ―― 寸断されたアメリカの政治と社会

    イザベル・ソーヒル

    雑誌掲載論文

    「すべてのアメリカ人の大統領になる」。現状からみて、これほど難しい課題もない。支持政党を分ける大きな要因はもはや政策ではなく、心の奥底にある価値観やアイデンティティだ。このために(自分の支持政党ではない)「もう一つの政党」は反対政党であるだけでなく、敵とみなされている。そして政治とは、共通の問題に対処していくための妥協点をみつけることではなく、自分の側が相手に勝利を収めるための闘いとみなされている。バイデンはブルーカラーの労働者、高齢の文化的伝統主義者、急進的な変化を恐れる女性たちに寄り添っていくつもりだ。警察の予算を打ち切ることはなく、中産階級の増税もしない。彼は社会を統一したいと考えている。取り残された人々に手を差し伸べ、すべてのアメリカ人が意見の違う人々をより尊重するように求めることから始めるべきだろう。それが、アメリカの魂を取り戻すことになる。

  • CFR in Brief
    民主主義とポピュリズム
    ―― トランプ後のアメリカ

    ヤシャ・モンク

    雑誌掲載論文

    トランプが(選挙は盗まれたという)大統領選挙に関する自分の嘘を多くのアメリカ人に真実だと思い込ませ、対立候補の当選が認定されることに抗議して何万人もの支持者を動員できたという事実は、かなり多くの人がこの種のポピュリズムのアピールを受け入れていることを意味する。「大統領か憲法か」の選択に直面して、彼らはトランプを選んだ。しかし、米議会を襲撃した暴徒をアメリカの真の姿とみなしてはならない。バイデンは、トランプの反民主的な過激主義を非難する上で明確かつ率直でなければならない。しかし一方で、トランプに投票した人々のことを、救いようのない嘆かわしい人々と描写することなく、危険なデマゴーグへの忠誠を放棄するようにアプローチし、「すべてのアメリカ人の大統領になれること」を立証しなければならない。

  • 新大統領が直面する内外のアジェンダ
    ―― バイデンが生かすべき機会を検証する

    サマンサ・パワー

    Subscribers Only 公開論文

    新政権は、国内問題の解決を優先し、パンデミックを終わらせ、社会に広く恩恵を与える平等な経済再生を一気呵成に実現し、ほころびをみせ始めた民主的制度を改革しなければならない。バイデンは、経済的不平等、システミックな人種差別、気候変動に正面から向きあって、アメリカを「よりよい再生(build back better)」へ向かわせることで、現在の危機を克服していくと語っている。当然、ワクチンのグローバルな流通を先導し、留学生のためのアメリカでの教育機会を拡大し、内外で政治腐敗と闘っていく姿勢をアピールしなければならない。アメリカの強さを利用し、中国の行き過ぎた対外関与が作り出した空白をうまく利用すれば、そうした構想は、アメリカの能力への信頼を大きく引き上げることができる。これが、今後、アメリカの利益を促進するために必要なパートナーシップの説得や連帯の構築に向けた基盤を作り出すことになる。

  • バイデン政権の課題
    ―― 米外交の再生には何が必要か

    ベン・ローズ

    Subscribers Only 公開論文

    トランプを指導者に選んだ共和党は、力が正義を作るという信念をもっている。国防予算の規模、外国の体制変革を追求する意欲、アメリカの経済力と軍事力への強硬な主張からもこれは明らかだ。さらに、白人キリスト教文明の先駆者というアイデンティティがアメリカに固有の例外主義を授けていると彼らは考えている。一方、民主党は正義が力を生むと考えている。米国内における欠陥や問題を是正する力や、移民を歓迎する民主国家としてのアイデンティティ、法の支配の順守、そして人間の尊厳に気を配る姿勢が、アメリカに世界のリーダーシップを主張する道徳的権威を与えているとみなしている。バイデンは、これを国内外で平常な感覚を取り戻すチャンスと説明している。その努力に、新しいタイプの世界秩序形成を加えるべきだろう。それは、ルールを押し付けることなくアメリカがリーダーシップを発揮し、他国に求める基準に自らも従い、グローバルな格差と闘う世界秩序だ。

  • アメリカのリーダーシップと同盟関係
    ―― トランプ後の米外交に向けて

    ジョセフ・バイデン

    Subscribers Only 公開論文

    気候変動にはじまり、大規模な人の移動、テクノロジーが引き起こす混乱から感染症にいたるまで、アメリカが直面するグローバルな課題はさらに複雑化し、より切実な対応を要する問題と化している。しかし、権威主義、ナショナリズム、非自由主義の台頭によって、これらの課題にわれわれが結束して対処していく能力は損なわれている。地に落ちたアメリカの名声とリーダーシップへの信頼を再建し、新しい課題に迅速に対処していくために同盟諸国を動員しなければならない。アメリカの民主主義と同盟関係を刷新し、アメリカの経済的未来を守り、もう一度、アメリカが主導する世界を再現する必要がある。恐れにとらわれるのではなく、いまはわれわれの強さと大胆さを発揮すべきタイミングだ。

  • トランプを台頭させた 白人有権者の文化的恐れ
    ―― グローバル化に対する反動という虚構

    チャールズ・ケニー

    Subscribers Only 公開論文

    貿易と移民に対する反発がトランプの台頭を支えたと考えるのは間違っているし、当然、「グローバル化に対する反動」という虚構に配慮するのも間違っている。それどころか、ギャラップ社の世論調査結果は、かつてなく多くのアメリカ人が貿易と移民の流れは経済的な恩恵をもたらすと考えていることを示している。一方で、高齢の白人有権者の割合が高い地域でトランプへの支持率が高いことに目を向けるべきだろう。問題は、(人やモノの)グローバル化を、白人の少数派が「文化的な脅威」とみなしていることにある。国際主義者たちは彼らの立場に歩み寄るのではなく、むしろ闘いを挑む必要がある。

  • 人種的奴隷制と白人至上主義
    ―― アメリカの原罪を問う

    アネット・ゴードン=リード

    Subscribers Only 公開論文

    依然として、事実上の人種差別がアメリカのかなりの地域に存在する。黒人の大統領を2度にわたって選び、黒人のファーストファミリーを持ったものの、結局、後継大統領選はある意味でその反動だった。歴史的に、肌の白さは経済的・社会的地位に関係なく、価値あるものとされ、肌の黒さは価値が低いとみなされてきた。この環境のなかで白人至上主義が支えられてきた。肌の色という区別をもつ「人種的奴隷制」は、自由を誇りとする国で矛盾とみなされるどころか、白人の自由を実現した。黒人を社会のピラミッドの最底辺に位置づけることで、白人の階級間意識が抑制されたからだ。もっとも貧しく、もっとも社会に不満を抱く白人よりもさらに下に、常に大きな集団がいなければ、白人の結束は続かなかっただろう。奴隷制の遺産に向き合っていくには、白人至上主義にも対処していかなければならない。

米中対立と東南アジア

  • 中国かクワッドか、インドネシアの選択
    ―― デリケートな均衡から対中強硬路線へ

    ニティーン・コカ

    雑誌掲載論文

    インドネシア政府は民衆の対中不信に配慮しつつも、中国からの投資を求める路線をとってきた。だが、北京は他の東南アジア諸国同様、インドネシアに対しても高圧的な嫌がらせを続けており、周辺海域における安全保障環境が変化するにつれて、ジャカルタの曖昧な対中路線は持続不可能になりつつある。オーストラリア、インド、日本などの他の地域大国はすでに北京への対抗バランスの形成を模索し、アメリカとの協力を、日米豪印戦略対話(クワッド)の枠組みを通じて強化している。自国の領海及び排他的経済水域に対する中国の主権侵犯に対抗していくには、ジャカルタはクワッドメンバーとより緊密に協力し、東南アジアが中国の勢力圏に取り返しのつかない形で組み込まれていくのを阻止するための同盟強化を模索していくべきだろう。

  • CFR Blog ブックレビュー
    北京の影響下で
    ―― 東南アジアにとっての中国という課題

    ハンター・マーストン

    雑誌掲載論文

    東南アジア諸国の対中認識は二つの考えの間で揺れ動いている。経済成長を中国の台頭に依存しているために、中国との貿易を続けたいと考える一方で、中国の強大化する経済力、外交力、軍事力を警戒している、南シナ海を含む東南アジア地域で北京が強硬外交をとり、武力行使も辞さない路線をとっていることに神経を尖らせている。実際には、中国と東南アジアの親密な関係を示唆する神話の多くは虚構のようだ。「ミャンマーが中国の衛星国のような存在になった」とみなすのは安易すぎるし、カンボジア人の多くも、中国の影響力拡大を警戒している。むしろ、東南アジアに共通しているのは、中国に傾斜することに対するリスクヘッジ戦略をとっていることかもしれない。・・・

  • 米中対立の本質とは
    ―― イデオロギー対立を回避せよ

    エルブリッジ・コルビー 、ロバート・D・カプラン

    Subscribers Only 公開論文

    ワシントンの中国批判は的外れではない。アメリカは中国との非常に深刻な競争を展開しており、多くの面で強硬路線をとらざるを得ない状況にある。だが、米中間の問題の根底にイデオロギー対立が存在するわけではない。経済、人口、国土の圧倒的な規模とそれがもたらすパワーゆえに、 たとえ中国が民主国家だったとしても、ワシントンはこの国のことを警戒するはずだ。逆に、これをイデオロギー競争とみなせば、対立の本質を見誤り、壊滅的な結末に直面する恐れがある。中国に対抗する連帯を構築するのさえ難しくなる。大国間競争では、イデオロギー的な一致を求めたり、完全な勝利を主張したりすることなど無意味であり、むしろ、壊滅的事態を招きいれることを理解する必要がある。

  • メコンと東南アジアを脅かす脅威
    ―― ダムではなく、再生可能エネルギーの整備を

    サム・ギアル

    Subscribers Only 公開論文

    メコン川に流水の多くを供給しているヒマラヤの氷河は21世紀末までに温暖化によって消滅するかもしれない。上流の中国は下流のラオスとカンボジアにダム建設を働きかけ、いまやメコン川は中国がその利益とパワーを展開する主要な舞台と化している。しかも、流域諸国政府はメコン川の環境問題にほとんど配慮していない。要するに、流域コミュニティは気候変動の弊害、中国の地政学的野心、政府の環境問題への無関心という逆風にさらされている。流域のよりよい未来はダムによる水力発電ではなく、再生可能エネルギーを整備することで切り開けるはずだ。国内でソーラーパワー産業を育成し、貧困を緩和するという目的から再生可能エネルギーを整備してきた実績持つ中国は、ダム開発ではなく、メコン流域における脱炭素の未来を切り開くための投資を考えるべきではないか。

  • 一帯一路が作り出した混乱
    ―― 誰も分からない「世紀のプロジェクト」の実像

    ユェン・ユェン・アン

    Subscribers Only 公開論文

    一帯一路(BRI)はうまく進展せず、現地での反発に遭遇している。一部の専門家が言うように、この構想は莫大なローンを相手国に抱え込ませ、中国の言いなりにならざるを得ない状況に陥れる「借金漬け外交」のツール、「略奪的融資」なのか。問題は、北京を含めて、BRIが何であるかを分かっているものが誰もいないことだ。中国政府が構想の定義を示したことは一度もなく、認可されたBRIの参加国リストを発表したこともない。このために民間の企業や投資家がこの曖昧な状況につけ込み、自らのプロジェクトを促進するためにBRIを自称し、これによって混乱が作り出され、反中感情が高まっている部分がある。中国内の機を見るに敏な日和見主義者たちが、この構想を自己顕示欲や立身出世のために利用し、それがグローバルな帰結を引き起こしている。・・・

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