フォーリン・アフェアーズ・リポート2018年12月号 目次
個人独裁国家の脅威
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個人独裁国家と核の脅威
―― 新しい抑止概念の構築を雑誌掲載論文
核を保有するか、獲得するかもしれない個人独裁国家が台頭している。事実、北朝鮮による核のブレイクスルーによって、現在の世界は、その行動を予見も牽制もできない個人独裁者が数百万の人々の運命を握っている。ワシントンは長期的な軍備管理にコミットしつつも、一方で、保有する核、その核ドクトリンを個人独裁国家の核武装という課題に適応できるように見直す必要がある。こうした個人独裁者の行動をうまく抑止し、必要なら、相手と「効果的かつ倫理的に」戦い、打倒できるような小型核を中心とする、個人独裁者をターゲットとする抑止戦略を準備する必要がある。
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新しい独裁者たち
―― なぜ個人独裁国家が増えているのかSubscribers Only 公開論文
極端に私物化された政治体制が世界各地に出現している。(プーチンのロシアや習近平の中国など)広く知られているケースを別にしても、バングラデシュからエクアドル、ハンガリーからポーランドまでの多くの諸国で権力者が自身に権力を集中させようと試みている。権力者個人に権力を集中させる政治システムは、冷戦終結以降、顕著に増加しており、この現象は大きな危険をはらんでいる。世界が不安定化するなかで、多くの人が、強権者の方が激しい変動と極度の混乱に対するより優れた選択肢をもっていると考えるようになれば、民主主義の基層的価値に対する反動が起きかねないからだ。実際、社会の変化と外からの脅威に対する人々の懸念が大きくなるとともに、秩序を維持するためなら、武力行使を躊躇しない強権的で強い意志をもつ指導者への支持が高まっていく恐れがある。
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核拡散後の世界
Subscribers Only 公開論文
イランが弾道ミサイルで中東全域を射程に収め、アメリカやヨーロッパに対しても(船舶その他の方法で)核攻撃を行う力を得る。サウジアラビアとトルコも、恐怖、あるいはライバル意識に突き動かされて、核武装する。アジアでも、中国、インド、北朝鮮、パキスタン、ロシアという核保有国に加えて、日本と台湾がアジアの核保有国の仲間入りをする可能性もある。仮に現実がこのように推移するとしたら、この新しい世界における戦略的な流れはどのようなものになるだろうか。核大国の一方で、数多くの核小国が共存するようになれば、冷戦期の抑止理論、軍備管理論は陳腐化する。
中東社会の大変革に備えよ
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中東に迫り来る巨大な嵐
―― 石油依存型政治システムの崩壊雑誌掲載論文
サウジアラビアのような中東の産油国は原油輸出を歳入源とし、エジプトやヨルダンのような石油輸入国は石油の富をもつ地域諸国からの援助に多くを依存してきた。中東諸国は、石油の富を安定した雇用、教育、医療に充当し、政治指導者はその見返りに民衆の政治的服従と沈黙を手に入れた。しかし、原油の低価格化トレンドゆえに、これまで政府に政治的正統性を授けてきた資源が消失しつつあり、この社会契約はもはや持続できない。この大きな流れの変化を前にしても、指導者たちが、権力の掌握を強めるだけで、有意義な改革を実施しなければ、中東各国で、かつてない規模の社会騒乱が起きることになる。
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皇太子率いる全体主義国家の誕生
―― もはやかつてのサウジにあらず雑誌掲載論文
サルマン国王は王族間のコンセンサスを重視する伝統的な統治モデルを一掃し、息子であるムハンマド・ビン・サルマン(MBS)を皇太子として王国のトップポジションに据える道筋を作った。MBSは副首相、国防相、経済開発評議会議長、政治安全保障委員会議長を兼務し、サウジのソフトパワーツールも管理している。忠誠委員会は、そのメンバーたちが2017年のいわゆる反政治腐敗弾圧によって拘束された後、解体された。皇太子は王族会議も解散し、宗教エスタブリッシュメントを周辺化しただけでなく、批判派と金融エリートも拘束した。サウジの君主制はいまや1人が絶対的権力をもつ全体主義体制へ変化している。完全な服従と皇太子への忠誠を求めるサウジの新全体主義の環境のなかで、カショギ殺害事件は起きた。・・・
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中東で進行するパワーバランスの再編
―― なぜトルコはイラン、ロシアに接近しているか雑誌掲載論文
エルドアンは自らのことを「現代のスルタン」とみなしているようだし、「トルコはイスラム世界をリードできる唯一の国だ」と明言している。そうだとすれば、サウジはアンカラの同盟国からライバルへと姿を変える。実際、カショギ殺害事件は、トルコとサウジ間の緊張の高まりを示す一連の流れのなかで起きた最近の事例にすぎない。湾岸諸国内部で今も続いている対立においても、トルコはイランとともにカタールを支持している。しかも、クルド問題を含む現在の利害からみても、アンカラにとって、アメリカやサウジよりも、イランやロシアと協力する方が合理的だ。実際、シリアにおける利益認識を共有するトルコ、イラン、ロシアの関係強化は、シリアをめぐる外部パワー間のバランスだけでなく、中東地域全体の地政学地図も大きく塗り替えていくかもしれない。
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石油の富と呪縛
――なぜ資源保有国は貧困から抜け出せないのかSubscribers Only 公開論文
途上世界の資源保有国のほとんどは貧しく、非民主的だし、まともな統治体制を持っていない。そこに石油資源からの富が流れ込めば、往々にして紛争が誘発されるか、すでに起きている紛争を長期化させ、資源がもたらす富が建設的投資にまわされることはなく、結果的に貧困が続く。
史上例のない原油価格の高騰は、棚ぼたの経済利益を資源保有国にもたらし、これが逆に紛争を助長してしまう危険がある。必要なのは、こうした資源国に輸出の対価として政治腐敗と紛争を助長するキャッシュを与えるのではなく、インフラ整備や社会サービスなどを提供し、成長の基盤を整えることではないか。 -
新アラブ秩序を規定する恐れと野望
―― 安全保障のジレンマに支配された中東Subscribers Only 公開論文
アラブの春の余波のなか、中東は大きく変化している。カタール、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)という豊かな湾岸諸国が繁栄を維持する一方で、エジプト、イラク、シリアという伝統的な地域大国はいまや国家としてほとんど機能していない。リビアを含む破綻国家、そして国家基盤が揺らいで弱体化した国も増えている。いまやほぼすべてのアラブ国家は「恐れ」と「野望」をもっている。国内での民衆蜂起、イランパワーの拡大、アメリカの中東からのディスエンゲージメント(で引き起こされる事態)に対する「恐れ」をもつ一方で、弱体化した国と国際的な混乱につけ込みたいという各国の「野望」が、破壊的な紛争への関与へと走らせ、地域全体をカオスに巻き込みかねない状況にある。
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新「トルコ国家の父」を目指したエルドアン
―― なぜ権威主義的ナショナリズムへ回帰したのかSubscribers Only 公開論文
これまで経済・政治の自由化を約束してきたエルドアンが、なぜ非自由主義的な権威主義路線の道を歩んでいるのだろうか。いまや彼は伝統的な中東の強権者となり、自分の権力基盤を固め、ライバルを追放し、反体制派を抑圧している。エルドアンの本来の目的は、保守的な社会秩序を維持する一方で、クルド人などの国内の少数派民族・文化集団との関係を修復していくことにあった。クルド人を含む、トルコ市民の多くが信奉する「スンニ派イスラム」を国の統合原理にしたいと考えてきた。しかし、クルドとの和平に失敗したことからも明らかなように、「スンニ派イスラム」だけでは、21世紀に向けた持続的な政治秩序を育んでいくトルコのアイデンティティを形作れなかった。こうしてエルドアンは、伝統的な権威主義的ナショナリズムへと立ち返らざるを得なくなった。・・・
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ベネズエラの自殺
―― 南米の優等生から破綻国家への道雑誌掲載論文
インフレ率が年100万%に達し、人口の61%が極端に貧困な生活を強いられている。市民の89%が家族に十分な食べ物を与えるお金がない。しかも、人口の約10%(260万人)はすでに近隣諸国に脱出している。かつてこの国は中南米の優等生だった。報道の自由と開放的な政治体制が保障され、選挙では対立する政党が激しく競い合い、定期的に平和的な政権交代が起きた。多くの多国籍企業が中南米本社を置き、南米で最高のインフラをもっていたこの国が、なぜかくも転落してしまったのか。元凶はチャビスモ(チャベス主義)だ。キューバに心酔するチャベスと後任のマドゥロによって、ベネズエラは、まるでキューバに占領されたかのような大きな影響を受けた。でたらめで破壊的な政策、エスカレートする権威主義、そして泥棒政治が重なり合い、破滅的な状況が生み出された。・・・
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北朝鮮非核化の失敗と予想外の安定
―― 非核化という虚構がもたらす機会と脅威雑誌掲載論文
皮肉にも、アメリカが真の非核化合意を実現できなかったがゆえに、韓国、北朝鮮、中国、アメリカ、日本がいずれも現状を受け入れられるような北東アジアの秩序が確立されるかもしれない。北朝鮮が核武装に成功した結果、北東アジアの関係諸国間のパワーと利益の棲み分けが進んでいる。北朝鮮体制の存続は事実上保証されている。アメリカは、引き受けられるリスクからみて、応分の影響力を確保し、中国もこれまでのように地域紛争に引きずり込まれ、同盟国を失うことを心配する必要がなくなった。偶発的で予想外かもしれないが、関係諸国にとって、これはもっとも問題が少ない安全保障構造かもしれない。
米中衝突のリアリティ
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米中戦争を回避するには
―― アメリカの新中国戦略に対する10の疑問雑誌掲載論文
40年間に及んだアメリカの対中エンゲージメント政策にはすでに公的にピリオドが打たれ、いまやそれは「戦略的競争」に置き換えられている。対中強硬論は、米議会を含むアメリカの政府機関、ビジネスコミュニティの支持を広く集めているようだ。しかし、政策決定者は、この戦略を政策レベルで運用していく上で、数多くの予期せぬ事態に直面することを想定しておくべきだ。戦略的競争が、関係の打ち切り、対立、封じ込め、そしておそらくは武力紛争へ急速にエスカレーションしていくリスクも考えなければならない。対立の帰結はどのようなものになるか。封じ込めは成功するのか。諸外国はどう反応するか。第3の道は存在するか。考えるべき設問は数多く存在する。
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米中核戦争は絵空事ではない
―― なぜエスカレーションリスクが高いのか雑誌掲載論文
専門家の多くは、米中核戦争はあり得ないと考え、想定外のシナリオとみているが、そう思い込むのは考えものだ。例えば、台湾をめぐる軍事対立が核戦争へとつながっていくリスクは、多くの政策決定者や分析者が考えている以上に高い。実際、ペンタゴンの通常戦力による戦闘モデルを中国に当てはめるのは、核戦争へのエスカレーションを引き起こす処方箋のようなものだ。最大の問題は、中国が通常戦力と核戦力を渾然一体として配備しているために、通常戦力だけを叩くのが難しいことにある。つまり、中国の通常戦力を叩く大がかりなアメリカの軍事キャンペーンは、相手の核戦力も脅かしてしまう。戦況を前に、北京が、アメリカの意図に関する解釈を大きく見直したときに大きな危険が待ち受けている。中国の指導者は、まだ使える状態の核兵器を、中国の核戦力をもっとも脅かしている米空軍基地に対して先制使用する恐れがある。・・・
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トランプの台湾カードと台北
―― 急旋回する米中台関係Subscribers Only 公開論文
中台関係と米中関係の緊張が同時に高まっている。中国は台湾海峡に空母を、この島の上空近くに頻繁に戦闘機を送り込んでいるだけでなく、中国の外交官は「米海軍の艦船が高雄港に寄港すれば、中国軍は直ちに台湾を武力統合する」とさえ警告している。一方ワシントンでは、台湾カードを切ることを求めるジョン・ボルトンが大統領補佐官に就任した。いずれトランプ政権が、中国との軍事衝突を引き起こしかねないやり方で台湾カードを切る可能性は現に存在する。トランプがアメリカと台湾の関係を大幅に格上げすれば、この動きは台湾では大いに歓迎されるだろう。しかし、蔡英文はそのような変化を受け入れる誘惑に耐えた方がよい。誘惑に負ければ、台湾は「ワシントンの中国対抗策における人質」にされてしまう。
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米中とツキジデスの罠
―― 次なる文明の衝突を管理するにはSubscribers Only 公開論文
台頭する国家は自国の権利を強く意識するようになり、より大きな影響力と敬意を求めるようになる。かたや、チャレンジャーに直面した既存の大国は状況を恐れ、守りを固める。この環境で、誤算のリスクが高まり、相手の心を読めなくなる。米中にはこの「ツキジデスの罠」が待ち受けている。それだけではない。米中間には相手国の理解を阻む文明的な障壁が存在する。政治や経済制度への考え方の違いだけではない。国内の政治制度を下敷きとする国際ビジョンも、物事をとらえる時間枠も違う。必要なのは、相手への理解を深めることだ。対中アプローチを立案しているトランプ政権の高官たちは、古代中国の軍事思想家、孫武の著作に目を通すべきだろう。「敵を知り己を知れば百戦危うからず。己を知るも、敵を知らなければ勝ち負けを繰り返し、敵も己も知らなければ、一度も勝てぬままに終わる」
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米中貿易戦争の安全保障リスク
―― 対立は中国をどこへ向かわせるかSubscribers Only 公開論文
ごく最近まで米中の経済的つながりは、戦略的な不信感がエスカレートしていくのを抑える効果的なブレーキの役目を果たしてきたが、いまや専門家の多くが、世界経済を不安定化させるような全面的な貿易戦争になるリスクを警戒するほどに状況は悪化している。経済・貿易領域の対立が、安全保障領域に与える長期的な意味合いも考える必要がある。北京がアメリカとの経済関係に見切りをつければ、国際システムに背を向け、明確にイラン、ロシア、北朝鮮との関係を強化し、アメリカと同盟諸国の関係に楔を打ち込もうとすると考えられるからだ。相互依存関係の管理にトランプ政権が苛立ち、(現在の路線を続けて)経済・貿易領域で中国を遠ざけていけば、安全保障領域でより厄介な問題を抱え込む恐れがあることを認識する必要がある。
何が民主主義を脅かしているのか
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トランプを台頭させた 白人有権者の文化的恐れ
―― グローバル化に対する反動という虚構雑誌掲載論文
貿易と移民に対する反発がトランプの台頭を支えたと考えるのは間違っているし、当然、「グローバル化に対する反動」という虚構に配慮するのも間違っている。それどころか、ギャラップ社の世論調査結果は、かつてなく多くのアメリカ人が貿易と移民の流れは経済的な恩恵をもたらすと考えていることを示している。一方で、高齢の白人有権者の割合が高い地域でトランプへの支持率が高いことに目を向けるべきだろう。問題は、(人やモノの)グローバル化を、白人の少数派が「文化的な脅威」とみなしていることにある。国際主義者たちは彼らの立場に歩み寄るのではなく、むしろ闘いを挑む必要がある。
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民主国家で台頭する二つの権威主義
―― 選挙権威主義と非自由主義的民主主義の脅雑誌掲載論文
民主主義が劣化していくにつれて、権威主義化していく。特に、選挙で勝利を手にするためなら何でもする「選挙権威主義」体制、そして選挙後に支配者が法を無視して思うままの行動をとるようになる「非自由主義的民主主義」が主流になっていくだろう。例えば、超法規的殺人を特徴とする麻薬戦争を展開しているフィリピンのドゥテルテは、選挙で選ばれたが、権力を乱用している。(権力を思うままに行使して)非自由主義的民主主義を実践しているトランプも同様だ。より厄介なのは、選挙で有利になるように、ゲリマンダー、議員定数の不均衡などのあらゆる政治制度上のトリックを利用しているマレーシアの統一マレー国民組織(UMNO)と米共和党が似てきていることだ。選挙に破れても首相を送り込んだUNMO同様に、米共和党も、一般投票では敗れつつも、最近の2人の共和党大統領候補をホワイトハウスに送り込むことに成功している。・・・
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人種的奴隷制と白人至上主義
―― アメリカの原罪を問うSubscribers Only 公開論文
依然として、事実上の人種差別がアメリカのかなりの地域に存在する。黒人の大統領を2度にわたって選び、黒人のファーストファミリーを持ったものの、結局、後継大統領選はある意味でその反動だった。歴史的に、肌の白さは経済的・社会的地位に関係なく、価値あるものとされ、肌の黒さは価値が低いとみなされてきた。この環境のなかで白人至上主義が支えられてきた。肌の色という区別をもつ「人種的奴隷制」は、自由を誇りとする国で矛盾とみなされるどころか、白人の自由を実現した。黒人を社会のピラミッドの最底辺に位置づけることで、白人の階級間意識が抑制されたからだ。もっとも貧しく、もっとも社会に不満を抱く白人よりもさらに下に、常に大きな集団がいなければ、白人の結束は続かなかっただろう。奴隷制の遺産に向き合っていくには、白人至上主義にも対処していかなければならない。
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見捨てられた白人貧困層とポピュリズム
Subscribers Only 公開論文
テクノロジーと金融経済の進化は、東海岸や西海岸における都市の経済的・社会的バイタリティーを高めたが、製造業に支えられてきた南部と中西部にはみるべき恩恵はなかった。南部と中西部の経済が衰退して市民生活の空洞化が進んでいるのに、政治的関心がこの問題に向けられなかったために、これらの地域の「成長から取り残された」多くの人々がドラッグで憂さを晴らすようになり、なかには白人ナショナリズムに傾倒する者もいた。トランプはまさにこの空白に切り込み、支持を集めた。トランプは、政治舞台から姿を消すかもしれないが、彼が言うように、「実質的な賃金上昇がなく、怒れる人々のための政党」が出現する可能性はある。民主党か共和党のどちらか(または両方)が、貧しい白人労働者階級が直面する問題に対処する方法を見つけるまで、トランプ現象は続くだろう。
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アメリカ政治の分裂と民主体制の危機
―― ドナルド・トランプと競争的権威主義Subscribers Only 公開論文
トランプのアメリカがファシズムに陥っていくと考えるのは行き過ぎだが、彼が大統領になったことで、この国が「競争的権威主義」、つまり、有意義な民主的制度は存在するが、政府が反対派の不利になるように国家権力を乱用する政治システムへ変化していく恐れがある。政府機関を政治化すれば、大統領は調査、告訴、刑事責任の対象から逃れられるようになる。政党間の分裂が激しければ、議会の監視委員会が、行政府に対して超党派の集団的な立場をまとめるのも難しい。しかも、政党だけでなく、アメリカの社会、そしてメディアさえもが分裂している。いまや民主党員と共和党員は全く異なるソースのニュースを利用し、その結果、有権者はフェイクニュースを真に受け、政党のスポークスパーソンの言葉をより信じるようになった。現在の環境では、仮に深刻な権力乱用が暴かれても、それを深刻に受け止めるのは民主党支持者だけで、トランプの支持者たちはこれを党派的攻撃として相手にしないだろう。・・・
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「競争的権威主義」国家は帝政ドイツと同じ道を歩むのか
―― ビスマルクの遺産と教訓Subscribers Only 公開論文
異なる社会集団が権力を競い合うことは許容されるが、公正な選挙という概念は踏みにじられ、支配エリートによって野党勢力は抑え込まれ、リベラルな規範などほとんど気にとめられることはない。ロシアからペルー、カンボジアからカメルーンにいたるまで、帝政ドイツにルーツを持つこの「競争的権威主義」体制をとる国はいまも世界のあらゆる地域に存在する。かつてのドイツ同様に、現在の競争的権威主義国家も世界を揺るがす衝撃を作り出すことになるのか、それとも、民主化への道をたどっていくのか。これを理解するには、ビスマルクが育んだ政治文化が、なぜ彼の没後数十年でドイツを壊滅的なコースへと向かわせたのかを考える必要がある。結局、「支配エリートたちが完全に自由な政治制度がもたらす政治的不透明さに対処していく気概を持つかどうか」が、競争主義的権威主義体制を民主化へと向かわせるか、それとも独裁者の聖域を作り出すことになるのかを分けるようだ。
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民主国家に浸透する権威主義
―― 蝕まれるリベラルな民主主義Subscribers Only 公開論文
欧米諸国による批判や敵意を前にすると国内が不安定化する傾向があるロシアなどの権威主義国家は、民主国家による民主化促進策、反体制派支援、経済制裁などを阻止するための盾を持ちたいと考えてきた。こうして、欧米の政治に介入したり、プロパガンダ戦略をとったりするだけでなく、資金援助をしている欧米の政党や非政府組織、ビジネス関係にある企業との関係を通じて、民主社会への影響力を行使するようになった。権威主義国家の最終的な目的は、自分たちの影響力を阻止できないほどに欧米の政府を弱体化させることにある。問題は、民主社会が外国の資金や思想の受け入れに開放的で、欧米のビジネスエリートが権威主義国のクライエントたちからも利益を上げようとしていること、しかも民主体制が弱体化しているために、彼らがつけ込みやすい政治環境にあることだ。・・・
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カトリック教会の重大な危機
―― 宗教改革以来最大の危機とは何か雑誌掲載論文
カトリック教会は制度改革を切実に必要としていたタイミングで、政治的・神学的・地政学的な亀裂の拡大に直面し、いまや宗教改革以来最大の危機に直面している。聖職者による性的虐待が新たに明らかになり、世界に衝撃を与えている。ビガノ大司教は「教皇フランシスコは長年マカリックの性的虐待を知っていたにもかかわらず、その隠蔽を助けてきた」と告発する書簡を発表し、教皇の辞任さえ求めている。いまやカトリック教会は、進歩派と保守派の間で大きく割れている。それでも、おそらく現在の状況は、16世紀の宗教改革のようなカトリックの分裂や、新しい教会の設立にはつながっていかないだろう。より現実性が高いのは、ローマ・カトリック教会が、中央とのつながりが緩く、より国家に根ざした東方正教会のような制度構造に向かっていくことだ。・・・