フォーリン・アフェアーズ・リポート2017年6月号 目次
大いなる分裂
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アメリカ政治の分裂と民主体制の危機
―― ドナルド・トランプと競争的権威主義雑誌掲載論文
トランプのアメリカがファシズムに陥っていくと考えるのは行き過ぎだが、彼が大統領になったことで、この国が「競争的権威主義」、つまり、有意義な民主的制度は存在するが、政府が反対派の不利になるように国家権力を乱用する政治システムへ変化していく恐れがある。政府機関を政治化すれば、大統領は調査、告訴、刑事責任の対象から逃れられるようになる。政党間の分裂が激しければ、議会の監視委員会が、行政府に対して超党派の集団的な立場をまとめるのも難しい。しかも、政党だけでなく、アメリカの社会、そしてメディアさえもが分裂している。いまや民主党員と共和党員は全く異なるソースのニュースを利用し、その結果、有権者はフェイクニュースを真に受け、政党のスポークスパーソンの言葉をより信じるようになった。現在の環境では、仮に深刻な権力乱用が暴かれても、それを深刻に受け止めるのは民主党支持者だけで、トランプの支持者たちはこれを党派的攻撃として相手にしないだろう。・・・
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民主主義の危機にどう対処するか
―― ポピュリズムからファシズムへの道Subscribers Only 公開論文
ファシストが台頭した環境は現在のそれと酷似している。19世紀末から20世紀初頭のグローバル化の時代に、資本主義は西洋社会を劇的に変貌させた。伝統的なコミュニティ、職業、そして文化規範が破壊され、大規模な移住と移民の流れが生じた。現在同様に当時も、こうした変化を前に人々は不安と怒りを感じていた。だが、第一次世界大戦、大恐慌という大きなショックを経験したことを別にしても、根本的な問題は、当時の民主主義が、戦間期の社会が直面していた危機にうまく対処できなかったことだ。要するに、革命運動が脅威になるのは、民主主義が、直面する課題に対処できずに、革命運動がつけ込めるような危機を作り出した場合だ。ポピュリズムの台頭は、民主主義が問題に直面していることを示す現象にすぎない。だが、民主的危機への対応を怠れば、ポピュリズムはファシズムへの道を歩み始めることになるかもしれない。
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行き場を失った道徳的怒りと米社会の分裂
―― 熾烈なネガティブキャンペーンの果てにSubscribers Only 公開論文
ヒラリー・クリントンとドナルド・トランプの対決はベトナム戦争以来かつてないほどの大きな分裂をアメリカ社会にもたらしている。「なぜ政治がかくも毒を帯びてしまったのか」。コメディアンのスティーブン・コルバートは大統領選の夜にこの問いに次のように答えている。「今年は特にみんながふらふらになっていた。毒気にあたりすぎた。少しばかり毒気にさらされても相手の嫌なところがみえる程度で、悪くはない。それでその感覚にはまって、相手を攻撃することで少しばかりハイになってしまった」。選挙戦でトランプが批判したイスラム教徒やメキシコ人たちに対して差別用語を使うことは、いまやトランプ・クリントン双方の支持者に受け入れられつつある。だがもう中傷合戦は止め、曖昧でつかみどころのない不平不満ではなく、具体的で現実に存在する問題に焦点をあわせるべきだ。バラバラになった市民をこれ以上分断させるのではなく、有益な政策を通して市民をまとめ、融和をはかる方向へ怒りの矛先を向かわせなければならない。
変貌した経済と貿易政策
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経済成長への期待と憂鬱な現実
―― 「奇跡の世界後」の経済に備えよ雑誌掲載論文
人口減少、レバレッジの解消、脱グローバル化が成長を阻む大きな障害となっている以上、各国の政策決定者たちは経済的成功の定義を見直し、力強い経済成長の指標を1―2%引き下げるべきだろう。この基準でみれば、中国の場合、成長率4%で比較的力強い成長とみなせるし、アメリカのような先進国の場合、1・5%を上回る成長率なら健全な状態にあると考えるべきだ。問題は、こうした経済的成功の新しい定義を理解するか、受け入れている政治指導者がほとんどいないことだ。中国は6%の経済成長を維持しようと試み、アメリカの政治指導者も4―6%の経済成長を目指すと発言している。こうしたレトリックは期待と現実の間のギャップを作り出してしまう。世界のいかなる地域も2008年前のような急速な経済成長を遂げることはあり得ないし、そう期待すべきでもない。われわれは「奇跡の世界後」に備えるべきタイミングにある。
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トランプの貿易政策は何を引きおこす
―― 保護主義の連鎖と自由貿易の危機雑誌掲載論文
「アメリカファースト」の貿易政策が、製造業に新たな雇用をもたらすことも、貿易赤字を縮小することもあり得ない。トランプの貿易政策の最大のリスクは、WTO(世界貿易機関)を含む、アメリカが第二次大戦以降推進してきたオープンな国際貿易体制に、取り返しのつかないダメージを与えてしまう恐れがあることだ。1930年代に象徴される過去の貿易政策の失敗の教訓は、保護主義が(他国の)保護主義を呼び込んでしまうことだ。実際、カナダの世論調査によると、アメリカがカナダ製品に関税をかければ、貿易戦争に応じるべきだと答えた人が58%に達している。歴史は、貿易障壁は作るのは簡単だが、取り除くのが難しいことを教えている。そのダメージを修復するには、数十年単位の時間が必要になる。
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オートメーション時代の失業と社会保障
雑誌掲載論文
ロボットの導入による失業が現実に起きれば、その一方で、膨大な富が作り出され、それがかつてなく一部へ富を集中させることはすでに分かっている。雇用喪失の一方で、巨大な富が集積されていくことのバランスをどうとるか、広く富を共有していくにはどうすればよいかを考えなければならない。(J・ミラー)
今後10年間でより多くの雇用を創出する産業は何かに関する予測のトップ10のうちの四つは看護・介護に関係した職業で、介護、看護師、在宅介護、看護師補助(ヘルパー)などだ。問題はこれらの雇用の質(と賃金)がとても低いことだ。(E・ポーター)
私はオートメーションによって大量失業時代が引きおこされるとは考えていないが、経済的に困難な状況に直面する個人が出てくるのは避けられないだろう。これは対処すべきとても重要な問題だ。だが(その対応策としては)、普遍的な最低所得保障ではなく、雇用保障の方がよいと思う。この場合、政府がすべての人の「最後の雇用主」ということになる。(H・シアーホルズ) -
社会科学を覆した2人のイスラエル人学者
―― トベルスキーとカーネマン雑誌掲載論文
カーネマンとトベルスキーという2人の偉大な心理学者は、人間の思考プロセスに欠陥があることを発見した。その一つが、自分の先入観に適合するかどうかによって物事を判断する「認識の近道」だ。2人の研究にノーベル賞の価値があるのは、合理的なアクターという経済学の大前提に疑問を投げかけ、人間の思考プロセスについてもっと現実的な説明をしたことにある。2人は、人間が確率を考えるときに抱く体系的なバイアスを発見し、経済学、医学、法学、公共政策の研究と実践に革命を起こした。政治家の外交的判断も例外ではない。なぜジョンソン大統領はベトナムへの介入強化の決定をしたのか。朝鮮戦争やミュンヘンの宥和のような、間違った先例に介入の根拠を見出したのは、人間が出来事や人を、自分の先入観に適合するかどうかによって評価する「認識の近道」が引き起こした弊害だった。・・・
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1930年代の悪夢が再現されるのか
―― 高まる保護主義の脅威Subscribers Only 公開論文
1930年代の教訓からみて、失業率が高止まりし、通貨供給、為替、財政政策上の選択肢が失敗するか、選択肢にならない場合、国は貿易障壁を作り出す可能性が非常に高い。・・・しかも、20世紀の初頭同様に、いまや世界はグローバル経済のリーダーシップをめぐる大きな移行期にある。アメリカのパワーは大きく弱体化し、ワシントンには、もはや単独でグローバル経済のリーダーシップを担う力はない。一方で、中国がリーダーシップを果たすとも考えにくい。輸出ばかりを重視する重商主義的な貿易アプローチをとっている限り、北京が困難な状況にある諸国からの輸出を受け入れる開放的市場の役目を果たすことはないだろう。G20もまとまりを欠いている。1930年代と現在の類似性が表面化しつつある。経済は回復しているが、失業率が高止まりし、多くの製造部門は過剰生産能力を抱え込み、通貨問題をめぐる緊張が高まりつつある。1930年代のような深刻で大規模な経済停滞に陥るリスクを回避できたと言うのに、現在の指導者が、1930年代の近隣窮乏化政策を今に繰り返すとすれば、悲劇としか言いようがない。
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長期停滞にどう向き合うか
―― 金融政策の限界と財政政策の役割Subscribers Only 公開論文
今後10年にわたって、先進国のインフレ率は1%程度で、実質金利はゼロに近い状態が続くと市場は読んでいる。アメリカ経済についても同様だ。回復基調に転じて7年が経つとはいえ、市場は、経済がノーマルな復活を遂げるとは考えていない。この見方を理解するには、エコノミストのアルヴィン・ハンセンが1930年に示した長期停滞論に目を向ける必要がある。長期停滞論の見方に従えば、先進国経済は、貯蓄性向が増大し、投資性向が低下していることに派生する不均衡に苦しんでいる。その結果、過剰な貯蓄が需要を抑え込み、経済成長率とインフレ率を低下させ、貯蓄と投資のインバランスが実質金利を抑え込んでいる。この数年にわたって先進国を悩ませている、こうした日本型の経済停滞が、今後、当面続くことになるかもしれない。だが、打開策はある。・・
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人工知能と「雇用なき経済」の時代
―― 人間が働くことの価値を守るにはSubscribers Only 公開論文
さまざまな事例を検証し、相関パターンを突き止め、それを新しい事例に適用することで、コンピュータはさまざまな領域で人間と同じか、人間を超えたパフォーマンスを示すようになった。道路標識を認識し、人間の演説を理解し、クレジット詐欺を見破ることもできる。すでにカスタマーサービスから、医療診断までの「パターンをマッチさせるタスク」は次第に機械が行うようになりつつあり、人工知能の誕生で世界は雇用なき経済へと向かいつつある。今後時給20ドル未満の雇用の83%がオートメーション化されるとみる予測もある。労働市場は大きく変化していく。新しい技術時代の恩恵をうまく摘み取るだけでなく、取り残される人々を保護するための救済策が必要になる。間違った政策をとれば、世界の多くの人を経済的に路頭に迷わせ、機械との闘いに敗れた人を放置することになる。
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デジタル経済が経済・社会構造を変える
―― オートメーション化が導くべき乗則の世界Subscribers Only 公開論文
グローバル化は大きな低賃金労働力を擁し、安価な資本へのアクセスをもつ国にこれまで大きな恩恵をもたらしてきたが、すでに流れは変化している。人工知能、ロボット、3Dプリンターその他を駆使したオートメーション化というグローバル化以上に大きな潮流が生じているからだ。工場のようなシステム化された労働環境、そして単純な作業を繰り返すような仕事はロボットに代替されていく。労働者も資本家も追い込まれ、大きな追い風を背にするのは、技術革新を実現し、新しい製品、サービス、ビジネスモデルを創造する一握りの人々だろう。ネットワーク外部性も、勝者がすべてを手に入れる経済を作り出す。こうして格差はますます広がっていく。所得に格差があれば機会にも格差が生まれ、社会契約も損なわれ、・・・民主主義も損なわれていく。これまでのやり方では状況に対処できない。現実がいかに急速に奥深く進化しているかを、まず理解する必要がある。
対北朝鮮戦略を考える
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北朝鮮に対する強硬策を
―― 外交やエンゲージメントでは問題を解決できない雑誌掲載論文
金正恩は「父親と祖父が数十億の資金と数多くの人命をつぎ込んできた核の兵器庫を完成させることで、自分の政治的正統性が確立される」と考えている。仮に核の解体に応じるとすれば、体制の存続そのものを脅かすような極端な圧力のもとで、それに応じざるを得ないと考えた場合だけだろう。外交やエンゲージメントがことごとく失敗してきたのは、平壌が核の兵器庫を拡大していくことを決意しているからに他ならない。あと少しで核戦力をうまく完成できるタイミングにあるだけに、平壌が核・ミサイル開発プログラムを断念するはずはなく、交渉を再開しても何も得られない。北朝鮮の非核化を平和的に実現する上で残された唯一の道筋は「核を解体し、改革を実施しない限り、滅亡が待っている」と平壌に認識させることだ。ワシントンは「平壌が核兵器以上に重視していること」を脅かす必要がある。それは北朝鮮体制の存続に他ならない・・・
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対北朝鮮政策における韓国ファクター
―― 韓国政治の流動化と対北朝鮮戦略雑誌掲載論文
北朝鮮が好戦性を高める一方で、国内政治の流動化によって韓国の危機対応能力が損なわれている。この現状が続けば、金正恩の攻撃性に対処し、北朝鮮の抑圧状況を緩和するように圧力をかける主な役割をアメリカが担わなければならなくなる。ワシントンが強制的な措置と外交・抑止政策、さらには、北朝鮮社会に外の世界の情報を拡散するキャンペーンを組み合わせれば、韓国の新大統領が対北朝鮮圧力を緩和するのを牽制することにもなる。韓国政府が北朝鮮宥和策に傾斜した場合に生じる「空白」をワシントンが埋めなければ、平壌の抑圧政権はさらに基盤を固め、すでに長く困難な状況におかれている北朝鮮民衆をさらに苦しめることになる。
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世界の現実に気づきだした北朝鮮民衆
―― 流入するデジタル情報と平壌の闘いSubscribers Only 公開論文
世界でも指折りの外交交渉者が数十年にわたって金日成、金正日、そして金正恩を取り込んで魅了するか、あるいは(平壌の立場の見直しを)強制しようと手を尽くしてきたが、その全てがうまくいかず、クーデターを促す秘密工作も失敗した。核兵器の開発に成功しているために、国際社会が北朝鮮に対する体制変革路線をとり、大規模な武力行使を試みるのも難しくなった。だが一方で、北朝鮮民衆が国内外の情勢について、より正確な情報を入手するようになるにつれて、「国に裏切られた」という思いが生まれ、政府に対する不信感が広がっている。北朝鮮は内側から変わるしかない。外国の情報や文化を伝えるデジタルコンテンツの流通は、それを推進するもっとも持続可能かつ費用対効果の高い方法だろう。
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平壌という北朝鮮民衆の悪夢
Subscribers Only 公開論文
北朝鮮の経済は今後も停滞を続け、人々は食糧不足に苦しみ、2004~2005年以降の反改革路線もおそらくは継続されるだろう。憂鬱な停滞が続くはずだ。平壌は、人々を奈落の底に突き落とすような政策をとりつつも、それでも権力を維持していくだろう。これは北朝鮮の悲劇だ。現在の北朝鮮の体制はとにかく秘密主義だし、民衆を悲惨な目に遭わせるという点では無限大の能力を持っている。・・・だが、北朝鮮に対する金融制裁はそれなりの効果を期待できる。各国の金融機関が自行のイメージが傷つくことを恐れて、北朝鮮との取引を自主的に制限し始めることは過去のケースからも明らかだし、中国政府も金融制裁については、中国の銀行がアメリカ市場へのアクセスを失うことを恐れて、積極的に協力するからだ。今後の鍵を握るのは、制裁とともに、大きな変化をもたらすポテンシャルを秘めている北朝鮮の非公式経済がどうなるかだ。もちろん、北朝鮮政府は、今後も、この国における経済活動の多くを直接的な管理下に置こうと試みるだろう。だが問題は、経済を運営する能力を政府が持っていないこと、人々が食卓に食事を並べるための食糧を提供できないことだ。
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韓国経済のポテンシャルとリスク
Subscribers Only 公開論文
韓国を新興国と呼ぶのは、もはや時代遅れかもしれない。この国は豊かだし、技術面でも洗練され、イノベーション、経済改革、健全なリーダーシップという面で見事な成果を上げている成熟した民主国家だ。しかし、それでも韓国を先進国市場とみなすのは無理がある。経済の貿易依存度が高いために、主要先進国と比べて、市場の変動に翻弄される度合いが大きく、これは韓国経済が克服すべき重要な課題の一つだ。企業部門への集中度が高く、社会の高齢化が進んでいること、政府と企業の不透明な関係、そして、北朝鮮という政治的に危険な隣国を抱えていることも大きな課題だ。北の隣国が唐突に崩壊する可能性は現に存在する。その場合、韓国が大規模な資金を北に援助するか、北朝鮮の民衆が韓国へと流れ込むかのいずれかが現実になる。・・・
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金融制裁と銀行の役割
―金融でならず者国家を孤立させるにはSubscribers Only 公開論文
北朝鮮やイランを標的とするアメリカの最近の金融外交は、各国の政府だけでなく、民間の金融機関にも協力を求めるようになり、その結果、金融制裁はかなりの成果を挙げるようになった。ワシントンは要注意のブラックリストを公表し、各国の銀行はこのリストから疑わしい資産を突き止め、怪しげな取引を阻止し、問題のある個人や組織が世界の金融システムを悪用するのを食い止めようと試みている。銀行がこうした制裁措置に協力するのには訳がある。意図的ではなくても、「テロや核兵器の拡散に手を貸している」と新聞で報道されれば、そのブランドが大きく傷つき、ビジネス上の大きな痛手となるからだ。金融制裁は今後も問題国家に対する大きなツールになる。だが、脅威と金融システムが交錯するポイントを明確にせずに、安易に制裁措置を乱発すれば、金融措置を実施する主体である銀行側の協力を得られなくなる恐れがある。
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イラン核合意と北朝鮮の教訓
―― 合意を政治的に進化させるにはSubscribers Only 公開論文
イランとの核合意にとって、北朝鮮への核外交が失敗したことの中核的教訓とは何か。それは、最善の取引を交わしたとしても、合意そのものは外交ドラマのプレリュードにすぎないということだ。テヘランが平壌と同じ道を歩むのを阻むには、今後、テヘランがこれまでとは抜本的に異なる新しいアメリカや地域諸国との関係、国際コミュニティとの関係を築いていけるようにしなければならない。アメリカは北朝鮮との核合意を結びながらも、政治的理由から合意を適切に履行せず、結局、北朝鮮は核開発の道を歩み、核保有を宣言した。米議会からリヤド、エルサレムにいたるまで、イランとの核合意に反対する勢力がすでに動きだしている。相手国との関係の正常化こそが、核開発の凍結を実現する最善の方法であることを忘れてはならない。そうできなかったことが北朝鮮外交失敗の本質であり、この教訓をイランとの外交交渉に生かしていく必要がある。
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北朝鮮は経済改革を模索している
―― 崩壊か経済改革かSubscribers Only 公開論文
北朝鮮は2030年までに崩壊すると予測する専門家もいるが、平壌はすでに中国流の経済改革導入への道を歩みつつあるとみなすこともできる。これを理解するには、中国はどのような手順で改革へと歩を進めたかを考える必要がある。1960年代に核兵器を獲得した北京は、1970年代に対米デタントによって体制の安定と安全を確保した上で、経済改革路線を優先させるようになった。つまり、今日の北朝鮮は1970年の中国同様に、経済改革に着手する前に、まずワシントンから体制の安全に関する保証を取り付けたいと考えている段階にある。金正恩は「経済建設」の次の局面に進みたいと考えていると示唆し、4月1日には実務派テクノクラートの朴奉珠を首相に登用して、経済成長の舵取りを委ねている。朴奉珠が北朝鮮の首相に抜擢されたこと自体、金正恩が経済を重視し、改革志向を持っていることの現れとみなせる。平壌の穏健派に力を与えるためにも、アメリカは強硬策ではなく、北朝鮮の安全を保証し、経済改革にむけた環境整備に手を貸すべきだ。体制を揺さぶり、崩壊を待つ路線を続ければ、偶発事件によって次なる朝鮮戦争が誘発される恐れがある。
Current Issue
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同性愛に対するグローバルな反動
―― 同性愛を拒絶する宗教・政治的ルーツ雑誌掲載論文
南北アメリカから、ロシアその他の旧共産主義諸国、そして中東からアフリカに至るまでの世界各地で、同性愛者の権利擁護に対する激しい反発と反動が生じている。この反動には社会・宗教・政治的要因が複雑に関わっている。主要宗教のなかで同性愛に対する許容度がもっとも低いのがイスラム教。これにプロテスタント系福音派、カトリック、そして主流派プロテスタントが続く。そして世界の独裁政権の多くが、同性愛者というマイノリティをかつてのユダヤ人や民族的少数派などの少数派集団同様に政治的スケープゴートにしている。そうすることで民衆の政治的支持を高めて権力基盤を固め、保守的な政策を正当化し、市民の関心が真に重要な問題に向かうリスクを低下させられるからだ。・・・
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エルドアンとトルコ社会の分裂
―― 今も続くクーデター未遂事件の余波雑誌掲載論文
大統領権限の強化の是非を問う国民投票でエルドアンは勝利を収めたが、イスタンブール、アンカラ、イズミールという3大都市は、いずれも憲法改正にノーという答を出した。反憲法改正派は「(国民投票は)エルドアンにとって僅差での勝利だったのだから、彼もこれまでの立場を譲るのではないか」と期待していたが、そうなるはずはなかった。むしろ、エルドアンは分裂をさらに深刻にするために、あらゆることを試みていくはずだ。「クーデターを画策するギュレン運動の関係者やクルド労働者党(PKK)との戦いに勝利を収めるには、憲法を改正して、大統領の権限を強化する必要があり、憲法改正に反対するのはテロリストを支持するようなものだ」と彼は主張してきた。ジャーナリスト、アカデミックな研究者、忠誠が十分でない政府役人に対する弾圧は、今後ますます熾烈を極めるだろう。エルドアンはトルコ市民が国民投票で決めた新しい大統領制を支持しない者は、反逆的な主人(ギュレン)に仕える反乱者と決めつけている。・・・
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軍隊と経済的技術革新
―― なぜイスラエル軍は経済に貢献できるのか雑誌掲載論文
「徴兵された若者たちにとって、イスラエル国防軍・技術諜報部門での経験はハーバード大学で学んでいるようなものだ」。(国防軍でスキルを学び)ネットワークを形作り、いずれ、ともにビジネスをするようになる。徴兵した兵士たちにイスラエル国防軍が与える訓練はイスラエル経済に大きな恩恵をもたらしている。実際、ブームに沸き返るイスラエルのハイテク部門の多くを軍出身者たちが支えている。兵役を経験しているイスラエル人が成人人口の60%なのに対して、ハイテク部門人材に占める兵役経験者の比率は90%に達している。例えば、若年労働者の失業率が高く、持続可能な雇用を創出する方法を模索しているヨーロッパは、イスラエルのやり方に学ぶことができる。イスラエルの実例から適切な教訓を引き出して応用すれば、世界の多くの国が、近い将来に、兵役を終えた若者たちが軍隊で身に付けた人的資本、社会資本、文化資本を生かして、民間部門との絆を形作っていくだろう。
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同性愛者に優しく、労働者に冷たい社会
―― アメリカの左派運動の成功と挫折Subscribers Only 公開論文
著名人が同性愛者に差別的な発言をしたニュースが瞬く間にインターネットで広がることからも明らかなように、現代のアメリカ社会は同性愛者の権利については敏感に反応する。一方、労働組合が衰退していることもあって、経済的平等の実現に向けた意識は低い。文化活動を通じた社会変革活動は、多くのアメリカ人にアピールし、いまやレズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー(LGBT)の権利を認めることを求めてきた左派の運動は、次々と大きな勝利を収めている。一方、労働組合は目的を実現できず、経済格差の是正を求めた、最近の「ウォール街を占拠せよ」運動も勢いを失った。結局、現代のアメリカはリバタリアン(自由至上主義)の時代にあり、「一人の痛みを皆で連帯して分かち合う」という昔ながらのスローガンは、ユートピア的とは言わないまでも、時代遅れなのかもしれない。・・・
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新「トルコ国家の父」を目指したエルドアン
―― なぜ権威主義的ナショナリズムへ回帰したのかSubscribers Only 公開論文
これまで経済・政治の自由化を約束してきたエルドアンが、なぜ非自由主義的な権威主義路線の道を歩んでいるのだろうか。いまや彼は伝統的な中東の強権者となり、自分の権力基盤を固め、ライバルを追放し、反体制派を抑圧している。エルドアンの本来の目的は、保守的な社会秩序を維持する一方で、クルド人などの国内の少数派民族・文化集団との関係を修復していくことにあった。クルド人を含む、トルコ市民の多くが信奉する「スンニ派イスラム」を国の統合原理にしたいと考えてきた。しかし、クルドとの和平に失敗したことからも明らかなように、「スンニ派イスラム」だけでは、21世紀に向けた持続的な政治秩序を育んでいくトルコのアイデンティティを形作れなかった。こうしてエルドアンは、伝統的な権威主義的ナショナリズムへと立ち返らざるを得なくなった。・・・
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「遠征経済学」の薦め
―― 軍は紛争・災害後の社会と経済をいかに立て直せるかSubscribers Only 公開論文
現在の紛争の多くが、経済が弱く、停滞している国で起きているのは偶然でない。軍隊は軍事介入をして社会を安定化させることしか考えていないが、紛争後の安定に必要なのは、紛争前を上回る経済レベルへと相手国を引き上げることだ。イラク、アフガニスタンでの米軍による経済再建努力が成果を上げていないのは、一つには、軍が開発経済学の間違った前提を受け入れているからだ。先進国であれ、途上国であれ、経済成長は、新たに立ち上げられた企業が雇用を創出し、経済全般を刺激することで実現する。しかし、起業が経済復興に果たす役割が、開発経済学ではほぼ無視されている。米軍の軍事計画立案者たちが、戦争や自然災害によって荒廃した国々に活気ある経済を再生したいのなら、硬直的な思考パターンにとらわれている国際開発・援助機関にばかり目を向けるべきではない。むしろ、成功企業を立ち上げた実績を持つ起業家や投資家など、市場での実務経験豊かな専門家に相談すべきだろう。