フォーリン・アフェアーズ・リポート2016年8月号 目次
衰退する資本主義と民主主義
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終末期を迎えた資本主義?
―― もはや民主政治では資本主義を制御できない雑誌掲載論文
資本主義と民主主義の緊張と妥協が相互に作用することで、これまで政治と経済のバランスが形作られてきた。民主体制のなかで、労働保護法や金融規制の導入、社会保障制度の拡大が実現することで、市場の猛威は緩和されてきた。こうして労働者は労働搾取を試みる資本家を抑え込み、企業は労働者の生産性を高めるための投資を重視するようになった。これが戦後における成長のストーリーだった。しかし「いまや政府は戦後の税金を前提とする国家から、債務を前提とする国家へと変貌している」。この変化は非常に大きな政治的帰結を伴った。政府債務の増大によって、国際資本が、各国の市民の望みを潰してでも、自分たちの意向を各国政府に強要する影響力をもつようになったからだ。こうして格差が拡大し、賃金が停滞する一方で、政府は、資金力豊かな金融機関が問題の兆候を示しただけで救済の対象にするようになった。こうして市民たちは、いわゆる調整コストを運命として受け入れるのを次第に嫌がるようになった。・・・
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人工知能と「雇用なき経済」の時代
―― 人間が働くことの価値を守るには雑誌掲載論文
さまざまな事例を検証し、相関パターンを突き止め、それを新しい事例に適用することで、コンピュータはさまざまな領域で人間と同じか、人間を超えたパフォーマンスを示すようになった。道路標識を認識し、人間の演説を理解し、クレジット詐欺を見破ることもできる。すでにカスタマーサービスから、医療診断までの「パターンをマッチさせるタスク」は次第に機械が行うようになりつつあり、人工知能の誕生で世界は雇用なき経済へと向かいつつある。今後時給20ドル未満の雇用の83%がオートメーション化されるとみる予測もある。労働市場は大きく変化していく。新しい技術時代の恩恵をうまく摘み取るだけでなく、取り残される人々を保護するための救済策が必要になる。間違った政策をとれば、世界の多くの人を経済的に路頭に迷わせ、機械との闘いに敗れた人を放置することになる。
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逆風にさらされる民主主義
―― 内向きのアメリカと衰退する世界の民主主義雑誌掲載論文
「人権を重視する民主国家が自国の市民に暴力的な行動をとるリスクは低く、しかも、民主国家同士は戦争をしない」。当然、アメリカが世界で民主化促進策をとる価値は十分にあるが、「国際問題よりも、むしろ国内問題に専念すべきだ」と考える内向きの社会圧力という逆風にワシントンはさらされている。しかも、アメリカの民主主義が世界であこがれや模倣の対象とされることもなくなった。米大統領選挙からも明らかなように、アメリカ市民は大きな疎外感を抱き、現状に怒りを募らせ、一方ワシントンは現状にうまく対処できずにいる。法案はなかなか成立せず、超党派外交など望みようもなく、議会で予算案が紛糾し、定期的に政府機関が閉鎖の危機に追い込まれている。だがこの環境でもアメリカの民主主義への信頼を回復し、民主化促進策をとる余地は残されている。・・・
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21世紀の資本主義を考える
―― 富に対するグローバルな課税?Subscribers Only 公開論文
西ヨーロッパが19世紀後半に享受した平和と相対的安定は、膨大な資本蓄積を可能にし、先例のない富の集中が生じ、格差が拡大した。しかし、二つの世界大戦と大恐慌が資本を破壊し、富の集中トレンドを遮った。戦後には平等な時代が出現したが、1950年から1980年までの30年間は例外的な時代だった。1980年以降、拡大し続ける格差を前に、トマ・ピケティのように、19世紀後半のような世界へと現状が回帰しつつあると考え、格差をなくすために、世界規模で富裕層の富に対する課税強化を提言する専門家もいる。しかし、大規模な富裕税は、資本主義民主体制が成功し繁栄するために必要な規律や慣習とうまくフィットしない。もっとも成功している市民への法的、政治的、制度的な敬意と支援がなければ、社会がうまく機能するはずはない。
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知能ロボットと暗黒時代の到来
―― 高度に社会的なロボットの脅威Subscribers Only 公開論文
現状では、すべての社会的交流は人対人によるものだが、すでにわれわれは人工知能が人の交流の相手となる時代の入り口にさしかかっている。ほぼすべての雇用が脅かされ、新しいテクノロジーから恩恵を引き出せる人はますます少なくなり、失業が増大し、経済格差がさらに深刻になる。さらに厄介なのは、伝統的に人間関係を規定してきた倫理・道徳観に相当するものが、人間とロボットの間に存在しないことだ。ロボットが、人間のプライバシーや物理的保護を心がけ、道義的な罪を犯すことを避けようとする衝動をもつことはない。知能機械はいずれ人の心をもてあそび、十分な情報をもち、どうすればわれわれの行動に影響を与えられるかを学ぶようになる。つまり、「高度に社会的なロボット」によって人間が操られる危険がある。
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ロボットが雇用を揺るがす
―― デジタル経済と新社会保障政策Subscribers Only 公開論文
ロボットの台頭に象徴されるデジタル経済のなかで、「すてきな仕事」をしている人は今後もうまくやっていく。だが、製造、小売り、輸送などの部門で「うんざりする仕事」をしている人、決まり切ったオフィスワークをしている人は、賃金の引き下げ、短期契約、不安定な雇用、そして失業という事態に直面し、経済格差が拡大する。ルーティン化された雇用はいずれ消滅し、むしろ、一時的なプロジェクトへの人間とロボットのフォーマル、インフォーマルな協力が規範になっていく。技術的進化が経済を作り替えていく以上、福祉国家システムも新しい現実に即したものへと見直していかなければならない。最大の課題は、多くの人が仕事を頻繁に変えなければならなくなり、次の仕事を見つけるまで失業してしまう事態、つまり、「とぎれとぎれの雇用」しか得られないという状況にどう対処していくかだ。
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漂流する先進民主国家
―― なぜ日米欧は危機と問題に対応できなくなったかSubscribers Only 公開論文
グローバル化が「有権者が政府に対して望むもの」と「政府が提供できるもの」の間のギャップをますます広げ、政府は人々の要望に応えられなくなっている。これこそ、アメリカ、日本、ヨーロッパという先進民主世界が現在直面しているもっとも深刻な問題だ。先進民主諸国が統治危機に直面する一方で、台頭する「その他」の諸国が新たな政治力を発揮しているのは偶然ではない。グローバル化した世界への統合を進めていくにつれて、先進民主国家が問題への対応・管理手段の喪失という事態に直面しているのに対して、中国のような非自由主義国家の政府は、一元化された中央の政策決定、メディアに対する検閲、国家管理型の経済を通じて、社会の掌握度を高めている。必要とされているのは、民主主義、資本主義、グローバル化の相互作用が作り出している大きな緊張をいかに解決するかという設問に対する21世紀型の力強い答えを示すことだ。政府の行動を、グローバル市場の現実、恩恵をより公平に分配することを求める大衆社会の要望に適合させるとともに、痛みと犠牲を分かち合えるものへと変化させていく必要がある。
Developing Crises
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トルコで何が起きているのか
―― 宗教化する政治と過激化する社会雑誌掲載論文
トルコ共和国の初代大統領、ムスタファ・ケマル・アタチュルは「宗教が政治に入り込むのを阻止する堅固な防波堤を築き、トルコを西洋の国として定義した」。これに対してエルドアンは保守的イスラム主義をトルコの政治と教育システム、そして外交政策に反映させようとしている。市民が信仰を個人の生活レベルに留めることを求めたアタチュルクは、過度に保守的な宗教指導者を社会から排除したが、いまや流れは覆され、エルドアンは宗教保守の立場を共有しない人物を二流市民とみなしている。ジハーディストがシリアでの活動のためにトルコを拠点として利用し、イスラム国が台頭するなかで、このような政策がとられたために、いまやトルコ社会は過激化している。イスラム国の脅威が高まるなか、国家と社会にとって痛手なのは、クーデター未遂事件によって、かつてはトルコでもっとも信頼され、結束を誇った軍に対する政府と社会の信頼が今後失墜していくと考えられることだ。
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エルドアンの予言
―― 軍事クーデターの政治的意味合い雑誌掲載論文
エルドアンが軍の影響力から逃れられると考えたことはなく、軍事クーデターが起きる危険を常に意識してきた。こうして彼はトルコ軍、ギュレン運動、ゲジパークにおける市民の抗議行動と、それが何であれ、あらゆる政府に対する挑戦を策略・陰謀とみなすようになった。もちろん、軍のクーデターが成功していても、この国の民主主義を支えたはずはない。最善のシナリオをたどったとしても、現在とは違う、権威主義体制を出現させていただけだろうし、悪くすると、内戦に陥っていた危険もある。だからといって、クーデターの失敗を民主主義の勝利とみなすのも無理がある。エルドアンは今回のクーデター未遂事件を根拠に自分の見方の正しさを強調し、大統領権限の強化と反エルドアン派の弾圧を含む、望むものを手に入れるために最大限利用していくだろう。
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国際法と南シナ海の騒乱
―― ワシントンが北京の穏健派を支えるには雑誌掲載論文
「中国の(南シナ海における)歴史的主張には法的根拠がない」とした国際仲裁裁判所の判断に北京が配慮する気配はなく、それが伴う国際的立場の失墜さえ気にしていないようだ。これは、一つには「中国はルールを踏み外している」という批判の法的根拠である国連海洋法条約(UNCLOS)にアメリカが参加していないことを北京が理解しているからだ。しかも、「これまで国連海洋法をめぐる仲裁裁判所の判断に従った国連安保理の常任理事国が存在しない」のも事実だ。但し、北京の穏健派は、九段線を今後も「境界線」とみなし続ければ、「アメリカ、そして殆どの東南アジア諸国を敵に回すことになる」と事態を懸念している。
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海のならず者と国連海洋法条約
――アジアの海を混乱させる中国と米上院Subscribers Only 公開論文
海の憲法とも呼ばれる「国連海洋法条約」は、すでに太平洋におけるアメリカのパワーを左右する重要なバロメーターになっている。だが、米上院の主権至上主義者が条約への批准を拒んでいるために、アメリカは中国の台頭に揺れるアジアが切実に必要としている多国間構造をうまく構築できずにいる。条約に参加できずにいるために、中国が脅かしている「ルールを基盤とするアジア秩序」をアメリカが維持・擁護し、強化していく能力が脅かされている。「国連海洋法の批准に反対する」という米上院議員の宣言を聞いて、北京がほくそ笑んだのは間違いなく、アジアにおけるアメリカの同盟国と戦略的パートナーは、ワシントンが地域的なリーダーシップを果たしていく能力をもっているかどうか、ますます疑心暗鬼に陥っているはずだ。アジアでのパワーバランスが大きな変化に直面している以上、これ以上アメリカが主権にこだわり続けるのは、戦略的な大失策になる。このやり方は、アメリカ主導の国際秩序を終わらせたいと考えている国を大胆にするだけだ。
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中国の対外強硬路線の国内的起源
―― 高揚する自意識とナショナリズムSubscribers Only 公開論文
民衆レベルでの大国意識が定着し、ナショナリズムが高まる一方で、国内の不安定化が予想される。このため、中国政府は世論動向に非常に神経質になっている。民衆の声を北京のエリートたちが無視できた時代はすでに終わっている。政府は、長期的な政府の正統性と社会的安定をいかに維持していくかをもっとも気に懸けており、党指導層は、ナショナリスト的立場からの政府批判をもっとも警戒している。しかも、軍、国有エネルギー企業、主要輸出企業、地方の党エリートなど、国際社会との協調路線をとれば、自分たちの利益が損なわれる集団が中国の外交政策への影響力を持ち始めている。これが、中国がソフト路線から強硬な対外路線へと舵を切った大きな理由だ。中国での権力継承が完了する2012年までは、中国国内における政治、心理要因ゆえに、中国の対外路線をめぐって状況を楽観できる状態にはない。
ドキュメント ブレグジットの衝撃
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EUの存続を左右するイギリスの今後
―― EU離脱の余波を考える雑誌掲載論文
キャメロンが国民投票の実施を求めた意図は、保守党内部での政治抗争を終わらせ、ナショナリスト政党であるイギリス独立党の台頭を抑え込むことにあった。国民投票を通じてイギリスとEUの関係をどのように改革していくかを有権者に描かせることもその狙いだった。しかしその結果は、キャメロンだけでなく、イギリスのEU懐疑論者たちが想定した以上のものになった。だが国民投票は政治的助言であり、イギリス議会が離脱を法制化しない限り、離脱は現実には起こりえない。たしかに、今回の国民投票がヨーロッパプロジェクトを解体へ向かわせる一連の動きを誘発する恐れもある。だが一方で、ブレグジットの政治・経済・社会コストがイギリスにとって非常に大きなものになり、他のメンバー国がEUからの離脱を問う国民投票の実施を躊躇うようになる可能性もある。
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ブレグジットとヨーロッパの未来
―― NATOとユーロへの波及はあるか雑誌掲載論文
私は重大な問題を国民投票の判断に委ねることには疑問がある。われわれには議会という存在があり、これが代議制民主主義の根幹をなしている。複雑で論争のある問題の決定を国民投票に委ねれば、ブレグジットのような極端な結果に直面する危険がある。国家にとってのメリット・デメリットを考慮して何かを判断するのではなく、多くの人が(感情的)メッセージを伝える手段として国民投票を実施するのは危険を伴う。かくも大規模な近代社会において国民投票の実施が、複雑かつ巨大な問題に対処していく建設的なやり方だとは思わない。(R・ハース)
問題は、(ブレグジットによって)今後(イギリスが)不確実性という雲に覆われることになれば、この国から長期投資が遠ざかっていくことだ。おそらく、外国直接投資が干上がることになるかもしれないし、これが経済への下方圧力をさらに高めることになる。こうした富の減少が不動産その他の資産市場を通じて広がりをみせ、最終的に消費を抑え込むことになる。(S・マラビー) -
イギリスにとって本当の問題は何か
―― 消失したEUというスケープゴート雑誌掲載論文
経済不安、生活水準の低下、近年の公共サービス削減に対する怒りを投票で表したEU離脱派の有権者も、最終的には問題の本質が、EUからの移民流入ではなく、イギリス経済の構造変化と保守党政権の政策にあることに気づくだろう。イギリスの政治家と有権者の多くは、長年、自国の問題をEUのせいにしてきた。今後、このカードは切れなくなる。EU離脱の選択が景気悪化を招き、政治的亀裂が拡大するなかで、EUに代わるスケープゴートを別に見つけなければならなくなる。EUから出た方が、暮らし向きがよくなるかどうかは、すぐにはっきりする。
アメリカ後の中東
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アメリカ後の中東におけるイスラエルの立場
―― 紛争の中枢から安定の柱へ雑誌掲載論文
中東には巨大なパワーの空白が生じている。憶測を間違えた一連の行動をとった挙げ句、アメリカは中東から遠ざかろうとしている。オバマは伝統的同盟国へのコミットメントを減らす一方で、敵対勢力をなだめ、穏健化させることを通じて中東秩序の均衡を図ろうと考えていた。だが、中東の同盟国がこの突然の戦略シフトを全面的に信用し、受け入れることはなかった。一方で、イランに対するアラブ諸国の懸念が、曖昧で決め手に欠ける和平プロセス以上に、中東におけるイスラエルの存在を正常化する作用をし始めている。この流れが続けば、かつては紛争の中枢にあったイスラエルが地域的安定の柱とみなされるようになる可能性もある。
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漂流する米・サウジ関係
雑誌掲載論文
戦後のアメリカとサウジの関係を支えてきた複数の支柱に亀裂が入り始めている。両国を「反ソ」で結束させた冷戦はとうの昔に終わっている。イラクのサダム・フセインが打倒されたことでペルシャ湾岸諸国への軍事的脅威も消失した。しかも、米国内のシェールオイルの増産によって、(中東石油への関心は相対的に薄れ) エネルギー自給という夢が再び取りざたされている。一方サウジは中東全域からイランの影響力を排除することを最優先課題に据え、中東政治のすべてを、イランの勢力拡大というレンズで捉えている。当然、アメリカが重視するイスラム国対策にも力を入れようとしない。すでに「サウジとの同盟関係に価値はあるのか」という声もワシントンでは聞かれる。しかし中東が近い将来、安定化する見込みがない以上、リヤドとの緊密な関係を維持することで得られる恩恵を無視するのは愚かと言うしかないだろう。・・・
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パックス・アメリカーナの終わり
―― 中東からの建設的後退をSubscribers Only 公開論文
湾岸戦争以降のアメリカの中東介入路線は、アメリカの歴史的規範からの逸脱だった。それまでアメリカとペルシャ湾岸諸国は、安定した石油の価格と供給を維持し、中東の政治的安定を維持していく必要があるという認識だけでなく、1979年以降はイラン封じ込めという戦略目的も共有していた。この環境において中東への軍事介入路線は規範ではなかった。いまやシェール資源の開発を可能にした水圧破砕法の登場によってアメリカの湾岸石油への直接的依存度も、その戦略的価値も低下し、サウジや湾岸の小国を外交的に重視するワシントンの路線も形骸化した。一方、アメリカがジハード主義の粉砕を重視しているのに対して、湾岸のアラブ諸国はシリアのバッシャール・アサドとそのパトロンであるイランを倒すことを優先している。こうして中東の地域パートナーたちは、ワシントンの要請を次第に受け入れなくなり、ワシントンも、アメリカの利益と価値から離れつつあるパートナーたちの利益を守ることにかつてほど力を入れなくなった。・・・
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サウジと米大統領選挙
―― クリントン、トランプ、リヤドSubscribers Only 公開論文
「ジョージ・W・ブッシュ政権が残した(中東における)負の遺産を清算すること」を自らの中東における任務に掲げたオバマも、結局は負の遺産を次期米大統領に委ねることになりそうだ。シリア紛争への関与を躊躇い、イランとの核合意を模索したことで、サウジとアメリカの関係は極度に冷え込み、サウジでは、オバマは近年における「最悪の米大統領」と呼ばれることも多い。次期大統領候補たちはどうだろうか。サウジの主流派メディアは、イスラム教徒の(アメリカへの)移民を禁止することで「問題」を緩和できると発言したトランプのことを「米市民のごく一部が抱く懸念や不満を煽りたてる問題人物」と描写している。クリントンに期待するとしても、その理由は、彼女がトランプではないというだけのことだ。ますます多くのサウジ市民が、安全保障部門でのアメリカの依存を見直すべきだと考えるようになっている。・・・
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黒海をめぐるロシアとトルコの歴史的攻防
―― ロシアのクリミア編入とトルコの立場Subscribers Only 公開論文
クリミアは歴史的にみても、ロシアとトルコのパワーバランスを左右する戦略的要地だった。18世紀のクリミア・ハン国併合によってクリミアを手に入れたロシアは、海軍の活動範囲を黒海からエーゲ海、地中海へと急速に拡大していった。一方、ヨーロッパ諸国は、ロシアの拡大主義の動きをボスポラス海峡、ダーダネルス海峡へと押し返そうとした。このせめぎ合いが、1853―56年のクリミア戦争につながっていく。トルコの視点でみれば、今回のロシアのクリミア編入はロシアの歴史的拡大主義のパターンに合致している。今後、ロシアがともに資源地帯である黒海から地中海へと活動範囲を増強していく可能性は十分にある。トルコが生き残るための唯一の選択肢は、今も昔も同盟国と協調することであり、そのためには、欧米から信頼できるコミットメントを引き出す必要がある。
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水資源危機で深刻化するインドの州間対立
―― その政治的背景と打開策を検証する雑誌掲載論文
干ばつに苦しむインドでは、各州間の水資源利用をめぐる対立が激化している。ほぼすべての主要な水路が州の境界に沿って流れているために、上流の州と下流の州がそれぞれどれくらいの水資源を利用するかに合意する必要があるが、誰がどのような目的でどの程度の水資源を利用するのかを決めるのは容易でない。しかも、州レベルの政治家たちは、特定の言語や民族集団の立場を代弁する政党に帰属していることが多く、水資源を交渉材料として利用し、近隣州への水資源供給を止めると脅迫することもある。近隣州が水資源を「収奪」しているために州民が犠牲となっていると主張することで支持を集めようとする政党もある。一方で、ヒマラヤの氷河と雪、モンスーンによる雨という2つの主要な水資源は気候変動によって今後さらに不安定化していくと予想されている。