フォーリン・アフェアーズ・リポート2015年1月号 目次
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嵐の前の静けさ
―― 次にブラックスワン化する国は雑誌掲載論文
国家の脆弱性の基準は五つ存在する。中央集権型の統治システム、画一的で硬直的な経済体制、過大な債務とレバレッジ、政治的硬直性、そして近い過去に衝撃から立ち直った経験をもっていないことだ。この基準に照らせば、世界地図は大きく違ってみえてくる。意外にもいつも混乱しているイタリアに脆弱性を示す兆候はない。政治危機が間欠泉のように吹き出すにも関わらず、うまく分権化されており、その都度、立ち直っている。一方、サウジは石油資源に経済を依存し、政治的に硬直的で、高度な中央集権国家だ。日本も「穏やかな脆弱性」を抱える国に分類できる。非常に大きな対GDP比債務残高を抱え、その多くの時期を通じて一つの政党が政治を支配し、輸出に依存し、「失われた10年」から完全には立ち直れずにいる。そして中国だ。過去の混乱で培った中国の体力は、債務や集権化という弱点を補うほどに強靱だろうか。おそらく答はノーだ。時が経つにつれて、北京がブラックスワン化するリスクは高まっていく。・・・・
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ブラックスワンの政治・経済学
―― ボラティリティを抑え込めば、
世界はより先の読めない危険な状態に直面するSubscribers Only 公開論文
小規模な山火事を阻止しようと対策をとれば、より大規模な火事が起きる危険を高めてしまう。山という自然の一部は、より大きな複雑系の一部だからだ。人間は本能的に、自分たちの世界を改革し、それが作り出す結末を変化させようと現実に介入するが、政府による介入は、特にその介入対象が複雑系である場合、想定外の事態につきまとわれることになる。誤解が生じるのは、人類が直線系の領域において歴史的に洗練度を高めてきた分析を、複雑系にもそのまま当てはめて考えようとするからだ。2007―2008年の金融危機、最近の中東における革命はその具体例だ。したがって、状況を変化させようとするよりも、人間が不完全な存在であることを織り込んだ、柔軟なシステムで、自然に対応していくべきだ。変動や衝撃を抑えようと政策的に模索するのはよいことのようにも思えるが、結果的に非常に大きな事態急変のリスク、つまり、テールリスクを高めてしまう。
2015年のエネルギー地政学
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CFR Meeting
世界エネルギーアウトルック雑誌掲載論文
原油価格については現在のような水準が1-2年は続くのではないかと私はみている。だが、価格が低下すれば、投資が低下し、需要が上向く。1-2年、あるいはもっと早い段階で、原油価格が上昇し、過去数年間のようなレベルに戻るとしてもおかしくはない。・・・2020年以降は米シェールオイルの生産の伸びは鈍化するだろう。さらに現在の低い原油価格が(投資を低調にし)、シェールオイルの開発・生産を抑え込むと考えられる。2015年には投資計画の見直しが行われるだろうし、価格が現状のままなら、その投資規模はおそらく10%程度小さくなり、その余波が2016年以降に現れてくる。・・・2025年までには、中東での石油増産が再び必要になるが、投資が低調な現状から推定すると中東石油の増産を期待するのは難しいだろう。現在の中東情勢、イラク情勢をみると、現地への投資に関心を示すものはいない。多くの専門家が考えるように、現在の中東の地政学状況が構造化し、今後も続くようなら、投資が進むはずはなく、2020年代に中東原油の増産を期待するのは難しくなる。
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ヨーロッパとロシアのエネルギー資源
―― 欧州「エネルギー連合」は実現するか雑誌掲載論文
ドナルド・トゥスク欧州理事会議長は、エネルギー資源を政治ツールにしたロシアの恫喝策に翻弄されないように、ヨーロッパは「エネルギー連合」を組織すべきだと提言している。天然ガスの調達を任務とする統合組織をヨーロッパが立ち上げれば、ヨーロッパはロシアの独占的立場に対抗できるようになるからだ。たしかに、ヨーロッパの立場は一枚岩ではない。ロシア資源に全面的に依存するバルト諸国のような国もあれば、まったく依存していないデンマークやスウェーデンのような国もある。さらに、この提言は二酸化炭素排出量の削減やエネルギーサプライヤーの多角化など、EUが2008年に採択した政策目的を放棄することにつながる。だが、買い入れを一つの窓口に集約すればEUの交渉力を強化し、価格を抑え、ロシアが政治目的を推進するために天然ガス資源を利用するのを阻むことができる。欧州エネルギー連合構想の実現を模索する価値は十分にある。・・・・
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CFR Meeting
世界エネルギーアウトルック
―― 中東原油の重要性は変化しない
Subscribers Only 公開論文
エネルギー市場における各国の役割が変化しつつある以上、急速な変化のなかで市場の流れを読み、自国を適切な場所に位置づける必要がある。そうしない限り、敗者になる。アメリカは天然ガスの輸出国に姿を変え、中東諸国は石油消費国への道を歩みつつある。ヨーロッパ、アメリカという輸出市場を失いつつあるロシアとカナダは、天然ガス輸出のターゲットを次第に中国や日本などのアジアに向け始めている。そして、シェールガス革命が進展しても、世界の天然ガス価格の地域格差は、今後20年はなくならない。もっとも重要なのは、アメリカ国内における原油生産の増大を前に、「もはや中東に石油の増産を求める必要はない」と考えるのは、政治的にも分析上も完全に間違っていることだ。生産コストが低くて済む、中東石油へ投資しておかなければ、アメリカの石油増産トレンドが終わる2020年頃には、世界は大きな問題に直面する。中東石油の投資を止めれば、原油価格の高騰は避けられなくなる。
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米エネルギー革命のポートフォリオバランス
Subscribers Only 公開論文
アメリカで起きているのは天然ガス開発ブームだけではない。原油生産は史上最大規模の年間生産量の伸びを示し、風力、太陽光、地熱など、先端技術を用いた再生可能エネルギーによる電力生産も2倍に増え、生産コストも低下している。しかも車やトラックの燃費の向上によって、石油需要は低下しつつある。最大の問題は、そこには環境保護派と補助金を通じたエネルギー経済への政府の介入を嫌う人々の間に厄介な対立が存在することだ。重要なのは、特定のエネルギー資源を選ぶのではなく、こうした「新展開のすべてをうまく生かしていくことで、エネルギーにとって最善の未来を切り開けること」を双方が認識することだ。ワシントンの指導者たちは、クリーンエネルギーへの移行を進めつつも、伝統的なエネルギー資源にも依存する、あらゆるタイプのエネルギーの機会を慎重に生かしていく一方で、地球温暖化を加速させ、アメリカの石油依存を持続させるような危険なエネルギー消費にはペナルティを課す必要がある。このバランスこそが、アメリカにおけるエネルギーの未来を左右することになる。
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風力・ソーラーエネルギーのポテンシャルを引き出すには
――悪い補助金からスマートな促進策への転換を
Subscribers Only 公開論文
風力やソーラーエネルギーが、近い将来に化石燃料にとって代わることはあり得ない。当面、再生可能エネルギーは、化石燃料による電力生産に取って代わるのではなく、それを補完する程度に終わる。だからといって、その開発をいま断念するのは間違っている。風力タービンとソーラーパネルの効率は高まり、価格も低下している。重要なのは、これまでのように補助金で再生可能エネルギーのポテンシャルを摘み取ってしまわないように、よりスマートな促進策をとり、市場の競争を最大化することだ。目的は風力タービンやソーラーパネルを多く設置することではない。電力を安価に便利に安全に、しかも持続的に供給することだ。この目的を実現する包括的なエネルギー政策の一部に風力・ソーラーエネルギー促進策を戦略的に位置づける必要がある。
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ウクライナ危機とパイプライン
―― ヨーロッパの本当のエネルギーリスクとはSubscribers Only 公開論文
ウクライナ危機を前にしたヨーロッパ人の脳裏をよぎったのは、2009年の天然ガス供給の混乱だった。この年、ロシアがウクライナへの天然ガスの供給を停止したために、ヨーロッパ諸国への供給も混乱し、真冬に暖をとれない事態に陥った。すでにウクライナ危機からヨーロッパを守るために、アメリカからの液化天然ガス(LNG)輸出を急ぐべきだという声も耳にする。たしかに、短期的に供給が混乱する危険もあるが、長期的にみてより厄介なのは、ハブプライシングシステムの導入など、ヨーロッパのエネルギー政策が方向を違えており、しかも(天然ガス価格が高いために)石炭の消費が拡大していることだ。仮にアメリカからLNGを輸出しても、その価格は、ロシアの天然ガス価格の少なくとも2倍になる。ワシントンは、ヨーロッパへLNGを供給することの利益が明確になるまで、拙速にエネルギー輸出の決定を下すのは自重すべきだろう。
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ルーブルショックとプーチンのジレンマ
――欧米に譲歩するか、ソビエトに回帰するかSubscribers Only 公開論文
米連邦準備制度が金融政策の正常化を試み始めた2014年夏以降、原油価格は低下し始め、1年前と比べて原油価格の水準はいまや半分へと低下している。ロシアの輸出利益の3分の2は原油輸出収益であり、当然、モスクワが巨大な貿易黒字を維持していけるはずはない。控えめにみても、2015年にはロシア経済の規模は少なくとも4%縮小する。すでにインフレ率は8%を超え、今後さらに悪化していく。プーチンが何をしようと、この低い水準の原油価格ではルーブルが深刻な危機から脱することはできない。しかも、ロシアの外貨準備は急速に枯渇しつつある。・・・早い段階でプーチンが欧米との関係を修復すれば、1998年のようなルーブルのクラッシュは回避できるかもしれないが、それには大きな政治コストが伴う。一方、プーチンが現在のコースを維持し、権力を維持していくつもりなら、法の支配に基づく政府という体裁をかなぐり捨て、ソビエト流の警察国家を再構築するしかない。・・・
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欧米に背を向けたドイツ
―― 中ロとの関係強化を模索する理由
雑誌掲載論文
ドイツは欧米同盟に留まることが経済的、軍事的に不可欠だとはもはや考えていない。ベルリンの壁崩壊とEUの拡大は、アメリカに軍事的に依存する必要性からドイツを解放し、しかも、ドイツの輸出主導型経済は、ロシアや中国市場への依存を強めている。これは、アメリカ主導の対ロ制裁への参加を決定する際に、メルケル首相が制裁に反対する経済界からの大きな圧力に直面したことからも明らかだろう。・・・ドイツは中国との経済関係の強化も模索している。「アジア版クリミア編入」が起きて、アメリカが中国との深刻な対立局面に陥った場合、ドイツはどう動くだろうか。おそらく中立を選ぶはずだ。・・・EUにおける大きな影響力をもっているだけに、中ロとの関係強化を模索するドイツ外交の変化は、ヨーロッパ外交にも大きな影響を与えずにはおかないだろう。・・・・
テクノロジーの進化と創造的破壊
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あらゆるモノを売る男
―― アマゾン・コム創設者、ジェフ・ベゾスとの対話雑誌掲載論文
アマゾンがまだ小さな企業だった頃に、われわれは任意抽出した約1000人の顧客に「われわれが現在販売しているもの以外に、あなたはアマゾンが何を販売することを期待しますか」という内容の電子メールを送った。われわれの顧客が望んでいたのは・・・膨大なリストの商品だった。これは驚くべき事態だった。これによって、自分たちが考案したシステムを用いて、非常に数多くの消費財を売れるのではないかとわれわれは考えるようになった。・・・起業家に適した資質はそれほど多くない。一つは現状に満足しないことだ。どうすればもっとよくできるかを常に考える。・・・新しい発明が本質的にディスラプティブ(破壊的)だとは限らない。消費者が「古いやり方よりも、この新しいやり方が好きだ」と感じるようになって初めて、発明はディスラプティブ・テクノロジーになる。・・・・
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起業を成功させる人物とは
雑誌掲載論文
はっきりとした考えをもち、明確に考えを表現するコミュニケーション能力があり、大きな使命感をもっている人物。大きな忍耐力をもち、痛みを伴う決定を下すことを厭わず、圧倒的なバイタリティをもつ人物。そして自分が始めようしていることが一生の仕事になると確信している。これが一握りの素晴らしい企業を支える優れた起業家がもっている資質だ。・・・多くの企業がもっとも遠ざけるべきは「プロフェッショナルなマネージャー」たちだ。ほとんどの企業は、マネージャーではなく、起業家が運営した方がうまくいく。企業が完全な状態にある必要はないし、少し荒削りで、混沌として、先が読めない状態でも、活力があれはいい。活力を保ち、新しい製品を送り出し、迅速に行動することが重要だ。・・・・
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インターネットと未来都市
―― モノのインターネットが支えるスマートシティ雑誌掲載論文
いまやネットにつながるモノはコンピュータ、タブレット、電話だけではない。都市が管理する駐車スペース、鉄道線路、街灯、ゴミ箱も今後インターネットにつながれ、行政サービスの質と効率が劇的に改善していく。伝統的な都市インフラをインターネットで統合管理するスマートシティにおける市民生活は劇的に進化していく。あらゆるモノをインターネットにつなげば、交通の流れはスムーズになり、駐車場の混雑、汚染、エネルギー消費、そして犯罪の発生さえも低下させることができる。今後、政府と市民との社会契約そのものが見直され、IT企業と政府が行政サービスを提供していくことになるだろう。スマートシティは公務員の労働生産性を高め、新しい雇用と才能を引きつけ、増税しなくても新しい歳入減を確保し、市民の生活を質的に向上させることになるだろう。・・・・
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中国の次なる経済モデル
―― デジタル革命と創造的破壊雑誌掲載論文
中国経済のデジタル化への移行は始まったばかりで、今後数年で、テクノロジーが中国経済のビジネススタイルを劇的に変化させていくだろう。インターネットを利用したデジタル化は新しい巨大市場を誕生させるが、それによって古い市場は破壊され、中国企業はかつてなく厳しい市場競争を受け入れざるを得なくなる。数十年にわたって中国経済は大規模な資本投入と労働力の拡大に依存してきたが、いまやこのモデルで動く成長のエンジンは力を失いつつある。デジタル経済の拡大という次のステージは間違いなくリスクと混乱をもたらすが、企業の生産性向上のポテンシャルを解き放つことになる。経済のデジタル化は、中国の国家目標である「持続可能な経済発展モデル」の実現に大きく貢献することになるだろう。・・・・
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起業型経済の構築を
Subscribers Only 公開論文
デルやシスコ・システムズなど、アメリカ経済の富と生活レベルを引き上げているのは起業によって立ち上げられた企業である。こうした新企業は経済の技術革新を誘導するだけでなく、新規雇用をつくり出し、景気循環がつくり出す困難な時期の衝撃を緩和し、経済の成長と進化を刺激する。アメリカに存在する起業と大学、大企業、政府を結ぶ「4セクターモデル」は、経済停滞に直面している先進国だけでなく、途上国も導入できる。起業にまつわる文化的な制約は取り払うことができる。
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起業、インキュベーター、
ベンチャーキャピタルのメカニズムSubscribers Only 公開論文
「オフィスはシリコンバレーでなければならない。才能ある人材、投資家、スタートアップ企業はどうすればよいかを知る人々が集まっている。われわれのようなテクノロジー企業を立ち上げるつもりなら、ここシリコンバレーしかない」。バンプ・テクノロジーズCEO、デビッド・リーブ
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インターネットでデータ化される世界
―― 「モバイルインターネット」と「モノのインターネット」の出会いSubscribers Only 公開論文
レンズなしメガネのように見えるヘットギアから、ネット閲覧のできるスマートウォッチ、データ測定機能を備えた運動靴やスポーツウェアといった装着型デジタル機器の流行は、奥深い経済的・社会的な変化が進行していることを物語っている。モバイル対応型の「モノのインターネット」化は、人が身に付けるものにとどまらない。位置、活動、状態に関するデータを収集・電送する小型検出器は、すでに橋、トラック、心臓ペースメーカー、糖尿病患者用のインスリンポンプなど、ありとあらゆるものに組み込まれている。これが、主要産業の再編を促しているだけでなく、人間とコンピュータの境界をあいまいにしつつある。こうした変化が、暮らし・仕事のやり方に広く奥深い変革をもたらすのは疑いようがなく、その経済価値は、総額数兆ドルにも達すると考えられる。
アベノミクス―― 第三の矢はどこへいった
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ゾンビ化したアベノミクス
雑誌掲載論文
安倍政権は、輸出促進策の一環として(意図的かどうかはともかく)円安を誘導し、円の価値は30%低下した。だが競争力を強化するための構造改革を先送りしているために、円安効果はほとんどなく、国内経済の成長は停滞したままだ。むしろ、円安による物価の上昇で、勤労者世帯の実質可処分所得は1年前と比べて6%低下した。消費支出が停滞し、経済がリセッションに陥ったのはこのためだ。安倍政権が3本の矢を本当に利用するつもりなら、景気刺激策と金融緩和を、構造改革という困難で時間のかかる手術をするための麻酔薬として利用したはずだ。だが、日本政府は長期にわたって景気刺激策と金融政策を、痛みを感じないようにする麻薬として用いただけで、手術(構造改革)をしなかった。・・・
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CFR Report
孤立した一本の矢
―― 量的緩和の国際的政治・経済リスク
雑誌掲載論文
アナリストの多くは、2014年12月の解散総選挙を契機に、安倍政権が構造改革に積極的に取り組むことを期待している。だが、今後、日本政府が構造改革に向けたイニシアティブをとっても、既得権益集団が依然として力をもち、改革への政治的障害が存在するために、その焦点は選挙制度の改正や地域安全保障の問題へと置き換えられ、構造改革を支える政治的エネルギーが奪われてしまうかもしれない。とはいえ、アベノミクスの第3の矢(構造改革)が進展しなければ、日本経済の成長のすべては量的緩和に依存することになる。そして、量的緩和と明らかに連動している円安が、2015年に向けて、通貨戦争のリスクを高め、世界の通貨市場を緊張させることになるかもしれない。さらに、これまでも貿易条約の批准に際しては為替レートのミスアラインメントへの対応を厳格に義務づけてきた米議会が、円安ドル高問題を取り上げれば、TPP交渉にも暗雲が立ち込めることになる。・・・
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CFR Meeting
R・フェルドマンが語る
安倍政権の経済思想と構造改革Subscribers Only 公開論文
選挙改革が重要なのは、社会保障支出の問題を解決しないことには財政問題が解決できないからだ。選挙制度によって高齢者の利益が一方的に重視されている状況に対処しない限り、問題は解決できない。・・・必要なのは社会保障関連支出を引き下げることだ。一方で、経済成長を加速するには、研究開発、教育、インフラなど、社会保障関連以外のその他の分野への支出を引き上げる必要がある。現状では、これらの非社会保障関連支出はそれほど大きくない。・・・経済情勢が悪化したときに、いかにして高い支持率を保つかは、アベノミクスの今後にとって非常に重要だ。賃金レベルは重要な要因だが、株価や雇用も重要だ。安倍政権にとって重要なのは、とにかく、支持率を高く保つことだ。
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日本経済を左右する規制緩和と労働市場改革
―― ネオリベラリズムと「第3の矢」Subscribers Only 公開論文
効率に欠ける企業、流動性に乏しい硬直的労働市場、低い失業率、相対的に公平な所得分配、女性に不利な雇用市場など、日本経済の特質の多くは文化によって説明されることが多い。だが、こうした特質は、他の先進諸国が1970年代末から1980年代初頭にかけて導入したネオリベラルの経済改革を日本が実施せずに、近代経済を運営してきた結果に他ならない。そして現在、ネオリベラリズム路線に即して、日本経済を未来へと向かわせようとしているのがTPP(規制緩和)と労働市場改革を中核とするアベノミクスの第3の矢だ。だが、第3の矢が折れれば、生産性の低い会社本位主義を中核とする日本の社会モデルが温存され、結局、日本は経済的にさらに取り残されていく。日本は、1980年代にとらなかった選択を下す、2度目のそして最後のチャンスを手にしている。
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日本にネオリベラリズムは似合わない
Subscribers Only 公開論文
小泉元首相同様に、安倍首相もネオリベラルの改革者になれる可能性はほとんどない。安倍政権の第3の矢も、経済産業省が描く国が主導する優先課題を反映しているに過ぎない。しかも、改革案が表明されても、その構想を結束して骨抜きにし、停滞させ、ブロックしようとする官僚と政治家たちがいるし、年功序列、終身雇用といった現在の経済システムを支えるさまざまな要因は、それぞれに相互を補完し、堅固さを保っている。安倍首相がネオリベラリズムに向けた日本流のショック療法を実施すると考えるのは合理性を欠いている。確かに、アベノミクスはすでに日本のマクロ経済パフォーマンスを改善しているかにみえるし、制度的改革も段階的に刺激できるかもしれない。だが、安倍首相がネオリベラルの経済体制へと日本を作り替えて、それを後任者に委ねることはあり得ないだろう。
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「変われない日本」の変化を読む
―― ナナロク世代と改革のポテンシャルSubscribers Only 公開論文
ここにきて、日本人の多くが「停滞し、変われない日本」も、もはや変わるしかないと考えるようになった。こうした変化を象徴するのがナナロク世代だ。親の世代よりずっとグローバルな感覚をもち、リベラルで個人主義的、しかも起業に前向きな、現在30―40歳代の彼らは、いまや社会的な影響力をもつほどに台頭している。これに呼応して、女性の社会進出が進み、教育制度が開放的になり、市民社会も力強さを増している。右派のナショナリストではなく、新しいエリートたちが成功すれば、日本の政治も永久的に変わるかもしれない。既成政党の指導者が年をとり、ナナロク世代がさらに社会的足場を築いていけば、彼らが今後の選挙で当選できる見込みも大きくなる。日本の政治は、新しい人材と思想を必要としており、ナナロク世代は双方において大きな貢献ができる立場にある。
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海底インフラの安全を守るには
―― 脅かされる海底ケーブルと資源掘削施設
雑誌掲載論文
電子メール、電話、送金、金融決済など国境を越えた通信や取引の95%は空や宇宙ではなく、海底を走る約300本、全長96万キロ超の光ファイバーケーブルを経由している。問題は、この重要な通信ケーブルが海底でも地上との接続部分でもほぼ無防備な状態におかれていることだ。ケーブルの位置を示した地図はインターネットでも入手可能で、これを見れば各国の弱点が簡単にわかる。敵国が、高解像度ソナーと爆弾を積んだ無人自律型無人潜水機を遠隔操作して相手国にとって重要なケーブルを簡単に破壊できる状態にある。・・・・消費者は海底ケーブルを空気のような存在とみなし、その重要性を実感することがない。だが、それが失われれば、空気が失われたときと同様に苦しい思いをする。最悪のシナリオが現実になる危険を最小限に抑える対策をとる価値は十分にあるはずだ。・・・・
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市場経済・民主主義は淘汰されたのか
―― 旧共産圏改革に関する幻想と現実雑誌掲載論文
旧東側諸国では「市場経済・民主主義モデルへの移行をうまく成功させられなかった。機会をフイにしてしまった」という喪失感が漂っている。年金生活者が苦しむ一方で、少数の新興財閥が誕生している。選挙では不正が横行し、政治は独裁者に牛耳られている。中国の台頭やグローバル金融危機に衝撃を受けた一部の専門家は、「権威主義的国家資本主義が、機能不全に陥ったリベラルな民主主義に対する力強い代替策を提供している」とさえ考えるようになった。だが、この認識は間違っている。むしろ、旧東側諸国の暮らしは劇的に改善している。市場経済・民主主義体制に移行して以降、これらの国は急速な成長を遂げ、いまや人々の暮らしはこれまでよりもはるかに豊かになった。寿命も伸び、幸せに暮らしている。市場改革、民主化努力、そして政治腐敗との戦いは、完全ではなかったにせよ、失敗ではなかった。・・・・
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イスラム国のエジプトへの拡大
雑誌掲載論文
2014年11月、シナイ半島北部を拠点に活動するエジプトのイスラム過激派組織アンサル・ベイト・アル・マクディス(エルサレムの支援者)は、イスラム国(ISIS)とその指導者であるアブ・バクル・アル・バグダディへの忠誠を誓うと表明し、イスラム国との事実上の同盟関係に入った。これによってエジプトに足場を確保したイスラム国は、今後さらに大きな影響力を手にするかもしれない。アラブ世界における主導国として政治・文化的地位を確立しているだけでなく、イスラエルと国境を接しているだけに、エジプトはイスラム国が目指すカリフ制イスラム国家建設に向けたきわめて重要なアセットになる。ユダヤ国家を攻撃すれば、アラブ世界におけるイスラム国の活動はさらに正当化される。・・・