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2021.12.6. Mon
ロシアとウクライナの紛争リスク
―― キエフの親欧米化とロシアの立場
かつてはロシアとの対話に前向きな姿勢を示していたウクライナのゼレンスキー大統領は、すでにロシアとの妥協を求める路線を放棄し、欧米との協調を模索している。ウクライナとの国境線に部隊を動員しているモスクワはもはや外交の機会は失われたと考えているのかもしれない。しかも、ワシントンが中国との競争に関心と資源をシフトさせたことで、プーチンは「ウクライナはアメリカにとって周辺的な関心事にすぎない」と確信しているかもしれない。モスクワが武力によって現在の均衡をリセットする環境が整いつつある。(キメジ、コフマン)
「NATOゾーンの拡大は受け入れられない」と主張するゴルバチョフ大統領に、ベーカー米国務長官は「われわれも同じ立場だ」と応えた。公開された国務省の会議録によれば、ベーカーはソビエトに対して「NATOの管轄地域、あるいは戦力が東方へと拡大することはない」と明確な保証を与えている。この意味ではNATOを東方に拡大させないという約束は明らかに存在した。ドイツ統一に合意すれば欧米は(NATOの東方拡大を)自制するとモスクワが考えたとしても無理はなかった。しかし、「ワシントンは二枚舌を使ったという点で有罪であり、したがって、モスクワのウクライナにおける最近の行動も正当化される」と考えるのは論理の飛躍がある。・・・・(シフリンソン)
ウクライナが現在直面している苦悩の中枢には、ロシアとの「戦略的パートナーシップ」に対する抵抗感と、「腐敗した政府からウクライナを政治的・経済的に救えるのはヨーロッパだ」という認識の間の葛藤がある。短期的には、ウクライナはロシアと仲違いするわけにはいかない。だが長期的には、ウクライナにとって最大の期待はヨーロッパだ。「ヨーロッパかロシアか」という選択をめぐってウクライナ人が深く分裂していること、そしてウクライナを手放したくないロシアの思いが、ウクライナを受け入れたいというEUの思いよりずっと強いことを考えると、ウクライナは東欧諸国の先例にならって国の運命を国民投票で決めるべきなのかもしれない。(フィゲス)