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2018.7.25 Wed
<8月号プレビュー>
マルキスト・ワールド
―― 資本主義を制御できる政治形態の模索
20世紀半ばに西ヨーロッパの富裕国とアメリカは、マルクスの時代の資本主義を特徴づけた不安定化と格差を一時的ながらも制御した社会民主主義的制度を考案した。このトレンドを前にした当時の多くの人が「マルクスの理論は淘汰された」と考えるようになった。しかし、ソビエトとその共産主義モデルを取り入れた諸国が次々と倒れたにも関わらず、マルクスの理論は依然としてもっとも鋭い資本主義批判の基盤を提供し続けている。マルキシズムは、時代遅れになるどころか、現状を理解する上で必要不可欠の理論とみなされている。(バーギーズ)
資本主義と民主主義間の緊張と妥協が相互に作用することで、現在の政治と経済が形作られてきた。第二次世界大戦以降の30年間で民主主義は労働保護法、金融規制、社会保障制度の拡大などの一連のルールを導入することで市場が作り出す猛威を緩和してきた。だが1980年代に、グローバル化、規制緩和、ボーダーレス化が進み、資本主義が再び猛威を振るうようになり、いまや、資本市場と市場プレイヤーたちが、民主的政府が従うべきルールを設定している。こうした資本の優位を前にいまや大きな反動が起きている。格差が拡大し、賃金は停滞している。(ブリス)
社会格差の増大に象徴される現在の厄介な経済、社会トレンズが今後も続くようであれば、現代のリベラルな民主社会の安定も、リベラルな民主主義の優位も損なわれていく。マルキストが共産主義ユートピアを実現できなかったのは、成熟した資本主義社会が、労働者階級ではなく、中産階級を作り出したからだ。しかし、技術的進化とグローバル化が中産階級の基盤をさらに蝕み、先進国社会の中産階級の規模が少数派を下回るレベルへと小さくなっていけば、民主主義の未来はどうなるだろうか。・・・(フクヤマ)