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テーマに関する論文

エジプトにおけるキリスト教徒の未来
―― ISISによるコプト教徒の民族浄化

2017年8月号

ニナ・シーア ハドソン研究所・宗教的自由研究センター ディレクター

イスラム過激派が、イラクのキリスト教徒やヤジディ教徒コミュニティ同様に、エジプトのコプト教徒コミュニティの組織的破壊を進めるのを放置すれば、中東の宗教地図は大きく塗り替えられる。特に、約900万人に達するエジプトのコプト教徒は、中東地域における最大のキリスト教集団、最大の非ムスリム集団だ。イスラム国は、シナイ半島北部の小規模なキリスト教コミュニティをすでに粉砕している。今後彼らが、他のエジプト地域で自爆テロなどの攻撃を通じて、数百万のコプト教徒たちを恐怖に陥れれば、大規模な難民がイスラエルやヨルダン、そして地中海を経てヨーロッパを目指すようになるかもしれず、この場合、エジプトとその近隣諸国はこの先数十年にわたって不安定化することになる。

逆風にさらされる米環境・公衆衛生政策
―― トランプ政権の暴走を止めるには

2017年8月号

フレッド・クラップ 米環境保護基金 代表

環境保護に関するトランプの姿勢は一貫している。(国際合意を含めて)環境対策を減らしていくことを考えている。トランプと閣僚の多くは、「人間の(経済)活動を、気候変動を引き起こしている主因」とみなす科学的なコンセンサスさえ受け入れていない。むしろ、規制緩和と雇用創出という名目で、国内の化石燃料生産量を増やし、温室効果ガスと汚染物質の排出量規制を緩和し、環境保護庁(EPA)を骨抜きにしたいと考えている。だがそのようなことをすれば、疾病が広がり、早死が増え、経済は弱体化し、環境分野でのリーダーシップを中国に譲ることになる。だが、カリフォルニアやニューヨークなどの州が他に先駆けて再生可能エネルギーを支援しており、トランプが何をしようと、電力産業で再生可能エネルギーの存在感が高まっていくのは間違いない。政府による規制撤廃プロセスに対抗して、市民がその意思を表明するチャンスは残されている。・・・

ドイツにおける核武装論争
―― なぜ核武装は危険思想なのか

2017年8月号

ウルリッヒ・クーン カーネギー国際平和財団 核政策プログラムフェロー トリスタン・ボルペ カーネギー国際平和財団 核政策プログラムフェロー

ロシアによるウクライナ侵略、アメリカの対ロ政策の迷走、そして、欧州安全保障へのコミットメントに懐疑的なトランプ政権の誕生を前に、ベルリンの困惑とヨーロッパ安全保障への不安は高まった。「アメリカの核の傘による安全保障(の今後)に対する懸念を取り払う、独自の核抑止力の形成を検討すべきだ」と提案する者もいる。たしかに、ヨーロッパが「敵対的なロシア」と「無関心なアメリカ」の板挟みになれば、ベルリンはヨーロッパを政治的に守るだけでなく、軍事的に防衛することを求める大きな圧力にさらされる。だが、この国の核武装には「ドイツ問題」という歴史問題が関わってくるだけでなく、EUを中核に据えてきた戦後ドイツの国家アイデンティティそのものが揺るがされる。しかも、ドイツが核戦力をもてば、EUとロシアの関係が不安定化するだけでなく、他の諸国が核開発を試みる核拡散の連鎖が生じる。・・・

中国債務危機のグローバルな衝撃
―― 「政治的」サプライサイド改革の限界

2017年8月号

エドアルド・カンパネッラ ウニクレディト  ユーロゾーン・エコノミスト

中国企業の債務レベルは、対国内総生産(GDP)比170%と、歴史的そして世界的にみても、危険水域に突入しつつある。危機を回避しようと北京は中国流サプライサイド改革、つまり、生産制限と(極端に安い融資を通じた)需要管理策を組み合わせたポリシーミックスをとっている。たしかに、このやり方で債務に苦しむ企業も一時的な収益増を期待できるが、工場渡し価格の上昇によっていずれ消費者はインフレに直面する。同時に、衰退する国有企業を対象とする救済策は、必要とされる産業システムの再編を先送りし、しかも最終的にはより深刻度を増した債務問題に直面することになり、その余波は世界に及ぶだろう。北京が危機の先送り策をとっているのは、国有企業が倒産すれば、金融も政治も社会も不安定化することを恐れているからだが、債務の肥大化を放置すれば、共産党の支配体制だけでなく、世界経済を大きな危険にさらすことになる。

ヤジディ教徒の虐殺
―― イスラム国による殺戮と誘拐の人口動態的証拠

2017年8月号

バレリア・チェトレッリ ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス リサーチオフィサー アイザック・サッソン テルアビブ大学助教(社会学) ナザール・シャビラ ホーラー医療大学助教(公衆衛生) ギルバート・バーンハム ジョンズ・ホプキンス大学教授(国際公衆衛生)

イスラム国がイラクの宗教的少数派、ヤジディ教徒の虐殺を行っていることはかねて明らかだったが、その残虐行為の全貌は依然としてはっきりしない。われわれがイラクの避難民キャンプで実施した聞き取り調査によれば、2014年8月の数日間で殺害または拉致されたヤジディ教徒は9900人前後。このなかで、殺害されたと推定される3100人のうち半数近くは銃や斬首によって処刑されるか、焼き殺され、残りの6800人は拉致されたようだ。イスラム国による拘束から脱出した者たちの話によれば、拉致されたヤジディ教徒は強制的に改宗させられたり拷問を受けたり、性奴隷にされたりするなどの虐待を受けていた。・・・

米欧中関係のパワーシフト
―― 欧中新時代の到来か

2017年8月号

ニコラ・カサリーニ 国際関係研究所ディレクター(アジア担当)

イギリスは、これまでヨーロッパを大西洋同盟の枠内に着実につなぎ止めようと試みてきた。そうすることがさほど難しくなかったのは、アメリカもまたヨーロッパとの同盟関係の維持を望んでいたからだ。しかし、そのような米欧関係の構図もイギリスが欧州連合(EU)を去り、トランプの言動がヨーロッパを離叛させるなか、形骸化しつつある。この環境では、ヨーロッパにとって、アメリカの優位を脅かす恐れのあるほぼすべての課題をめぐって中国との関係を強化していくことが合理的になる。しかし、ここで選択を間違うのは危険だろう。欧中同盟が形成されるとしても、それは強固な絆というより、むしろ、ブレグジットの余波と欧中が共有するトランプに対する反感が引き起こす政略結婚のようなものだからだ。しかし、ほんの数ヵ月前までは考えられなかった新しい中国とEUの関係が生まれようとしている。・・・

なぜサウジは判断を間違えたか
―― 対カタール強硬策の代価

2017年8月号

バッシマ・アル・グサイン アル・グサイン・グローバル戦略 最高経営責任者
ジェフリー・ステーシー ジオポリシティUSA マネージング・パートナー

湾岸協力会議(GCC)はカタールに対して、イランとの関係遮断からアルジャジーラの閉鎖までの13の要求を突きつけ、その受入期限を6月2日に設定した。しかし、カタールは何一つ要求に応じなかった。サウジが主導するカタール封鎖路線には明らかに問題がある。カタールとイランの関係を問題視しているにもかかわらず、経済封鎖で追い込まれたカタールは食糧をイランやトルコから急遽輸入せざるを得なくなり、皮肉にも、カタールを両国の懐へと送り込んでしまった。カタールをイランにさらに接近させただけでなく、地域的な安定と通商の基盤であるGCCの連帯も揺るがしてしまった。なぜリヤドがかくも大きな失策を犯したのか。「カタールは身の丈に合わない野望を抱き、サウジの支配的影響力を脅かしている」とリヤドが考えていることが、その背景にある。・・・

バノン派の凋落と伝統的外交の復活
―― 変貌したドナルド・トランプ

2017年8月号

エリオット・エイブラムス 米外交問題評議会シニアフェロー(中東担当)

トランプ政権が革命的政権にならないことはすでに明らかだろう。普通の大統領ではないかもしれないが、これまでのところ、彼の外交政策は驚くほど常識的だ。「ロシアとの関係改善を望み、軍事力の使用はアメリカの国益が具体的に脅かされたときに限定する」と表明しつつも、シリア政府がサリンガスを使用したことが明らかになると、(ロシアが支援する)この国の基地をミサイルで攻撃している。すでにスティーブ・バノン率いる「オルト・ライト」ポピュリスト派は政権内で勢いを失い、トランプは外交エスタブリッシュメントで構成される国家安全保障チームを編成している。当初のイメージとは裏腹に、トランプ時代は伝統的なアメリカ外交からの逸脱ではなく、その維持によって特徴付けられることになるだろう。

中国の覇権確立を阻止するには
―― 南シナ海とアメリカの対中抑止策

2017年8月号

イーライ・ラトナー 米外交問題評議会シニアフェロー(中国研究)

南シナ海における米中衝突を回避しようとするあまり、ワシントンは、中国による国際法を無視した南シナ海における行動を前にしても、緊張緩和措置をとり、結果的に、中国がじわじわと既成事実を作り上げるのを許してしまった。アメリカの軍事力と同盟関係には、米中の軍事衝突を抑止する効果はあっても、中国の勢力圏拡大を抑止する作用は期待できない。このために、中国による覇権確立がアメリカのアジアにおける最大の脅威シナリオとして浮上してきている。「中国が人工島の建設を続け、あるいはすでに建設した人工島に長距離ミサイルや戦闘機など強力な軍事資産を配置し続けるようなら、アメリカは中立を捨てて、領有権を主張する他の諸国が中国に対抗する能力を獲得することを支援する」と表明すべきだ。外交を抑止策で支え、「中国が覇権を握ることは容認できない」と、ワシントンは態度を明らかにすべきだろう。

ミンダナオ島危機とイスラム国
―― 共通の敵で変化した米比関係

2017年8月号

リチャード・ジャバッド・ヘイダリアン デ・ラ・サール大学准教授(政治学)

貧困や失業に苦しみ、イスラム教徒が社会の周辺に追いやられているミンダナオ島では、イスラム主義者や共産主義者などの反政府勢力がフィリピン軍と衝突する流血の惨事が数十年にわたって繰り返されてきた。そこには、イスラム主義のイデオロギーやテロ集団を許容する社会的素地が存在した。しかも、中東で軍事的に追い込まれたイスラム国(ISIS)勢力はアジアへ軸足を移そうと試みている。イスラム教徒が多数派で、イスラム国勢力のシンパが多いマレーシアやインドネシアとミンダナオ島との国境線が監視の難しい海洋上にあることも事態を複雑にしている。一方、テロ勢力という共通の敵が現れたことでアメリカとの関係は雪解けの時を迎えている。マニラが共通の敵に対するワシントンの軍事支援を受け入れるにつれて、両国政府の立場の違いはゆっくりとだが、着実に埋められつつある。・・・

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