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テーマに関する論文

縁故資本主義と中国の政治腐敗
―― 共産党は危機を克服できるか

2017年9月号

楊大利(ヤン・ダリ) シカゴ大学教授(政治学)

90年代以降、中国共産党が行政の分権化を進めた結果、地方政府のトップはかなりの自己裁定権をもつようになった。こうして地方官僚が個人的利得のために、国の資産と資源を用いる政治腐敗の無限大の機会が誕生した。安月給の役人が上司に賄賂を渡して、「おいしい」ポジションにつけてもらう巨大な売官市場も存在する。これには賄賂の「元手」が必要になるために、その影響は多岐に及び、しかもスキームに関わる誰もが、最終的に、自分の投資に対する見返りを期待する。この政治腐敗のネットワークが軍、司法、さらには中央の規制当局にまで及んでいる。共産党時代を超えて縁故資本主義が続き、中国の未来を不安定化させることになるのか。それとも、共産党はいつもの柔軟性と復元力を発揮するのか。見方は分かれている。・・・

マフィア国家とアメリカの泥棒政治
――政治腐敗という世界的潮流

2017年9月号

サラ・チェイズ  カーネギー国際平和財団シニアフェロー

政治腐敗は、弱さや無秩序の結果ではなく、権力者を豊かにするために設計されたシステムがうまく機能している証拠にすぎない。例えば、グアテマラの政権与党は「政党というより暴力団に近い。その役割は国を略奪することにある」。この国では「エリートが犯罪集団であり、国庫に入るお金の流れを牛耳る泥棒政治が横行している」。アメリカも例外ではない。民主主義システムは、政府が公益に供する活動をすることを保証する手段として作られたが、システムが腐敗してしまった民主国家にそれを覆す力が残されているだろうか。ロビイストが爆発的に増えて、企業や産業に影響する法案を産業関係者がまとめるようになった。刑務所や戦争を含む公的サービスも民営化され、政治資金上の歯止めも外された。いまや「合法的」と「汚職ではない」の意味を混同しているアメリカの政府高官と、有権者の意識との間にはズレが生じている。・・・

資本主義と縁故主義
――縁故主義が先進国の制度を脅かす

2017年9月号

サミ・J・カラム Populyst.netエディター

資本主義と社会主義の間で変性したシステムと定義できる縁故主義が世界に蔓延している。冷戦後に勝利を収めた経済システムがあるとすれば、それは欧米が世界へと広げようとした資本主義ではない。縁故主義だ。世界的な広がりをみせた縁故主義は、途上国、新興国だけでなく、アメリカやヨーロッパにも根を下ろした。(1)政治家への政治献金、(2)議会や規制を設定する当局へのロビイング、そして(3)政府でのポジションと民間での仕事を何度も繰り返すリボルビングドアシステムという、縁故主義を助長するメカニズムによってアメリカの民主的制度が損なわれている。一見すると開放的なアメリカの経済システムも、長期にわたって維持されてきたレッセフェールの原則からますます離れ、純然たる縁故主義へと近づきつつある。

トランプ政権と政府機関の対立
―― 政府機関による逆襲

2017年9月号

ジョン・D・マイケルズ カリフォルニア大学ロサンゼルス校  ロースクール教授

トランプ大統領と側近たちは、「政府内部の後方撹乱者たちによる裏切り」と彼らがみなす行動に憤慨し、政治学の専門用語を借用して、「自分たちは国家内国家の(クーデターの)犠牲にされている」と主張している。だが「国家内国家」という表現でアメリカの政府機関を表現するのは的外れだろう。問題は、自分が率いているはずの政府機関の多くをトランプがあからさまに軽視し、予算に大ナタを振るい、規制ルールを廃止し、通常の手続きを踏むことを拒絶していることにある。このやり方が、官僚たちによるクリエーティブな反乱を誘発し、これが次第に効果をもちつつある。トランプ政権とメディアとの問題が「フェイクニュース」ではなく「ニュース」によって引き起こされているように、政権が政府機関との間で抱える問題は、非民主的で水面下で悪事を働く「国家内国家」ではなく、米連邦政府を形作る大規模かつ複雑な官僚制度とその手続きによって作り出されている。

1965年の独立以降、リー・クアンユーが中心となって組織した人民行動党政権は中央集権的な国家運営を行ってきた。その権力に対する監視体制も厳格ではなく、野党、市民社会、メディアは概しておとなしい。実際、この中央集権体制が効率的な統治を実現していると考える者は多く、シンガポール市民の大半は、「経済成長と引き換えに市民的・政治的自由が制限される」という暗黙の社会契約を長く受け入れてきた。だが、それも変化しつつある。すでに、シンガポールのさらなる発展にはさまざまな制約を緩和する必要があると考える改革派の要求とこれまでの中央集権型の枠組みを両立させるのは難しくなっている。近代国家シンガポールの原点を象徴するリー・クアンユーのオクスリー・ロードにある家の扱いをめぐるお家騒動は、まさに、この国の未来に関する二つのコースを描き出している。

グローバリズムとナショナリズム
―― トランプが間違っている理由

2017年8月号

Or・ローゼンボイム 英クィーンズカレッジ リサーチフェロー(政治学)

「グローバリズムは国家主権とはなじまない」と考えるのは間違っている。戦後における国際的な「つながり」の高まりによって、国家という政治単位やコミュニティが否定されたわけではない。現実には、国家、帝国、ヨーロッパ連邦、非国家コミュニティ、国際機関などのあらゆる政体が、戦後の「つながりを深めた新世界」への適応を迫られた。世界がつながり、一つに向かっているとしても、政治的・文化的な同質化が不可避だったわけでも、望ましかったわけでもない。政治単位としての国家を廃止し、愛国主義的イデオロギーを禁止することを求めたグローバリストは殆どいなかった。むしろ、有力なグローバリズムの思想家たちは、安定し、繁栄する平和な世界秩序を形作るには、統合と多様性のバランスをとる必要があると考えていた。

低成長と生産性成長の鈍化
―― 政府にできることは限られている

2017年8月号

マーク・レヴィンソン 元米外交問題評議会シニアフェロー

世界経済の短期予測には楽観ムードがあふれているが、長期的にみれば、生活レベルを左右する生産性の向上には多くを期待できない状況にある。先進諸国における生産性は40年以上にわたって停滞し続けているし、この状況に対して政府ができることはいまやほとんどない。かつては教育やインフラの投資によって、生産性の成長に政府が一定の役割を果たすことができた。しかし、生産性を高める上で大きなインパクトをもつ、これらの措置は繰り返せない。渋滞する2車線の道路を高速道路に置き換えることに比べると、新しい高速への入り口を作ることの経済効果は限られている。人工知能、仮想現実、ナノテクノロジーなどのイノベーションが今後、生産性の向上をもたらすかもしれない。だが、そうならなければ、世界は低成長と低い生産性成長を特徴とする現状を抜け出せないままだろう。

テロ組織はどのように資金を調達しているか
―― なぜ銀行システムの監視は無意味なのか

2017年8月号

ピーター・ノイマン ロンドン大学キングズ・カレッジ教授(安全保障研究)

各国は長年、テロには金がかかるという思い込みゆえに、テロ組織が国際金融システムにアクセスするのを阻止しようと試みてきたが、このアプローチでテロを抑止できた証拠はない。ほとんどのテロは、数百ドル単位のごくわずかなコストでも決行でき、テロ組織の多くは国際金融システムを使うことはない。骨董品や石油、タバコ、模倣品、ダイヤモンド、象牙などの密輸から資金を得ることもあれば、イスラム国(ISIS)のように支配地域の天然資源を食い物にして資金を確保することもある。あるいはヨーロッパのジハーディストのように、社会保障給付や個人的な借入れでテロを決行する人物たちもいる。国際金融システムに焦点を合わせるのは、時間と資金を浪費するだけで、テロの抑止にはつながらない。

リークと嘘と中国の権力闘争
―― 暴露の応酬で揺らぐ共産党の未来

2017年8月号

ラッシュ・ドーシ ハーバード大学フェロー、ジョージ・イェン ダートマス・カレッジフェロー

「習近平国家主席は、彼の盟友で反政治腐敗キャンペーンを統括している王岐山を罪に問える情報を探していた。・・・習は王を信用していない」。汚職の嫌疑をかけられアメリカに脱出している郭文貴の「習と王の盟友関係が見かけほど安定したものではなかったこと」を示唆するこの暴露発言が、共産党全国代表大会を控える中国の政界に大きな衝撃を与えている。習が官僚の役割を周辺化し、権力を自らに集中させる一方、王は習の政敵たちを政府腐敗の捜査対象にして失脚させてきた。習と王の関係を悪化させることを意図していると思われる郭文貴の発言の背後には、これまで政治腐敗キャンペーンの主なターゲットにされてきた江沢民派の高官たちが郭に取引を持ちかけた結果ではないかと憶測する声もある。・・・

イランとイスラム国
―― テヘランにとっての新しいテロの脅威

2017年8月号

アリアネ・M・タバタバイ ジョージタウン大学客員研究員

イスラム国(ISIS)というスンニ派テロ集団はシーア派を敵視していただけでなく、近代においては類い希な残虐性をもっていたために、テヘランはこの脅威を強く意識してきた。イラクのイスラム国勢力が力をもち始めると、イランは速やかに革命防衛隊の精鋭部隊であるアル・クッズ旅団(コドス軍)をイラクへ派遣し、その後シリアにも部隊を展開し、イラン軍部隊が後にこれに合流した。イラクではイスラム国勢力を力で押し返そうと試みたが、シリアではそれほど力を入れなかった。テヘランは、イラクにおけるイスラム国の活動は自国の領土、人口、利益に対する明確な脅威と認識していたのに対して、シリアはこのテロ勢力を封じ込める場所と考えていたからだ。このやり方が逆効果だった部分もある。2017年6月、イスラム国がテヘランでのテロに成功している。・・・

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