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テーマに関する論文

イギリスのブレグジット・ジレンマ
―― イギリスの解体か保守党の分裂か

2018年2月号

マティアス・マタイス ジョンズ・ホプキンス大学助教

今後数カ月でEU離脱推進派の主張のまやかしが白日の下にさらけ出される。イギリスは2019年3月にEUを離脱する。しかし短期的にはイギリスが主権を完全に取り戻すことはない。移行期においてEUは現状を維持する一方で、イギリスの声はEUの意思決定に反映されることはなくなる。移行期間中のイギリスはEU加盟国としてのあらゆる義務を負う一方で、EUにおける議決権を失う。しかも、どのようなブレグジットを望んでいるのか、イギリス国内にコンセンサスはない。長期的には、保守党が分裂して(国民投票のやり直しを示唆している)労働党が政権をとるかもしれないし、あるいは、イギリスは国家分裂してイングランドとウェールズの連合へと縮小していくかもしれない。2018年、テリーザ・メイは保守党あるいは国家の統一のどちらを優先するか、その選択を迫られることになるだろう。

ロヒンギャ危機の解決に向けて
―― 国際社会が果たすべき役割

2018年2月号

ジョナー・ブランク(ランド研究所 上席政治学者)、 シェリー・カルバートソン(ランド研究所 上席政策リサーチャー)

ミャンマー政府はバングラデシュに逃れたロヒンギャ難民の帰還を認めると発表しているとはいえ、大規模な難民を発生させた集団暴行にミャンマーの治安部隊や政治家たちが果たした役割を考えると、政府のコミットメントを額面通りに受け取るわけにはいかない。基本的な市民権のはく奪、そしてロヒンギャが国を後にせざるを得なくなった暴力という問題に対処しなければ、帰還を認めるとしたミャンマー政府の約束も永続的な解決策にはならない。国際社会はミャンマー政府に対してロヒンギャを再び国に受け入れるだけでなく、他の全ての少数民族が享受している安全と市民権を与えるように求めるべきだし、大規模な難民流入に直面するバングラデシュを支える必要がある。これらが実現しない限り、100万を超える人々が安心して暮らせる国をもたずにさまよい続けることになる。

北朝鮮限定攻撃論の悪夢
―― 結局は全面戦争になる

2018年2月号

アブラハム・M・デンマーク 前米国防副次官補(東アジア担当)

取り沙汰されている「北朝鮮に対する限定攻撃」の目的は、「アメリカの軍事対応というリスクを伴わずに、核・ミサイル実験を続けることはできない」と平壌にメッセージを送ることにあるようだ。しかし、この戦略の問題は「アメリカの圧倒的な通常戦力と核戦力ゆえに、北朝鮮の最高指導者・金正恩は、攻撃されても報復攻撃を思いとどまる」と想定されていることだろう。攻撃が計画どおりに機能する可能性は低い。北朝鮮の核・ミサイル能力をうまく破壊できる保証はなく、平壌は限定的な攻撃に対しても反撃せざるを得ないと判断するかもしれない。いかなる攻撃も朝鮮半島における全面戦争へのエスカレーションを辿るリスクがあり、数百万の命が危険にさらされる。北朝鮮との戦争は、アメリカが第二次世界大戦以降に経験したいかなる紛争よりも破滅的なものになる危険がある。日韓との同盟関係も大きく揺るがされ、最終的にはアメリカの影響力も大きく形骸化する恐れがある。

人種的奴隷制と白人至上主義
―― アメリカの原罪を問う

2018年2月号

アネット・ゴードン=リード ハーバード大学法科大学院教授

依然として、事実上の人種差別がアメリカのかなりの地域に存在する。黒人の大統領を2度にわたって選び、黒人のファーストファミリーを持ったものの、結局、後継大統領選はある意味でその反動だった。歴史的に、肌の白さは経済的・社会的地位に関係なく、価値あるものとされ、肌の黒さは価値が低いとみなされてきた。この環境のなかで白人至上主義が支えられてきた。肌の色という区別をもつ「人種的奴隷制」は、自由を誇りとする国で矛盾とみなされるどころか、白人の自由を実現した。黒人を社会のピラミッドの最底辺に位置づけることで、白人の階級間意識が抑制されたからだ。もっとも貧しく、もっとも社会に不満を抱く白人よりもさらに下に、常に大きな集団がいなければ、白人の結束は続かなかっただろう。奴隷制の遺産に向き合っていくには、白人至上主義にも対処していかなければならない。

信頼性失墜の果てに
―― ドナルド・トランプという外交リスク

2018年2月号

カレン・ヤーヒ=ミロ プリンストン大学 アシスタントプロフェッサー(政治・国際関係論)

主要な選挙公約への立場を何度も見直し、ツイッターで奇妙かつ不正確なコメントを流し、脅威を誇張し、即興的に何かを約束する。こうして、大統領が内外におけるアメリカの信頼性を失墜させていくにつれて、同盟国はアメリカの約束を信頼するのを躊躇うようになり、敵対国に対する威圧策も効力を失っていく。危険な誤算が生じるリスクも高まる。アメリカ市民だけでなく、世界の人々も、すでにトランプの予測不能な発言や矛盾するツイートに慣れてしまっている。しかし、信頼できる大統領の言葉が必要になったときに、どうすればよいのか。今後の危機において、アメリカの意図を明確に示すために必要な信頼を大統領がもっていなければ、どのように敵を抑止し、同盟国を安心させられるだろうか。

ドイツ政治の漂流
―― 既成政党に挽回のチャンスはあるのか

2018年1月号

スーダ・デビッド=ウィルプ 米ジャーマン・マーシャル・ファンド ベルリンオフィス 副所長

中道政党が長く統治を担ってきたドイツの政治構造に変化が生じている。右派・ポピュリスト政党の「ドイツのための選択肢」は9月の選挙の結果、連邦議会で94議席を手に入れた。連立協議が崩壊した後、メルケルは社会民主党との大連立に向けた協議を模索しているが、解散総選挙というシナリオも依然として取り沙汰されている。ヨーロッパが、欧州の防衛、ユーロゾーンの改革、ブレグジットのような困難な問題へドイツがどのような対応を示すかを心待ちにしているタイミングにあるというのに、ヨーロッパ最大の経済国家として大陸の安定した中核を狙うべき国が地図のない海域で漂流している。

中国型シェアリングエコノミーの落とし穴
―― バブルの崩壊は近い

2018年1月号

ジェームズ・ヤン NAOCジュニア・リサーチ・フェロー

他国では考えられないことだが、中国には、企業価値が10億ドルを超える未上場のユニコーン企業が、シェアリングエコノミー部門だけで12社も存在する。伝統的なシェアリングエコノミーの最大の特徴は、既存資産の利用効率を向上させることにある。しかし、何百万もの新型の自転車や傘を大量に貸し出す中国企業は、過剰供給を作り出しているだけだ。要するに、欧米経済においてシェアリングエコノミーをイノベーティブでディスラプティブにした要因の多くが中国では欠落している。さらに、(携帯電話充電器や傘のような)安価な製品を相対的に高い利用料で貸し出すビジネスモデルは本質的な欠陥を抱えている。これが魅力的であり続けるはずはない。今後、持続不可能なモデルを採用したスタートアップ企業の破綻と統廃合が進むだろう。

難民危機と非感染性疾患
―― 受入国が難民の健康管理を助けるべき理由

2018年1月号

ジュード・アラワ イェール大学学生

シリア難民を含む中東難民の多くは、食糧やシェルター、そして雇用の確保などの切実な必要性を優先し、緊急に対処が必要ではないように思える非感染性疾患のケアを後回しにする傾向がある。だが疾患が悪化すれば、そうした必要性の高い優先事項の実現に向けて積極的に取り組むのさえ難しくなる。難民は健康なら、現地で労働者が不足しているセクターで仕事に就き、消費にまわせる十分な収入を得て、新しいコミュニティに貢献できる。しかも、貧困と病気に陥るのを避けられれば、過激思想に被られたり、暴力路線をとるようになったりする危険も低下する。

サウジのイラン戦略とレバノン
―― レバノンを代理戦争の舞台にしてはならない

2018年1月号

ビラル・サーブ 中東研究所 シニアフェロー

2016年に政治的な生き残りのために、ヒズボラからの支持を取り付けようとしたレバノンのハリリ首相は、もはや対ヒズボラ強硬路線をとる意思も能力ももっていないとサウジは考えるようになった。これが、サウジがハリリに辞任を強要した理由だ。今後、サウジは、ヒズボラを弱体化させようと、レバノンの銀行にある預金を全額引き出し、サウジ領内で暮らすレバノン人を国外に追放してレバノン財政の安定を脅かすことで、ヒズボラに対する圧力を強化しようとするかもしれない。レバノンの政治・経済を壊滅的な状況に追い込むことは誰の利益にもならないにも関わらず、サウジはそうすることを決意しているようにみえる。レバノン全体を苦しめることなくヒズボラを弱体化させるには、別のより優れた方法がある。

北朝鮮の核戦力の現状
―― ICBMによる核ミサイル能力は完成していない

2018年1月号

ジークフリード・S・ヘッカー 前米ロスアラモス国立研究所 所長

核分裂性物質の生産、核爆発装置の製造、そしてさまざまなタイプのミサイル開発をめぐって大きな進展を遂げている以上、北朝鮮はこれらを一つにまとめて核戦力を完成させ、ワシントンに対する抑止力を形成したのだろうかと懸念しても不思議はない。北朝鮮が、韓国や日本に到達可能なミサイルに核弾頭を搭載できることはほぼ間違いない。しかし、ICBMを用いた攻撃に必要とされる核・ミサイル能力をマスターするには、少なくとも後2年間の実験が必要だと私は考えている。一方で、このタイミングで外交交渉の機会が生まれていることを見落としてならない。

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