引き裂かれたヨーロッパ
―― 多数派のアイデンティティ危機
2018年10月号
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ヨーロッパの政治的主流派が移民受け入れを支持し、嫌がる市民にこの不人気な政策を押し付けようとしたことが、右派ポピュリストに力を与えた。しかし、本当の問題は、欧米の民族的多数派である白人が、移民流入による大きな社会的変化を前に、国と自分たちの共同体のつながりが希薄化していると感じ、割り切れぬ思いを抱いていることにある。移民を受け入れる国家の建設を目指し、民族的多数派の立場を控えたがゆえに、皮肉にも、保守派にとって多数派の民族的アイデンティティがより重要になった。すでに主流派の政治家も立場を見直し、メルケル独首相さえも、多文化主義は「完全に失敗した」と表明している。イスラム教徒を固定観念で捉えるのは間違っている。一方で、白人層の割り切れぬ思いにも耳を傾けなければならない。ここからどのように未来を描くかが問われている。