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テーマに関する論文

ロシアとポストアメリカの中東
―― 中東のパワーブローカー

2019年12月号

ユージーン・B・ルーマー カーネギー国際平和財団 ロシアユーラシア・プログラム ディレクター

1980年代末の帝国の解体とともに、ソビエト・ロシアは中東から姿を消した。一方ワシントンは、この地域で戦争を戦い、政治ビジョンを押し付け、中東の覇権国として振舞うようになった。だが、2015年秋に流れは変化した。モスクワはシリアにロシア軍を派遣し、パワーブローカーとしての足場を中東に築き、今後ここから立ち去るつもりはない。だが、シリアの外国プレイヤーであるイラン、トルコ、イスラエルとの関係を管理するだけでなく、モスクワはサウジを含むアラブ諸国との関係も形作っていかなければならない。問題は、治安と安定そして近代化の機会をアラブ社会が求めているのに対して、ロシアがオファーできるものをほとんど何も持っていないことだ。・・・・

オランダという世界最悪のタックスヘイブン
―― いかに改革し、解体するか

2019年12月号

ジョアン・ランガーロック オックスファム・ノビブ  政策アドバイザー マールテン・ヒートランド 多国籍企業研究センター  リサーチャー

オランダの租税回避スキームを利用しているのは、非合法の収益を隠そうとしている信用度の低い一握りの企業だけではない。本国での税負担を軽減しようと、オランダの枠組みを利用している企業にはグーグルやIBMも含まれる。もっとも、オランダに流れ込んだ資金は、時をおかずに他のタックスヘイブンへ移される。結局、タックスヘイブンであることから利益を引き出しているオランダ人は、直接・間接にこの産業に雇用されている会計士、弁護士、コンサルタントなど、約1万人程度で、オランダ経済全般への恩恵は非常に少ない。どうみても、改革そして制度の解体が必要だ。

少子高齢社会と移民
―― 問題は移民がいなくなることだ

2019年12月号

チャールズ・ケニー グローバル開発センター シニアフェロー

「移民危機」という表現が日常的に使われ、反移民感情の高まりを理由に国境を閉ざす国も多い。しかし、先進国の多くでは少子高齢化が進み、高齢者人口が大きくなる一方で、生産年齢人口が小さくなっている。残念ながら、ロボットや人工知能が、人口減少が引き起こす経済的帰結から先進国を救ってくれるわけでもない。こうなると少子高齢化危機への解決策は一つしかない。国境を移民に開放することだ。問題は、移民が先進国に殺到するのではなく、今後、誰もやってこなくなる事態を警戒しなければならないことだ。これが本当の移民危機だ。一人当たり(購買力平価)GDPが7500ドルに達するまでは、途上国の多くの人が外国で働こうと移住を考えるが、国内経済がこのレベルを超えると、パターンは逆転する。

現存する大国間戦争のリスク
―― 楽観派はどこで間違えたか

2019年12月号

タニーシャ・M・ファザル ミネソタ大学准教授(政治学)
ポール・ポースト シカゴ大学准教授(政治学)

「戦争が起きる頻度は着実に低下している。大国間戦争などもはや考えられず、あらゆるタイプの戦争がますます起きにくくなっている」。このように現状を捉えるコンセンサスが広がりをみせている。だが、この考えは間違っている。たしかに第三次世界大戦は起きていない。だからといって、それは、大国間平和の時代がそこにあることを意味しない。戦争が少なくなっていると過信すれば、いかなる衝突も瞬く間に危険な方向にエスカレートしていく恐れがあることを軽くみなし、壊滅的な結末に直面することになりかねない。国際政治の混沌とした本質からみれば、大規模な紛争が発生する可能性は常に存在する。

粉砕されたクルド人の夢
―― エルドアンとトランプの誤算

2019年12月号

アンリ・J・バーキー リーハイ大学教授(国際関係論)

トランプは(米軍のシリアからの撤退という)クルド人に対する裏切り行為への米社会の反発を過小評価し、エルドアンは、トルコの残忍な侵攻作戦に対する国際社会の反発を軽くみていたようだ。アメリカの議会、軍、官僚、メディアは「(イスラム国との戦いの中枢を担った)同盟勢力であるシリアのクルド人をなぜあっさりと見限ったのか」と困惑した。しかも、クルド人が支配してきた地域に収容されている1万2000人のイスラム国戦闘員と4万人の家族が収容施設から外へ出る恐れもある。カリフ国家を打倒するという数年に及んだ困難な試みの成果を、(米軍を撤退させ、トルコのシリア侵攻を認めたことで)トランプはあっさりと台無しにしたのかもしれない。いまやトルコと欧米の関係だけでなく、トルコの国内政治も、トルコと中東におけるクルド人との関係も不安定化している。

失われた株式市場のバランス
―― なぜ市場操作と不正行為がまかり通っているか

2019年12月号

フェリクス・サルモン AXIOS チーフ・フィナンシャルコレスポンデント

株式市場は「権力関係によって支配される政治的制度」であり、その構造とルールを好ましいとみなすかどうかは、プレイヤー毎に違う。しかし、金融機関が並外れた強大な権力と影響力をもっていれば、市場構造は彼らの有利なものへと歪められる。これがグローバル株式市場で起きていることだ。巨大銀行と証券会社が彼らの目的に沿うように市場を翻弄している。その最たるものが超高速取引(HFT)だろう。数十億ドルを株式市場から出し入れすることを望む大口の投資家にとって、大規模な資金を、彼らにとって不利な方向に株価を変動させることなく、動かすのは難しい。こうして、有利な価格のままで取引を実施するために超高速取引が駆使される。「株式市場は操作され、不正がはびこっている」と言われても仕方のない状態にある。実質的な監督が絶対的に不足している。不正行為が実際に行われていることは誰の目にも明らかだ。

強権者エルドアンの不安と権力
―― トルコはどこへ向かうのか

2019年12月号

カヤ・ジェンク トルコの評論家・作家

夕暮れ迫る帰り道に船の甲板でコーランを暗唱した少年も、いまやトルコの強権者だ。信奉するイデオロギーを数年ごとに見直してきたエルドアンは、すでにチェック&バランスシステムの多くを解体し、権力を自身に集中させている。かつてはあまりに高圧的と感じ、批判してきた近代トルコの父「アタチュルク」と驚くほど似たスタイルをとる政治家になった。これは、主に権力をアウトソースしたことの結果だった。与党内に官僚を束ねる実務家を欠いていたために、エルドアンは司法、警察、軍という国の機能をギュレン派にアウトソースし、その結果、管理権を喪失した。権力の分散化を前に「自分の権力はいつ覆されておかしくない」と考えるようになり、中東での孤立と国内での反政府行動そしてクーデター未遂事件がこれに追い打ちをかけた。・・・

メコンと東南アジアを脅かす脅威
―― ダムではなく、再生可能エネルギーの整備を

2019年12月号

サム・ギアル  チャタムハウス アソシエートフェロー

メコン川に流水の多くを供給しているヒマラヤの氷河は21世紀末までに温暖化によって消滅するかもしれない。上流の中国は下流のラオスとカンボジアにダム建設を働きかけ、いまやメコン川は中国がその利益とパワーを展開する主要な舞台と化している。しかも、流域諸国政府はメコン川の環境問題にほとんど配慮していない。要するに、流域コミュニティは気候変動の弊害、中国の地政学的野心、政府の環境問題への無関心という逆風にさらされている。流域のよりよい未来はダムによる水力発電ではなく、再生可能エネルギーを整備することで切り開けるはずだ。国内でソーラーパワー産業を育成し、貧困を緩和するという目的から再生可能エネルギーを整備してきた実績持つ中国は、ダム開発ではなく、メコン流域における脱炭素の未来を切り開くための投資を考えるべきではないか。

経済停滞が引きずり出した民衆の怒り
―― 暴走するラテンアメリカ

2019年12月号

モイセス・ナイーム カーネギー国際平和財団  名誉フェロー 
ブライアン・ウィンター アメリカズソサエティ.カウンシル・オブ・アメリカズ  副会長(政策担当)

ベネズエラやキューバの介入がラテンアメリカで多発するデモや暴動のきっかけをつくりだしたかどうかはともかく、この地域の民衆の怒りが暴走しかねない状態にあったのは事実だ。21世紀初頭の原材料バブルがはじけて以降、ラテンアメリカは長期に及ぶ停滞のなかにある。賃金が停滞し、生活コストが高騰するなか、格差や政治腐敗が作り出す問題に民衆が耐えるのはもはや限界に達していた。アジェンダを絞り込んで積極的対策をとる必要がある。消極的姿勢では、低成長、民主主義への信頼の失墜、ポピュリストの台頭という悪循環をさらに大きくするだけだ。

独裁者の台頭とハンガリーの衰退
―― ビクトル・オルバンの変節

2019年11月号

パウル・レンドバイ ジャーナリスト

「われわれの力を信じれば、共産主義独裁体制に終止符を打てる」。1989年の演説で(民主化に向けて)ハンガリー人をこう鼓舞した若者は、20年間でポピュリストの独裁者に変貌していた。2010年の選挙で大勝したオルバンが試みたのは、新政権の樹立ではなく、「体制変革」だった。憲法を改正し、憲法裁判所を意のままにし、メディアを押さえつけて管理し、政権に依存する社会経済エリート層を作り出した。ハンガリーのある政治家によれば、オルバンのハンガリーは「ポスト共産主義のマフィア国家で、それを率いるのは政党ではなく、ビクトル・オルバンの政治経済派閥だ」。オルバンは政府を批判する者を非愛国的な反逆者と非難し、自らの失敗やミスを欧州連合のせいにしている。・・・

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