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テーマに関する論文

「新社会主義運動」の幻想と脅威
―― 富は問題ではない

2020年2月号

ジェリー・Z・ミュラー 米カトリック大学歴史学教授

資本主義には強さと弱さがある。実際、自由市場を基盤とする資本主義が18世紀に定着して以降、このシステムは長く批判にさらされてきた。一連の改革運動が刺激され、これが19世紀型のレッセフェール(夜警)国家を今日の先進民主国家が導入する混合経済・福祉国家(mixed welfare States)へ変貌させた。かつて「社会民主主義」と呼ばれたシステムを現状で模索する左派勢力も、おおむね似たものを追いかけている。だが、「新社会主義運動」はこれらとは違う。そのルーツは社会民主主義ではない。資本主義を改革するのではなく、むしろそれを終わらせようとする民主社会主義にある。彼らは、金の卵を産むガチョウの健康など気にかけていない。これを当然視した上で、不公正な状況を超富裕層の資産の突出を削り取るという簡単かつ直接的な方法でなくそうとしている。

気候変動対策か石油資源開発か
―― なぜ新資源の開発が停滞しているか

2020年2月号

エイミー・マイヤーズ・ジャッフェ 米外交問題評議会シニアフェロー (エネルギー、環境問題担当)

多くの国がついに化石燃料への依存を減らそうと試み始めたタイミングで、石油や天然ガス資源の発見が相次いでいる。だが、途上国における化石燃料資源の発見が、これまでのように打ち出の小槌になることはもうないのかもしれない。うまくいっても、これが最後のチャンスかもしれない。闇雲に開発に向かうのではなく、「気候変動対策と途上国の経済開発のバランスをどうとるか」という側面に配慮しなければならないからだ。実際、気候変動重視派は、例えば、古くからの豊かな産油国であるノルウェーに対して、石油資源をもつ貧困国に市場を譲るために、国内の石油産業を閉鎖することを求めている。資源国にとって、石油と天然ガス輸出からの歳入に国家予算の多くを依存することのリスクと意味合いは大きく変化している。

鎖につながれたグローバル化
―― サプライチェーン、ネットワークと経済制裁

2020年2月号

ヘンリー・ファレル  ジョージ・ワシントン大学 教授(政治学) アブラハム・L・ニューマン  ジョージタウン大学 教授(政治学)

デジタルネットワーク、金融フロー、サプライチェーンが世界中に拡大し、アメリカを中心とする各国は、これを、他国を捕獲する蜘蛛の巣とみなすようになった。米国家安全保障局はあらゆる種類のコミュニケーションを傍受し、米財務省は国際金融ネットワークを利用して、無法な国家と金融機関に制裁を課している。一方、ファーウェイが5Gをグローバルレベルで支配すれば、北京もファーウェイをゲートウェイにして世界の通信に侵入し、これまでアメリカが中国に対して試みてきたことを、アメリカに対して実施できるようになる。日本も重要な産業用化学製品の流通を制限することで、韓国のエレクトロニクス産業を狙い撃ちにした。鎖につながれたグローバル化の現実を受け入れ、理解することが、これらのリスクを抑えるために必要不可欠な最初のステップになる。

資本主義を救う改革を
―― 株主資本主義からステイクホールダー資本主義へ

2020年2月号

クラウス・シュワブ  世界経済フォーラム  設立者兼会長

1980年代以降の40年で、あらゆるタイプの経済格差が拡大した。社会システムにも亀裂が生じ、社会を包み込むような経済成長を実現できなくなった。一方で、市場主義は深刻な環境問題も作り出した。利益の最大化を至上命題とする株主資本主義によって問題の多くが引き起こされている。幸い、若者世代は、企業が環境や社会的満足を犠牲にして利益を模索することをもはや認めていない。この意味でも現状の資本主義はすでに限界に達している。内側からシステムを改革しない限り、存続はあり得ない。企業は「ステイクホールダー(公益)資本主義」を受け入れ、社会・環境上の目的を実現するための措置を積極的に果たしていく必要がある。われわれは非常に大きな選択に直面している。

大国間競争の時代へ
―― アジアとヨーロッパにおける連合の形成を

2020年2月号

エルブリッジ・A・コルビー 前米国防次官補代理 (ヨーロッパおよびユーラシア担当) A・ウェス・ミッチェル 前米国務次官補 (ヨーロッパおよびユーラシア担当)

未来の歴史家は、21世紀初めにワシントンが超大国間の競争に焦点を合わせるようになったことを、もっとも重要な帰結を伴ったストーリーとして解釈することになるはずだ。大国間競争のロジック、それに応じた軍事、経済、外交行動の再編は大きな流れを作り出しており、このトレンドが、今後のアメリカの外交政策を形作っていくことになる。ライバルは台頭する中国そして復讐心に燃えるロシアだ。かつて同様に、アメリカが安全保障を確保し、自由社会としての繁栄を実現していくには、アジアとヨーロッパというもっとも重要な地域で好ましいパワーバランスを確保し、アメリカの社会と経済そして同盟国を、パワフルなライバルとの長期的競争に備えさせる必要がある。

ヒズボラが対米報復策を主導する?
―― ソレイマニ殺害とレバノン

2020年2月号 

ブライアン・カッツ 戦略国際問題研究所  フェロー(国際安全保障プログラム)

イラクの米軍基地に対するミサイル攻撃は、ソレイマニ殺害に対してテヘランが最初に示したシンボリックかつ公然たる報復攻撃だったが、今後、数カ月、数年にわたって報復は続くだろうし、そこで大きな役割を果たすのはレバノンのヒズボラになるはずだ。アメリカとの直接対決を回避しつつ、コッズ部隊とそのパートナーであるヒズボラは、中東における、あるいは中東を越えた地域での米軍を対象とする非対称攻撃の連携を試みるかもしれない。その目的は、「アメリカが中東でプレゼンスをもつことのコストは恩恵を上回る」と感じるほどに、その活動を混乱させ、脅かし、制限することに据えられるはずだ。

米・イラク関係の終焉?
―― ドローン攻撃のもう一人の犠牲者

2020年2月号

エマ・スカイ イェール大学 ワールドフェロープログラム、ディレクター

シーア派のマリキ首相のあからさまな宗派政治がスンニ派の不満といらだちを高め、イスラム国がイラクで支持される政治・社会環境を作り出した。そのイスラム国掃討のために、イラクで米軍とともに闘った(シーア派の)カタイブ・ヒズボラが米大使館を襲撃したことで、今回のソレイマニ殺害への流れが作り出された。しかし、イラン革命防衛隊の司令官を殺害した米軍のドローン攻撃には別の犠牲者がいたのかもしれない。「米イラク関係」だ。アメリカとイランの双方と同盟関係にあるイラクは、いまやこの二つの国家による戦いの最前線に組み込まれてしまった。アメリカは、イランが支援するイラクのシーア派武装集団の脅威の高まりを警戒し、すでにバスラの領事館を閉鎖している。ここで、バグダッドの大使館を閉鎖すれば、多大なる血と財産を注ぎ込んできたイラクとの関係を不幸にも終わらせることになる。

中国が台頭しロシアが復活する一方で、アメリカは同盟関係を含む対外関与を敬遠し、米欧同盟の解体はもはや避けられない状態にある。米中対立を軸に、秩序もパワーバランスも、この数年来の流動化を経て、一気に変化へ向かいつつある。国内に目を向けても、先進諸国の少子高齢化は国の社会保障制度や財政基盤を脅かすだけでなく、地域的安全保障と資本主義というグローバルな経済システムそのものを動揺させるかもしれない。さらに、どのように答えを出すのか分からない人工知能にわれわれは何をどこまで依存できるのか。例えば、AI軍事システムを最初に開発した国が、いい加減なテストだけで、システムを一刻も早く導入せざるを得ないと判断すれば、「誰も勝者になれない世界」が創りだされる恐れがある。大国間関係が変化するだけでなく、秩序を支えてきた政治・経済システムが変性し、一方で気候変動問題と人工知能が社会を追い込むことになるのかもしれない。

<目次>
第一章 米外交の衰退と中国の台頭

・中国対外行動の源泉
―― 米中冷戦と米ソ対立の教訓
オッド・アルネ・ウェスタッド

・今回ばかりは違う
―― 米外交の復活はあり得ない
ダニエル・W・ドレズナー

・解体した米欧同盟
―― 新同盟形成の余地は残されているか
フィリップ・ゴードン、ジェレミー・シャピロ

第二章 人口減少、経済、貿易

・人口減少と資本主義の終焉
―― われわれの未来をどうとらえるか
ザチャリー・カラベル

・オートメーションとグローバル経済構造
―― 世界経済の次の勝者は
スーザン・ルンド、ジェームズ・マニュイカ、
マイケル・スペンス

・米中経済のディカップリングの意味合い
―― 解体するグローバル貿易システム
チャッド・P・ボウン、ダグラス・A・アーウィン

第三章 人工知能とデジタル世界

・人工知能の恩恵とリスク
―― 誰も勝者になれない世界を回避するには
ポール・シャーリ

・人工知能への備えはできているか
―― うまく利用できるか、支配されるか
ケネス・クキエル

・「ディープフェイク」とポスト真実の時代
―― 偽情報戦争の政治・外交的インパクト
ロバート・チェズニー、ダニエル・シトロン

第四章 ナショナリズムと社会契約

・福祉国家の崩壊とナショナリズムの台頭
―― ナショナリズムはいかに復活したか

ジャック・スナイダー

・国家を支えるナショナリズム
―― 必要とされる社会契約の再定義

アンドレアス・ウィマー

第五章 進化し、多様化する安全保障

・人口動態と未来の地政学
―― 同盟国の衰退と新パートナーの模索
ニコラス・エバースタット

・形骸化した抑止力
―― 多様化する攻撃の領域と能力
アンドリュー・クレピネビッチ

・アメリカは同盟国を本当に守れるのか
―― 拡大抑止を再強化するには
マイケル・オハンロン

貿易と移民と労働者
―― 保護主義はなぜ間違っているか

2020年1月号

キンバリー・クラウジング  リードカレッジ 教授(経済学)

グローバル市場は素晴らしい恩恵を数多くもたらしてくれるが、一方で、貿易の恩恵をあらゆる市民が感じられるようにするパワフルな国内政策が必要だ。そうした政策なしでは、経済的な不満が高まり、現状を説明する安易なロジックと間違った政策を売り込むデマゴークの政治家が台頭する。現実には、貿易と移民を制限すれば、国内労働者の利益は最終的に傷つけられる。格差を縮小し、労働者を助けたいと考えるのなら、保護主義と外国人排斥が自らの大義を後退させることを認識すべきだろう。中間層の再構築に焦点を合わせる革新主義の政治家は、労働者の必要性を満たすための国内政策を重視する一方で、貿易合意を改善し、移民の受け入れを拡大しなければならない。関税や国境の壁は解決策ではない。

アメリカの危険な対中コンセンサス
―― チャイナスケアを回避せよ

2020年1月号

ファリード・ザカリア CNNファリード・ザカリアGPSホスト

「経済的にも戦略的にも、中国はアメリカの存続にかかわってくる脅威であり、これまでの対中政策はすでに破綻している。ワシントンは中国を封じ込めるためのよりタフな新戦略を必要としている」。これが、民主・共和両党、軍事エスタブリッシュメント、主要メディアをカバーしている新対中コンセンサスだ。しかし、このコンセンサスでは脅威が誇張されている。ソビエトの脅威を誇張したことの帰結がいかに大きかったことを思い出すべきだ。中国が突きつける課題を現状で適切に判断しないことの帰結はさらに大きなものになる。40年にわたる中国へのエンゲージメントを通じてやっと獲得したものを浪費し、中国に対決的政策をとらせ、世界の二大経済大国を経験したことのない規模と範囲の危険な紛争へ向かわせる。この場合、われわれは数十年にわたる不安定化と不安の時代に向き合うことになる。・・・

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