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テーマに関する論文

ウイルスの拡散を封じ込めようと奮闘するなか、欧米のリベラルな民主国家は、アウトブレイクを制限するための中国のやり方に注目し、権威主義的な手法の一部を採用すべきかどうかを考えている。この10年というもの、中国はデジタル権威主義の監視(サーベイランス)国家を構築し、5G技術やオーウェル的な顔認識システムを外国に輸出してきた。パンデミックとの闘いにおいて強固なサーベイランス体制が不可欠であることを東アジア諸国はすでに立証している。一方、欧米の民主国家は、自国の市民を守るための「民主的サーベイランス」を確立しなければならない。どのようなモデルなら、リベラルな価値を犠牲にすることなく、AIの能力を利用したサーベイランス上の大きな恩恵を生かせるだろうか。今後数年間で、疫学とテクノロジー部門の世界的な混乱が重なり合い、グローバルな歴史が形作られることになる。

コロナウイルス恐慌を回避せよ
―― 求められる戦時経済的精神

2020年5月号

マシュー・スローター ダートマス大学 ビジネススクール学院長 マット・リース ダートマス大学 ビジネススクール シニアフェロー

積極果敢な手を打たない限り、コロナウイルス危機は、グローバル金融危機(2008―09年)後の「グレートリセッション」以上に深刻な余波、つまり、1929―33年の「大恐慌」に匹敵する混乱を引き起こす恐れがある。集会の制限から都市の閉鎖まで、公衆衛生上は不可欠な「ソーシャル・ディスタンシング」を実施する政府の社会介入によって、財やサービスを求めるいつもの流れは阻害され、消費者需要が激減して総需要が抑え込まれれば、経済はカオスへ向かいかねない。需要が低下すると、工場の稼働率は低下し、労働者は失業し、個人、家族、コミュニティが圧力にさらされる。このショックに対処していくには(1)新型コロナウイルスの拡散阻止に投資し、(2)需要崩壊によってダメージを受けたビジネスや企業を支え、(3)金融危機を回避するために手を尽くさなければならない。周到な計画なしでは、コロナウイルス・リセッションは簡単に恐慌と化す。

危険な道路を変えるには
―― 車ではなく歩行者を重視した道路のデザインを

2020年4月号

ジャネット・サディク=カーン   ブルームバーグ・アソシエーツ  プリンシパル セス・ソロモナウ  ブルームバーグ・アソシエーツ  マネジャー

道路はなぜ危険なのか。根本原因は、自動車やドライバーの運転よりも、道路の設計そのものにある。より速度を出せるように設計された大型道路は、必然的により多くの死者をもたらした。車線の幅が広すぎると、ドライバーは危険なほどスピードを出し、道路上にあるものを障害物とみなすようになる。一方、どうみても安全にはみえない渋滞するニューヨーク市の道路における2017年の歩行者の死亡率は、アメリカの他の大都市の3分の1程度だ。重要なのは歩道を大きくし、交差点での横断歩道の距離を短くすること。車線の幅を狭めて、ドライバー、歩行者、自転車に乗る人がアイコンタクトを取りやすくすることだ。さらに道路スペースを自動車だけでなく、自転車レーンとバスレーン、そして新しい歩行者スペースに変える。これだけでも、道路は格段に安全な場所になる。

引き裂かれた家族と自画像
―― 湾岸における「 一時的な人々」

2020年4月号

ディーパック・ウニクリシュナン 作家

(湾岸の外国人労働者だった)父が、母と子供を現地に呼んでともに暮らせるだけの所得があったという意味では、他の外国人労働者に比べて私の家族は恵まれていた。だがそれでも、私の家族は特有の心の傷と格闘しなければならなかった。誰かがいないことを常に我慢し、合理的には受け入れられない別離に直面した。インド・ケララ州の人々は外国から自州に126億ドルを毎年送金し、州の経済成長率を11%へ押し上げるのに貢献しているかもしれない。しかし、湾岸に「一時的な人々」として出稼ぎにいった私の両親のような人々がどのようになり、いかにして私のような民族、国家、あるいは親戚にさえ忠誠心をほとんどもてない少年を作りだしたかを考える必要がある。「一時的な人々」が陥る家庭環境だけでなく、社会・心理状況そしてアイデンティティを定義する新しい言葉が必要だろう。

ビッグテックを分割すべき理由
―― 分割で米国家安全保障は強化される

2020年4月号

ガネシュ・シタラマン  ヴァンダービルト法科大学院 教授

大きな利益を計上し、成長し、強大化している巨大テクノロジー企業が、政府から分割される脅威から逃れようと「自分たちを分割すれば、中国が利益を手にする」と国家安全保障問題を引き合いに出していることに不思議はない。しかし、国家安全保障の観点からも、ビッグテックを競争から保護する理由はない。アメリカのビッグテックは中国と競争しているというより、むしろ中国と統合しようとしており、この状況の方がアメリカにとってより大きな脅威だ。アメリカにとって、イノベーションを生み出す最善の道筋は、統合されたテクノロジー産業ではなく、競争と研究開発への公的支出によって切り開かれるはずだ。現在のような大国間競争の時代にあって、競争力とイノベーションを維持する最善の方法は市場競争、適切な規制、そして研究開発への公的支出に他ならない。ビッグテックの分割は国家安全保障を脅かすのではなく、むしろ強化するだろう。

米軍の選択的撤退を
―― 現状維持と全面撤退の間

2020年4月号

トーマス・ライト ブルッキングス研究所 米欧センター所長

グローバルな関与からの撤退を求める立場が大きな流れを作り出しつつある。だが、それを追い求めるのは重大な過ちだ。必要なのは、外国でのコミットメントを「慎重に刈り込むこと」であって、数十年にわたってうまく機能してきた戦略を無条件に破棄することではない。現状維持でもない。アメリカの中東戦略に苛立つのは理解できる。しかし中東を理由に世界からの全面的撤退を模索するのは、ヨーロッパとアジアに関与することからアメリカが確保している恩恵を無視することになる。これらの地域には明確な目的と強力なパートナー、そして共有する利益が存在する。本当に重要な関与とそうではない関与を見分ける必要がある。

ウイルスが暴いたシステムの脆弱性
―― われわれが知るグローバル化の終わり

2020年4月号

ヘンリー・ファレル  ジョージ・ワシントン大学 教授(政治学、国際関係論) アブラハム・ニューマン ジョージタウン大学外交大学院 教授(政治学)

コロナウイルスの経済的余波への対処を試みるにつれて、各国の指導者たちはグローバル経済がかつてのように機能していないという事実に向き合うことになるはずだ。パンデミックは、グローバル化が非常に高い効率だけでなく、異常なまでに大きな脆弱性を内包していたことを暴き出した。特定のプロバイダーや地域が専門化された製品を生産するモデルでは、サプライチェーンがブレイクダウンすれば、予期せぬ脆弱性が露わになる。今後、数カ月で、こうした脆弱性が次々と明らかになっていくはずだ。その結果、グローバル政治も変化するかもしれない。これまでのところ、アメリカは、コロナウイルスのグローバルな対応におけるリーダーとはみなされていない。そうした役割の一部を中国に譲っている。・・・

コロナウイルス・リセッション
―― 経済は地図のない海域へ

2020年4月号

モハメド・A・エラリアン アリアンツ チーフ・エコノミック・アドバイザー

2008年のグローバル金融危機に続くグレートリセッションは低成長、(量的緩和などを通じた)金融の人為的安定、格差の拡大を特徴とする「ニューノーマル」を作りだし、その後の10年で中間層が空洞化し、政治的な怒りと反エリート感情が高まりをみせていった。コロナウイルスショックもグローバル経済を大きく変化させ、ポスト「ニューノーマル」をもたらすと考えられる。脱グローバル化、脱リージョナリズムが加速し、世界の生産と消費のネットワークが再編されていく。費用対効果と効率を心がけてきた官民双方は、リスク回避とレジリエンス(復元力)の管理を重視せざるを得なくなる。ウイルスショックから立ち直った世界が目にするグローバル経済は完全に姿を変えているはずだ。

パンデミックによる社会破綻
―― 経済政策で社会崩壊を阻止するには

2020年4月号

ブランコ・ミラノビッチ ニューヨーク市立大学シニアスカラー

コロナウイルス危機が終息しても、多くの人が希望も仕事も資産もない状態に放置されれば、彼らは、よりよい生活をしている人に敵意をもつようになるだろう。資金も雇用も、医療へのアクセスもない状態に放置され、絶望し、状況に怒りを感じるようになれば、イタリアの監獄で起きたような暴動、2005年にハリケーン・カテリーナに見舞われた後のニューオリンズで起きた略奪といった光景が、世界各地で再現されるかもしれない。現状における経済政策の主要な(あるいは、実質的に唯一の)目的は、社会的崩壊を阻止することかもしれない。ウイルスが作り出す異常な緊張のなかで、社会の絆を維持していくことを経済政策の目的に据える必要がある。

コロナウイルスと陰謀論
―― 感染症危機と米中対立

2020年4月号

ヤンゾン・ファン 米外交問題評議会シニアフェロー (グローバルヘルス担当)

恐れと不確実性のなかでは噂が飛び交うものだ。新型コロナウイルスが確認されて数週間もすると、ソーシャルメディアではウイルスは生物兵器だと示唆するコメントが目立つようになった。武漢のウイルス研究所から持ち出された中国の生物兵器(が使用された)、いやアメリカの兵器が武漢で使用されたという噂が飛び交うようになった。実際、ウイルスがどこからやってきたかを特定できれば、専門家と政府が、拡散を防ぐ最善の策を特定し、将来におけるアウトブレイクを阻止する助けになる。これまでのところ、ウイルスは生物兵器として開発されたとする説、あるいは偶発的に実験室から外部環境へ漏出してしまったとする説は、野生動物取引市場で動物由来のウイルスがヒトに伝播したという考え同様に、一定の信憑性をもっている。問題は陰謀論が米中間の不信に根ざし、それが一人歩きを始めていることだ。・・・

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