ロシア政府は、8月にCOVID19ワクチンの開発に成功し、規制当局がスプートニクVワクチンの使用許可を出したと発表した。欧米メディアは、ワクチン開発を急ぐあまり、ロシアは標準的承認プロセスの重要部分をバイパスしているのではないかと心配している。もっとも、ロシアのワクチン戦略の背後にある政治的インセンティブを理解するのは難しくない。30年前にソビエト崩壊の屈辱にまみれて以降、卓越した大国としての地位を回復するための道筋を模索してきたロシアにとって、100年に一度のパンデミックを克服するワクチンを、特にラテンアメリカやアフリカの低所得国や中所得国をウイルスが襲い始めた段階で提供できれば、1 年前には想像さえできなかった形でロシアの名声を高めることができる。しかし、そのワクチンが宣伝どおりに機能しなければ、内外で名声が失墜するし、その痛手は相当に大きなものになる。プーチンの「スプートニクの瞬間」が科学への信頼を侵食し、ロシア人の生命を奪う、広報上の勇み足であることが明らかになるとすれば、それは悲劇としか言いようがない。