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テーマに関する論文

ウクライナ・エクソダス
―― 欧州難民政策を改善するチャンス

2022年5月号

アレクサンダー・ベッツ オックスフォード大学教授(国際関係論)

すでに欧州連合(EU)はウクライナ難民に一定の保護を与え、少なくとも3年間はEU圏に滞在できる措置をとっている。EUから離脱したイギリスでさえ、数万の市民がウクライナ難民を自宅に受け入れると申し出て、厳格なビザ発給制限を緩和するように政府に求めている。こうした大きな連帯意識は、ヨーロッパの指導者たちが、難民や移民によりうまく対処する、より公平な難民政策を導入する機会をもたらしている。シリア紛争などの戦争で荒廃した国からヨーロッパに数百万の難民が押し寄せたとき、当初の歓迎が結局は激しい反発とナショナリズムの高まりにとってかわられたことを忘れてはならない。同じような流れが起きるのを避けるための施策が必要になる。

何がプーチンを侵略に駆り立てたか
―― 米ロ関係とアメリカのパワー

2022年5月号

ロバート・ケーガン ブルッキングス研究所シニアフェロー

ウクライナでの「特別軍事作戦」が計画通りに進み、数日でロシアがウクライナを制圧していたら、それは勝利のクーデターであり、ロシアのカムバックの第1段階の終わり、第2段階の始まりとみなされていただろう。世界はプーチンの非人道的な暴挙を非難するよりも、むしろ彼の「慧眼」と「非凡な才能」について再び語り始めていたに違いない。そうはならなかったが、ロシアに何が起きたかを検証する必要がある。戦後秩序に組み込まれたままでは、ロシアはうまくいっても二流国家としての地位に甘んじることになるとエリートたちは考えていた。平和は保たれ、繁栄するチャンスは残されるかもしれないが、ヨーロッパや世界の運命を左右することはあり得ないことを理解していた。・・・

ロシアの侵略は欧米秩序を再生するか
―― 権威主義との闘いは続く

2022年5月号

アレクサンダー・クーリー コロンビア大学バーナードカレッジ教授(政治学) ダニエル・H・ネクソン ジョージタウン大学外交大学院教授(政治学)

ウクライナを侵略することで、プーチンは「つい最近まで崩壊に向かうとみられていた国際秩序を再建するための歴史的な機会をアメリカと同盟国に与えた」とみる専門家もいる。だが本当にそうだろうか。ロシアの侵略を非難する国連決議に141カ国が賛成したのは事実だ。しかし、5カ国が反対し、35カ国が棄権し、12カ国は無投票を選んでいる。棄権した国のなかには、中国、インド、パキスタン、バングラデシュ、南アフリカの5カ国が含まれ、これらの国の人口を合わせると世界の2分の1近くに達する。欧米の政策決定者がロシアの侵攻が作り出したこの瞬間を、「リベラルな秩序の危機の終わり」や「欧米のグローバルな優位の復活」と読み違えれば、厄介な問題が作り出されることになる。

対ロシア秘密作戦の実施を
―― いかにプーチンを追い込むか

2022年5月号

ダグラス・ロンドン 元米CIA(中央情報局)秘密情報部 上級作戦担当官

欧米が和解的であればあるほど、プーチンが妥協する可能性は遠のく。国家保安委員会(KGB)の情報オフィサーとして、「人間は金、イデオロギー、強制、エゴで動く」と彼はたたき込まれている。情報コミュニティではこれをMICEと呼ぶ。プーチンを倒すには、彼の恐怖心を煽り、資源を拡散させ、悪いことが起きるのではと不安がらせるアプローチが必要になる。ロシアやベラルーシ、チェチェン、カザフスタンなどで騒乱と対立を煽り、プーチンの権力掌握を脅かすことを欧米は考えるべきだろう。プーチンは長年にわたって、欧米諸国の足並みを乱れさせて分断統治戦略をとり、その政治構造に圧力をかけ、その焦点を(外ではなく)内側に向けさせる戦略をとってきた。アメリカはそれと同じ戦略をロシアに対してとる手段をもっているし、そうすべきだろう。

世界でもっとも危険な男
―― プーチンとロシアの核兵器

2022年5月号

スコット・D・セーガン スタンフォード大学教授(政治学)

いまやプーチンの周りにいるのは、彼が望むことだけを伝え、不都合な事実は隠すイエスマンばかりだ。偽情報に囲まれた孤立した生活を送っているせいで、プーチンはNATOに対するパラノイア思考を高め、ロシア帝国再興の野望を妄想し、ロシアの軍事力に幻想を抱いている。しかも、ロシアのような個人独裁国家は、他の政治体制の国よりも常軌を逸した行動をとる傾向がある。実際、アメリカとNATOの指導者たちは、1962年のキューバ・ミサイル危機以降、全面核戦争をめぐる重大な危機に世界が直面していることを認識すべきだ。この危険な事態を回避するには、個人独裁体制がどのように意思決定を下すのかを理解し、それにいかに対処すべきかを学ぶ必要がある。

経済制裁から経済戦争へ
―― 対ロ制裁の余波に世界は持ち堪えられるか

2022年5月号

ニコラス・モルダー コーネル大学アシスタント・プロフェッサー(歴史学)

歴史的にみても、侵略者が国際秩序を破壊しようとするときは毅然と対決しなければならないが、一方で、非常に大きな経済国家に対するペナルティは、制裁の余波を被る諸国への支援策なしには遂行は難しくなっていく。家庭の物質的な豊かさが維持されない限り、制裁に対する政治的支持は時の経過とともに崩壊していくからだ。経済制裁の目的が国内経済の混乱を最小限に抑えて、政治的反発のリスクを管理しつつ、ロシアに最大の圧力をかけることなら、現在の圧力レベルが政治的に実現可能な最大限の圧力なのかもしれない。だが、欧米とロシアの経済戦争がこの強度でさらに長期化するようなら、世界は経済制裁が誘発する不況に陥っていく危険がある。コストがかからず、リスクもなく、予測可能な制裁の時代はすでに終わっている。

紛争の拡大とエスカレーション?
―― ロシアと欧米が陥るスパイラルの罠

2022年5月号

エマ・アッシュフォード アトランティック・カウンシル シニアフェロー ジョシュア・シフリンソン ボストン大学国際関係学部准教授

ウクライナの都市を砲撃するなど、軍事面でロシアが自制心を失っているのは事実だろう。一方、バイデン政権は、紛争に直接介入する意思はないと表明している。つまり、一方はエスカレートするのもやむを得ないと考え、他方はエスカレーションの回避を望んでいる。しかし、スパイラルとは、直接対決を望んでいない国同士でも、結局はライバル関係が激化し、戦争のリスクを冒すという悲劇性をもっている。しかも、ロシアの侵攻が続くなか、欧米の武器がウクライナに大量に流れ込み、制裁がさらに強化されるかもしれない。双方とも、さらに圧力を強めるつもりでいる。こうなると、一つの火種が大火へエスカレートしかねない。

ロシアの戦争犯罪と特別法廷
―― ロシアに責任をとらせるには

2022年5月号

デビッド・シェーファー 米外交問題評議会シニアフェロー(国際法、人道的介入)

ウクライナが国内への国際刑事裁判所(ICC)の管轄権を受け入れ、一方で加盟40カ国がウクライナにおける事態の調査を要請したことで、ICCは戦争犯罪(や人道に対する罪の)大規模な調査をすでに開始している。最終的にどのような残虐行為が戦争犯罪として認定されるにしても、メディアによる継続的な報道がリアルタイムの記録となっているため、ロシアの指導者はウクライナで起きている残虐な犯罪について知らなかったと主張するのは難しい状態にある。(ロシアはICCの締約国ではないため、その指導者を平和に対する罪では裁けないかもしれないが)特別法廷があれば、ICCが管轄をもっていないロシアの指導者に対しても侵略犯罪で訴追できるようになる。バイデン政権は、国連がウクライナ政府と特別法廷を設置する合意をまとめるための、国連総会でのイニシアティブを主導できるだろう。

兵器としての移民
―― その長い歴史と憂慮すべき未来

2022年4月号

ケリー・M・グリーンヒル タフツ大学准教授(政治学)

最近のベラルーシやトルコに始まり、古くはキューバにいたるまで、人為的な移民の流れを作り出して殺到させると相手国を脅し、実際にそうした手段をとってきた国は数多くある。しかも、移民を兵器として利用するこのやり方は、これまで長く成果を上げてきた。当然、すぐになくなることはないだろう。それどころか、移民の流れを兵器にしている国に立ち向かわない限り、これを好ましい政策とみなすトレンドゆえに、その利用は抑えられるどころか、ますます増加していくだろう。実際、経済制裁などの強制外交の成功率が全体のせいぜい40%程度なのに対して、兵器化された移民を使った戦術は、ほとんど成功する。

米同盟ネットワークの本質
―― 独仏日韓と同盟関係の未来

2022年4月号

ロバート・E・ケリー 釜山国立大学教授(政治学) ポール・ポースト シカゴ大学准教授(政治学)

傷ついた同盟関係を慎重に修復することをバイデンに求める人々は、トランプ政権期に実際に起きたことを誤解している。アメリカの同盟システムは、上下関係と依存そしてアメリカパワーの永続性の上に築かれている。このシステムは、世界的影響力を獲得・維持しようとするワシントンの努力を支えることでアメリカに利益をもたらし、同盟国には防衛費削減の道を開くだけでなく、貿易利益を拡大することで恩恵をもたらしてきた。これが同盟関係に奥行きと打たれ強さを与えてきた。トランプによる権限の乱用やバイデンによるアフガニスタンからの一方的撤退を同盟国が許容したのも、こうした奥行きをもっていたからだ。外交的伝統からの逸脱という空騒ぎがあったとしても、アメリカの同盟関係は極めて堅牢であり、いかに同盟国を安心させるかに思い悩む必要はない。

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