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テーマに関する論文

CFRインタビュー
グローバル金融危機のルーツを探る
――遠因は世界における ドル建て外貨準備の増大にある

2008年12月号

マーチン・ウォルフ フィナンシャル・タイムズ紙経済チーフ・コメンテーター

 「2008年の金融危機はアメリカの住宅市場から始まった」と一般に考えられている。過熱した住宅市場での安易な貸付と借入が巨大な住宅バブルを生み出し、回収困難な住宅ローンが証券化され、広く金融システムに拡散してしまったことが金融危機を引き起こした、と。しかし、マーチン・ウォルフは新著『グローバルファイナンスを是正する (“Fixing Global Finance, The Johns Hopkins University Press”) 』で、金融危機のルーツは、実はそれよりもずっと以前の出来事にまで遡ることができると指摘している。
 ウォルフによれば、その遠因は、1990年代後半に一連の通貨危機から立ち直りつつあったアジア諸国が、とかく融資に条件をつけられる国際通貨基金(IMF)の屈辱的な救済措置の世話には二度とならないと決意し、(通貨危機に備えて)巨額の外貨準備をバッファーとして積み増すようになったことにある。アジア諸国に加えて、原油価格の高騰で産油国が莫大な資金を手にするようになると、世界における外貨準備の規模はかつてないレベルに達し、その結果、根本的にゆがんだ資金の流れが誕生した。すなわち、莫大な経常黒字を貯め込んだアジアや中東の国が外貨準備をバックに先進国に大規模な投資を行うようになり、この潤沢な資金が米欧での住宅バブルの発生を助長した、とウォルフはみる。
 ウォルフは、長期的に世界経済のバランスを立て直すには、途上国が自国通貨で国内投資できるように資本市場のインフラを強化する必要があると指摘し、短期的には中国などの経常黒字国が、ダブついているキャッシュを吸収できるように内需拡大に努める必要があると提言した。聞き手は、リー・ハドソン・テスリク(www.cfr.orgのアソシエート・エディター)。

グローバル化のたそがれ?
――  アジアからアメリカへの貿易の流れは停滞する

2008年12月

マーク・レビンソン エコノミスト 元ニューズウィーク誌経済担当ライター

グローバル化の後退を促している要因は二つある。運輸コストの上昇と国際物流への信頼性の低下だ。原油価格の高騰に加えて、これまでグローバル化を支えてきたコンテナ輸送を受け入れる港湾インフラ、国内輸送インフラが逼迫し、テロ対策、環境対策もとらざるを得ない状況にある。これらのすべてがグローバルなサプライチェーンの流通・輸送コストを引き上げている。その結果、世界の反対側にある工場から部品を調達し続けることが賢明なのかどうか、企業も疑問に感じるようになり、グローバル規模でのアウトソーシングもかつてのような魅力を失いだしている。すでに先進国市場のための製品や部品を作ってきたアジアに進出している企業はこれまでのビジネスモデルを見直し、工場から商店の棚に並ぶまでのサプライチェーンの距離を短くしようと試みている。実際、アメリカのメーカーは国内、そして、メキシコ、中央アメリカなど、米市場に近い地域へと生産拠点を移そうとするかもしれない。いまや「グローバル化の黄金時代」は終わりつつある。

グローバルに統合された企業
―― アジアからアメリカへの貿易は停滞する

2008年12月

サミュエル・J・パルミサーノ IBM取締役会長

どこまでグローバル化できるかについての企業の認識が変化した結果、企業の関心は、どのような製品をつくるかよりも、いかにそれを生産するか、どのようなサービスを提供するかよりも、どのようにサービスを提供するかに移っていった。いまやアウトソーシングが一般的になり、企業は自らを、調達、生産、研究、販売、流通などの特定部門が並列するネットワークとみなしている。ここにおける真の技術革新とは、新しい製品を開発し、生産するための創造力だけに左右されるわけではない。いかにサービスを提供し、ビジネスプロセスを統合するか、いかに組織やシステムを管理し、知識を移転するかでその多くが左右されることになる。

メドベージェフ露大統領が語る
全ヨーロッパ安全保障フォーラムとは
――オルブライト vs. メドベージェフ

2008年12月号

スピーカー
ドミトリー・メドベージェフ  ロシア連邦大統領
司会
マドレーン・オルブライト  元米国務長官

「ヨーロッパ的な機構・制度に参加していないわれわれにとって、ロシアの声をヨーロッパに聞いてもらうことは大きな利益になる。実際、われわれはNATOにもEUにも参加していない。われわれは、すべての問題を話し合えるようなプラットフォームを持ちたいと考えている。……われわれはヨーロッパ諸国が一つにまとまるだけでなく、ヨーロッパを形づくっているNATO、EU、CIS、CSTOというすべての組織がまとまって、さまざまな問題の解決に向けた試みに参加できればと考えている。そうした汎ヨーロッパ的なフォーラムを形成できれば、前向きの役割を果たせるはずだ。……こうしたフォーラムをつくれば、ロシアだけでなく、(NATOやEUなどの)組織に参加しておらず、忌憚なき意見を表明する機会を持たない諸国にその機会を提供できる。このフォーラムがあれば、……8月に起きたグルジアの南オセチア侵略のような危機を今後回避できるようになると思う」

石油と経済を考える

2008年12月号

スピーカー
デビッド・J・オライリー  シェブロン会長兼最高経営責任者
司会
リチャード・N・ハース  米外交問題評議会会長

「1バレルあたりの原油価格が50~60ドルに下がったと言っても、それでも5~6年前に比べれば3倍の価格だ。価格が低下しているのは、短期的に石油需要が低下していくと考えられているからだ。もちろん、現状にも対処していくが、経済が立ち直り、再び成長を遂げるようになれば、この2年間にみられたような水準に価格は戻っていくと思う。今はしばしの休息というところだが、この間に問題を是していくべきだ」
 「アメリカのオートメーカーも、もっとグローバル市場でライバルと競い合えるような体力を培う必要がある。何らかの救済策がとられ、自動車産業側の競争力強化へのコミットメントを引き出せれば、そうした救済策も意味があるかもしれない。だが、何かに資金を投入するのなら、その最終目的は経済を浮遊させることでなければならない」  (D・オライリー)

ロシアはなぜ新路線へと転じたか
――もはや合理的取引では問題は解決しない

2008年12月号

スティーブン・セスタノビッチ 米外交問題評議会ロシア担当シニア・フェロー

2008年8月にロシアの戦車がグルジアに攻め入るはるか前から、ワシントンとモスクワを互いに遠ざける対立案件の数はますます増えていたし、より重要なのは、これらの対立を両国の価値観の違いだけではすでに説明できなくなっていたことだ。米ロ関係が悪化しているのは、「そうした対立をロシアの指導者がどう理解し、とらえるか」の認識が変化したことに大いに関係がある。「ロシアとアメリカ(そして欧米世界)との関係は本質的に不平等で相容れない部分があり、独自の道を歩んだほうがロシアの利益をよりうまく確保できる」とモスクワはいまや考えている。
グルジア戦争の余波のなか、もっと厄介な現実が形づくられていくかもしれない。それは、ロシアのパワーがますます強大化し、この国の野望を支えていくことだ。そうしたロシアの影響力の復活が好ましくないのは、工業センターとしてのウクライナ、エネルギーセンターとしてのカザフスタンを含む旧ソビエト地域をロシアが支配するようになれば、世界の主要国のすべてが、国家安全保障概念の見直しを迫られることになるからだ。

核のない世界は実現できる

2008年12月号

アイボ・ダールダー ブルッキングス研究所シニア・フェロー
ジャン・ローダル アトランティック・カウンシル前会長

世界はより多くの核保有国と核分裂物質、警備体制が十分ではない原子力施設の増殖に特徴付けられる時代へと足を踏み入れつつあり、その結果、核を入手しようとしているテロリストの試みはより簡単になり、核兵器が現実に使用されるリスクも高くなっている。核兵器を暫定的に保有する目的を「他のアクターによる核兵器の使用を阻止することに制限し、アメリカが保有する核弾頭の数を1千個へと削減し、世界におけるすべての核分裂物質の所在を明らかにし、それを監視するための包括的な核管理レジームを立ち上げ、核廃絶に向けた最大限の国際的連帯をとりまとめていくべきだ。いま、核廃絶の道を歩みださなければ、いずれ核兵器が本当に使用される日がやってくるリスクを受け入れざるを得なくなる。

デジタル・インフラで 「スマート化」する世界

2008年12月号

サミュエル・J・パルミサーノ IBM会長兼最高経営責任者

世界はフラット化するとともに、相互に結ばれ、小さくなってきているが、現実にはそれ以上のことが起きている。それは、過去のいかなる時期と比べても、世界がますます「スマート化」されてきていることだ。情報分析を基にシステム、プロセス、インフラをより効率的、生産的に、そしてよりリスポンシブに動かせるようになった。これが、私の言うスマート化された世界だ。それは、デジタル・インフラと物理的インフラが収斂し、一つになりつつあることを意味する。コンピュータの形をしていなくても、コンピュータの機能があらゆるものに埋め込まれている。スマートなインフラを持つことがいまや国や都市の競争力さえも左右している。(S・パルミサーノ)

世界大国への道を歩み始めたブラジル

2008年12月号

フアン・デ・オニス ジャーナリスト

かつては「コーヒー大国」としてしか認知されていなかったブラジルも、いまや石油資源の開発ブームに沸き返り、農業生産性を飛躍的に向上させ、バイオ燃料生産でも世界の先端をいく国に成長した。インフレも低く抑え込まれ、市場経済型の施策に徹し、資本市場を整備したことで、世界から巨額の資金が流入している。国内の貧困と社会格差の問題にも対応策がとられ、いまやブラジルの人々は、「経済の地平線が国境を越えて広がった」という感覚を広く共有している。事実、ブラジルの国内総生産(GDP)の規模は1兆5800億ドルと世界10位にまで拡大した。過去の過ちを繰り返さないためには、未解決の問題への新たな処方箋をみつけていかなければならない。安定と成長を今後も維持していくことが前提になるが、今後、腐敗・汚職の横行、税制改革および労働市場改革の停滞、低い貯蓄率、効率に欠ける公教育制度、高度なスキルを持つ労働者不足という一連の問題をうまく克服していけば、長い間さほど重要な国とみられていなかったブラジルも、ついに「グローバル・プレイヤー」としての地位を手に入れることができるだろう。

Agenda 2009
核のない世界は実現できる

2008年12月号

アイボ・ダールダー
ブルッキングス研究所シニア・フェロー
ジャン・ローダル
アトランティック・カウンシル前会長

世界はより多くの核保有国と核分裂物質、警備体制が十分ではない原子力施設の増殖に特徴付けられる時代へと足を踏み入れつつあり、その結果、核を入手しようとしているテロリストの試みはより簡単になり、核兵器が現実に使用されるリスクも高くなっている。核兵器を暫定的に保有する目的を「他のアクターによる核兵器の使用を阻止することに制限し、アメリカが保有する核弾頭の数を1千個へと削減し、世界におけるすべての核分裂物質の所在を明らかにし、それを監視するための包括的な核管理レジームを立ち上げ、核廃絶に向けた最大限の国際的連帯をとりまとめていくべきだ。いま、核廃絶の道を歩みださなければ、いずれ核兵器が本当に使用される日がやってくるリスクを受け入れざるを得なくなる。

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