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テーマに関する論文

ベビー・ギャップ
―― 出生率を向上させる方法はあるのか

2012年5月号

スティーブン・フィリップ・クレーマー 米国防産業大学教授

少子化によって課税できる労働人口が少なくなるにつれて、政府は困難な決定を下さざるを得なくなる。社会保障手当を切り捨てて引退年齢を引き上げるか、税率を大きく引き上げるしかなくなるからだ。さらに厄介なのは、労働人口が高齢化していくにつれて、経済成長を実現するのが難しくなっていくことだ。・・・低い出生率は、先進世界の福祉国家体制だけでなく、国の存続そのものを脅かすことになる・・・男女間の差別解消に真剣に取り組まず、女性のための適切な社会サービスの提供に熱心でなかったイタリアや日本のような国は出生率を上昇させられずにいる。これに対して、GDP(国内総生産)の約4%程度を、子育ての支援プログラムにあてているフランスやスウェーデンは出生率の低下を覆すことに何とか成功している。出産奨励プログラムには大きなコストがかかるし、伝統的な家族の価値を支持する人々の怒りを買う恐れもある。だが、低出生率の罠にはまってしまえば、これまでとは不気味なまでに異なる人口減少という未知の時代へと足を踏み入れることになる。

教育と国家を考える

2012年5月号

◎スピーカー
ジョエル・I・クライン ニューズコーポレーション教育部門最高経営責任者
コンドリーザ・ライス 前米国務長官および国家安全保障問題担当大統領補佐官
◎プレサイダー
テリー・モーラン ABCニュースナイトライン アンカー

風力・ソーラーエネルギーのポテンシャルを引き出すには
――悪い補助金からスマートな促進策への転換を

2012年5月号

ジェフリー・ボール
スタンフォード大学レジデントスカラー

風力やソーラーエネルギーが、近い将来に化石燃料にとって代わることはあり得ない。当面、再生可能エネルギーは、化石燃料による電力生産に取って代わるのではなく、それを補完する程度に終わる。だからといって、その開発をいま断念するのは間違っている。風力タービンとソーラーパネルの効率は高まり、価格も低下している。重要なのは、これまでのように補助金で再生可能エネルギーのポテンシャルを摘み取ってしまわないように、よりスマートな促進策をとり、市場の競争を最大化することだ。目的は風力タービンやソーラーパネルを多く設置することではない。電力を安価に便利に安全に、しかも持続的に供給することだ。この目的を実現する包括的なエネルギー政策の一部に風力・ソーラーエネルギー促進策を戦略的に位置づける必要がある。

もはや民主主義では問題を解決できなくなったのか。アメリカの政治は機能不全に陥り、日本は危機対応を巡って無力さをさらけ出し、将来の危機に備えることもできずにいる。ヨーロッパはすでに大きな危機のさなかにあり、ヨーロッパ統合そのものが危機にさらされている。かたや、権威主義の中国が台頭している。金融資本主義の落とし子としての金融危機が先進国経済を衰退させ、グローバル化が新興国を台頭させるなか、何が将来を左右することになるのか。誰もが新しい思想とモデルを模索し始めている。

イラクはなぜシリアを擁護しているのか
――「イラン化するイラク」に苛立つスンニ派アラブ諸国

2012年4月号

モハマド・バッジ 米外交問題評議会中東担当シニア・フェロー(非常勤)

スンニ派湾岸諸国は、イラクのマリキ政権がシーア派イランと同盟関係にあること、イラクの生活へのイランの影響が大きくなっていることに不快感を覚えている。だが現在のイラクはイランに多くを依存しており、マリキ首相がイランとの関係を清算することはあり得ない。

宇宙探索を続けるべき理由

2012年4月号

ニール・ドグラース・タイソン
アメリカ自然歴史博物館
ヘイデンプラネタリウム館長

天体物理学者、生物学者、化学者、エンジニア、惑星地質学者などでチームを組む宇宙探索ほど領域を越えた技術の応用を促すものはない。例えば、宇宙の天文台ともいわれるハッブル宇宙望遠鏡の画像処理をめぐる技術革新が医療分野に応用され、マンモグラフィーを通じたガンの早期発見に役立てられ、多くの女性たちがガンの脅威から解放されている。だが、いまや財政、党派対立に足をとられて、アメリカの宇宙開発計画は停滞し、一方で中国が自立的な宇宙志向国家(スペースパワー)への道を着実に歩みつつある。例えば、火星の地表にはなぜ液体が存在しないか。何か悪いことが火星に起きたわけで、似たようなことが地球でも起きていないかどうか、その兆候を特定することは非常に重要だ。経済的に困難な時代にあるとしても、宇宙探索への投資は経済を刺激し、人々の期待を満たし、次世代の人々の夢を育むことができる。

政治から離れ、宗教へ回帰する米宗教界
―― 宗教右派台頭の一方で進む宗教離れ

2012年4月号

デヴィッド・E・キャンベル ノートルダム大学准教授
ロバート・D・パットナム ハーバード大学教授

この20年にわたって「教会のミサに参加するかどうか」が、共和党と民主党の有権者を分ける大きな指標とされてきた。現状では、宗教がアメリカ政治、特に右派勢力の立場に与える影響が非常に大きくなっているが、この現実に対する反発も大きくなっている。保守的価値、宗教的価値が否定された1960年代の反動として、その後、福音派を含む、伝統的な宗教が復活したが、いまや、この20年間で組織化され、政治的な影響力を増した宗教組織に対する反発が若者を中心に大きな広がりをみせている。特にアメリカの若者たちは、「宗教心をもつことがたんに保守政治を支持することを意味するのなら、宗教にはかかわらない」と考えている。宗教右派の台頭と宗教の政治化を前に、多くの人が宗教そのものに背を向け始めている。共和党指導者にとって頭が痛いのは、支持層の一部が強く支持する政治と宗教の融合というテーマに対して、一般有権者がますます嫌悪感を示し始めていることだ。

Foreign Affairs Update
暗闇で輝く豚肉と爆発するスイカ
―― なぜ中国の食品は危険なのか

2012年4月号

トマス・トンプソン リージェントグループ・リサーチディレクター

メラミン混入ミルク、成長促進剤を添加されて爆発するスイカ、赤みを増すために薬剤を添加され暗闇が輝く豚肉など、中国の人々がもっとも懸念しているのは、高く売るためなら、食品に人体に有害な薬剤を添加することも厭わない農家や業者が作り出した食品汚染危機が大きな広がりをみせていることだ。危機は、市場経済の拡大ペースに応じてビジネス倫理を確立できず、規制もそのペースについていけていないことによって引き起こされている。「偽造品や汚染食品を作る人も、他の危険な食品の犠牲者であり、この社会では誰もが他人に対して毒を振りまいている」状況にある。・・・いまや社会破綻というシナリオでさえも、現実離れしているとは言えない。

CFR Meeting
高齢社会を前向きにとらえよ
―― 危機を機会に変えるには

2012年4月号

ジョセフ・F・カフリン/MIT エイジラボ所長
ケリー・ミッチェル/エイゴンUSA 上席副会長
マイケル・W・ホーディン/米外交問題評議会グローバルヘルス担当シニア・フェロー

「高齢化をとらえる上で重要なポイントは、長生きすることよりも、より幸せに生きるという視点を持つことだ。・・・隔離された高齢者の世界を形作るのは魅力的な選択ではない。・・・生涯で60-70年におよぶかもしれない勤労期間において3つか4つの異なる職種に就けるような制度が必要だろう」。(J・カフリン)

「すでにアメリカでは老後は(公的支援だけではなく)自助で支えるべきで、引退後に備えておくべきだとみなす文化へと向かっている。・・・現在の仕事に、引退年齢を超えてさらに10-15年働けるかどうかは、どのような企業や産業で働いているか、その企業や産業が、(引退年齢に達した)従業員がそれまでの経験から身につけている知的資本を評価するかどうかに左右される」。(K・ミッチェル)

「90歳の老人の面倒をどのようにみるかという視点も大切だが、経済成長を実現し、財政の持続性の問題を解決することにもっと焦点を合わせる必要がある。・・・20世紀に入ってから現在までに平均寿命は約30年延びている。われわれが90歳まで生きるのなら、引退年齢やそれに伴う政策も変化させなければならない」。(M・ホーディン)

対中関係をめぐる 台湾コンセンサスの形成を

2012年3月号

ダニエル・リンチ 南カリフォルニア大学准教授(国際関係論)

1月の総統選挙で、台湾の有権者たちが民進党政権では両岸関係が悪化し、台湾経済が深刻なダメージを受ける危険があると心配したのはおそらく間違いない。経済格差、雇用減少、住宅コストの高騰を含む社会経済問題が選挙の争点だったが、有権者は、これらの争点と中台関係が不可分の関係にあることを理解していた。台湾企業の中国進出によって、いまや、台湾の人口2300万のうち100万人以上が中国で生活している。だが、中国との友好的関係を心がける馬英九が総統に再選されたとはいえ、北京が台湾の事実上の独立状態を永遠に許容することはあり得ないだろう。今後、北京での指導層の交代を終えれば、中国は台湾に対する要求を強め、不安定な新時代の幕開けを迎えることになるかもしれない。実際、北京は台湾に対してアメリカからの武器購入を停止し、ワシントンとの軍事的つながりを弱めて「92年合意」を法制化することを要求してくるかもしれない。今後、馬英九は台湾の国内的分裂を修復し、中国との関係をめぐる「台湾コンセンサス」を形作る必要に迫られるだろう。

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